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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
132/534

第131話―大鎌カマキリとムカデカラスを斬る―

 翌朝目を覚まし、闘いの準備をして下へと降りた。


「あ、おじちゃん、おはよう」

「おはよう、ムソウ殿」


 今日はジゲンも居るみたいだ。トウショウの里まで行くと決まった以上、もうこの街で野菜を売ることはない。

 なので、今日は一日中、たまと一緒にこの宿の片づけをするようだ。俺は二人に軽く挨拶を済ませ、宿を出た。朝飯は昨晩のうちにたまに要らない、と伝えておいたから大丈夫だ。

 最初に行く大鎌カマキリの生息地までは遠いからな。早めに行っておこうと思い、俺はいつも通り、門から街を出る。


「お、またアンタか。毎日大変だな」


 いつもの門番だ。こいつも毎日大変だな、と思いながら、男の言葉に苦笑いする。多分、シロウの所もそうだったが、人が足りないのだろう。騎士団と違って明確な指導者が居ない以上、志願する人間も少ないのかも知れない。

 この辺りもクレナの抱える課題の一つだろうな。


「それで、今日は何を狩りに行くんだ?」

「今日は大鎌カマキリとムカデカラスだ。噴滅龍よりは楽だろ?」


 などと話しながら、外へ出る手続きをする門番。楽なのは楽だが、ムカデカラスの毒は危険だから気を付けろと心配してくれた。

 正直、クレナの人間が荒くれ者が多いという印象を受けたのは領主のお膝元、トウショウの里の人間に対してだけだ。まあ、あそこも皆が言うほどのことでは無かったがな。

 この温泉街の奴らは、皆いい印象を受けている。こうやって心配してくれることと言うのは本当にありがたいことだと思った。


 さて、門番とそんなやり取りをした後、少し離れた所で神人化する。俺が飛べるということは周知のとおりとなったわけだが、それは魔法によるものということになっている。

 わざわざ目の前で神人化することも無いだろうと思い、そうした。そして、空へと飛び立ち、指定の場所まで向かった……。


 ◇◇◇


 しばらく飛び続けていると、魔獣の大山が見えてくる。やはり浄化の効果は続いているようだ。先日感じた禍々しさも、瘴気も一切感じない。一応、この付近をムカデカラスが通るという予想だったが、まだ、そんな痕跡は見られなかった。

 俺はひとまず、その場を離れる。


 そして、更に飛び続けると、目的の場所が見えてきた。そこは大きな樹海で、見渡す限り緑一面だった。なるほど、昆虫型の魔物らしく、棲み処はやはり森ということになるのか。

 とりあえずどこに降りようかと考えている。何せ一面大きな木が生えていて、地上の様子がよく分からない。ひとまず、樹海の中心に大きく生えていた、大木に降りて、そこからゆっくりと地上に向かおうとした。


 大木は近づけば近づくほど大きいということがよくわかる。何千……いや、何万年も生えているのだろう。俺はちょうどいい高さにあった枝に降り立つ。

 そして、足元を触ってみると、木のような感じでは無く、まるで石の様だった。この辺りは何千年前のものなのだろうか、とか思いながら地上へと降りていく。その間にも魔物は出てくる。

 大きなスズメバチのような魔物、タカバチ、毒の鱗粉を辺りにまき散らしながら飛ぶ毒蛾、こないだ倒したレッドワイバーンの幼生、レッドワイアーム、武装した猿の魔物、そのままずばりの武装猿(ぶそうえん)など、多種多様な魔物が襲いかかってくる。

