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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
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第136話―サネマサの生家に行く―

 翌朝、朝飯を食い、三人で宿を出た。とりあえずサネマサの生家とやらを目指している。

 昨日のこともあり、街の住民たちは俺を見ると寄ってきて、頭を下げてくる。少し気恥しいなと思いながらも、握手に応じたりしていた。


「人気者だね、おじちゃん」

「ああ。俺だけじゃないんだがな……」


 昨日スライムと闘ったのは俺だけじゃない。他の冒険者たちも居るだろうと思っていたのだが、寄ってきた奴らに聞くと、それぞれ昨日のうちに街を出たり、早朝にここを出発したりして、俺以外の冒険者はもう居ないとのことだった。

 昨日約束したが、本当に彼らとはまた会いたいなと思っている。だが、今ばかりは、誰か一人でもここに残っていて欲しかったなと、苦笑いした。


 そうやって人混みをかき分けながら街を進んでいくと、サネマサの家にたどり着いた。元々はここの管理人を担っていた家だっただけに大きな屋敷である。

 トウショウの里にある俺の家くらいか、もう少し大きいくらいだ。

 そして、門の所に居る奴に金を払い、俺達は中へと入った。


「……金が要るとは思わなかった」

「まあ、そう言うな。ここの維持費と武王會館の資金源になっておるからのお」


 門をくぐりながらボソッと呟くと、ジゲンが教えてくれた。一応は観光名所の一つとなっているので、取れるところからとっておこうということらしい。

 妙に納得したが、以前精霊人の集落の件の時に、サネマサに勝った証だと金貨30枚をくれたことを思い出し、大らかだと思っていたのだが、アイツにも意外とケチなところがあるんだな、と思った。


「うわあ~、すご~い!」


 門を抜け、庭へと着くと、たまが感嘆の声を上げる。庭はよく手入れされていて、多くの人でにぎわっている。かなり前から建っているにも関わらず、どこも壊れていない。仏閣のようにところどころに細かな細工が施されており、家とは思えないくらい派手というか、煌びやかだ。

 母屋とは別に大きな蔵もあり、その前はちょっとした広場となっている。そこでは一際多くの人が集まり、何やらにぎやかな声が聞こえている。


「確かに、でけえな。俺の家もこんな風にしてやろうか……」


 ふと、トウショウの里の家を思い浮かべながら、そう思った。これを見ると、アヤメの家や、シロウの屋敷よりも豪華なものにして、いずれジロウが帰ってきた時に驚かせてやりたいものだ。


「やめておけ。そうすると、高価なものがここにあるぞとトウショウの里の盗人たちに教えるようなものじゃからな」


 ジゲンが俺の一言に返事した。……ああ、確かにそうだ。綺麗な彫刻を施した家なら、そういう思いになるし、俺だったら家に施された細工の一部分を取っても満足するな。

 ここは管理人の家ということもあり、恐らく警護も厳重だったんだろう。もしくは、サネマサのこちらの世界での親も強者と聞いたからな。誰も盗もうと思わなかったんだろうな。

 だから、何の異常も無かったんだろうが、俺の家は違う。派手にしようものなら、警護の人間とか、そんな奴らを雇わなくてはいけないからな。……諦めよう。


「それに……」


 ふと、ジゲンは門壁に沿って庭を歩いていく。俺とたまは不思議に思い、ジゲンについていくと、ジゲンは壁の一点を指差した。壁にも装飾が施されていたが、指が差されたところに小さな傷があった。


「昔、小僧だった時分にサネマサか、その遊び相手がつけたのじゃろう。こういうこともあって維持も大変になるからのお」


 なるほど。それではたまやリンネとも外で遊ぶことは出来ないか。俺が、傷をつけて、二人やツバキに怒られそうな気がする。しかし……


「爺さん……よくこの傷のこと知っていたな。前に来たことあるのか?」


 壁についていた傷は本当に小さいもので、他のここを訪れた者達は素通りしているほどのものだ。よく気づいたな、と思うとジゲンはにこりと笑う。


「昔な……言ったじゃろう、昨日は昔の仲間たちの墓参りだと。儂らもここに住んでおったからのお。この屋敷には詳しいぞ」


 ああ、そうか。よくよく考えればそれも納得だな。ここに墓があるのなら、そう言うことだ。なら、生まれもここなのか、と聞くと、ジゲンは違うと言った。生まれた場所はここから離れたところだが、子供の時にここに引っ越し、少年時代はずっとこの辺りに住んでいたという。ゆえに昔のサネマサについてもよく知っているらしい。


