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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
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第129話―晩飯前に軽く運動する―

 宿へ戻ると、ジゲンとたまがせっせと晩飯の準備をしている。少し気が引けたが、二人に声をかけ、そのまま部屋へと向かった。そして、今後討伐する予定の魔物の資料に目を通しておいた。


 ……


 大鎌カマキリ

 人間よりも大きなカマキリ型の中級魔物。両の手は名刀が斬れるほどの大きな鎌で構成されているので要注意。繁殖力が強く、一つの卵から200匹近い大鎌カマキリが孵化する。早急に殲滅、また卵の完全な排除を求める。


 ムカデカラス

 多くの毒カラスが群れを成したもの。その姿は空を渡る大きなムカデのようなのでこの名がついた。他の領で生まれたが、もうすぐ寒気に入るので、温かいクレナへと飛来した模様。毒カラスは体内に濃縮した毒を持っており、土壌汚染の被害が後を絶たない。クレナの農作物や人体に被害が及ぶ前に早急に対処せよ。


 ……


 ……なるほど。大鎌カマキリの方は何とかなるかも知れないが、問題はムカデカラスだな。てっきりムカデのような姿のカラスかと思っていたが、そうでは無いらしい。

 毒カラスという個体の魔物の群れだったか。そして強い毒を持つことから土壌汚染の恐れがあると……いや、飛ぶということらしいから、大気の汚染も心配されるな。

 それで、コイツに関しては空での戦いということになるのか? どうにかして地上へ追い込めれば良いのだがな……。

 まあ、神人化して戦えば問題ないか。更に言えば神人化すれば、例え周囲が毒で汚染されても、浄化できるだろうし。うん、そうしよう。

 さて、大鎌カマキリは雷獣が居た山から離れた位置にある森に居るようだ。そして、ムカデカラスは先の調査から飛行する場所を予測してある。ちょうど魔獣の大山の方を通るみたいだな。明日は、魔獣の大山経由で、大鎌カマキリの討伐に向かい、山に毒カラスが居れば、対処するという流れにしておこう。


 次にスライムの集団の殲滅についての資料だ。スライムは何度か相手にしているから問題ない。

 だが、問題なのは今までの殲滅依頼に比べて圧倒的に数が多いということだ。中にはスライムキング、ビッグスライム、スタースライムというのも居るみたいだ。少し、気を引き締めて事に当たるとしよう……。


 そして、最後に死霊軍の殲滅。資料によれば、魔法の力によって生み出された魔物が群れを成しているということらしいが、それらは主に、マシロでミリアンがうみだしていた動くガイコツ、スケルトンや、死魂を魔法によって呼出し魔物化させた、レイス、動く死体と言うべき存在、リビングデッドというものたちで構成されているようだ。

 だが、コイツらは夜にしか現れない上に、依頼には死霊軍を呼び出した魔法使いの討伐まで入っている。少し準備をしておこうと思い、この依頼は明後日夜ということにしておいた。幸い、ここからそんなに離れていないみたいだしな……。


 ……いや……これから行った方が良いのか? 改めて資料と地図を開く。噴滅龍撃破の報せがまだそこまで広まっていないということは、その魔法使いとやらも逃げたりはしていないだろう。

 依頼は基本的に何時まで、という決まり事は無い。だから、よほどの相手の場合は先延ばしにし、丹念に準備をしてから行くのも出来る。相手は魔物だからな。冒険者の動きを予測し、行動するということはまずない。例外的にゼブルのように高度の知能を持つ相手だと分からんがな。


 だが、今回の死霊軍殲滅の依頼には、魔物たちを使役していると思われる人間の討伐も入っている。厳戒態勢が解けた今、自らの近くに、自分の命を狙える者が居るということを悟らせないためにも、この依頼は早くした方が良いのかも知れない……。


 俺は明後日夜の予定としていた、死霊軍の殲滅を今晩にすることにし、荷物を持って下へと降りて行った。たまとジゲンは今晩のための料理をせっせと作っている。


「悪い、二人とも。ちょっと良いか?」

「ん? 何じゃ、ムソウ殿」

「どうしたの? おじちゃん」


 作業を止めてこちらを振り向く二人に、依頼についての説明をした。話を終えると、ジゲンが難しそうな顔をして、口を開く。


「死霊軍か……確かにその依頼の場所はここからだとそう遠くはないのう。ムソウ殿ならあっという間に行けるじゃろう。それに、その魔法使いとやらの討伐を急ぐのも納得できる。