 ……ただ、弱い。無間を一撃入れるだけで霧散していくくらい弱い。素材もほとんど残らないのでどうしたものかと頭を悩ませながらも、俺は地上を目指して行く。


 さて、地上へと到着すると、辺りを見渡す。やはりずいぶんと薄暗い。幾本も並んだ高い木の枝が、日光を遮り、地上は夜明け前くらいに暗くなっている。

 少しずつ目を慣らしながら樹海の奥へと入って行く。降りる途中に比べて魔物の数が少ないな。どこかに潜んでいるのか……。もしくはここも弱肉強食的なあれか……。

 そう思っていると、上の方で、ガサガサッ! と大きな音がした。パッと上を見ると、そこには、巨大な蜘蛛が数匹、大きな巣を作っているのが見える。蜘蛛たちはそれぞれ、自分の巣で、捕らえた獲物を食べたり、糸でぐるぐる巻きにしたりしている。


「うわ……気持ち悪い……」


 俺は特に虫が嫌いというわけではないが、流石に自分よりも大きな蜘蛛、ましてや、他の猿の魔物や、ワイアームを捕らえて捕食しているところを見ると、気分が悪くなってくる。これ以上は見たくなかったので、俺は無間を振り上げた。


「連撃大斬波ッ!!!」


 斬波を振り回し、巨大蜘蛛を倒していく。青い体液が散ってくるが仕方ない、構わず攻撃を続け、そこらに居た蜘蛛を全滅させることに成功した。

 俺は無間を仕舞い、一応鑑定眼で視てみる。


 ……


 大食蜘蛛(たいしょくぐも)

 巨大な巣を形成し、そこに掛かった大型の魔物を捕食する。大食蜘蛛の作った糸は、大きな魔龍でも絡めとられるくらい頑丈である。


 ……


 ……ふむ、弱かったが、魔龍でもあの巣にはまいるのか。だが、ワイバーンよりは強さは下のようだった。恐らく、蜘蛛自体の強さはそこまででもないのだろう。

 だから、ああやって罠を仕掛けていたということか。さて、こいつの糸はそれくらい頑丈だということで、何かの素材になるかも知れない。一応とっておこうと思い、そこらにあった巣や糸を回収し、異界の袋に収めておいた。


 すると、作業をしていると、後ろから、カサカサッと何かが這いずるような音が聞こえる。……ひょっとしてあいつか? 炊事場によくいる黒い……と思っていたら、前方の木がなぎ倒されながら、音の正体が現れた。

 そいつは大きなムカデで、口を大きく開け、俺の方に突進してくる。俺は無間を抜くと同時に振り下ろし、そいつの頭を弾いた。

 むう、少し硬いな。流石、昆虫型の魔物だ。となればこのムカデの死骸も素材になりそうだな……。

 態勢を立て直すムカデに一つ笑みを浮かべていると、ムカデは何やら天を仰いだ。そして、各節々の間からブウゥゥンッッと風を切る音が聞こえる。よく見るとそれは羽虫の翅のようなもので、しばらくすると、ムカデの大きな巨体が宙に浮いていく。


 呆気にとられていると、ムカデはそこらの木をなぎ倒しながら、土煙を上げ、上空へと飛び立った。

 そして、その全容が明らかになる。思った通り、デカい。魔獣の姿のジンラン並みだ。あれは、素材を回収するのも一苦労だな。正直、ムカデカラスというのはこういうのを想像していた。


 ムカデは、俺の上空を大きく旋回しながら、ある地点で止まる。

 そして、大きく身を翻すと、上空から俺に向かって突っ込んできた。あれだけデカいと小回りも効かなさそうだし、このまま斬波でも撃とう……俺は無間を構えて、気を溜めていく。そして、ギリギリまでムカデを寄せようとした。……だが、


 スパンっ!!!