「昨日、昔住んでいた辺りに足を運んだのじゃが、何も無かった。やはり月日が経つと色々と変わるようじゃが、ここだけは相変わらず、昔のままじゃのお……」


 ジゲンは懐かし気に辺りを見ながらそう呟いている。すると、たまはジゲンの手を握る。


「じゃあさ、じゃあさ! おじいちゃんはここのこととかサネマサ様のこととか、なんでもしってるの!?」

「おお、知っておるとも。何でも聞くが良い」

「やった~! じゃあ、なかへ行こ!」


 たまは嬉しそうな顔で、ジゲンの手を引っ張る。ジゲンもニコリと笑みを浮かべ、たまに頷きながら、一緒に屋敷の方へと歩いていき、俺もそれについていった。


 屋敷の中はそうは言っても普通だ。特別なものなど何もない、生活感の溢れる普通の住居だった。

 ただ、室内にも天井やふすま、柱などに綺麗な彫刻、絵画などが施されている。日常で使うものなども、手の込んだものが多く、屋敷ではそれが展示されていた。


 そして、部屋のあちこちに蝋人形が設置されており、あたかも俺達の前で、そのまま生活しているような雰囲気を醸し出している。たまは気になったものを見つけると、指差しながら、あれは何? とジゲンに聞いている。ジゲンは一つ一つに答えていった。俺はそんな二人を見ながら、色々と眺めている。

 生活様式などは、俺の世界とほぼ同じみたいだ。食器も箸がほとんどで、ないふだの、ふぉーくなどは無い。

 やはりその辺りは領によって多少の違いはあるみたいだな。クレナ以外の領では稲作などしていなかったし、ソウブに至っては漁業で生計を立てている感じだった。

 領によって、生活様式はガラッと違うことは、騎士団の装備を見ても、分かる気がした。そう言えば、前の世界でも、俺は興那や玲邦から、海を渡って違う大陸に行ったことは無い。大陸統一の後、トウヤは何度か行ったみたいだが、そこで目にするものはどれも見たことのないものであふれていたという。

 それに、俺達の生活とは少し異なった風習や文化などもあり楽しかったと言っていた。ひょっとしたら、俺が見たことのないような驚くものもあったのかもしれない。

 ……流石にミサキに見せてもらった、ひこうきや、じどうしゃ等は無いかも知れないがな。


 そんなことを思いながら、色々と見ていると、ジゲンとたまの姿を見失った。どうやら先へと進んだらしい。俺は、やれやれと思い、屋敷の奥へと入っていった。


 すると、所謂奥の間で、二人の姿を見つける。たまは展示されていた、何か作業している蝋人形を差して、ジゲンに話しかけていた。


「これって、サネマサ様?」


 俺もたまの指差した方を見ると、確かにサネマサの蝋人形だった。刀の手入れをしているようなものだった。騎士団にあった彫像と違い、俺と実際に会ったサネマサと同じ姿をしている。


「うむ、そうじゃの……ここは、サネマサの部屋じゃ。いつもこうして武具の手入れをしておったよ……」


 ジゲンはたまの質問に、またしても懐かしそうに答える。よく知ってんな、この爺さん。昔のサネマサを知るということも嘘では無いらしい。

 サネマサは刀を手に取り、砥石で研いでいる様だった。その目つきは真剣だ。あまりこういう目は俺の前ではしなかったな、と思った。


「サネマサは……仲間たちと共に居るときは無邪気にはしゃぐ青年じゃったが、こうやって武具の手入れをするときなどは、こんな目つきになり、ひたすら作業に没頭しておった。

