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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
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第127話―自警団に話を聞く―

 翌朝、着替えを済ませた俺はたまと一緒に飯を食う。昨夜のこともあり、たまはずっと心配そうに俺を見ていたが、俺が頭を撫でてやると、安心したのか、表情が柔らかくなる。

 今朝もジゲンは居ない。アイツ、本当にどこに住んで、何してんだろうか。昨日聞きそびれたな。今日はちゃんと聞いておこう。


 さて、飯を食い終えた俺はたまの手伝いを少しして、昨夜、宿を訪れた自警団の男が居る場所へと向かう。そこは街の中心部にある大きな屋敷だった。

 でけえな……。そして、この屋敷にも温泉を引いているみたいだ。煙突のようなものが伸びて、そこから湯気が出ている。大したものだな……俺がトウショウの里で借りた家にも温泉が湧いてくれていればな……などと思いながら門の方へと行く。


 そして、中へと入り、戸を叩いた。


「お~い! 誰かいるか~!」


 声をかけると中から足音が聞こえる。ガララッと戸が開くと見覚えのある男が立っていた。昨夜、宿に取り立てに来た目つきの悪い男の一人だな。


「ん? なんだ、アンタ……」


 男は俺のことをジロジロと見ながら、怪しんでいた。俺はギルドの腕輪を取り出し、俺の情報を男に見せる。


「俺は冒険者のムソウという。ちょっとここらを仕切っている者に話があってな」


 そう言うと、男はハッとし、俺の情報を見だした。そして、一通り見るとニカっと笑い俺の肩を叩く。


「あ、アンタが、冒険者のムソウか! 噴滅龍を討伐した……。

 いやあ~! あれには驚いた! 俺からも一つ感謝させてくれ!」


 などと言いながら、何度も俺に頭を下げる男。その姿に一瞬唖然とする。

 昨日の様子だとそんなことするような態度の男とは思わないからな。とりあえず、男を落ち着かせ、自警団の長に話が出来るか、と聞くと、男は頷き、家の中へと入って行った。


 しばらく待つと、男は昨日の身なりの良かった男を連れて、俺の前に来る。自警団の長だな。そいつは満面の笑みで、俺に口を開く。


「おお……。噴滅龍討伐の冒険者、ムソウ殿か。この度は本当にありがとう。街を代表し、感謝させてもらう」


 深々と頭を下げる、長の男。俺はそいつの頭を起こさせて、


「あ、いや、気にすんなって。依頼に応えるのが冒険者だ」


 と、言うと、長の男は微笑み、もう一礼した。


「さて、本日ここにいらっしゃったのはどういう御用で? 報酬のことならギルドにすでに支払っておりますので、そちらから……」


 男がそう言って来るので、俺は手を出し、男の言葉を制した。


「いや、それとは別件だ。たまという少女の宿のことについて聞きたくてな……」


 俺がそう言うと、二人はハッとし、顔を見合わせる。そして、俺の方に向き直り、長の男は口を開く。


「なるほど……昨夜泊っていらっしゃったのは貴方だったか……何とも恥ずかしいところを見られたな……」


 長の男は納得したようにそう言った。ひとまず立ち話もなんだから、ということで、俺達は客間へと移動する。

 そして、中で長の男と、後から来た、人相の悪かった男二人と向かい合わせになるように座った。その後、茶と菓子が運ばれてきて、俺達はひとまず落ち着く。