「何だ!?」


 突如、何かが斬れる音が聞こえる。それも一回じゃない。スパンッスパンッと何回も聞こえる。すると、ムカデの動きが止まった。


 そして、次の瞬間、ムカデの体の至る所から、紫色の体液が噴き出し、そこに切れ目が現れ、ムカデは空中でバラバラになり、細切れが地上へと落ちてきた。

 何ごとかと辺りを見ると、大きな無間のような刃物を両手にぶら下げ、銀色に輝く外殻を纏った、カマキリが無数に現れ、ムカデの死骸を食い始めた。呆気にとられていると、そのうち何体が、俺の方に向かって、その刃状の手を振り下ろしてくる。


「おっと……」


 流石にカマキリらしく、動きが早い。並みの剣士以上だ。先ほどムカデを倒したのはこいつらかと思い、一応鑑定眼で視てみる。


 ……


 大鎌カマキリ

 鋼鉄の外殻を纏い、両手に大刀のように大きく、剃刀のように鋭い刃を持つカマキリ型の魔物。常に夥しい数の仲間と群れを成している。


 ……


 ……ふむ。目的の魔物みたいだな。動きが素早いということではあるが、この程度なら問題は無いか。正直な話、エイキの方が速かった。

 そして、あれが、自警団の男が欲しがっていた脚か。確かに全身鋼鉄なだけあってまっすぐで丈夫そうだ。それに適度に細く、加工もしやすそうだな。さて、と……


 ―すべてをきるもの発動―


 俺は向かって来るカマキリの切れ目をめがけ無間を振って攻撃する。もしくは首を刎ねたりしている。

 思った通り、関節の部分は柔らかいみたいだ。切れ目無しでもすぐに斬れる。一応、今回は奥義などの強力な技は使わない。いくら数が多いと言っても、素材が使えそうだと考えているからだ。派手な技を使って、死骸を消し飛ばしたりしたら、意味がない。俺はそのままで闘っていく。


 途中、閃光弾を投げて、視界を封じたりもした。樹海は薄暗く、そこの生活に慣れている昆虫には効果が大いにあるらしい。それに昆虫は目が良いと聞く。良すぎる目ってのは光に弱いと思ったが、成功したみたいだ。

 カマキリたちは閃光を受ける度に、ピタッと動きを止め、俺の姿を追って首を動かしていたり、時々、仲間を俺だと思って同士討ちなどもしている。

 そうやって、カマキリたちの隙を作り、俺は一匹、また一匹とカマキリたちを斬っていった。


 そして、ある程度斬り終え、辺りがカマキリの死骸で覆いつくされた頃、どこからともなく現れていたカマキリの援軍は止み、俺の前には、あと数匹を残すだけとなった。そいつらは、最後の一撃とばかりに一斉に俺に飛びかかってくるが、俺は無間を横なぎに払い、そいつらを斬り伏せた。


「はあ~~~……ようやく終わったな。さてと……」


 ―おにごろし発動―


 カマキリを全て倒した後は、いつものように神人化し、光葬針を武者の形にする。

 そして、そこらに散らばるカマキリとカマキリに倒され、食われなかったムカデの死骸の一部を異界の袋に収めた。

 その後、光葬針を戻し、次はムカデカラスの殲滅だ、ということで、樹海を飛び立った。


 ◇◇◇


 取りあえず、魔獣の大山を目指し、飛んでいる。気が付けば、もう昼か。案外樹海での闘いに時間が掛かってしまったな。まあ、その分他の魔物の素材も手に入れることが出来たから、それは良いんだが。

 しかし、カマキリの刃で簡単に斬られていたが、このムカデの外殻は使えるのだろうか。いささか不安になるが、その他の用途に使えるのかもしれない。一応、持って帰っておこう。


 さて、そろそろ魔獣の大山だが、上空にそれらしい気配は……っと。


「ん? ……あれか?」


 山の上空の一部が毒々しい紫色になっている。近づいていくと、その紫色のもやの中に夥しい数のカラスが見える。群れ全体で見てもムカデの様には見えないが、恐らくあれだろうと思い、無間を抜く。

 そして、手の上で回転させて、竜巻を起こし、光葬雨を発動させ、竜巻に纏わせる。すると、俺の手の上には浄化の嵐が渦を巻いて、上空へと立ち上っていくようになった。

 その中に斬波を放っていく。と、ここで、カラスの何羽かが、俺の方に気付き、一斉にこちらに向かって来る。それはまるで大きな紫色の雲が、俺に向かってきている様だった。俺は紫色の塊に、上で回していた無間を向けた。


