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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
クレナで生活する
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第119話―“暴れ姫武将”と出会う―

「おっと~! 派手にやられてんなあ!」


 ふと、部屋の戸の方から若い女の声が聞こえて来た。振り返ると、そこには少女らと同じように、赤い衣に白い羽織をした背の高い女が立っている。他の奴らと違うところは、ギルドの腕輪をはめていることと、刀を持っていることくらいか。

 そして、胸元を大きく開き、胸には赤い宝石のついた首飾りをぶら下げていた。


「いやあ~、しかしナズナとショウブが子ども扱いとはな~。書状通りの男のようだ」


 女はそう言って部屋に入ってきた。すると、飯をがつがつと食っていた少女は、バンッと机を叩いて、立ち上がった。


「アヤメ! どこに行っていたのじゃ!」

「あ? また、あの野郎のとこだよ。今日もまた嫌味を散々言われてきたぜ……」

「お主が居なかったから、散々な目にあったわ!」

「お前が弱いのに手を出すからだろ? というか、俺の居ない間に客人に攻撃するとは何事だ」

「むう~~~! マシロの支部長の書状に書いてあったことが本当かどうかを確認するのは当然じゃろう! あんなの一目見て信じられるか!」

「はあ、しょうがない奴だな。……で? 信じられたか?」


 女は頭を掻いて、少女に尋ねると、少女はキッと俺を睨んできた。


「まだ納得しとらんからな!」


 声を荒げ、俺を指差す少女。俺は呆れかえり、一つため息をつく。やり過ぎたと思っていたが、まだ足りなかったらしい。部屋に入ってきた女もため息をついて、俺達の前で寝ている眼鏡の女の頭を叩いた。


「おい、ナズナ、起きろって」

「う……うん? ……私は一体……ひぃ!」


 眼鏡の女は起きるなり、周りをキョロキョロと見渡す。ふと、俺と目が合うと、小さく叫び声をあげ、後ろに仰け反った。


「こ、こここここの度は、もも、申し訳ありませんでした!!!」


 眼鏡の女は毛布を払い、勢いよく頭を下げて謝ってきた。正直、こいつの謝罪はもう信用していないからどうでも良い。俺はまたしてもため息をつく。


「おい、ナズナ、顔を上げろって。コイツはもう、お前に謝罪を求めていないようだからよ」

「あ、あれ? アヤメさん!? 戻って来られていたのですね!」


 女の顔を見た、眼鏡の女は表情を一転させて、ぱあっと笑顔になった。それを見た女は再び呆れたように頭を抱える。


「何、急に元気になってんだ。それよりも早く起きてどいてくれ。コイツと話がしたい」


 眼鏡の女はわかりましたと言って、そこをどいた。そして、女は刀を置き、俺達の前に座った。


「二人がすまなかったな。どうせショウブが言い出したことだろうが、俺にも責任はある。許してくれ」


 女はそう言って、俺達に頭を下げた。俺とツバキは顔を見合わせて、頷く。後ろで俺達の食料を食いつくした少女が何か言っているが気にしない。


「良いって、もう。顔を上げろよ。……ところで、アンタがアヤメ殿で良いんだな?」


 俺がそう言うと、女は顔を上げて頷く。そして、そばの二人を差した。


「アヤメでいい。お前の言う通り、俺がここクレナの領主であり、ギルド支部長のアヤメだ。そしてこっちの二人はナズナとショウブ、俺の補佐をしてもらっている」


 アヤメの差す二人に目を向けると、少女のような女、ショウブはフンッと言ってそっぽを向き、眼鏡の女、ナズナは俺に一礼する。


「補佐ってのは何だ?」

「そのままの意味だよ。俺の目が届かないところの管理ってところか。ショウブはここ上街の自警団の管理とここの副支部長、ナズナは花街にある俺の妓楼、高天ヶ原の管理を担っている。流石に領主とギルド支部長をいっぺんにというのは疲れるからな」