「では、改めて……私が、この街の自警団「湯の花一家」の長、クサツと申す。それで、この二人が私の補佐である、ノボリとクツマだ。さて、今日はどういったご用件で?」


 何とも風情のある名前の自警団の長、クサツに、俺がたまの宿にここ最近泊っていることと、昨夜あった出来事を話した。

 人相の悪い二人、ノボリとクツマは申し訳ねえ、と謝っていたが、気にしていないと言って許してやった。

 そして、その後たまとジゲンと話した時に感じた違和感についても話した。すると、クサツは一つため息をつく。


「やはり、お二人にはバレていたか……」


 クサツは少し肩を落としながら茶をすすっていた。この様子だと、やはり何かあるな、と思い、聞いてみた。


「アンタら、なんで急に態度を変えたんだ? 流石に、たまとジゲンもどうしたらいいのかわからないって感じだったぞ?」


 俺の前で三人は困ったような顔をして、何か相談し始める。その後、何らかの結論が出たのか、俺の方に向き直った。


「ふむ……ムソウ殿になら話しても良いか……」


 と言って、クサツは口を開き、語り始めた。


 噴滅龍の影響でこの街の財政が厳しくなったのは事実らしい。この街の主な財源は観光に来た人々だからな。それが居なくなると途端に厳しくなる。

 さらに、騎士団がここにはいない以上、魔物たちからの防御策などは全て、街の懐、つまり自警団の財布でまかわなければならない。

 さらには宿の運営も同時に行わなければいけない。噴滅龍が討伐された後はまた、ここに人は来るわけだからな。


 だが、それだと金は減る一方だ。一応は、宿の売り上げや身かじめ料などでそれをまかなうことが出来るが、それにも限界がある。


 そうすると、身かじめ料を払わないたまの宿は、ただただ金を浪費するだけのものとなってしまい、町全体で考えると損しか生まない邪魔なものとなる。

 そこで、自警団はたまの宿の取りつぶしを決定した。それと同時にこの街のいくつかの宿屋を統合させ、新たに大きな宿を創ることにする。

 昨夜もジゲンが言っていたように、減ってしまった客を取り戻すためには何か目玉のようなものが無いと駄目だと、判断したという。

 それで、その建設には今あるたまの宿屋を壊さなくてはならない。だから、取り立てついでに立ち退きをしてもらうように、昨夜のように、怒鳴りこんだりしているという。


 ……だが、頭ではそれが街の為には良いということはわかっていてもそれを行うのは忍びないという自警団。どういうことだ、と聞くと、ノボリたちが口を開く。


「俺達、たまちゃんの親に昔すごく世話になってな。ことあるごとに良くしてくれたもんだ」

「ああ。出来の悪い俺達にも学問を教えてくれたり、風呂に入らせてくれたり……確か、団長もそうでしたよね?」


 クツマの言葉に、クサツも頷く。


「ん? ああ。あの二人には私もずいぶん世話になったものだな……この自警団をまとめ上げることが出来たのもあのお二人のお陰だ……」


 三人は懐かしそうに俺にたまの両親について語り出す。


 なんでも、たまの両親というのは非常に優しい人たちだったらしく、宿を切り盛りしながら、この街に居た、みなしご達の世話もしていたという。

 食事を与え、最低限の知識を与え、風呂に入らせて、体を綺麗にしてもらっていたとか。それで、この街の自警団はそんな二人に育てられた者達が中心となって構成されたという。

