表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
122/534

第121話―天宝館に向かう―

 さて、ギルドを離れた後は、下街に行く前に先ほど話に出ていた、天宝館に寄ろうと思っている。まだ日は高いからな。

 この際に行ってみようと思った。ギルドを離れ、貴族たちが住む場所を横目に見ながら、俺は工房が立ち並ぶ区画へと入っていった。


 来るときにも感じた視線は今も感じる。店先で作業をしていた職人などは手を止めて俺の無間をジーっと見ている。最初は誇らしげな気持ちではいたが、段々と嫌になってきた。

 そこで、こちらを見てくる職人たちを睨むと、そいつらは、パッと下を向き、作業を再開させている。

 だが、安心していても後方からの視線が止むことはなかった。俺は流石に我慢しきれず、無間を抜き、異界の袋に入れようとした。すると、あちらこちらから、


「あぁっ!」


 という声が聞こえてくる。俺は一つため息をつき、職人たちに向かって口を開いた。


「アンタら、ジロジロ見てくんじゃねえ! 仕事してろ!」


 そう言うと、近くに居た刀鍛冶が前に出てくる。そいつは何か、おどおどした感じで俺に寄ってきて、無間を指差す。


「そうは言ってもよ、気になるって、アンタのその刀。何と言うか、凄いという言葉じゃ片づけられないくらいの代物だ」


 男の言葉に周りの者達は頷いている。ちょっと触らしてくれよ、とそいつが手を伸ばしてくるので俺は無間を向けた。


「いいぜ、好きなだけ見ろよ、触れよ。怪我しても知らねえからよ……」


 ドスを利かせた声でそう言うと、男は手を引っ込め、周りの職人たちは視線を逸らした。


「わ、分かった。もうジロジロ見ねえからよ!」

「……ったく。アンタら腕利きの職人が気になるってことは嬉しい誇らしいが、あんまり見られるのは好かん。

 それに、正直俺もこの刀についてはよくわからねえんだ。教えられることは無えよ。で、今はそれを調べるために天宝館ってところに向かっている。場所知ってっか?」


 俺がそう聞くと、職人は道の先にある大きな建物を指差して教えてくれた。俺は礼に、と思い、無間を男に触れさせる。

 男は驚いて恐る恐る俺の顔色を窺ったが、さっきのことはもういい、と言うと、片眼鏡をかけて、無間をじっくりと見始めた。

 ついでに近くにいた奴らも集め、調べさせる。鑑定スキルを持つ者は、この刀が神刀であることを知った途端、目を大きく開いて、じっくりと見だした。


「……すげえ、こんな刀見たことがねえ」

「ああ……伝わってくるものはやはりそこらの刀とは一線を画している」

「うむ……じゃが、よくわからんのう。清いような、邪なような……不思議な感覚になるのお……」

「素材は……鋼は間違いねえんだが……それだけか? それにしては……なあ……」


 などと口々に無間について語っているが、最終的な結論はよくわからない、ってことだった。俺はため息をつき、無間を背負うと、職人たちは申し訳ないような表情で見てくる。


「すまねえな。大事な刀を見させて貰ったのに、何もわからねえで……クレナの職人失格だな……」

「いや、そんなことはない。アンタらのような者達でも、よくわからない刀、ということが分かった。それだけで充分だ」

「そう言ってもらえると、助かる」

「それに、アンタ、さっきこの刀を俺にとっての大事な刀と言ったろ?

 その通り、こいつは俺の宝だ。それを見抜くアンタたちは大したものだと思うぜ」


 俺がそう言うと、職人たちは表情を明るくして、俺の言葉に頷いた。

 そして、職人たちと別れて、俺は天宝館に向けて歩き出した。ちなみに、無間はやはり異界の袋に仕舞っておいた。こんなことが何度も続くと、見えてはいるが、いつあそこに着くのかわからなくなるからな……。


 さて、天宝館は長い塀がぐるっと囲んでいる大きな屋敷だった。塀の中では幾つもの建物があり、何戸かの建物からは煙突が伸び、煙を出している。

 とりあえずどこに行けばいいのかわからなかったので、正面の一際大きな建物の中に入った。中に入ると、ギルドのような受付の台がいくつもあり、武具屋や、着物屋、更には家具などの雑貨を売っている場所もある。

 ああ、そう言えばツバキが来たがっていたということを今思い出した。まあ、今度連れて来ようと思い、取りあえず、案内所と書かれた看板が掲げられた、窓口へと進んでいく。

 そして、そこに立っていた女に声をかけた。


「なあ、少し聞きてえことがあるんだが……」

「あ、はい。何でしょうか」

「刀を見てもらいたいんだが、どこに行けばいい?」


 そう言うと、女はジロジロと俺を見てくる。俺は懐から身分証明として、冒険者の腕輪を出した。すると、女は、なるほど、という顔をして頷く。


「はい、メンテナンスですね? でしたらそこの受付に行ってみてください」


 めんてんなんす? よくわからんが武具のことならそこで聞いてくださいということらしいので、俺は女の差した方の受付に歩いていった。

 そして、そこに居た別の女に声をかける。


「なあ、刀を見てもらいたいんだが」

「はい。えっと……初めての方でしょうか?」

「え……ああ。そうだが?」

「でしたら、紹介状などはお持ちでしょうか?」


 紹介状? 要るのか、そんなの。女によると、以前の天宝館には人界各地から多くの名だたる強者たちからひっきりなしに武具の手入れや調整などが届いていたため、作業が手一杯になっていったという。