「ああ、なるほど」


 そう言えば上街の自警団の名前はショウブ一家だったからな。てことはあの女、意外と強いのか? 先ほどの流れで何となくそのショウブ一家が心配になってくる。疑いの目をショウブに向けると、何じゃ? という目で俺を睨んできた。

 そして、もう一人のナズナは高天ヶ原の管理人か。まあ、見た感じ少し抜けているような印象だ。妓女として客の前に出る、ということは無さそうだな。

 俺がナズナに目を向けると、ビクッとして顔をそむけた。


「……さて、自己紹介はもう良いだろう。話を進めよう」


 アヤメはそう言って、懐から何か、書類を取り出す。書類にはマシロの紋章が描かれていた。どうやら、ロウガンからの書状らしい。


「アンタがここに来た目的、それはこの書状にも書いてあった。トウショウの祠に行きたいということと、しばらく拠点をここに移すということで良いか?」

「ああ。それで合っている」

「そうかあ~。……ただの観光でここを訪れるのに書状なんて要らねえのにな。ロウガンの奴も心配性だな。

 まあ、アンタはマシロにいる間にいろいろとやらかしているみたいだからしょうがねえか」

「……なんとなく解せんが、そう書いてあるなら、もうそういうことでいい」

「分かった。で、ロウガンからの書状には、超級以上の討伐とそれに匹敵する依頼があれば、任せてやってくれ、と書いてあるが、問題ないか?」

「ああ、問題ない。今の所どうだ?」


 アヤメは腕を組み、眉をひそめた。この様子だと、ありそうだな。


「……依頼は確かにある。中には災害級下位の魔物の討伐依頼もあるくらいだ」

「そんなにか? ここらの冒険者は弱いのか?」

「いや、そうじゃない。クレナに来る冒険者ってのは大抵、祠か妓楼目的の者が多いからな。来たとしても依頼に取り組む奴なんて、そうそう居ない。

 どうにかしてくれってレインには言ってんだが、セインのガキも、サネマサのボケもなかなか首を縦に振らねえからな」


 おっと、十二星天にそこまでの悪態をついている奴、この世界で初めて見たかもしれない。横に居るツバキも目を開き驚いているようだ。そういや、ロウガンの話によるとこいつはその二人にも自分の意見を通そうとして反目し、いつしか“暴れ姫武将”と呼ばれるようになったと聞いたな。

 このことか、と思い納得する。だが、こいつの言い分も間違ってはいない。妓楼と祠に寄っただけで帰るなど、ここに居る冒険者もなかなか呆れた奴らだなと頭を抱えた。


「わかった。とりあえず、面倒そうな依頼を回してくれ」

「助かる」


 アヤメは俺に頭を下げた。……ふむ、何だか拍子抜けというか、変な感じだな。やはり、ロウガンやツバキから聞いた噂とはかけ離れている気がする。俺の横でツバキも少し驚いているようだ。こいつからも悪い噂を少し聞く、と聞いたからな。

 きちんと頭を下げるアヤメに目を見開いている。


「どうした?」

「いや、抱いていた印象とずいぶん違うなって……」

「ああ、俺の噂のことか。ククッ、あいつらどんな印象を持ってたんだ?」

「自分の考えは何が何でも通そうとする。十二星天が相手でも臆さず、支部長会議でも色々と問題を起こしているとか。

 だが、領主でもあるからウィニアも下手なことは出来ない。ゆえに“暴れ姫武将”と呼ばれているってな」


 ひとまず、これまでの噂を話すと、アヤメは怒るどころか、腹を抱えて笑い出した。


「ハハハッ! なるほど、皆からはそんなふうに見られていたか!」


 俺とツバキが驚いている前で、ひとしきり笑った後、アヤメは口を開いた。


「確かに皆の言うことは正しい。俺は気に入らないことがあるとつい、カッとなって口に出してしまうからな」

「そうか。だが、先ほどの話を聞く限りでは、この領の問題は他の領の者達とも協同で取り組まなければいけないような気がするが……」

「そうか……アンタはわかってくれるか。その通り、冒険者たちがここに居る理由がほとんど遊びだけ、というのは問題だ。ここには騎士団も居ない。

 だが、自警団が出来ることにも限りがある。おまけに貴族共が下街と花街、上街を分けたことで街の全体を把握しづらくなった。その所為で、街には貧富の差による問題も出ている。レインに掛け合い、どうにかしようと思ったが、奴らは動かない。大方、貴族共が誤魔化しているんだろう。