「奥義・光葬嵐裂刃(こうそうらんれつじん)ッッッ!!!」


 グリドリの森を浄化した、光葬嵐雨、それに刃を乗せただけの技だが、毒のカラスにはやはりよく効くようで、俺の技が触れたところから、毒や瘴気が浄化され、カラス本体は消し飛んでいく。

 ……あ、やはり素材は残らないか。まあ、素材については何も書かれていなかったし、大丈夫だろう。そんなことを思いながらも技を放ち続けたが、全滅とまではいかなかった。遠くの方に居た何羽かには届かない。

 そいつらは、俺の攻撃が止むと、四方へ逃げていく。


「逃がすかッ!」


 周囲に何個かの光葬針を展開。そのまま球体の形にして、逃げて行ったカラスの方へ飛ばす。球体はそれぞれ独立した動きでカラスを追い、ある程度近づくと、そのまま刃の形となって、カラスを切り裂いていく。ついでに回りに散った毒気も浄化してくれるので大助かりだ。

 しばらくすると、辺りにいたカラスは居なくなり、空気はきれいになっていた。俺は光葬針を収め、温泉街を目指して飛んだ。

 今から帰れば、自警団の奴にカマキリの素材を渡すことが出来る。作業が少しでも楽になるのではないか、と思った。まだ、昼過ぎだからな。今から帰れば、作業を手伝うことも出来る。俺は少し急ぎ気味で温泉街の方へと向かった。


 ◇◇◇


 少し速く飛んだおかげで、温泉街には昼過ぎに着いた。神人化を解き、いつものように門をくぐろうとすると、門番たちに、もう帰ってきたのか! と驚かれた。依頼を達成したことを少し疑っているような様子になったが、このやり取りも、もう慣れたもんだと思いながら適当にあしらい、街の中へと入っていった。


 街の中にはちらほらと旅人らしき者達の姿が見える。厳戒態勢が解けて、まだ二日余りというところなので、恐らくこの者達は、近くの街の人だろうと思う。

 しかし、こうやって旅人がまた、戻ってくる様子を見ると、安心するな。


 さて、ひとまず俺は自警団の屋敷へと向かう。屋敷を警護する門番に一言言って中に入ると、昨晩、宿に来た、ツクマを始めとした、自警団の者達が、ボロボロの馬車を囲んで作業をしていた。


「よう、帰ってきたぞ」


 俺が声をかけると、男たちは作業を止めてこちらを振り向く。


「あ、ムソウさん、お疲れっす! 早かったなあ」

「まあな。何か手伝えるかと、少々急ぎ気味で帰ってきたからな」


 俺を労ってくれるツクマにそう言うと、俺に一礼してくる。

 そして、俺は異界の袋から、大鎌カマキリの死骸をいくつか取り出した。他の自警団たちはそれを目を大きく開けてみている。


「すげえ、これが大鎌カマキリか……」

「本当に全身鋼鉄なんだな……」

「……まあ、こいつらが恐ろしいのは常に集団でいることだ。一体ずつならお前らでも倒せるかも知れないぞ?」


 大鎌カマキリの死骸を見ながら唖然とする自警団の奴らを安心させようと思い、そう言うと、男たちは、それなら……と何やらやる気に満ちた顔をしだした。

 正直、大鎌カマキリについてはそんな印象だ。こいつらを倒す依頼が超級だったのは、単純に、大量の魔物の殲滅依頼ということで超級だったんじゃないかと思っている。一体ずつだと、オウガよりは弱いか、少なくとも雷獣よりは弱い。

 だが、兵力だとここ最近の依頼では一番上だ。俺もあんなに相手をするとは思っていなかった。素材のことが頭に無ければ、即奥義を使い、一気に片づけていたんだがな。

 後は、場所が悪いということもあるのだろう。目的の魔物以外にも、多くの魔物が居たわけだし、樹海自体も、すぐに遭難でもしそうなくらい、深く広かったからな。神人化が使えて本当に良かったと安堵する。