 闘う者にとって武具とは命を預けるもの。それだけ真剣にならないといけないからのう……」


 ジゲンの言葉になるほど、と思う。俺も無間や鎧を手入れするときは、何があっても良いように必死で行っている。ちょっとした失敗が、命の危険に繋がるからな。

 そして、感謝しながらも行う。いつも俺の命を護ってくれてありがとうって気持ちでな。まあ、よほどのことはトウヤに任せていたが。

 ……だが、だからこそ俺はあいつを信用していたんだ。ハルマサやツバキのように強くなくても、ナツメのように傷を治せなくても、アキラのように戦場で援護が出来なくても、あいつのお陰で、俺は敵を斬り、敵から皆を護ることが出来ていた。

 トウヤもそれが嬉しいのか、無間を任せると、いつも楽しそうに作業をしてくれていた。正直、親父さんをすでに超えていたんじゃないかって思ったほどだ。

 今は結婚し、良い男になっていたなと改めて思った。


 さて、しばらくサネマサの部屋を見た後は、屋敷を出て蔵へと向かう。ジゲンによると、俺が気に入るのは恐らくここくらい、とのことだったので楽しみだ。


 そして、蔵の中に入った。ここは宝物殿の様で、貴重な道具などが置かれている。何だ、こんなものか、と思っていると、その先には……


「ん? ……これは、素材か?」


 目の前に並べられていたのは、多くの魔物の一部のようなもの。鱗や牙などが元の魔物の絵と共に置かれ、その横にはそれらを加工したと思われる武具が置かれている。


「左様。ここにはサネマサが倒した災害級以上の魔獣の素材とそれらを使って完成した武器や防具などが置かれている。冒険者をしているムソウ殿は気にいると思ってな……」


 ジゲンはこちらを見てにこりと笑った。俺は並べられた素材を順に見ていく。


 三つの頭を持ち、強靭な顎で全てを喰らう魔獣、ケルベロスの牙、俺が倒した雷獣の王、雷帝獣の毛皮、小島ほどの大きさで、近海を覆いつくすほどの巨体へと成長する海王鯨の尾の一部、ワイバーンの原種、古龍ワイバーンの爪と牙……他にも多くの災害級の魔獣たちの素材が並べられている。

 こんな奴らを倒してきたのか……アイツは。素材だけになっていてもすさまじい力を感じる。そばに置いてある武具もそうだ。これを身に着けた者と闘うのは骨が折れるなと感じる。


 湧き上がる興奮を抑えつつも先へ進むと、一番奥に、鈍く赤く輝く、大きな鱗のようなものが置かれていた。


「……爺さん……これは?」

「うむ……三十年ほど前に出現し、人界を恐怖と絶望に陥れた天災級の大魔獣、壊蛇の鱗じゃ。

 どれだけ強力な魔獣か今の世に生きる者達に伝える為、ここに置かれておる」


 ジゲンの言葉を聞き、壊蛇の鱗をよく見てみる。鱗というよりは、巨木の表面に近い。数千年も生き続けて、その間にいろいろな環境を経て、鍛えられたかのような、重厚さを感じる。

 そして、蔵の天井まで届きそうなくらい大きい。前にロウガンが言っていたように、バカでかい蛇、というのは本当らしい。こんな奴にもサネマサは挑み、そして、勝ったのか……。いや、その前に、人界総出でこいつに当たったと聞く。称えるべきはこいつに臆さず向かって行った、その当時の多くの人間たちだろう……。


「壊蛇はとにかく大きく、そして、強かった。儂らも十二星天の導きで何とか、あ奴から王都や領を護った。

 その後、サネマサとコモン君により壊蛇は倒された。

 ……あの時失ったものは多い。じゃが、それにもめげず儂らはなんとかこうして生きておる。これを見る度に、どんな困難に遭っても、皆で協力すれば、何とかなるものじゃと幾度も思うぞ」