 そして、冒険者たちについても、セインのガキは、冒険者だから自由にやらせとけ、という始末だし、サネマサのじじいも武王會館で手一杯と言いやがる。やはり俺ごときではダメらしいな……」


 アヤメは窓の外を見ながら、そう言った。俺も何も言えず、宙を見る。ここの問題はやはり、大きなものらしいな。レインがアヤメに下手なことをできない分、アヤメもレインに下手なことが出来ないみたいだ。ここにはレインの貴族たちも居るからな。奴らを敵に回すと、アヤメの立場も危うくなるようだ。

 そして、冒険者についても。アヤメなりに何とかしようとしているらしい。……だが、セインがそれを良しとしない、か。ミサキの話もあり、セインって奴に不信感だけがつのっていくな。

 サネマサの名が出たとき、俺の横でツバキは体を震わせた。こいつはその武王會館出身だからな。ツバキも思うことはあるみたいだ。ツバキは少し小さくなり、俯いている。すると、アヤメがツバキを見て、口を開いた。


「ところで、そこの護衛の姉ちゃんは、武王會館出身か?」

「あ……はい、そうです」

「そうか。いや、姿勢というかたたずまいが素晴らしいからな、そう思っただけだ」


 アヤメはツバキを見て笑った。ツバキは何か申し訳なさそうに、アヤメを見ている。


「あの……私が居た武王會館に関して、アヤメ様にご迷惑をかけているようで、その……」

「ん? いや、良いって。そこは気にすんな。じじいがあそこを開いたのは若い奴らの未来を護るためってのは知ってんだ。武王會館自体に恨みは無えよ」


 あっさりとした回答にツバキは更に目を見開く。


「で、ですが……」

「それにアンタのような者があそこ出身となると、じじいの知り合いである俺の鼻も高いし、じじいのやったことは正しかったとの証明になる。そこは胸を張っとけ」


 アヤメはツバキを責めるわけでもなく、そう言っている。ツバキはアヤメの言葉を聞き、少し表情を明るくして、頷いた。それを見たアヤメは満足している。


「よし、上出来だ。あ、ちなみに俺が怒っているのはな、故郷の領主が困ってんのに助けてくれないとは何事か、とじじい個人に怒っているんだ。そこを間違えるなよ」

「はい、わかりました」


 頷くツバキの頭をアヤメは、いい子だなあ、と撫でる。突然頭を撫でられたツバキは驚いていた。隣にいる俺も少し驚いた。


「アンタ、何歳なんだよ……」

「おいおい、女に歳聞くなんて、アンタも野暮だな。まあ、いい。俺は今年で38になるな」


 俺は目を開けて驚いた。見えねえ……。十代ではないにしろ、とりあえず三十はいっていないと思っていた。というか、俺の一個下なのかよ、こいつ……。俺と並べてみたら、親子くらいには見えるぞ。そう思いながら呆けていると、アヤメは口を開く。


「あ、ちなみに後ろのショウブは今年で30、ナズナは少し若くて24だ」

「は!?」

「見えねえだろう? 多少おっちょこちょいなところもあって、子供っぽいが、これでもナズナは――」

「ち、ちがう! そっちじゃない!」


 話を進めるアヤメの言葉を遮り、俺はショウブを指差した。え、あの見た目で30!? 見た感じシロンよりも少し年上くらいのお転婆な女の子なのに……。

 精霊人か何かか? とアヤメに聞くと、はっきりと違う、と言われた。おいおい、ホントかよ。ただの人間で、30であの見た目とか……。

 まあ、自警団の管理を任されているくらいだから、十代のガキにやらせるわけにもいかないよな……。そういや、前の世界のツバキもそんなかんじだったな、と思い、一応聞いてみた。