 さて、大鎌カマキリの死骸を出し終えた後、ツクマに、これで良かったか確認する。ツクマは死骸の、特に足の部位を見たり、触ったりしながら確認している。

 そして、スッと立ち上がり、俺の方を向いた。表情は明るい。


「ああ、大丈夫だ。早速作業に取り掛かろう」


 ツクマはそう言って作業に入る。他の奴らも作業に入ったので、俺も手伝った。


 まず、脚の部分を切り離す。こいつは全身が鋼鉄だ。しかし、関節の部分は柔らかいので、そこに鉈を入れて、切り離していく。

 そして、切り離した脚の長さをそろえる。ここでは、俺がスキルを使い、無間で斬り揃えた。その後は長さをそろえた脚で馬車の荷台の部分を作っていく。流石に釘で止めることは出来なかったので、縄で結んで固定した。

 すると、もう一人の男、ノボリが屋敷に戻り、何かを持ってきた。それは、俺も旅の間、風呂などで世話になっていた火炎鉱石だった。何をするのかと思っていると、ノボリは、魔法陣が掛かれた手袋をはめて、火炎鉱石を持ち、カマキリの脚の部分に当てた。

 しばらくすると、当てた部分が熱せられ、並べた脚同士が綺麗に溶接され、固定された。


「ほう、器用なもんだな……」

「おう、これで、釘で止めたり、縄で縛るよりはよほど耐久性があがると思うぜ」


 ツクマも同様の作業をしている。さて、荷台の部分が完成すると、次に取り掛かったのは屋根だ。屋根には、大鎌カマキリの翅を使う。結構強度もあるし、中から外の風景が見えるから、たまも喜ぶだろうと男は言うが、寝る時はどうするんだよ、と聞くと、その時は天幕を付ければいい、とのことだった。

 やはりこの男、たまへの気遣いは最高に素晴らしいな。これなら、たまも景色を楽しめるし、俺かジゲンで中から周囲を警戒出来るから便利だ。


 その後は、手分けして馬車の色々な部分を補強していく。俺は主に車輪の部分を担当していた。カマキリの外殻を丸く切り抜き、それを足にはめて、荷台の下部分に固定する。固定する際に、自警団の男から、一本の細い鉄の棒をぐるぐると巻いたような器具を渡された。端を手で押すと、それは縮むが、すぐに元通りの大きさに戻る。

 これを車輪の部分に取り付けることで、荷台への衝撃を和らげることが出来るという。便利なものがあるものだと思い、ありがたく取り付けた。


 そして、しばらく作業を続け、日が傾きだした頃、馬車が完成した。最初のボロボロだった馬車に比べると一回り大きく、鈍く銀色に輝いている。

 中を見ると、それなりに広かった。荷物を置くにしても、ジゲンとたまの二人くらい寝るのは確保できそうだ。このままだとしたが鋼鉄の棒を並べただけなので、緩衝材にと、俺がいつも使っている魔獣の毛皮を使おうとしたが、しばらく洗っていなかったので不潔だと思い、ひとまず、自警団に預かってもらって、洗ってから使うことにした。

 屋根は日が当たると眩しそうだと言う俺の意見を尊重して、常に天幕をたたんでつけることにした。

 その後、馬車を引く馬を見せてもらった。速く走れそうには無いが、とにかく大きい。足も腰も、普通の馬の一回り太いみたいだ。これなら力があるから、重い鋼鉄製の馬車でも楽に運べると言われ、納得した。

 ちなみに、後で聞いたのだが、この馬はコクーマと言って、俺の好物であるクーマと同じ種類の動物だという。いつも世話になってると思いながら、腹を撫でると、ブスッとして、そっぽを向かれた。少し、複雑だが、まあ良いやと思いながら、馬の状態を確かめているツクマたちの作業が終わるのを待っていた。