 つまりは、二人にもっと安心して暮らして欲しいという願いから生まれたのが、この「湯の花一家」らしい。


「たまが生まれた時は本当に私達も嬉しくてな……これからはこの娘のためにも頑張っていかないとって私もずいぶん張り切ったものだよ……」

「ああ。俺達にとって、たまは妹みたいなものだからな。大きくなってからも一緒に遊んだし、あの子の親が死んだ後も、面倒見てやったりしていた。

 ……時々、菓子とか上げるとニコ~って笑うのが、俺は好きだったな」

「俺はたまが、一人で作ったの! って言って、お菓子をくれたことがあったなあ。

 あの時のお菓子、砂糖と塩を間違えていて、美味しくは無かったが、たまの笑顔で満腹になったよ……」


 自警団の奴らはたまについて嬉しそうに話している。

 ふむ……昨日たまが言っていたことも本当らしい。世話になった親御さんへの恩返しからか、自警団の奴らもたまを放って置くわけにもいかなかったみたいだな。


 となれば、なおさらこいつらの今の態度が気になるな。


「……で、そんなアンタらが、なんで今はたまを街から追い出すようなことをしてんだ?」


 すると、三人は俯き、黙り込む。……そう分かりやすく落ち込むなって。何て声をかければ良いかわからないじゃねえか。

 などと、思っていると、自警団の奴らは口を開く。


「私達もどうすればいいのか、あれこれと考えては居たのだ。あそこは私達の思い出の場所であり、たまがご両親と過ごした家でもあるからな。

 できれば私達もずっとあの場所に居て欲しいとは思うが、やはり町全体のことを考えるとそうもいかない」

「そこで、俺達はたまの方から街を出て行くようにしていこうとしたんだ。そうすれば踏ん切りがつくからな」

「だから、たまにとっての悪者になれば、あの子も流石に出て行くんじゃないかと考えて、それからは身かじめの取り立てをするようになった、というわけだ」


 三人の言葉を聞き、俺は宙を見上げ、納得すると同時に少し呆れた。

 あぁ……そういうことだったか……なるほど、確かにその方法なら、無理くり追い出すよりはたまにとっても、自警団の奴らへの恨みというものがだいぶ減るな。

 街の現状をたまも理解しているわけだし。たまの方からこの街を出て行くという結果となれば、こいつらにそこまでの傷は残らない。


 ……あくまで、そこまでの、な。多分、どういう方法をとったとしても、たまをこの街から追い出すという結果になるわけだから、傷は残るぞ。何というか、こいつら……


「……不器用だな、アンタら」

「そう言われると、返す言葉もない……」


 三人はガクッと項垂れた。俺はこいつらのやり方以外の方法を思いつく限り提示してみる。


「その……新しい旅館に奉公するという形ではダメなのか?」

「ああ、それについては宿の組合の者達に聞いてみた。結果は皆、否定的だ。ただでさえ客が減って収入が少ないのにこれ以上人員を増やされても困る、と。

 そして、その新しい旅館に人が来るという保証もないまま、たまを働かせるというのは難しいらしい」

「え、あれだけ、気立てが良くてもか? たまの飾り料理は見事なものだったぞ」

「ムソウ殿、アレを食べたのか……羨ましい……」


 羨望の眼差しで俺を見てくる、ノボリとクツマ。俺は思わずため息をつく。


「質問に答えてくれ……」

「あ、すまない。正直なところ、あれくらいのことをやれる料理人はこの街には結構いる。温泉街だからな、ここは。

 各宿も人を集めるのに当たり前のようにそういうことはやっている」


 え……それは凄いな……。たまと同じくらいの味を出せる店があちこちにあるのか、この街は。ことが片付いたら、リンネとも来てみたい場所だ。急ぎでなかったら、また、飯屋巡りをしてみたい。

 ……っと、話が逸れてしまった。……なるほど。そういうことなら、無理してたまを奉公させる所など無いか……。


「この、自警団の屋敷に奉公させるというのは?」

「それは一番最初に考えた。だが、たまの両親の元で育った者達がそれに反対した。

「どこの馬の骨とも知らねえ奴らも増えたこの男だらけの場所であんな、可愛い女の子を働かせてたまるか!」とな」

「ああ、なるほど……」


 現在、湯の花一家にはクサツを始めとして、たまの両親の世話になった、いわゆる古参の団員がそこまで居るわけではないという。ほとんどが、街の外から流れ着いた者達で構成されているらしく、どんな人間なのか分からない者が多いという。

 その中に、幼い少女を加えるということには多少なりとも、というか、かなりの不安があるらしい。


 その後も、思いつく限りのことを言ってみたが、どれもすでに考えていたことらしく全て否定された。

 なるほど、コイツらも馬鹿じゃないってことだな。それで、苦肉の策で今の、「嫌われよう作戦」か。何となく、コイツらの気持ちが分かった。


 俺達はその後も、たまにとって一番いい結果になるにはどうすればいいのか、考えていく。

 さて、今の状況で最もいい結論になるには、この街の財政にも影響せず、たまと自警団が何のしこりも無いようにし、更にはたまが安全に生活できるようにする、ということが大前提となる。そんな方法あるのか、と俺も悩む。