「何か、昔すごく酷い経験をしたとか?」

「いや、そんなことはなかったぞ」


 ……なるほど。普通に成長してあの状態か。なんとなく、あいつがかわいそうに思えてくるがグッとこらえた。すると、ショウブがギロッと俺を睨み始めてきたので、視線を逸らす。


「あ、ちなみにな……」


 アヤメは俺の耳元で何かをささやく。それは特に気にしていないことだったから、どうでもいいな、と思うような、何となく予想していたことをアヤメは俺に教えてくれた。


「……だろうな」

「ああ、やっぱりそんな反応か。それと、ナズナはな……」

「……ああ、それも何となくわかる」

「早いと思わねえのか?」

「この世界がどうか知らねえが、ああいうところで働く奴ってのは大体そんなもんだ」


 アヤメが教えてくれたナズナの方のことも大方予想はしていたので、特に驚きもしなかった。まあ、妓楼勤めだからな、そいうこともある。

 だが、ということはアイツも客をとっているのか。先ほどまでのやり取りからは想像できない。やはり有能な人間には違いないのだろう、と一人納得している。


「ムソウ様? どうされました?」

「あ、ツバキ。なんでもねえよ」


 不思議そうな顔をするツバキにそう言ってやった。話の内容はこいつには聞かれたくないからな。なんとなくそう思っている。言ったらまた呆れられるから、というのもあるし、こいつにそういう話をしたくないし、させたくないという気持ちもあるからな。

 俺もツバキの頭を撫でて、アヤメの方に向きなおした。


「で、話に戻るが、一応、依頼というのはどんなものなんだ?」

「ああ、そうだな。アンタに頼みたいのは超級の魔物討伐の依頼が十、災害級下位が二だ」

「問題ないと思う。早速取り掛かりたいところだが……」


 俺は口を閉じた。アヤメの背後でショウブが未だに俺を睨んでいたからだ。流石にここまで来ると、俺も我慢の限界だった。


「……テメエ、何なんだ? さっきから」

「ふん! 妾はまだ負けたとは思っておらん! 先ほどのは油断していただけじゃ!」

「あんな醜態をさらしておいてか?」

「あれは、ナズナの毒針でああなっただけじゃ! お前の力では無い! そんなお前が超級、災害級の討伐依頼に行くなど妾は認めんからな!」


 ショウブはそう言って、俺を睨んでくる。ここまで来ると呆れも怒りも何も起きない。ただただ、こいつのことは無視したいような気持になった。どうしようか、とツバキを見る。ツバキもそんな表情をして、困ったように俺を見返した。

 あいつも、自分とむやみに刀を抜かないようにすると約束をさせた手前、どう言おうか、と悩んでいるようだ。そうしていると、アヤメが突然、手をパンッと叩いた。……嫌な予感がする。


「じゃあ、ショウブ、ナズナ。もう一度こいつと闘え。場所は地下の闘技場だ。今度は正面から思いっきりやると良い。その後どうするか判断しろ」

「えぇ~~~!!! 何故、私もなんですか!?」


 アヤメの言葉に真っ先に声を上げたのはナズナだった。情けない悲鳴を上げている。そして、俺も口を開く。


「ちょっと待て。なぜ俺がまた闘わなくてはならないんだ?」

「理由は二つ。一つはいつまで経っても納得しないショウブを納得させるためだ。このままだと、ギルドを出た途端、ショウブ一家がアンタを取り囲むって可能性もあるからな。それは嫌だろ?」

「ぐっ……確かにな。それに、そうなったら俺も今度は本気で反撃するし……」

「ああ、それは流石に俺も困る。そして、もう一つは俺自身がお前の能力を判断することだ。力不足そうなら、他の冒険者たちに応援を要請しないといけない。ロウガンからの書状を見る限り、そんな心配はなさそうだがな。