 そこで、そう言った者達を減らす兼クレナの各工房たちにその仕事を譲るために、天宝館の依頼は一見の者は断って、それまで世話になっていた名のある強者や、領主、ギルド支部長、騎士団の師団長を除く一般の者達はそいつらの紹介状が無いと、仕事を頼めないらしい。


 困ったな。ギルドへ戻ってアヤメに頼むか、とも思ったが、もう今日は時間が無い。あっという間に日が暮れてしまいそうだ。……というか、アヤメ、俺に天宝館を勧めるならその時点で言ってくれよ。


 さて、どうしたものかと、困っていると後方から大きな声が聞こえて来た。


「あーーーーー! その外套っ!」


 俺と、受付の女はビクッとして、声のする方を見てみる。周囲に居た者達も何ごとかと、声のした方を見ていた。

 そして、そこを見ると、褐色ですらっとした髪の長い女が、俺のことを指差している。女は大きな金づちを片手に俺の方にずんずんと近づき、俺の外套を手に持ち、興奮している。


「すげえっ! これ、何の素材だ!? すごく綺麗で柔らかいのに強度は凄まじいようだ。これは何の素材で出来てんだ!?」


 女は目を輝かせて、俺に顔を向けた。俺は何が起きているのかわからないまま、女の質問に答える。


「べ、ベヒモスの鬣だ……」

「ベヒモス~~~!? しかも鬣かよ!? へえ、あの鬣ってこういう風にも使えるのかあ。刺繍もすげえ細かくてきれいだし……

 あ、この小手は?」

「何だっけか……ああ、ベヒモスの牙と、オウガの皮だったな」

「ベヒモスの牙!? え、牙って普通は武具に使われるのに、防具に使っているのか!?どういうことだ!?」

「ああ、これを作った奴によると、ベヒモスの牙は強靭でなおかつデカいから防御に使っても良いんじゃないかって思ったらしい。ちなみに鎧もそうだな」

「あ、ホントだ! もう一つは……ワイバーン? いや、もっと強力な……」

「ヒュドラだ」

「そうか! ヒュドラか! なるほど、確かに硬い牙ならむしろこうやって防具にしてしまう方が良いかも知れないな! へえ~! あ、じゃあ、これは!? ……」


 という風に、女から俺の装備について色々聞かれるたびに俺もいろいろと答えていく。

 そして、一通り説明し終わった後、女はふう~と言って汗を拭い、俺の顔を見てきた。


「いやあ~、いいモン見させて貰ったぜ。ありがとな!」

「いや、満足してくれたなら、こちらもこの装備をしているだけ嬉しい。ありがとう」


 そう言うと、女はニカッと笑った。女の後ろから、ため息交じりの言葉が聞こえて来た。


「全く、ヴァルナさん。いつもの悪い癖ですか?」


 声のする方を見ると、眼鏡をかけて、腰には色々な用具をぶら下げた少年が立っていた。十四、五だろうか。まだ、幼さが残っているが、手元をよく見ると、至る所にまめができている。こいつも職人か、と思っていると、そばに居た受付の女が騒ぎ出す。


「か、館長! お、お疲れ様です! ど、どうしてこのような場所に?」


 女はあたふたとしながらそう言っている。え、館長? この少年がか。すげえ、意外だな。そう思っていると、少年が眼鏡を外しながら口を開く。


「こらこら、僕が創った天宝館の入り口をこのようなところというのは少し……」

「ハッ……も、申し訳ありません!」

「ハハッ! 冗談ですよ。そんなに怯えないでくださいって。

 何のことは無いですよ。防具の工房から服飾の工房へ移動していたら、ヴァルナさんの声が聞こえたものですからね。様子を見に来たというわけです」


 少年は女の失言をさらっと許すと、笑ってそう言った。

 幼い癖に器はデカいな。こりゃいい大人になるぞ、と俺は頷く。すると、少年にヴァルナと呼ばれた女は俺の外套を手に取って少年に見せている。


「いや、だってよ、館長! 見てみろってこの外套! すげえいい仕事していると思わねえか!? 武具専門の私が見てもこの服飾品はうちのもんが作ったものに負けてねえと思うぞ?」