「……良し、これでたまちゃんの旅は安全にいきそうだな」

「ああ。何から何まですまないな」

「礼はたまちゃんをトウショウの里まで送り届けてから言ってくれ。こちらこそ、あの子を頼むぞ、ムソウさん」


 ツクマは俺に手を差し出した。後ろを見ると、嘆願するような目で、他の自警団の奴らが俺を見ている。今日集まったのは、いずれもたまの両親に世話になった奴らだけとのことらしい。

 結構居るんだな。これだけの人数の男たちの期待を、背負うことになるというわけか。

 俺は、任せろ、と言ってツクマと握手をした。良い馬車が出来ても、俺がしっかりしねえと駄目だ。無事にたまとジゲンを街まで送ることを約束し、俺は湯の花一家の屋敷を後にした。


 ◇◇◇


 空が赤く綺麗な夕焼けとなっていた頃、俺は宿に到着した。戸を開けると、すぐそばには荷物らしきものが置かれている。旅支度の方は進んでいるらしいな。その後、草履を脱いで、炊事場の方へと行くと、たまがせっせと飯を作っていた。


「よう、今帰ったぞ」

「あ、おじちゃん! おかえりなさ~い!」


 声をかけると、振り向いてにこりと笑うたま。ジゲンは? と聞くと、今は風呂に入っているということなので、一足先にたまに、馬車が完成したことを報告した。

 たまは嬉しそうにし、旅立つのが楽しみと言った。自警団のことを思うと、その言葉はどうなんだろうと思うがな……。

 さて、俺はたまに飯が出来たら呼んでくれと一言言った後に、自分の部屋へと向かった。

 そして、異界の袋から伝令魔法の魔道具を取り出し、アヤメに伝令を送る。そう言えば、死霊軍殲滅の報告はまだだな。その分も合わせてきちんと報告しておこう。

 俺は魔道具に額を当てて、昨日の夕方から今日にかけて取り組んだ依頼について思い出していく。一通り記録が終わったら、魔道具に向けて口を開く。


「……一応、昨日のうちに死霊軍の殲滅とやらは済んでいた。報告が遅れて申し訳ない。殲滅と言っても、死霊軍を操っていた女を拘束しただけだったがな。とりあえずその町の自警団に渡るようにはしたが、大丈夫だったか? ここは後で教えてくれ。

 今日は大鎌カマキリとムカデカラスの殲滅をしておいた。一応はそこらに居た大鎌カマキリは殲滅できたが、また数を増やしてきたら言ってくれ。

 ……というか数が増える前に何とかしろ。闘ってみた感じだと一体ずつはそこまでの強さじゃない。

 それから、ムカデカラスに関しては完全に消滅して素材は残っていないが、大鎌カマキリ、それに付随して現れたデカいムカデの素材は確保している。天宝館の奴らに準備しとけって伝えろ。

 ……さて、俺は明後日には滞在中の温泉街を出る。そして、ギルドに帰るのはそれから四日後くらいになりそうだ。帰る二日前くらいにまた伝令魔法を送る」


 俺は魔道具を放し、口を閉じた。すると魔道具は輝き、鳥の形を形成して、トウショウの里方面へと飛び去っていった。その様子を見て一息つく。

 しかし、十二個あった依頼も残るはスライムだけか……。こんなに早く終わるとは思わなかったな。トウショウの里へ帰ったら、ゆっくりしよう。

 ツバキたちは……本人次第だが、家が綺麗になったら迎えに行くかな。それか、依頼を続ける代わりに妓楼に預けておくのを続けるか。これは帰ってから決めた方が良いな。

 そして、窓からぼーっと外の景色を眺めた。外に見えるいつもは暗かった宿屋の客室にぽつぽつと灯りが見える。

 ああ、やはり旅人は戻ってきているようだな。ふと、向かいの宿の部屋からこちらを見てくる子供に気付いた。俺と目が合うと、小さく手を振ってくる。俺が手を振ると、子供はニッコリと笑って、部屋へと戻っていった。きっと家族で旅行にでも来ているんだろうと思い、笑っていた。