 ……しばらく、考え続け、ふと確認したいことがあるので、聞いてみた。


「……なあ、たまはあの旅館についてどう思っているんだ? 何にせよ、あの旅館に対しての思い入れが強いと、どんな方法をとっても駄目だと思うぞ?」


 たまは、客が来なくてもあの旅館を綺麗にしているみたいだ。パッと見た感じで、それは分かる。旅館を大切にしたいというたまの気持ちはひしひしと伝わってくる。

 ……と、思っていたが、三人からは意外な言葉が出てきた。


「ああ、そのことか。正直、たまはあの旅館をやっていく、ということに関しては何とも思っていないと思うぞ」

「……は?」

「親が死んだときに聞いてみたんだ。お父さんとお母さんが亡くなってもあの旅館を続けていくのか?って。

 そしたら、「おじちゃんたちにお金を払わないといけないなら仕方ないよ」って答えたくらいだからな。旅館の運営はあくまで俺達に金を払うための手段にしか考えていないらしい」

「え、でも、俺が泊まる部屋はきれいだったぞ。大切にしている証拠じゃないのか?」

「あの子は真面目で頑張り屋さんだからな。いつでも客が喜ぶように最善のことをしているんだろう。

 以前一人で掃除しているのを見て、辛くないかと聞くと、「私にはこれしかできないから仕方ないよ」と言っていた。

 あれだけ料理も美味くて、家事全般得意なのにもったいないなとは思ったが、たまは「仕方ないから」と繰り返すばかりだったな」

「だが……家族で過ごした家ってことで思い入れは?」

「ああ、それも無いと思うぞ。何せたまの親御さんが死んだのは、たまがまだ三歳の時だ。その時の生活はほとんど覚えていないと思うぞ?」

「ちょっと待て!たまはその頃から宿を一人で切り盛りしているというのか!?」

「いや、最初は街の者達や、自警団の者達も加わってたまの手伝いをしていたんだ。

 そして、たまが五歳くらいになった時にジゲンの爺さんがこの街にやってきて、それからは二人で何とかやっていたな」


 ……え~っと……たまが言うにはジゲンがこの街に来たのは三年くらい前ということだったから、たまは今、八歳から九歳ってとこか。


 ……気立て良すぎだろ! どれだけ頑張ってんだよ、アイツ。


 更には周りの者達への配慮も凄いものだ。自警団に金を払わないといけないなら「仕方ない」って、どれだけの人間に気を遣っていることやら……。しかも、それを三歳の頃からだ。

 三歳の頃……? 俺が闘鬼神に入った頃と同じくらいだ。とてもじゃないが、俺と比べるまでも無く、たまの凄さが伝わってくる……。


「……アンタら、そんなたまにあの仕打ちって……」


 どうにかしてやれよ! と思わず、怒鳴りたくなってくる。俺の気迫が伝わったのか、鬼迫が漏れたのか、三人は少し、顔色を悪くした。


「私達も悩み抜いた末の結果なんだがな……正直、取り立てに行くたびに胃がキリキリと痛む……」

「……俺は頭だ」

「……俺は胸だ」


 俺達は、少しため息をつき、項垂れる。実際、昨夜宿に来た時も、去った後もすごく申し訳ないことをしたと三人で慰め合ったという。

 苦労してんだな、とは思うが、そういう苦労はするな、と言いたくなる。


 ……だが、これでたまはあの旅館に特に思い入れが無いということは分かった。どうりで、どこの宿屋も湯は一緒と堂々と俺の前で言えたもんだと笑ってしまう。

 でも、それならばと思い、俺はあることを提示することに決めた。


「……なあ、一つだけ思いつく案があるんだが、聞いてくれるか?」

「む? 本当か、ムソウ殿。是非頼む!」


 自警団の奴らは顔を上げ、俺を見てきた。……そんな、輝かしい表情をしないでくれ。俺まで胃が痛くなる。最後に決めるのはたま自身だ、と念を押したうえで、三人に口を開く。