 ……じゃがな、ムソウ殿。お主、死霊どもが活発的になる時間帯というのはご存じか?」


 時間帯? そんなのあるのか。夜とは聞いていたが、具体的にこの辺りの時間とは資料にも書いていなかったな。


「そういえば……知らないな。夜じゃないのか?」

「夜と言っても、どのくらいかは知らないようじゃの……そうじゃの……大体月が中天を少し過ぎたころ……つまり真夜中というくらいかの。

 皆が寝静まった頃にこそ、死霊どもを操る魔法は活発となるぞ」


 へえ……それは知らなかったな。ということは今すぐ行ってもあまり意味は無いのか。

 しかし、ジゲンは本当に物知りだな。伊達に歳食っちゃいない。俺達の話が難しかったのか、たまは頭を抱えて、う~ん、う~んと言っている。


「じゃあ、皆で飯食って行っても充分だってことか?」

「無論じゃ……ただ……」


 そう言って、ジゲンは少し、奥の部屋へと入って行き、手招きする。たまから俺を遠ざけたいみたいだ。何だろうと思いながらも、ジゲンの思うようにしてやる。

 すると、ジゲンは恐らく自分のものと思われる、古びた袋の中から、何かを取り出した。


「ん? 何だそれ」

「その前に……。確か、ムソウ殿は神人になり、天界の波動を放つことが出来たのう?」

「ああ、そうだが」

「ならば、死霊軍は問題ないじゃろう。奴らは魔物の中でも特に聖なる波動に弱いからの。普段なら、聖杯を使わねば、苦戦するが、そういうことなら大丈夫じゃ。

 ……じゃが、問題は死霊軍を使役する者のことじゃ。ムソウ殿は以前、そういった者と闘ったことはあるか?」


 死霊軍を使役する者か……。それは無いなあと思っていたが、あることに気付く。


「死霊軍というほどのものじゃ無いが、資料にあったスケルトンや下級の魔物を召喚する奴とは闘ったことがあるぞ」

「ほう……それはどのような感じじゃった?」

「マシロに居た貴族、ミリアンという者だ。強力な呪いと魔力を用いて、俺達と闘った。確か……リッチとか言ったけな」

「ほう……ムソウ殿はリッチをも斬ったことがあるのか。では、リッチというものがどういった魔物かは知っておるか?」

「ああ。強大な魔力を手に入れるために人間やめたって奴らだろ? さっきから何なんだよ……?」


 ジゲンの質問攻めに耐え切れず、聞いてみた。すると、ジゲンは俺に、手にしていた何かを手渡す。

 受け取ってみると、それは黒真珠のような、光沢のある黒くて丸い石だった。何だろうと思い見ていると、ジゲンが口を開く。


「その石は近くに強い魔力を持った者がおると知らせてくれるものじゃ。先ほどから言っているように死霊軍を使役するには強力な魔力が必要となる。リッチもそうじゃったんじゃろ?

 ならば、これも持っていくのじゃ。これから行けば、その石で死霊軍を操る魔法使いを見つけることが出来る。そのまま討ち取れば、死霊軍と闘わずに済むという塩梅じゃな……」


 ……なるほど。ジゲンの言いたいことが分かった。神人化できる俺にとっては死霊軍など敵じゃない。

 だが、使役する魔法使いを倒さないと、この依頼は終わらない。そこで、死霊軍が出てきて、ついでに魔法使いが出てくるのを待つのではなく、この時間から指定場所まで行き、その辺りで強力な魔力を持つ者、つまり使役する魔法使いを倒すことが出来れば、時間短縮な上に、余計な苦労が省けるということか。


「ありがとう、爺さん。そういうことなら、早速行ってくるよ」

「なあに、気にするでない。神人となり、ひとっ飛びすれば指定場所まではすぐじゃ。早めに終われば、夕餉には間に合うじゃろう」

「分かった。……じゃあ、行ってくる」


 ジゲンにそう言って、俺は宿を出ようとする。だが、たまが心配そうにこちらを見ていることに気付いた。


「……おじちゃん、どっかいくの?」

「ああ。だが、すぐ戻る。びっくりするくらいすぐ戻るから、晩飯楽しみにしているぞ!」


 たまにそう言ってやると、段々と表情を明るくし、大きく頷いた。それを見て、安心し俺は宿を出た。


 ◇◇◇


 宿から出た後は、門から街の外に出た。出る際に、門番からこんな時間に、と怪しまれたが、神人化のことについてはうまくごまかしておいた。空を飛んでいくから大丈夫なんて言えるわけないからな。……とは言いつつ、既に門番も何かしらの術で俺が、遠い所にあっという間に行けるということに勘づいてはいるようである。