 正直なところ、この書状に書いてあることが本当なのかを確かめる」

「なるほど……それならば……」


 俺は少し考え込み、ツバキに視線を移す。ツバキはコクっと頷いた。そういうことなら俺も問題は無いか。ツバキも納得しているようだし……というか、未だに負けを認めないショウブに灸を据えてください、と思っているみたいだ。視線が強い……。

 それから、アヤメもよくもまあ、筋の通った理由を考え付いたものだ。伊達に領主と支部長を兼任しているわけではないらしい。どこか間抜けた感じに見えるが、その実は、大人物足る器を持っているみたいだな。

 何はともあれ、俺はアヤメとツバキの思いに納得することにした。


「分かった。俺はアンタらともう一度闘おう。今度は本気でかかって来い」


 俺は二人を見ながらそう言った。少しだけ殺気を向けてみる。すると、さっきまで威勢の良かったショウブと、落ち込んでいたナズナはビクッとして俺を見た。


「じょ、上等じゃ! 今度こそ勝ってみせるからの!」

「ふえぇ~……また、闘うことになるのですか~……」


 二人はそう言って、俺との再戦を受け入れた。そして、ニカっと笑うアヤメたちに続き、俺とツバキ、それからリンネはこのギルドの地下にあるという闘技場に向かった。


 案内された闘技場はマシロのギルドにもあったものと同じ造りをしている。やはり、普段はここで冒険者の登録試験を行うようだ。地下にあるが、本気でやっても良いのかと聞くと、ミサキの結界魔法が封じられている魔道具があるから心配するなと言うアヤメ。

 ここで、試験を行う以上、崩落の危険もあるから、こういった結界の魔道具は常に置いてあるようだ。

 そして、俺達が闘技場の中央に集まると、アヤメが口を開く。


「では、ここでナズナとショウブ、それからムソウに闘ってもらう。勝負はどちらかが負けと認めるまでだ。決まり事は二つ。まず全力でやれ。お互い悔いが残らないようにな。

 もう一つは相手を殺さないこと。これに関しては当たり前だが、逆に言うと、死なない程度には痛めつけても良い。分かったな?」


 アヤメの言葉に俺達は頷く。まあ、いつもやっていることだからそれは別にいい。


「あ……で、ムソウ。本当に一人で良いのか? 護衛の嬢ちゃんも加わっても構わないぞ」

「いや、問題ない。その方が俺も戦いやすいからな」


 アヤメの問いにそう答えると、ツバキがジトっと俺を見てきた。


「それは私が居ると足手まといだ、という意味ですか?」

「いや、違う。俺が本気を出すとお前にも迷惑が掛かるって意味だ。……お前を傷つけたくないからな」


 そう言うと、ツバキはニコッと笑い、わかりました、と頷いた。よし、こう言っておけば問題ないだろう。実際のところ、こんな児戯にツバキに出てもらうのは流石に気が引けると思ったからだ。何か、申し訳ないような気になる。

 そして、ツバキはリンネと共に、闘技場の外に出て、椅子に座った。


「では三人とも、位置についてくれ」


 俺達はお互い向かい合わせになる形で、闘技場の端に立った。そして、武器を構える。ショウブの得物は両手に持った鉄扇らしい。ナズナは二本の刀だ。ロウガンやサネマサと同じ二刀流らしい。


「先ほどの屈辱、ここで晴らさせてもらう!」

「やれるもんならやってみな!」


 ショウブの言葉にそう返し、俺は背中の無間を抜き、構えた。そして、魔道具に魔力を込めたアヤメは俺達の準備が出来たことを確認し、手を上げる。


「では、両者……始め!」


 アヤメが手を下すと、俺は二人に向かって突っ込んで行く。すると、ナズナが飛び出してきた。そして後ろからショウブが攻撃を仕掛けて来る。


「連風刃!!!」


 ショウブが扇を振るうたび、そこから風の刃が飛び出し、ナズナと共に俺に迫ってきた。ナズナの攻撃を避けようとしたら、ショウブの攻撃が俺に当たるってことだな。ナズナとの距離が狭まっていく。