 ……そう言えば、カンナやサヤを連れて旅行とかしたことなかったなあ。俺はいつも仕事に出ていてそんな暇無かったからな。

 時々、エイシンが二人を連れていろんな所に行ったりしていたみたいだが、それもだいぶ後になって、ツバキから聞いたことだ。俺は、良い父親だったのか、良い旦那だったのか……。

 今になってもその悩みは続いている。だが、家族を喪った以上、俺は良い父親でも、良い旦那でもなかったんだろうなと一人で解決している。すると、やはりどうしても虚しい気持ちになる。だから、この考えはあまりしないようにしているがな……。


「おじちゃ~ん! ご飯できたよ~!」


 ふと、たまの声が聞こえた。晩飯の用意が出来たらしい。虚しくなった気持ちを忘れて、俺はたまに返事をして、下へと降りていく。

 たまがリンネの遊び相手とかになってくれたら嬉しいなあ、とふと思った。


 下へと降りると、長着姿のジゲンと器にご飯をよそっているたまが俺を待っていた。


「ああ、ムソウ殿、お疲れ様」

「おう」


 軽く挨拶を済ませ、俺も食卓に着く。いつものようにたまが俺に酒を注ぎ、皆で手を合わせた。


「それじゃあ、いただきます!」

「「いただきます」」


 そうやって俺達は夕餉をとる。今日は普通の魚料理が並ぶ。煮つけに、刺身、汁物、白米。飾り料理は無かった。少し寂しいような気もしたが、あれは特別な日に見るものだからこそ美しく感じると思い、さして気にしなかった。

 そして、晩飯を食べながら、馬車が完成したことをジゲンにも話す。


「ふむ……であれば、明日は荷物を馬車に運び込む作業でもしておこうかの……」

「そうだね~、結構多いからね~」


 などと、二人は話している。異界の袋を使おうかと提案したが、自分の物は自分で管理したいと二人が言うので承諾した。


「馬を引くのは俺とジゲンが交代で、ということになるが、大丈夫か?」

「ああ、馬車くらいは引ける。問題ないじゃろう」


 なら、安心だと俺は頷く。ひょっとしたらトウショウの里に行くまでの間、ずっと俺が馬を引く可能性だってあったからな。まあ、中から外の様子を伺うこともしないといけないので、完全に休めはしないが……。


「夜とかはどうするの~?」

「基本的には街から街への移動にしたい。ただ、宿がなかったりしたらいいところで野宿ってことになるな。……不安か?」

「ううん。むしろ楽しみ! そういうのしたことないから!」


 たまは満面の笑みで野宿に希望を抱いているようだ。やったことないことというのは好奇心旺盛な子供にとってはやはり、かなり魅力的なものに感じるらしい。


「む? ムソウ殿は旅用の小屋などは持っていないのか?」


 ジゲンが不思議そうな顔を向ける。冒険者というものが家を持ち歩きながら旅をしているということは、こんな老人でも知っていることらしい。

 俺は、旅をしているのに家で寝るという感覚がどうしても嫌だ、と言うと、ジゲンは笑って、そうか、と頷いた。ただ、この時ばかりは、それもありなのではないかと少し思う。

 その方が安全と言えば安全だからな。一応、夜は寝ずの番というほどではないが、俺が馬車の外で番をしようと考えている。

 しかし、たまが少し心配そうな、寂しそうな顔をしたので、出来るだけ馬車の近くで休むということになった。流石に俺も寝ながら死神の鬼迫は出来ない。

 だが、周囲の警戒はしておかないといけない。馬車の中で寝るということはないだろう。


 というわけで、俺が夜にあまり寝れなくなるということがほぼ確定したので、日中はジゲンが馬を引き、俺が中で休む、夜はジゲンが中で寝て、俺が外で番をするという話になった。