 ヴァルナは興奮気味に俺の外套を少年の方に引っ張る。……首が締まって痛い。

 すると、少年はどれどれと俺に近づき、ジッと外套、それから鎧、小手、着物を見渡した。


「確かに……これはすごいですね。素材の能力を最大限に引き出している造りです。

 そして、刺繍も素材の力を最大限引き出すものが使われていますね……。

 手甲の方は……ここのオウガの皮は……なるほど、滑り止めの様ですが、気功スキルを循環に行うようになっているのですか……待てよ……ということは……」


 などと、少年は俺の装備を見ながらぶつぶつと何か呟きだした。すると、しばらくして、にやにやしながらヴァルナが少年の肩を指でつつく。

 少年はパッとヴァルナの方を向き、俺の顔を見た。


「あ……すみません。良いものを見ると、僕も興奮する性分でして……」


 少年は俺の顔を見て頭を下げる。どうやらヴァルナと同じような人間らしい。

 まあ、装備を事細かく褒められるということはなかなかされないので、俺は嬉しかったから、気にしていない。俺は少年の肩を持ち、


「気にすんな」


 と、一言だけ言っておいた。そして、少年は俺の言葉に頷き、口を開く。


「ところで、貴方はどうしてこちらに? 見たところ、こちらの装備はどれも未だ使えるもののように思いますが」

「ああ、少し見てもらいたいものがあるんだが、紹介状とかって持ってなくてな。どうしようかと思って……」

「あ、そういうことでしたか……。でしたらここで会った縁ということで、今回だけおまけしておきましょうか?」


 少年の言葉に少し悩む。確かにそれはいい方法だと思うが、流石にそれはどうかと。通常はどうにかしていろんな奴の信頼を経て紹介状を手にしてようやく、ここに来ることが出来るのだ。

 俺だけそう言うのもどうかな。まあ、少し待てば、アヤメ当たりから紹介状を貰えればいいわけだから、俺は少年の言葉に首を横に振った。


「いや、当てはあるからよ。他の皆にも悪いし、また出直すよ」


 そう言うと、少年はガクッと項垂れた。


「そう、ですか。お役に立てず申し訳ありません」

「気にすんな」


 俺はそう言って、建物の外に向かおうとするが、ガシッとヴァルナに肩を組まれた。


「ところでよ~、おっさん。その装備って誰が作ったんだ?」


 ヴァルナはニコニコ顔で聞いてくる。まあ、天宝館の奴らにこれを作った者のことを言っても何も無いだろうし、俺はヴァルナの質問に答えた。


「ん? ああ。ギルドマシロ支部の、ドワーフのギリアンって奴だ。アイツには世話になったな……」


 そう言うと、ヴァルナと少年は目を見開く。そして、俺をジーっと見てきた。その瞬間、ヴァルナは俺の襟元を掴んだ。


「い、今、何て言った!? 誰がこれを作ったって?」

「何だ、突然。マシロのギリアンって奴だよ。俺はマシロで冒険者の登録をしてここまで来たんだからな」


 ヴァルナは唖然とし、俺の襟から手を放した。そして、再度俺の着物を舐めるように見てくる。何だ、こいつ、と思っているとヴァルナは震え出し、何故か目に涙を浮かべて、


「ギ~リ~ア~ン~!!!」


 と、叫びながら突然俺に抱き着いてきた。いや、俺に、というよりはギリアンの作った外套にだ。ヴァルナは興奮しながら俺の外套にほおずりしている。


「辞めろ! 気持ち悪ぃ! 急になんだ!?」


 俺はヴァルナを引き剥がした。ヴァルナは、ああ! と言って、また近寄ろうとする。それを少年が前に出て止めた。


「はあ、やれやれ。ギリアンさんのものだと暴走してしまうその癖だけは直した方が良いですよ、ヴァルナさん」

「だ、だってよ! ギリアンの作品だぜ! しっかりと感じとかないと逆に駄目だろ!」


 そう言いながら少年を避けて俺に向かって来るヴァルナに、仕方ない、と思いながら、殺気を向ける。


 ―死神の鬼迫―


 ヴァルナはビクッと動きが止まり、怯えだした。俺は死神の鬼迫を解き、ヴァルナに近づく。


「……落ち着いたか?」

「あ、ああ。落ち着いたというよりも……まあ……すまない」

「ったく……それよりも何個か聞きたいことがあるから聞いて良いか?」


 そう言うと、ヴァルナは頷く。


「まず、アンタとそこの少年とギリアンの関係は?」


 取りあえず、ヴァルナと少年は、ギリアンの関係者らしいということは分かっている。ひとまずそれを確認しておこうと思った。ヴァルナは、気を落ち着かせながら、ゆっくりと語り出す。


「私とギリアンは古くからの仲間みたいなもので、昔から自分の腕を磨くために方々を旅していたんだ。

 そこで、会ったのが館長だ。私達は館長の多芸にして、最高峰の腕を持つ姿に感動してな、すぐさま師事した」

「そうですね。いきなりすごい年上のドワーフとエルフに弟子にしてくれって言われて驚きましたよ。

 そして、その後に人に僕の技術を教えると、ヴァルナさんもギリアンさんもめきめきと腕を上げていきましたね」

「ああ。元々そういうのは得意だったからな。だが、私とギリアンの決定的な違いは、アイツは館長の技術と自分の技術、経験を組み合わせることが出来たことだ。

 私はただ、教えられたことが出来るようになったってだけだったのに、奴はその先にまで登っていった」

「そして、ギリアンさんは僕の元を離れていきました。理由としては僕からはもう何も教えることはないということと、すでに僕の腕を越えていたことですかね。凄い弟子をとったものだと、その時初めて思い知らされましたよ」