「はあっ!」

「邪魔だッ!」


 ナズナから振り下ろしてくる刀を無間で弾き、俺はショウブの攻撃を躱しながら、近づいていく。そして、無間を上げて振り下ろす。


「オラァッ!」

「ぐぬっ!」


 ガキンと俺の無間を二つの鉄扇を交差させて、受け止めるショウブ。やはり、こいつは近接戦は苦手のようだ。鉄扇と無間だとやはり武器自体の重さもあり、こちらがだいぶ有利になる。俺は無間を振るっていく。

 だが、ショウブは体も小さくすばしっこい。なかなか当たらないなと苦戦していると、その隙を突いてナズナが跳び出し、攻撃を仕掛けてくる。


「たああっ!」

「む! 剛掌波!」


 俺は気をナズナにぶつけた。ナズナはそれを刀で往なし、地面へと着地した。そして、俺がナズナに気をとられていると、ショウブは無間を弾き、俺に手を向ける。


「風渦!!!」


 俺の腹の所で、魔法を撃ちこもうとするショウブの手を掴み、手のひらをナズナに向けた。


「な!?」


 焦るショウブの手から、螺旋状に放たれる風の塊がナズナに当たる。ナズナはハッとし、刀を交差させてそれを受け止めるが、ショウブの魔法は思った以上に威力があった。風圧でナズナは吹っ飛んでいく


「きゃっ!」


 ふむ。直撃ではないのに、意外と吹っ飛んだな。俺は吹っ飛んでいったナズナにショウブを投げ飛ばした。


「ぐうっ!」

「うわあっ!」


 ショウブはナズナにぶつかり、二人は地面に倒れる。俺は無間に気を溜めた。


「本気で来いッつってんだ。でねえと……死ぬぞ……!」


 無間から斬波が射出され、二人に近づいていく。


「ナズナ!」

「はいッ! 十字斬波!!!」

「四連竜巻!!!」


 俺の斬波に向けて、×状の斬波と、大きな四つの竜巻が放たれた。俺達の攻撃はぶつかり、ナズナの斬波と、ショウブの竜巻のうち、二つは消せたが、もう二つの竜巻は未だ勢力を衰えさせず、俺に近づいてくる。


「ふん! このまま吹き飛ばされてしまうのじゃ!」


 と、やたら機嫌のいいショウブの声が聞こえてくる。俺は無間を構え、竜巻に備える。


 ―すべてをきるもの発動―


 竜巻の至る所に、切れ目が見えた。俺は飛び出し、切れ目を斬る。その瞬間、竜巻は霧散し消えていった。その様子を茫然と見つめるナズナとショウブ。


「吹き飛ばされろ、か。ずいぶんと優しいそよ風だな……」


 無間を向け、二人にそう言うと、ショウブはガクッと俯きプルプルと震え出した。何してんだろうと思っていると、


「……ククッ……アーハッハッハ! 面白い!面白いぞ、お主! 我が風をかき消すとはな!」


 ショウブは顔を上げ嬉々とした表情でそう言った。へえ、また悪態の一つでも言われるかと思ったが、どうやら違ったみたいだ。俺はショウブに笑い返す。


「いや、一撃で行けると思ったんだがな。詰めが甘かったようだ」

「フン!減らず口を叩きよるな!」

「テメエこそ!」


 ショウブは飛び出し、そのまま俺に攻撃を仕掛けてくる。俺も飛び出し、無間を振るってショウブの攻撃を受ける。するとここで、ナズナが俺の背後に回り俺に攻撃を仕掛けてきた。俺は、ショウブの腕を掴み、ナズナの刀での攻撃を無間で止める。


「へえ、さっきの奇襲と違ってうまく連携してんな」

「舐めるでないぞ、ムソウ殿」

「わ、私達も負けてばかりではいられませんから!」


 お、ショウブが俺の名前を敬称付きで呼んだな。少しは認めてくれたか? 俺は無間に込めた力を抜き、ナズナを俺の方に寄せるとともに、ショウブをぶつけ、二人から距離を置いた。