「……今、俺は、トウショウの里に家を借りているんだが、とにかく広い。

 そして、どこもかしこもボロボロだ。俺は冒険者で家に居ないことが多くなる。

 そこで留守を任せられる者、ついでに家の掃除をしてくれる者を探していたんだが……どうだ?」


 自警団の三人は俺の言葉を聞き、目を見開き、顔を見合わせて、ひそひそと話し始めた。正直、我ながらいい考えだとは思う。

 あの屋敷は一人で片付けをするのは骨が折れる。ましてや外出することが多い中で、やるのは時間が掛かるし、面倒だ。

 ちょうど、たまのように掃除や料理の得意な奴を探していたからな。まあ、もっと人数が要るとは思うが、それはまた後で考えておこう。


 さて、しばらくすると、相談を終えた三人がこちらを向いてきた。


「ムソウ殿……その話はありがたいのだが、何点か聞きたいことがあるが、良いか?」

「ああ、構わねえ。何でも聞いてくれ」

「まず、たまが住む場所の治安だ。トウショウの里の治安は、領主様のお陰でだいぶ改善したとは聞くが、たまのような娘が住んでも大丈夫なところなのか?」


 やはり、気になるか。確かに上街、花街はたまが住むのには辛いかも知れない。何が起こるか分からないからな。しかし、俺の家があるのは下街だ。


「トウショウの里が今、三つの地域に分けられてるのは知ってるか?」

「ああ、それは聞いたことがある。貴族が住み、ギルド、工房がある上街、妓楼が並ぶ花街、古くからのクレナ領民が住む下街だったかな?」

「その通りだ。その中でたまが住むのは下街だ。あそこはジロウが設立した自警団が管理している。治安については問題ないだろう」

「なんと……ジロウ殿のか……それならば、安心か……」


 ジロウの名前はここでも有効みたいだ。よほどの人物だったということがうかがい知れる。まあ、今はそいつの意思を受け継いだシロウが管理しているが、上街、花街に比べても下街ならたまでも大丈夫だろう。というか、普通に子供も生活しているようだった。

 治安に関しては、こことそんなに変わらないと、クサツも納得したみたいだ。

 一応、念を押しとこう。


「万が一何か起こりそうなら、俺が全責任を以ってたまを護る。心配すんな」

「うむ……それならば、なおさら安心だな……では次の質問だ。たまの人生のどこまでが保証されるのかについてだ。……正直、私達の不安の中でそれが一番占めている」


 ああ、予想していた質問だ。たまを娘のように扱っているこいつらにとってはやはりそれは気になるか。ここまで来たら、そこまで気にするなら、お前らが面倒見ろとは言わない。

 振り出しに戻ってしまう……。


「それについては、ジゲンにもついてきてもらう。アイツは今の所、たまが信頼を大きく寄せる人間のようだからな。この先、たまが自立するためにも必要な男だと思っている。

 俺の方も冒険者として暮らす傍ら、たまが一人立ち出来るまでは面倒を見ようと思う。……もちろんそれなりに金は与えていくつもりだ。そもそも奉公してもらうわけだから当たり前だがな……」


 たまを俺の家で働かせる、ということは、そのまま俺がたまの面倒を見るということになる。このことを思いついた時からそれは考えていた。


 正直なところ、俺はこの世界での目的というものは、考えていない。前の世界のように、統一後の大陸各地で起こる紛争などを完全に治めることも、こちらに来てからは無くなったわけだしな。

 生きる理由がない、というのとは少し違うが、この世界で何かを成したいという気持ちはほとんどない。十二星天の奴らと違って、ここに来た理由がほとんど分からず、目的もない以上、いっそ一人の小娘の面倒を見ることも良いかなと思っている。