 少年とヴァルナは懐かしそうに昔を語っている。何個か、ん? と思うことがあるが、まあ、今はいい。ギリアンとこいつらの関係は分かった。

 話を聞くたび、まあ実感はしていたことだったが、ギリアンって凄い奴だったんだなと改めて実感することが出来た。

 そして、そんな奴と長年一緒に居たわけだから、俺の装備に首ったけになったヴァルナの気持ちも何となくわかる。ギリアンが少年の元を去った時は寂しかったんだろうなあ……。


 と、ふとここで思い出したことがあった。俺は異界の袋からあるものを取り出す。ああ、そう言えばこれを受け取った時、アイツは紹介状って言っていたような……。確認のためにヴァルナにそれを渡す。


「なあ、ヴァルナって言ったか? マシロを旅立つときにギリアンからそれを貰ったんだが、お前宛か? アイツは俺のダチだからよろしくなって言っていたが……」


 俺の言葉に、ヴァルナはギリアンから貰った紹介状を俺から奪い取るように掴み、少年と一緒に眺め出した。


 しばらくすると、ぽたぽたと涙を流し始める。


「ああ……そうだ……この字……ギリアンのものだ……間違いねえよ……あいつ……マシロでもうまく……やってるみたいだな」

「ああ、先ほども言ったように俺はずいぶん世話になった。あと、ギリアンが作ったこの装備や俺の刀は他のわけわからねえ奴に触らせたくないって言って、それを俺によこしたんだ」

「そうか……そうか……アイツ……私のこと……」


 ヴァルナはそう呟きながら大事そうにその手紙を抱えた。すると、横で静かにその手紙を見ていた少年はフッと笑い、ヴァルナの肩を持って、俺を見た。


「え~と、こちらは間違いなく紹介状ということになりますので、こちらで貴方の……ムソウさんの刀である無間を調べたり、ギルドの査定などを専属で行うことは可能になりました」


 少年は俺にそう言った。ふむ……あの時サラッとギリアンが渡してきたものが思わぬところで役に立つとは思わなかったな。

 だが、まあこれで俺も何の気兼ねなく無間を調べてもらえるし、これからの依頼でも査定や、装備の調整なども出来るみたいで、安心した。

 もちろんそれをやるのはヴァルナとこの少年に任せる。ギリアンが信頼し、ギリアンを信頼している者だ。ならば、俺もこいつを信じようと思った。

 さきほど武具専門とか言っていたから無間の件も任せよう。

 少年に関しては、ここの館長らしいからな。まあ、少し不審な点はあるが、任せても良いだろう。ギリアンの師っていうくらいだからな。


 俺がそう言うと、ヴァルナは強く頷いた。


「任せてくれ、ムソウ。私もあいつに負けないような素晴らしいものを作っていこうじゃないか!」

「ああ。足りない素材があったら言ってくれ。何でもとりに行くからよ」


 俺達はそう言葉を交わして、がっちりと握手をした。やれやれ、色々とあったが、この件に関してはもう終わりだ。

 俺は本題の無間についての話をする前に、先ほどの少年の言葉にふと思ったことがあったので、聞いてみた。


「なあ、少年」

「はい、なんでしょう?」

「何で俺の名前、知ってんだ? 俺はまだ一言もお前に自己紹介をしていないぞ?」


 俺がそう言うと、少年はヴァルナの持っている紹介状を指差した。


「こちらに書いてありましたので……」

「ほう、なるほど……では、もう一つ良いか?」

「なんでしょう?」

「俺の持つ刀が無間という名であるというのは何故分かったんだ? その手紙にも書いてないぞ?」


 少年は目を見開き、ヴァルナの手紙を再度読んだ。そして、あ、と小さく言って、ガクッと項垂れた。


「はあ……ムソウさんは僕たちのような者達と会うのは出来るだけ避けたいと仰っていたと聞いたので、嫌われているのかと思い、黙っていようと思っていたのですが……やはり、ムソウさんには敵わないですね。あの子の言ったとおりです」


 などと、わけのわからないことを呟いている。質問したのは俺だが、答えが返ってくると疑問が浮かぶ。何言ってんだ、と思い、口を開く。


「お前……誰なんだ?」


 そう言うと、少年は諦めたという顔になり、手を掲げる。すると、そこから青く燃える炎の球が浮かんだ。凄まじい熱気が伝わってくる。魔法によるものではないみたいだ。魔力の流れが見えねえ……。俺が呆気に取られていると少年は口を開く。


「僕は……人々から“鍛冶神”と呼ばれている十二星天の一人、コモン・ロンドと申します。EXスキルは焼き尽くすものと言いまして、このようにミサキさんでも作れない高温度の炎を作り出し、操ることが出来る、というものです。以後、よろしくお願いします」