「ぬうっ! やるのお……」

「ええ、ここは私達も……」


 そう言って、ショウブが扇を構え、何かを呟き始めた。すると、二人の体が宙に浮かび始める。そして、ある程度の高さまで行き、俺を見降ろした。


「ムソウ殿。先ほどは失礼したな。貴殿を少し甘く見ていたようじゃ。ここからは我らも本気で行くとする」

「あ、あの、死なないようにしてくださいね!」


 ……丁寧な口調で、怖いこと言ってんじゃねえと口から出そうになるのを何とか思いとどまる。

 ショウブは……何と言うか、機嫌は良くなったみたいだな。ああやって、最初から真正面から来てくれれば、こんな手間をかけなくても良かったのにな……。

 まあ、良いや。おかげで俺も段々と楽しくなってきた。湧き上がる気を抑えつつ、鑑定眼で二人をよく視てみる。

 ショウブから出ている魔力の流れがナズナとショウブ自身に纏わっているようだ。……なるほど、二人は魔法かなんかで浮かんでいるというわけだな。以前、100年戦争において、飛んでいる相手に人族はどうしたのだろうと思っていたのだが、ショウブたちを見て、謎が解けた。

 恐らくああいう形で対応していたのだろう。一人納得しながら無間を二人に向けた。


「さっきまでは本気じゃなかった、ってところか。まあ、良いだろう……来いッ!どんなものだろうと斬り伏せてやるッ!」


 俺は斬波を放った。すると二人はそれを避け、ナズナだけが俺に飛んでくる。ナズナは刀を振り上げながら、俺に突っ込んできた。


「お、奥義! 極楽千手!」


 ナズナの言葉に呼応するように、ナズナの背後にいくつもの腕を持つ女の幻影が浮かび上がる。手にはそれぞれ刀や槍、薙刀や矛など様々な武器を手にしている。幻影はその腕に持った武具で俺を攻撃してきた。


「クッ!」


 俺は無間を振るいそれらの攻撃を受けていく。あれ? 幻影じゃねえな。ちゃんと武器の質量を感じる。どういう仕組みになってんだよ……。

 しかし、千本の腕から放たれる攻撃ってのはなかなか捌くのはしんどい。大刀である無間を振り回すのは骨が折れるな。確かに、気を抜くと死んでしまいそうだ。そう思い、少し本気で無間を振るっていき、俺は全ての連撃を、何とか受け切ることが出来た。


「な!?」


 俺が受け切ると思っていなかったであろうナズナは目を丸くし絶句している。俺はナズナに近づき、無間を振るった。ガキンッと言って、ナズナの手から飛んでいく刀。俺はそのままナズナの腹に拳を入れる。


「ッあ――」


 ナズナはそのままガクッと気絶した。俺はナズナを地面に寝かせ、浮かんでいるショウブに、これからどうしようかと視線を向ける。


「ふむ……ナズナを退けるとはな。女相手にも容赦ないのお」

「向かって来る以上、それが敵なら老若男女問わず、俺は容赦しねえ」

「面白いことを言うのお~。だが、それじゃと妾も倒すつもりの様じゃが、妾のように飛ぶ相手にはどうする気かの?」


 ショウブは顔に微笑を浮かべながらそう言ってきている。確かに、飛んでいる奴と闘うのは骨が折れる。ゼブル然り、ジンラン然り。こちらの攻撃は届かない代わりに、向こうの攻撃は届くからな。

 今まではそうやって苦戦してきた。おまけに今回ショウブは風魔法を使っている。並大抵の攻撃だと風で反らされるだろう。やはり攻撃するなら、俺も飛んだ方が良いか。ならば……