 ……まあ、あくまでたまが自立するまで。そして、ジロウが突然帰ってきて、家を返せと言ってくるまでってことにはなるがな。

 その時はその時で、また考えよう……。


「……さて、こんな感じだったら、お前たちは納得いくか?」


 俺が話を終えると、三人は少し、時間を置き、頷いた。


「……ああ、たまの今後を考えるとそちらの方が良いか……少し寂しくなるが……」

「それは前々から思っていたことでしょう? もう踏ん切りはついてます。それにムソウ殿の所なら俺達も安心ですし……」

「だな……」


 どうやら、クサツ達は俺の提案に納得してくれたみたいだ。少し寂しそうな顔をしているが、こればかりは仕方ないことだ。

 ただ、時々で良いからたまをこの街に連れてきてくれ、という長の男の言葉に俺は頷く。


 その後、四人で色々と話し合った。とりあえず、たまとジゲンの了解が得られたら、俺と共にトウショウの里へ行く。

 俺の予定だと、明日は残りの依頼のうち、大鎌カマキリとムカデカラスの殲滅を行う。さらに明後日の夜に死骸軍の殲滅という依頼もあるので、出発は少なくとも四日後ということになる。


「問題ないか? もう少し伸ばしても良いのだが……」

「ああ、大丈夫だ。それだけあれば、たまも荷造りが出来るだろう」


 ……いや、たまの方じゃなくて、お前らは大丈夫なのか? という意味合いで聞いてみたんだが……まあ、気にするまい。


 そして、移動は馬車ということになる。それは自警団で用意してくれるという話だったので問題ない。どれだけ荷物があるのかは分からないが、子供と老人を連れて魔物が居る中、トウショウの里を目指すというのはしんどいからな。

 俺は遠慮なく馬車を頂くことにした。


 その後、たまに了解を得るために、今晩、もう一度、宿屋に来てもらうように自警団に頼んだ。

 昨日の今日で気まずいかも知れんが、疑いを晴らすことと、自警団に対して嫌な気持をさせたまま、たまがこの街を去るのは問題だと思ったので、嫌でも来いと伝えておく。

 しかし、クサツは、それでも悩んでいるようだ。


「……行かないと、駄目か?」

「アンタらだってこのままだと駄目だってわかってんだろ? それに娘の旅立ちくらい笑顔で見送るためにも必要だ。

 一応、この後帰ってたまには色々説明しておくからそこは心配すんな」


 そう言って、クサツの肩を持つと、わかったと頷いた。


 そして、話しを終わらせ、俺は自警団の屋敷を後にしようとした。だが、ふと思い出したことがあり、尋ねてみる。


「そういや……ジゲンってのは何者なんだ? 元々はこの街の人間じゃないってことは聞いていたが……」


 ジゲンのことについては謎だらけだ。たまの両親の世話になったと言って、宿の手伝いを時々する経緯がいまいちよく分からない。

 そして、昨晩の料理といい金は持っているみたいだが、この時間は何をしているのかよくわからない。

 ただ、その金でみかじめ料くらい何とかなるんじゃないかと、俺が疑問に思っていると、三人は口を開く。


「ああ、ジゲンさんのことについては私達もよく知らない。

 三年ほど前にふらっとこの街に来て、昔の恩を返したいと言って、たまの手伝いを始めたのが最初だな」

「それまでは?」

「そこは俺達も分からねえ。ジゲンさんに聞いても、「色々やってました」と、はぐらかされ続けられてるからなあ。まあ、傭兵をやっていたってのは聞いたが……」

「ああ、それは俺も聞いたな……で、今は何してんだろうか。金はあるみたいだが……」

「この時間だと……街で野菜でも売ってんじゃないか? 街の隅の畑で出来た野菜を採っては街で売って、宿の運営費や、たまと自分の生活費に充てているからな」


 なるほど……そういうわけか。それで昨日の晩飯にあんな肉を用意できたんだな。だが、それだけでは、みかじめ料はきついというわけか。

 一つ疑問が解けた。で、この街に来た理由も、最初は傭兵稼業で怪我でもしたんだろう。本人も湯治だって言っていたからな。それで、その時にたまの両親と仲良くなり、死んだ後は世話になった恩返しとして、たまの面倒を見ているというわけだろうな。


 ならば、たまが俺についてくることに際して、ジゲンも連れて行くことに関しては苦労し無さそうだ。ひとまず、ジゲンに話を付けようと思い、ジゲンがどこで野菜を売っているか、クサツ達に聞いて、俺は屋敷を後にした。


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