 少年はフッと炎を消した後、俺に深々と礼をする。俺はなおも、呆気にとられ、何も言えず、ただただ自らを十二星天だという目の前の少年を見ていた……。


 ◇◇◇


 しばらく呆気にとられ、頭の中が真っ白になったが、段々と落ち着いて、少年の言葉を反芻する。そして、俺は深呼吸し、少年の前に出る。


「え~っと……つまり、お前はミサキやサネマサと同じ十二星天の一人で、この天宝館の創設者であり、現役の館長ということだな?」

「はい、そうです」

「あ~……お前もミサキやサネマサと同じく俺に会いに来たということか?」

「いえ、それは違います。貴方がムソウさんだと知ったのは先ほどの手紙がきっかけです」


 ほう。そうなのか。これは一応確認したかったことだ。何せ今はもう過去のことと割り切り、許してはいるが、そう言って会いに来たミサキには魔龍をけしかけられるし、サネマサにはいきなり刀を振られるしで、十二星天が俺に興味を持ち、会いに来るというときは大概碌なことが無いからな。

 だが、コモンは違うと言った。俺に会えたのは偶々だと。


「じゃあ、何で無間のこと知ってんだ?」

「ああ、それは、ミサキさんに聞いたからですよ。もしもあなたに会うことがあったら「調べてあげてー!」って言われたものですから」


 ああ、なるほど。ミサキなら言いそうだ。そう言えばこいつも、十二星天の中でもミサキと仲のいい側の人間だったな。なら大丈夫か、と俺は胸を撫でおろす。


「……で、本当に偶然なんだよな?」


 俺は最後に一応、確認のためにそう聞いてみた。ミサキが誰に何を言ったのかわからないからな。するとコモンは、


「ええ、偶然ですよ。……さて、何から話したらよいのか……」


 と、言いながら、ここ最近のことについて語り出す。


 まず、ひと月ほど前、レインに居る時に、王城から召集の合図があったらしい。早速王城に行き、十二星天が重要な会議をするときだけ使われる、天上の間という部屋に行き、集まった他の十二星天と共に会議を行ったという。


 その後、ミサキ達と少しだけ談笑した後、ウィニアにある自宅兼王城専属の工房へと戻ったという。


「まあ、その時にミサキさんがムソウさんのことを皆に話していたんですけどね」

「何!? 誰にだ?」


 一応、聞いてみる。ミサキがこの間言っていた、セインやシンジ派の奴がいたら面倒そうなことになりそうだったからだ。俺が焦っていると、コモンは少し笑って、大丈夫です、と言った。


「セインさんやシンジさん達のことを話したってミサキさんから聞きました。その件でしたら恐らく大丈夫ですよ。ムソウさんのことを知っているのは、所謂、ミサキさんと仲の良い者達ですから」

「そうか。分かった」


 コモンの言葉に安心した。ミサキはちゃんと約束を守ってくれているようだ。さて、話を戻そう。


 その後はしばらく王都で仕事をしていたのだが、つい先日、急ぎの依頼が、ここ天宝館を通してコモンに届く。内容は領主アヤメの得物である、「花鳥風月」という刀の修復、調整、強化という話だった。

 依頼が天宝館を置く街の領主からということで、その時行っていた仕事は部下に引継ぎ、コモンは一週間ほど前にクレナに戻ったという。


 なるほど。確かに偶然だったようだ。それに確かにアヤメは自前の刀は今修復していると言っていたしな。まさかそれがこいつとは思わなかったが……。俺はコモンの言葉を信じた。