 ジゲンは鱗を見ながらそう言っていた。ジゲンもやはり、壊蛇を目にし、向かって行った者達の一人みたいだ。

 仲間と共に壊蛇に挑み、皆を護った後は、仲間達や、その他多くの者達と共に、サネマサに全てを託したという。

 サネマサは、託された全ての思いを糧に、コモンと共に七日七晩闘い続け、激闘の末、壊蛇の息の根を止めることに成功した。

 人々はサネマサを称えると共に、未曽有の大災害を乗り切った喜びと、死んでいった者達への冥福を祈り、世界の復興に励んだという。

 そうして、今の生活があり、たまたちのような新しい世代の者達が楽しく暮らせる世界になったとジゲンは嬉しそうに語った。


「じゃが、まあ儂らに出来るのはここまでかの。これからの世界はこれからの者達、ムソウ殿やたまが作っていくものじゃ。

 その前に、儂ら年寄りが何を残せるのか考えねばの……」

「立派に残せてると思うぜ? 少なくとも俺はそう感じている」


 ジゲンの言葉に俺は壊蛇の鱗をぼーっと眺めているたまを撫でながらそう言った。ジゲンの優しさはきっとたまに届いているはずだ。何せ、いつも一緒に居たいと思っているくらいだからな。その信頼感がある限り、大丈夫だろうと俺は思っている。

 たまは不思議そうにジゲンの顔を見ている。それを見て、ジゲンは優しく微笑み、


「……そうじゃの」


 と呟いて、たまの頭を撫でた。よくわからないが、嬉しいという顔をしたたまはジゲンと俺と手をつなぎ、その後も蔵の中を見て回っては、はしゃいでいた。


 その後、一通り蔵の中を見て回り、外に出ると、目の前で何やら人だかりができている。ここに入ってきた時にも見たなあ、と思い近づくと、先ほどとは別の、一回り小さな壊蛇の鱗を広場に置き、その前に戦士風の男や女が並んでいるのが見える。


「おお、今もやっておるのか」


 ジゲンは何か思い当たったみたいだ。あれは何だと聞くと、ジゲンは説明する。


 まあ、一種の腕試しのようなもので、置かれた鱗に攻撃し、切ることが出来ればそれを持って帰ることが出来るというものらしい。切ることは出来なくとも、剥がれ落ちた破片だったりも持ち帰られるという。粉のような破片でも壊蛇の鱗によるもの。意外と高値で取引されるし、上等な薬の材料などにも使えるという。


 それは面白そうだなとは思うが、三十年前のものだろ? 

 もうボロボロなんじゃないかと思い、近づいて鱗を見てみると、一点だけが、少し傷がついている程度で、大体はそのまま蔵の中で見たものと同じような感じだ。

 流石、天災級の魔獣の鱗というわけか……。そして、並んでいる奴らは自分の番が来ると、気を使ったり、そのまま武器で攻撃したり、果ては強力な魔法を撃ったりして鱗のその傷の部分を攻撃しては、何か落ちていないかと地面を探したりしている。もちろん鱗には変わらず傷は増えてなどおらず、ただただそこに立っている。


 昔、壊蛇の襲来で疲弊しきっていたこの地で、何か面白いことが出来ないかと、サネマサが周囲の人間たちと相談して、これを始めたのがきっかけだ。ハルマサは既に十分すぎるほどの壊蛇の素材を持っていたので、誰かに分けたいが、そのまま渡すのも面白くないとして、この遊びを思いついたという。なるほど、アイツらしい……。


 なかなか難しいようだな、とその光景を眺めていると、たまとジゲンが俺の袖を引っ張る。振り返ると、二人とも何か期待するような目で俺の方を見ていた。


「……やれってか?」

「うん! おじちゃんなら斬れちゃうんじゃない?」

「まあ、斬れずとも欠片だけでも記念にどうじゃ?」



 ……まあ、それくらいなら良いか。ここに来た記念に何か買おうとは思っていたが、それだったら安く済むから良いな。


「じゃあ、やるか!」


 大きく頷く二人に背を向け、俺は列へと並んだ。トウショウの里で待っているツバキやリンネへの土産にでもなれば良いな。ツバキは喜びそうだし、リンネにもそろそろ何か渡してやりたいなとも思っていたし、ちょうど良いや。……ん?てことは少し大きめに欲しいな。