 ただ、地図で見ると、トウショウの里までの道中に通る街には宿は有りそうだ。そういった機会もあまり多くは無いだろう。上手くいけば、全ての行程で宿に行くことが出来るかもしれない。


「時にムソウ殿……シンムの里には寄るのか?」


 シンムの里……聞いたことが無い街の名前だったが、地図で確認すると、トウショウの里の一つ手前の街だった。それに、元々ここの付近にスライムの集団が居るみたいだから、確実に寄ることにはなる。


「ああ、寄るつもりだが、何かあるのか?」

「いや、寄るのであれば、問題ない……」


 そう言ってジゲンは飯を黙々と食べ始めた。何だろうとは思ったが、俺達の話を聞いて目をたまが目を輝かせている。どんな街か聞いてみると、たまはにこりと笑って口を開いた。


「ここはね~、“武神”サネマサ様の故郷なの!」


 ほう、それは俺も興味が沸くな。街にはサネマサの生家や、修行に使われたものなどが、今でも置かれており、多くの武芸者たちが足を運んでいるという。

 確か、ツバキも行ったことあるとか言っていたから、どんなものかは気になっていた。騎士団の師団もあることだし、そこに行くのは確かに楽しみだ。

 ジゲンもそんなところか、と思い、俺は納得した。……というか、多くの武芸者が集まるのならスライムの集団くらい何とかしてくれ、と思った。


「……そう言えば、儂らがムソウ殿の家に行くことは決まっておるが、急に行っても大丈夫なのかの?」

「問題ないだろ。昨日も言ったように街を管理する自警団も、領主であるアヤメも顔見知りだ。街に着いたときにでも俺から一言言っておくよ」

「ならば、問題ないな……。一応最後に聞いておくが、トウショウの里の下街は儂らが……特にたまが住んでも、本当に問題ないのじゃろうな?」

「上街、花街はともかく、下街は自警団がしっかりしているから問題ない。それに、爺さんと俺がついているからな、まず安心だろ」

「儂はもう歳なんじゃが……」


 ジゲンは頭を抱えながらも微笑んでいる様子だ。そうだ、そのまま、昔の血でも何でも騒いでくれ。そうすれば、トウショウの里のごろつきなんぞ、恐れるに足らん。

 まあ、万が一ということもあるので、たまは基本的に外出禁止。出るときは俺かジゲンがついていくということを約束させた。たまは、最初は渋っていたが、簡単に言えば、一人で出歩かなかったら問題ないし、俺かジゲンは確実に家に居るから、そんな心配は無いと伝えると、笑って頷いた。

 この辺りは、トウショウの里に着いてから、決めることにしよう。


 さて、その後も飯を食いながら色々と話をした。ひとまず依頼についても俺の方は一区切りついたわけだから、出発までの明々後日までの二日間はたまとジゲンの手伝いが出来る。

 明日は荷物を馬車に入れる作業をするということなので、練習がてら朝早くに俺が自警団の所に行き、ここまで馬車を引いてくるという段取りになった。ああ、その際に自警団にたまの身かじめなどを払っておこう。


 そして、飯を食い終わった後、例のねぐらに戻るジゲンを見送り、風呂に入った。ほとんど一日中飛び続けていたので、初日の夜のように疲れがじんわりと解けていく感覚がして気持ちが良かった。そのうち、ツバキやリンネもここに連れて来よう。俺はあまり納得していないが、泉質はどこも同じらしいからな。ここが無くなっても湯は沸いている。大丈夫だ……。


 その後、風呂から上がり、部屋へと戻った。部屋ではたまが布団を敷いて、寝る準備をしている。今日も一緒に、と言うもんだから頷き、一緒に寝た。たまを寝かせ、俺も布団に入って、目を閉じる。

 この街で過ごすのもあとわずかかと、少し寂しいような気になりながらも、そのまま眠っていった……。


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