「ああ、それなら偶然だな」

「はい。正直、僕も今驚いています。噂の人にこうして、しかも早くお会いできるとは……」

「俺がクレナに行くってことは、ミサキは言っていなかったのか?」

「聞いていないですね。まあ、セインさんのこともありますし、ムソウさんのことは出来る限り内緒にしたかったのでは?」


 あ、そういうことか。あいつはあいつなりに俺のことを守ってくれていたみたいだな。俺は心の中でミサキに感謝した。


 俺が一人笑っていると、コモンが口を開く。


「さて、それでどうしましょうか。ムソウさんの無間という刀、ヴァルナさんと一緒にこれから調べましょうか?」

「ん? アヤメの刀は良いのか?」

「それでしたら、今日出来ることは終わりましたので問題ありません。他の仕事も大丈夫です。

 ……正直なことを言いますと、早く貴方の刀を見たくて仕方がないのです」


 コモンは目を輝かせながらそう言っている。先ほど項垂れていたのはそういうことだったのか。

 う~む、そこまで言われると俺も断りづらいなあ。まあ、せっかくの機会だと思ったし、今のうちにやっておくとするか。


「分かった、よろしく頼む。だが、俺は明日から依頼に取り組むからな。見るだけってことで良いか?」

「はい! 問題ないです。では、僕の工房へどうぞ……っと、ほらヴァルナさん、行きますよ!」


 コモンはギリアンの手紙を未だうっとりとしながら読んでいるヴァルナを引っ張り、奥へと行く。俺は後をついていった。

 しかし、ヴァルナのあの様子……。ギリアンにべた惚れなんじゃないか、と邪推してしまうな。


 そして、コモンの様子。……うん。初対面での印象はサネマサ、ミサキよりもだいぶ良いものだ。

 俺の着ているギリアンの作ったものを見る目は子供らしいがな、と一人笑っていた。


 さて、案内された部屋には隅に窯とそこで武具を打つ台のようなもの、大槌や小槌、火箸など刀工に必要なものが置かれている。

 そして、部屋の端には所狭しと多くの刀剣や、槍、矛、弓矢などが置かれていた。その中に際立って綺麗に保管されている刀がある。

 これは何だ、と聞くと、そちらがアヤメさんの刀です、とコモンが教えてくれた。ああ、これがか。確かにあの祭儀用の刀とは比べ物にならないくらいの力を感じるな。


 コモンとヴァルナは部屋の中央にあった椅子に座り、二人に向かい合う形で俺も椅子に座った。すると、ヴァルナが机の上に刀掛けを置く。


「はい。ではムソウさん、貴方の持つ無間という刀をこちらに……」


 俺はコモンの言葉に頷き、異界の袋から無間を取り出し、刀掛けに置いた。無間は部屋の明かりで鈍く光っているように見えた。

 すると、コモンとヴァルナは片眼鏡を着けて身を乗り出した。


「おお……これはまた……」

「ええ……これは……ムソウさん、鑑定スキルを使ってもよろしいですか?」

「ああ、問題ない。持っている技術を総動員して調べてくれ」


 二人は頷き、無間をじっくりと観察していく。偶に柄にまいているさらしを外してみたり、手に取ったりしている。コモンなどは無間に手をかざしながら目を閉じて何かを祈るようなこともしていたりする。

 何だろうと思うが、俺もこの際に無間をじっくりと見てみた。……あ、旅の間中手入れというものをしていなかったなあ。結構汚れているなあ……。近々綺麗にしておこう。


 ……駄目だ。俺が見ても何もわからん。俺は無間を見るのを諦め、一人寂しく、部屋の周りに立てかけてある武具を眺めることにした。

 ふむ……よくはわからんが、何か強い波動というものを感じるものが多いな。この武器たちも名のある強者の愛用しているものなのだろう。少し、気になってスキルを発動させた。


 ―すべてをきるもの発動―


 すると、立てかけられている多くの武具に切れ目が現れる。多いものもあれば少ないものもある。アヤメの刀は少ない。……ふむ。強力なものほど、切れ目は少ないみたいだな。技と一緒か……。

 そう思いながら、ふと無間を見てみる。無間には切れ目が見えなかった。う~ん……自分のものは見えないのか? と思いつつ自分の体を見てみる。すると、いろんなところに切れ目が見える。ゲッ!? 俺結構多いじゃねえか!うわあ……このスキル、俺専用のもので本当に良かった。

 しかし、無間には本当に一つも見えないな。ということは無間に切れ目は無いってことか。正直、俺じゃなくて、あの刀が“規格外”なんじゃないかと思うな……。


「ムソウさん……ムソウさん?」


 俺が一人、考え事をしていると、コモンが話しかけてきた。俺はスキルを解き、コモンの方を向く。


「どうした?」

「あ、いえ。何かお一人でぼーっとしていたようでしたので」

「あ、すまない。考え事をしていた」

「そうですか……あの、こちらの刀はこれ以外に何か変化とかありますか? 強力な武器にはそういうものも多いので。それに見ていると何か出来そうな気もしましたし……」

「ああ、わかった。ちょっと待ってくれよ」


 俺はコモンの言葉に頷き、無間を手に取る。しかし、コモンの目利きは完璧だな。恐らくこのことだろう、と俺はスキルを発動させた。


 ―ひとごろし発動―


 俺の全身に力が漲ってくる。そして、無間は段々と小さくなっていき、普通の刀の大きさになった。

 コモン達は目を見開き、驚愕の表情をした。


「おお、これはすごいですね。先ほどまでは静かな力の動きが伝わってくる感じでしたが、今はパンっパンに膨らませた風船の様に今にもはち切れないばかりの力を感じます」


 コモンはそう言って目を輝かせた。一応素振りとかをやってみたいが、何が起こるかわからない。

 いや、大体分かる。部屋が……というか天宝館が大変なことになるからな。それは辞めといた。

 そして、このスキルは使いすぎると後がきつい。俺はスキルの発動を辞めた。


「すまないな。このスキルは少し疲れるんだ」

「いえいえ。見たいモノは見れました。他に出来ることは?」


 そう言われて、俺は再度無間を構える。


 ―おにごろし発動―


 俺の髪が伸び、体に紋様が浮かぶと同時に、無間は輝きだし、清らかな天界の波動を帯びる。コモンとヴァルナは目を見開いた。


「え、どうなってんだ!? 刀はまだしも、何でムソウが……それに幾つEXスキルをもってんだ!?」


 ヴァルナは驚きの声を上げる。おお、この反応は久しぶりだなと苦笑し、後で説明するとだけ言っておいた。すると、コモンが口を開く。


「なるほど……これが噂の神人化ですか。確かに先ほどまでのものとは一転し、聖なる波動というものを感じますね。まるで別の刀の様です。……ひょっとして、ミサキさんがジェシカさんに渡していた薬というのは……」