 ……少し、本気を出そう……


 ……さて、前の奴が終わり、俺の番となった。俺は無間を抜き、鱗の前で構える。すると、周りの人だかりからヤジが飛ぶ。


「ん? なんだ、次はおっさんかよ! やめとけ、やめとけ! 恥かくだけだぞ!」

「刀は立派みたいだが、刃こぼれしないように気を付けるんだな!」


 そして、嘲笑の声。こういうところはクレナならではだな、と苦笑し、無間を振り上げる。

 まあ、今回はイカサマもないみたいだし、何も考えずに出来る。ふと、たまとジゲンをチラッと見ると、たまは祈るように、ジゲンは少し微笑みながら俺を見ていた。

 俺は群衆の嘲笑の中、一歩足を前に出し、大上段から思いっきり無間を振り下ろす。


「オラアッ!!!」


 無間は鱗に当たると共に、バリィィィ!!!と音を立てながら、鱗を斬り裂いていく。そして、地面に到達するとそのまま地面を割り、辺りに破片をまき散らしていく。

 バカッ!と大きな音を立てて真っ二つに鱗は割れた。というか、切ることが出来た。ピタッとヤジが止まり、辺りが静かになる中、俺は無間を確認する。


「おっし、刃こぼれ無し! 傷も……無いな! 

 さて、と……え~っと切れたら持って帰って良いんだよな?」


 近くに居た人だかりの中から近い奴に目を向けて聞くと、そいつは口と目を大きく開けたまま動かない。他の奴らも同様だ。それじゃ、わからないんだが……と思っていると、ジゲンが口を開く。


「持って行っても大丈夫じゃよ」

「おお、そうか。なら遠慮なく……」


 俺は真っ二つに斬られた片方の鱗を手に取り、異界の袋の中に入れた。ん? 見た目の割にずいぶんと軽い気がするな。だが、斬った感触では確かに硬かった。これは良い素材になりそうだ、と天宝館に持ってく楽しみが一つ出来た。