 ひとまず、ショウブのように、魔法で空を飛べると言ったら、信じてくれたので安心だ。


 さて、いつものように少し離れたところで神人化し、依頼の指定場所へと向かう。日の入りまではまだ時間がある。遅くても晩飯までには帰ろうと思い、少し本気を出して飛んだ。相変わらず、空を飛んでいる魔物はかき消されていく……。


 しばらく飛び続けると、指定の場所へと到着した。そこは温泉の町からそう離れていない所にある街の墓地だった。

 死霊軍というくらいだからな、予想はしていたが……。

 にしても何だろうな。そこら一面何かを掘り返されたような跡がある。マシロの時のスケルトンが現れた時もこんなだったな。ということは十中八九、死霊軍を呼び出した跡だろう……。


 そうやって、辺りを調査していると、段々と日が傾いてくる。少し急がねえとな、と思い、ジゲンから貰った石を取り出す。……特に反応は無いか。まあ、近くに死霊軍を使役する魔法使いが現れれば、反応するわけだから、このままゆっくりと待つとしよう。

 そう思い、近くにあった木の下に座った。


 ……そう言えば、サヤとカンナの墓、ちゃんと作ってなかったな。エンヤ達の物もだ。一応はタカナリが慰霊碑を作ってくれていたから失念していたな。

 ……いや、必要ないか。そんなもの無くても、アイツらのことを忘れるなんてこと、あり得ねえからな。俺には、アイツらの記憶と、共に闘ったこの無間さえあれば充分だな。


 そんなことを思いながら、一人笑っていると、手の中にあった黒い石がブルブルと震え出した。ハッとし、見てみると、黒い石は輝いている。なるほど、これが強い魔力に反応した様子というわけか。

 そして、辺りを見渡してみる。すると、墓の中を一つの影が歩いているのが見えた。外套を被っているからよくわからないが、恐らく女だろう。歩き方がそんな感じだ。

 アイツかあ……。しかし、どうするか。いきなり斬りかかって違ったらいけないしな。どうにかして確認しないと……。仕方ない。かまかけてみるか。


 俺は、その女に近づいていく。女は墓地の中をウロウロとしながら、時折地面に何かを書き、何かを置いて回っているようだ。ゆっくりと近づき、女の前に立つ。


「……おい」

「はっ……! だ、誰!?」


 声をかけると、影の主は顔を上げる。予想通り女だったな。若く金髪で、血のように赤い目をしている。


「俺は冒険者をやっているムソウという……俺がここに来た理由、分かるな?」


 そう言うと、女はハッとし、作業を辞めて、俺から距離を置く。


「チッ! 冒険者か。街の依頼でここに来たというわけか!」


 女はそう言いながら、俺に杖を向ける。……確定だな。


「ほう……何も言っていないのに、冒険者というだけで臨戦態勢をとるか。ということはお前が死霊軍を使役する魔法使いってことで良いんだな?」

「あ……!」


 俺の言葉に女は唖然としている。ここは墓地だ。墓参りに来る冒険者だっているだろうに。前の世界のツバキと違って、俺はこういうかまをかけたりするのはあまり得意では無かったが、あいつのお陰で上達したんだよなあ。

 ……それにしたって今回はこの女が馬鹿すぎるんじゃねえかとは思うが。


 さて……こうした場合はどうすればいいのだろうか。斬って捨てるべきなのか、捕縛するのか悩ましいところだな。どうしたものか、と悩んでいると、女は杖の先に魔力を溜め始める。