「ほう、鋭いな。そうだ。あれはこの姿にならないとできないもので、俺が作ってミサキに渡しておいた」


 コモンはまたしてもなるほど、と頷いている。ミサキ、うまいことジェシカに薬を渡せたみたいだな。量産できればいいんだが……。


「……こうも簡単に天界の波動を……ムソウさん、ひょっとして冥界の波動も出すことが出来ますか?」

「いや。確かにそのスキルはあるにはあるんだが、まだ使ったことが無いし、今は出来ないんだ。また後で説明する」

「そうですか……。あ、もう大丈夫ですよ。神人化を解いてもらっても……」


 コモンの言葉に頷き、俺は神人化を解いた。


 コモンは取りあえず座ってくださいというので、俺達は元の位置に座った。改めて机に置いた無間を前に、俺は取りあえずコモンとヴァルナにスキルについての説明をする。二

 人はなるほど、と頷いている。

 そして、一通り説明し終えた後、俺は二人に尋ねた。


「で、何かわかったか?」


 そう言うと、しばらく考え込み、コモンは口を開いた。


「結論から言いましょう。……よくわかりません」


 コモンはジッと俺を見て、はっきりとそう言った。ヴァルナは申し訳なさそうな顔で頷いている。俺は宙を見上げた。


 ここでもわからないと言われるとは思わなかった。やはり無間は少々、というかかなり特殊な刀らしい。一応材質は分かったとのことだが、やはりそこらの刀剣に使われている一般的な鋼鉄だという。

 だが、強度について聞くと、う~んと悩みながらコモンは口を開く。


「恐らくムソウさんの世界の鉱物がこの世界のものよりも強いものなのかも知れません。ですが、そういった場合は何か分かるはずなのですが。

 他に考えられることはムソウさん自体がこの刀と相性が凄まじく良いことと、剣術スキルがとても優れているということくらいですね」


 と、コモンは言った。剣術スキルはまだ極めてないが、まあ、今のところは確かにそうとしか考えられないな。


 そして、いつの間にかこの世界での神刀扱いになっていたことについて尋ねてみた。その前に気になることを聞いてみる


「前々から思っていたんだが、神刀って何だ?他にも名刀とか魔刀とかって鑑定では見るが……」

「単純に武器の性能によって優劣を分ける際に使われる区分です。一般的なものは何も出ないですが、武具の持つ力と能力がある程度優れていれば名刀、名刀を遥かに凌駕する能力を持っていれば魔刀、魔刀をも上回る力を持っていれば神刀と呼ばれるようになります。まあ、それらを上手く扱えなければ、宝の持ち腐れにもなりますし、下手な人が魔刀を持って名刀を使う達人に挑んでも、意味のない話ですからね」


 なるほど。呪いの事件の時に俺やリンスが相手した奴らはまさにそんな感じだったな。魔刀という強力な武器を手にしていたにも関わらず、実力は大したことなかったみたいだし。

 まあ、俺は神刀である無間を持っていたから元々負ける要素は無かったわけだがな。とすると……


「ということは無間にも何かすごい力があるって訳か?」


 そう聞くと、コモンとヴァルナは口を開く。


「そうですね……見た感じですと、ムソウさんがスキルを使うときに無間が形状や能力を変えるということこそが、無間の力なのかも知れません」

「要するにアンタがこいつを頼る代わりに、こいつもアンタに力を貰っているということだな。神人化だったか? あれをすると天界の波動を帯びたりするのが良い証拠だな」


 二人の言葉に俺は首を傾げた。よくわからねえな。つまり、俺はEXスキルを使うたびにこの世界で神刀となった無間が何らかの力を俺に与えていたものだと思っていたのだが、それは間違いで俺が無間に力を与えていたということか?

 若しくは俺と無間の両方が相互に作用しあって神人化なり、やったことはないが鬼人化なりしているということか。

 ……謎だ……例によって、謎が解ける度にまた新たな難問が俺に襲い掛かってくる……。


 俺が頭を捻っていると、更にコモンは続ける。


「刀精も感じることが出来ませんでしたからね……。やはりこの刀は謎だらけの代物です」

「ん? とうしょうって何だ?」


 ふと、コモンが言った言葉の意味が分からなかったので聞いてみた。すると、コモンは手を出して、口を開く。


「刀精とは、文字通り刀に宿る精霊のことです。この世界のありとあらゆるものには精霊が宿るという話は聞いたことがありますね?」

「ああ。で、ここクレナには武具の精霊が出現しやすいというトウショウの祠というのがあるんだろ?」

「ええ、その通りです。ですが、僕はそこに行かなくても万物に宿る精霊の声を感じ、会話することが出来るのです」


 コモンは何か、怪しげな宗教家のようなことを急に言い出した。俺が眉間に皺を寄せていると、コモンは自らの能力について語り出す。


 何でも、この世界に来る前から元々コモンに備わっていた能力らしく、それは万物の声を聴けるというものらしい。以前はその声が何なのかコモンも分かっては居なかったらしいのだが、この世界のものには精霊が宿るということで、コモンはその声の主を精霊とし、それまでのように精霊の声を聴きながら色んなものを作ってきたのだという。