 そして、そのまま二人の元に戻り、屋敷を出ようと門に向けて歩いていく。


「おじちゃん、すごいね~! 本当に斬っちゃうなんて!」

「ああ、俺はすごいんだぞ~。今なら壊蛇だって倒せそうだ」


 冗談交じりに言ってみたが、今回、俺はEXスキルは使っていない。壊蛇というのが、どれくらいの存在かは分からないが、居たとしても、倒せそうな気はしてくる。

 まあ、油断は出来ないがな……。その必要も今となっては、サネマサ達のおかげでないけど……。


「ほっほっほ、三十年前にムソウ殿が居れば儂らも楽だったかも知れんのお。その時はまだたまくらいじゃと思うが、何をしておったのじゃ?」

「う……また今度話すよ……」


 俺が迷い人だということはジゲン達にはまだ話していない。いつか話そうと思って、先延ばしにしていた。これからは同じ家に住むんだし、近々話そうと心に決めた。


「まあ、大体予想はつくがの……。ところでムソウ殿、それだけ強いのじゃ。たまをおんぶすることだって出来るかの?」

「ああ、それくらい朝飯前だ。ちょっと待ってろよ……」


 俺は背中の無間を異界の袋に入れた。剥き身だし、そのままだとおんぶできないからな。そして、たまの前で背中を差し出す。


「ほれ、たま。これから飯を食いに行くからな。そこまではおぶさってやろう」

「え! いいの~!? ありがと!」


 たまはヒシっと俺の肩を掴み、俺はたまをおんぶした。たまは嬉しそうに俺の背中で、はしゃいでいる。すると、ここでジゲンが呟く。


「……さて、準備は良いかの? ムソウ殿」

「ああ、いつでもいいぜ、爺さん」


 ジゲンの言葉に頷き、ゆっくりと門の方に向かった。すると突然、


「「「え~~~~~~~!!!???」」」


 と、大きな声が聞こえる。先ほどから唖然としていた奴らが、ハッとし、驚いている声だ。


「き、き、き、斬れた!? 壊蛇の鱗が!? な、何が……!」

「しかも欠けたとかじゃない! ぱっかり真っ二つだ! 一体……!!!」

「あ、あのおじさん、何者なのよ!? と、というか……」

「ああ、あの量なら頼み込めば分けてくれるかも……」


 などと、聞こえてくる。ああ、やはりこうなるのか、と頭を抱える。そして、最後の奴が、そう言うと、ピタッとがやがやする声が止まった。


「……来るぞ」

「うむ……では……」


 俺とジゲンは少し腰を落とし、準備を整える。たまに、しっかりと掴まっておくようにと言うと、不思議そうな顔をしながらも、たまはぎゅっと肩を握った。そして……






「「「待てええええ!!!」」」


 俺からのおこぼれ目当ての奴らが、一斉に駆けだし、俺達の方に向かってくる。それと同時に俺とジゲンも走り出した。

 ……こうなると思っていたんだよ。俺が壊蛇の鱗を持って帰ると、気性の荒いこいつらのことだ。俺から奪うか、何とかして俺に鱗を貰いに来るか。

 ……鱗は絶対渡したくない。ひとかけらたりともだ。俺達は奴らを巻こうと必死に走る。たまは大丈夫かと背中の様子を確認すると、


「うっわ~! たのしい~!」


 ……うん、大丈夫だ。何やらはしゃいでいるみたいだな。

 俺は前に向き直り、走り出す。すると、外壁が見えてきた。


「爺さん! 行けるか!?」

「造作もない!」

「よし、分かった! 先に行ってろ!」


 ジゲンは俺の言葉に頷き、門の近くまで行くと高く跳躍し、屋根に上がる。俺はパッと振り返り、追ってくる奴らの方を向いた。


「お? 観念したか!? 鱗を渡してもらおうか!」

「い~や!俺にだ! 言い値を払うぞ! 俺に素材を分けてくれ~!」

「何言ってるの!? 私に分けて! ほら! たくさんイイことしてあげるからあ~!」


 などと、勝手なことを言っている奴ら。特にそこの女、たまが居るのにそういうことを言うんじゃない。少しビビらせるつもりだったが、ここは少し本気に……


 ―死神の鬼迫―


「「「ゔ……」」」


 殺意を浴びた野次馬共は一様に顔色を悪くして、ピタッと止まった。気の弱いものはその場に座り込んで、怯えた目でこちらを見ている。奴らの力が抜けたことを確認し、俺も塀の上に飛び乗った。


 そのまま、ジゲンと共に塀から外の道に降りて、しばらく走り、サネマサの生家から離れた所で立ち止まった。


「はぁ、はぁ、はぁ……ここまでくれば大丈夫だろうな……」

「ああ……流石に、あれでは追ってこんじゃろう。

 ……にしても本当に真っ二つにするとはの……またしても久々の驚きじゃったわい……」


 息を整えながら俺とジゲンは笑い合う。お互い歳だなと感じつつも、俺が鱗を斬ったことに関しては、ジゲンも久々に驚いたという。噴滅龍討伐に続いて二度目だな。

 正直、俺も自分で斬れるとは思っていなかった。平静を装うのに苦労したな……。まあ、楽して素材も手に入ったことだし、改めて無間に感謝ということで、息を整えながら、俺達は飯屋を目指す。

 たまは、未だに俺の背中で楽しそうに、色々とおしゃべりをしていた。サネマサの生家、楽しかったな。また行こっと……。


 その後、俺達は飯屋に向かった。昼時ということもあり、中は混雑しているので、外の長椅子に座って、料理を待った。少し体を動かしたのでさっぱりしたものが良いと言って、俺とジゲンはざるそば、たまはかけそばを食べている。