「ここで捕まるわけにはいかない! 悪いが消えてもらう!」


 女は杖の先に、大きな岩を形成し、それを撃ってきた。ミサキがやっていた礫弾ってやつだな? 俺は拳に気を集め、腰を落とした。


「オラッ!!!」


 そのまま正拳突きを繰り出し、迫ってくる岩に打ち込んだ。すると岩はビキビキと音を立てて、俺の前で砕け散っていく。


「なっ!?」


 唖然とする女の前で、砕け散った岩の破片を手に取り、遊ばせながら口を開く。ミサキのおかげで、この程度の魔法には大した驚きも無いから不思議だ。

 さて、一応、死霊軍を操る理由ってものを聞いておこう。情状酌量というのがあるのかも知れない。女の言葉を借りるなら、こういう時は捕まえるか、殺すか、みたいだからな。


「……一つ聞きてえんだが、なんでスケルトンたちを生み出したんだ?」

「はっ! 私の魔法を世に知らしめるためさ! ここクレナは力こそが全て。強いものだけが生き残る。私はこの力で、クレナを支配してやるのさ!」


 ……うん。単純かつどうでもいい理由だったな。とても分かりやすい。これは……殺すほどでもないか。

 生き恥をさらさせて、悪い事したら、コイツみてえな馬鹿な目に遭うってことを世に知らしめてやろう……。


「……そうか」


 俺は遊ばせていた石ころを握り、大きく振りかぶる。そして、そのまま女の腹目掛けてそれを投げた。


「がふっ!!!」


 石は一直線に女の腹に当たり、短い悲鳴と共に、女はその場で倒れ気絶した。魔法なんてなくても、俺でも岩を飛ばすことくらいは出来るみたいだ。


 よし、これで依頼達成だな。何と言うか、今までで一番楽な超級依頼だった。

 だが、まあこれはジゲンのお陰だな。あいつが助言してくれなければ今まで通り、大量の魔物の相手をしたうえでこいつと闘わないといけなかったんだから。後でお礼を言っておこう。


 さて、と……取りあえず女を縛り上げておこう。後で街の自警団に行き渡るようにしておけば大丈夫だろう。そう思い、女に縄をかけようと近づく。だが、


「ん? なんだ?」


 ふと、なにか、声のようなものが聞こえた気がした。ハッと顔を上げ、辺りを見渡してみると、光の粒のようなものが無数に飛んでいる。


 何だろうと思い、手を出すと、その中の何個かが俺の周りに集まり、ふわふわと飛びだした。また、ピクシーみたいなものか? とも思ったが違う。ただの光の粒だ。

 そして、俺の周りを飛んでいた光の粒の何個かが、出した手の上に集まってきた。すると、また声が聞こえてくる。


 ―ありがとう……―


 この声は……なんと言うか、頭の中に直接届いているような感じだ。そう言えば、前にもこんなことあったな。確か、ゼブルと闘った時だった。ゼブルが吐き出した魂たちが俺に語りかけてきた時があったな。

 あの時は勢いで聞こえて来た声に反応したりもしたが、まさか今回も……。これは魂の声ってやつなのか?

 ……まあ、ここは墓地だ。こんなこともあるか。


 だが、何故感謝されるのかはよく分からないが、悪い気はもちろんしなかった。ついでだと思い、俺はスキルを発動させた。


 ―おにごろし発動―


 俺の体から強い光が溢れ、神人化した。そして、飛んでいる光の粒と、墓地全体に向けて光霊波を放つ。

 一応、死霊軍を生み出すための魔法に対しての、浄化のつもりでやったのだが、あることに気付いた。

 先ほど、女が何か地面に描いていたところが輝いている。近づいてみると、それは魔法陣だった。恐らく、死霊軍を生み出すための陣だろう。それは天界の波動に当てられると、陣の周りに置いてあった、魔道具のようなものと共に消滅していった。


 その瞬間、更に多くの光の粒が、墓地から浮かんでくる。その光の粒は、俺に近づいて来ては、ゆっくりと天に昇っていった。

 俺はその光の粒を見上げながら、笑って、頷く。


「……ゆっくり……休め」


 その後、ふわふわと辺りを飛んでいた光はそのまま、天へと向かってぱあっと消えていった。結局、これで良かったのだろうか……まあ、いい。

 とりあえず、この女を縛っとこ……。


 その後、女を門の前に置いておいた。あそこに置いておけば誰か気付くだろう。ついでに伝言でも書いて、置いておこっと。え~っと……


「私は悪い魔法使いです。夜な夜な死霊軍をうみだしていました。反省しています。どんな罰でも、恥ずかしめも喜んで受けます」


 ……よし、これで良いな。いや、もう早くたまの宿に帰って温泉に入りたいし、飯食いたいし、超級の依頼があまりにもあっさりと解決したりで、何もかも適当になってくるな。人間的に駄目になる前にとっとと帰ろっと……。


 俺はそのまま、温泉街へと帰っていった。日はもう少しで沈むかというところ。うん、十分間に合うな。本当に、当初はしっかりと準備をしていこうと思っていた俺が馬鹿だった。

 だが、そんな俺を夕日が優しく照らしてくれている。本当に綺麗だな……。

 ……さ、帰ろ帰ろ……。


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