「例えば武具を強化するのにも合う素材と会わない素材があるんです。それを区別するためには直接武具の精霊に聞いた方が早いですし、正確ですから」


 と、コモンは語る。なるほど。こいつが“鍛冶神”と呼ばれる所以はその辺にあったか。ただただ熱い炎を生み出すだけでそこまでとは、と思っていたのだが、謎が解けたな。


 ちなみに、十二星天はEXスキルの他に何か特別な力を持っている者が多い、と語る。それはスキルとは別なもので、例えばミサキなら常人よりも高い魔力をもっているといったように。となるとサネマサは武術とかか? まあ、確かにスキルをすべて極めたってだけではあそこまで強くないよな……。で、コモンは万物の声を聴く、か。


 しかし、そのコモンの力を持ってしても無間の声は聞けなかったと……。


「無間には刀精は居なかったのか?」

「いえ、宿っているとは思います。この世界のものは例外なくそうなんで。……ひょっとしたら僕が嫌われているという可能性もありますが」

「どんな状態なんだよ……」


 俺とコモンは顔を見合わせて笑い、場が少しだけ和んだ。正直なところ、無間には精霊のようなものは宿っていると思っている。俺のEXスキルが俺の意思とは違う形で発動したことはこれまでに何回もあったからな。

 俺のスキルが俺と無間がそろって発動するという話を聞いて、そう思った。もしかしたら、ジンランと闘ったとき勝手に火を吹いたのも、ひょっとしたら俺を護ってくれていたんじゃないかと思っている。

 いつも世話になっているが、改めて俺は無間の大切さに気付いた。


 コモンと話しながらそう納得していると、ヴァルナが口を開く。


「それで、どうする? こいつの強化とか調整とかしておこうか?」

「ああ、そうだなあ……いや、今は良いや。どうせなら声を聴いてもらってやった方が良いと思うし。俺も明日から依頼に取り組まないといけないからな」


 ヴァルナの申し出は今のところは断っておいた。俺の手元には完全純度の永久金属と、どんな素材にも姿を変える賢者の石がある。

 だが、どういう風にするのかは、無間に直接聞いた方が良いからな。それに、まだその必要は無さそうだし……。


「とりあえず、コモンの能力が使えない以上は急いでやることはないし、ひょっとしたら祠に行ったらこいつの精霊も出て来るかも知れないからな。強化とかはその時に頼むかもしれない」

「おう、分かった。じゃあ、取りあえずは依頼の査定と、魔獣の素材で装備を整えることに専念した方が良いか」

「ああ、頼む。ギリアンに負けんなよ」

「任せろ! ……で、どんな奴らが居るんだ?」


 身を乗り出すヴァルナに、アヤメから貰った討伐依頼のある魔物の資料を渡した。ついでに、コモンもそれに目を通している。


 ……


 災害級   噴滅龍 討伐

 災害級   破山大猿 討伐

 超級    ゴブリンの群れ 殲滅

 超級    オウガの群れ  殲滅

 超級    レッドワイバーン 討伐

 超級    死骸軍 殲滅

 超級    スライムの群れ 殲滅

 超級    ムカデカラスの群れ 殲滅

 超級    大鎌カマキリの群れ 殲滅

 超級    オークの群れ 殲滅

 超級    リザードマンの群れ 殲滅

 超級    雷獣 討伐


 ……


 資料を一通り見たコモンとヴァルナは目を丸くし、眉間に皺を寄せて、俺を見てくる。


「……これを、一人でか……?」


 ヴァルナは心配そうにつぶやいた。ああ、やはり難しいのかな、と思い、コモンの方を見る。コモンは困ったように腕を組み、しばらく悩んだ後、口を開く。


「……まあ、サネマサさんやミサキさんと互角以上に渡り合ったムソウさんなら、恐らく余裕だとは思いますが……」

「あ、なら問題は無さそうだな」


 コモンの言葉に即答した。コモンの言うことが本当ならば大丈夫だ。俺はそう思い、安心する。すると、ヴァルナが呟く。


「“規格外”だなあ……。本当に大丈夫なのか? 何なら、館長も一緒に行った方が……」

「あ、それは良い。コモンもここでやることがあるだろう。

 それに一人の方が本気を余すことなく出せるからな。ちょうどいい。アンタは俺が持って帰る素材で何を作るのか今のうちに考えとけ」

「……はあ。分かった。正直噴滅龍と破山大猿の素材には期待しているからな。なんというか、無事に帰って来いよ」

「そうですよ。最悪、その二つだけでも持って帰ってくださいね!」


 ヴァルナとコモンは目を輝かせてそう言った。俺の命よりも珍しい素材かよ、と思ったが、こういうところはコモンも子供だなと思い、俺は笑って頷いた。


 その後、無間を背負って、二人と別れた。結局、よくわからなかったが、分かったことも多くあって満足だ。

 それにギリアンの紹介状のお陰で、クレナ一の名工が集う場所で、最高の職人に装備を整えてもらえるということで、俺の足取りは軽い。上街は山の上ということもあり、ここからだと良く夕日が見えるな、なんて思いながら、俺は下街へと向かっていた。


ヴァルナはエルフの中でも騎士タイプの者ですので力はあります、というイメージで描いています。・・・すみません。書きながら、エルフの設定と合わないなあと思ったんですが、今更設定を変える訳にもいかないし、ドワーフの女ってことにするよりは同じく長命のエルフにした方が良いと判断し、そうなりました。後付けです、ぶっちゃけ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