「うん! ここのお蕎麦は美味しい!」


 美食家のたまは嬉しそうに蕎麦をすすっている。それは良かったと安心していると、ジゲンが薬味の中でワサビをのけているのが目に映った。


「何だ、苦手なのか?」

「う、む……どうもこのツンとした感覚は何歳になっても慣れんのお……」


 俺は好きだからくれ、と言って、ジゲンのワサビを箸でつまみ、つゆの中に入れてかき混ぜる。

 そして、そばを食べると、ワサビの辛みと共にそばの香りが鼻を突き抜けて何とも心地いい感覚がする。


「う~ん、美味いな」


 そうやって、そばをすすっていると、それを見たたまが私にも食べさせてというので、食べさせてあげた。


「ん゛ッ! ……もういいや……」


 一回すすると、たまはぴくッと動かなくなり、鼻をつまみながらそう言って、つゆを俺に返してきた。そして、水を飲んでいる。


「よく食べられるのお」

「好きなものだからな。それにこいつには抗菌作用もあって体の中から綺麗になっていくんだぞ」


 俺が大量のワサビを入れたつゆでそばをすすっていると目を丸くしたジゲンにそう言ってやった。


「本当かの~? 誰に聞いたのじゃ?」

「仲間だった薬師……というか、医者にだ」


 同じくワサビが好きなナツメに教えてもらった。悪い菌というものを跳ね返すような効果があり、食べ物の防腐剤としても使われると。これと共に、解毒作用のある紫蘇なんかも一緒に食べると、いつまでも元気で居られるらしい。


「爺さんも長生きしたかったら好き嫌いするなってことだな」

「この歳になるとそういうのも考えんようになるぞ。いつ死んでもいいように、今を楽しく生きたいと願うようになる」


 サネマサ……というか、ツバキと似たようなことを言ってくるジゲン。あいつもいつ死んでもいいように、自分の想いははっきりとさせておくと言って、俺のことが好きだ、と言ってきたな。

 ツバキがサネマサの教えと言っていたが、何と言うか、クレナというところは常に危険と隣り合わせだからそういう考えに至るのか、とふと思った。


「ちなみに、ムソウ殿は嫌いな食べ物はあるのか?」

「あ~……。そう言えば無いなあ。よほどのものでもない限りは何でも食うぞ」


 ジゲンの質問にしばらく考えたが、嫌いな食べ物など思いつかなかった。元々、裕福とは言えない生活だったからな、ガキの頃から。必要とあれば虫でも食っていた。ただ、まあ……


「強いて言えば毒のあるものくらいかな」

「……それは毒を食べたことがあるような言い草じゃが……」


 実際あるからな。主にエンヤとナツメに食わされたものだが。

 ほれ、食ってみろ、というエンヤの言葉に疑いながらも食ったものが実は毒キノコで、何度か腹を壊したことがある。それを見ながら、むしろ死なない方がおかしいとエンヤは腹を抱えて笑い、俺はサヤの膝枕の上で、エンヤをいつか絶対ぶっ飛ばしてやると固く誓ったものだ。

 ナツメにも実験と称され、俺だけ飯の中に微量の毒を盛られたことも何度かある。変わった味付けだったな、とナツメに言うと、サラッと、毒ですから、と笑顔で言ってくるナツメを何度殴ったか分からない。


 まあ、二人のお陰で俺も毒に対して強い耐性がついたんだがな。例の砦で俺が嵌められた闘いの折、俺を嵌めた女曰く、普通の人間を百人殺せる量でようやく眠るなんて、と冷や汗をかきながら嘲笑っていたな。

 俺の体、どうなってるんだよ、と思わず突っ込みながら、その後、指揮官ともどもぶった斬ってやったが。

 ひょっとしたら、EXスキル状態異常完全耐性はそこから来ているのかも知れない、とふと、思った。


「まあ、どちらにせよ、これは毒じゃない。俺にとっては美味いものの一つだ。良薬、口に苦しってな。たまも長生きしたかったら好き嫌いすんなってことだな」

「え~……うん、わかった……」


 口直しにとたまは自分の蕎麦をすすりながら、俺の言葉に渋々という感じで頷いている。美食家だからな。俺みたいな食生活は送れるような気はしないが……。


 その後、飯を食い終えた俺達は買い物に出かけた。特に買いたいものというのは無かったが、たまが新しい着物が欲しいというものだから、着物屋に向かった。

 そこでは、かわいらしい模様の子供向けのものから、綺麗な柄の大人の女物のものまである。一応男物もあるのだが、数は少ない。何で、着物屋ってどこの世界でも女優先みたいになっているのだろう……。

 ここも同様で、着物の他にかんざしや、首飾りなどの装飾品もあるが、全て女向けのものばかりだった。俺は何を買おうか悩んでいるたまと、それに付き合わされているジゲンから離れ、大人の女が着るような着物の棚を眺めていた。


 金魚の柄のもの、花柄のもの、よくわからない可愛らしい生物の柄のものなどやはりさまざまである。基本的には俺の世界とほぼ同じだ。だが、どこか違うような感じもして、どれがいいものなのかよくわからなくなる。

 そういや、ツバキも無地のものを着ていたし、大体あれは道着のようなものだ。ここに置いてあるようなものでは無かったな。

 ふと、ツバキの私服というものは見たことないな、と思った。家に泊まった時は長着だったが、普段はどんな格好をしているのだろうか。

 ……まあ、ツバキほどなら、どんなものでも似合いそうなものだがな。……そう言えば、今は妓楼に居るんだっけか。はあ……ナズナ……ちゃんとツバキに客がつかねえようにしているんだろうなあ。綺麗な着物着せたら、一人や二人つきそうなものだぞ、と少し、ツバキが心配になった。

 まあ、何とかしているだろうと思い、その場を離れ、未だ悩んでいる様子のたまの元へと行く。


「ん? まだ決められないのか?」

「う~ん……こっちかこっちで悩んでいるんだけど……」


 そう言ってたまは俺に二つの着物を見せてきた。どちらでも買ってやるぞ、と言うと、そんなわけにはいかないというので、それに従うことにした。


 さて、たまが出してきた着物は正反対のものだった。一つは地味な薄紫の色で、柄も際立って地味なものである。その辺の町娘が着ているようなものだった。

 もう一方は、白を基調とし、鮮やかな朝顔が描かれている綺麗な着物だった。この二つだったら、後者のほうだろ、と言うと、たまは首を横に振る。


「良いんだけどさ~、お掃除とかしていたら絶対汚れるよね……」


 ……なるほど。たまは自分の仕事のことも考えて着物を選んでいるようだ。確かにこれだったら基本は白なので、汚れが目立ちそうだ。だからと言って、すごく地味なものも嫌らしい。ジゲンもそう思いながら、二人で困っているという。


 俺の方は一つ対策があると思い、たまの頭を撫でた。


「大丈夫だ。俺の所に来るんだったら、そんな地味なものじゃなくて、そっちの綺麗な方を選んでおけ」

「え、でも汚れが……」

「秘策がある。良いから俺の言うとおりにしてみろ」


 たまにそう言ってやると、しばらく悩み続けたたまは、うん、と頷いて、その着物と他数点を買った。


「おじちゃん、ありがと~!」

「どういたしまして、だ」


 喜ぶたまの頭を撫でながら、ジゲンを見ると、まさか、という目で優しく微笑んでいる。


 どれだけ汚れても神人化すれば問題ないだろう。埃くらいなら何とかなりそうだ。帰ったら、たまの着物を洗うたびに神人化すると思うと、頭を抱えたくなるが、たまの為だったらそれも我慢できるなと思う。


 その後、嬉しそうなたまを連れて、着物屋を出た。

 そして、日も傾きだしたので、宿へと帰り、休憩ついでにアヤメへ、明日の夕方にはトウショウの里に戻り、次の日にギルドに報告に行くという伝令魔法を送った。

 その際に、ジゲンとたまのことも伝えておく。こうしておくことで、街に入る時に門番へ無駄な説明をしなくて済むはずだからな。それと、壊蛇の素材の件も伝えておいた。コモンとヴァルナに見せるのが楽しみだ。

 後はスライム殲滅の件など、色々と伝えたあと、ジゲンと共に風呂に入り、皆で楽しく飯を食って、そのまま寝た。


 さて、明日はトウショウの里に帰る。ギルドへの報告が終われば、家の掃除や修繕など、やることがいっぱいだ。今のうちにしっかりと休んでおこう……。


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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで、アカメがエンヤになってたり、誤字、誤入力特に多いのがサネマサとハルマサが入れ替わってる事が多かったですが、楽しく読ませていただいてます。
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