 ―おにごろし発動―


 俺は神人化し、目を見開くショウブの前で、翼を広げる。そして、ショウブの目の前に来た。


「さて、これで対等な立場になったってわけだな」

「……ふむ、ロウガン殿の書状に書いてあったことは本当じゃったか。まこと、面白いの、お主は……」

「おっと……少しは認めてくれたか」


 ショウブに無間を向けて問うと、フッと笑って頷いた。


「ああ、少し、じゃがな」

「……まあ、良いか」


 俺もショウブの言葉に笑って頷くと、ショウブは鉄扇を広げ大きく構えた。


「さて、妾もここからは本気じゃ。ナズナの千手を捌くことは出来たみたいじゃが、これはどうかの?」


 ショウブの周りに風が集まっていくのを感じる。そして、風は刃となり、俺達の周りを取り囲んでいく。しばらくすると、辺りからはヒュンッヒュンッと空を切る音が無数に聞こえてくるようになった。


「へえ……すげえじゃねえか」


 俺達の周りでは千なんて数じゃ足りないくらいの刃が踊っている。あれ全部捌くのはしんどそうだな。いっそ大きな攻撃で吹き飛ばすか、と思っているとショウブが手を上げた。


「ムソウ殿、これらを捌き切ることができれば、お主のこと、認めてやっても良いぞ?」


 ショウブは俺にそう言ってきた。その瞬間、周りの刃を吹き飛ばすという考えは辞めようと決断した。俺は一呼吸おいて無間を構えた。


「捌き、斬れば良いんだな? ……上等だ……かかって来いよ」


 すると、ショウブは目を見開き、顔に微笑を浮かべた。


「本当に面白いな、お主は……良かろう。では行くぞ! ムソウ殿!」

「来いッ!」


 ショウブは手を俺に振り下ろす。その瞬間、辺りの刃は俺めがけて向かってきた。


「奥義・億絶葬刃ッ!!!」


 俺は向かって来る刃を一つ一つ斬っていく。正面、背後、左右、そして、飛んでいるから上下から来る刃に、無間を向けている。翼がある分、やはり後ろからの攻撃には振り向かないといけないという難点があるが、それでも対応している。

 正直、当たっても痛くも痒くもないような攻撃だが、俺は全てをそうやって斬っていくことにした。ただ、がむしゃらに一つ一つを打ち消していく。

 途中辺りを飛び回りながら飛んでくる方向を一つにしてみたりもしている。おかげで空を飛ぶという感覚もだいぶ上手くなってきた。


 無間の弱点の一つだった小回りが利かないということにも対応できている。なるべく無駄のない動きとはどういうものか、というのも理解できて来た。……エンヤから授かってかなり経つが、やはり俺はまだこの武器を自由自在に操れるというほどではなかった。それが出来ていく実感を今、久しぶりにしている。


「っと……こうすれば……お、上手くいくな……」


 時々、今まではあまりやっていなかった、持ち方を逆手にして対応するというやり方も行ったりした。若干攻撃の速度が増す。ショウブの攻撃は止むことがない。それこそ、ここにある刃の数だけの軍隊と闘っているようなものだ。

 そして、斬波など広範囲にわたる攻撃をしないという自分で決めた決まりごとのせいで、かなり苦戦している。だが、悪い気はしなかった。……何となく、いつもそうやって闘っていたハルマサの気持ちが分かった気がした。

 確かに、いつもよりは闘いを楽しめている、自分の闘い方っていうのを実感できているような、そんな気持ちだ。


 エンヤに拾われて、四十年近く闘い続けてもまだ気づけなかったことに気づけた喜びをかみしめながら、俺はショウブの攻撃を捌き続けた。


 そして……


「これで……終わりッ!」


 俺は向かって来る複数の刃に無間を振るう。風刃はパシュッと音を立てて消えた。そして、辺りに覆っていた風刃がすべてなくなると共に俺は羽を羽ばたかせ、ショウブの上をとる。ショウブは鉄扇を構え、攻撃を仕掛けようとするが、遅い。


 廻旋刀を使い、手元に巨大な竜巻を作り、それをショウブに向けた。ショウブに迫っていく竜巻の中に入り、俺はショウブに向かって行く。前にジンランが俺にやってきた技を真似てみた。


「奥義・嵐絶破斬ッ!!!」


 ……まあ、ダジャレのような技名は少し変えたがな。俺は無間をショウブに振り下ろす。ショウブは鉄扇を交差させてそれを受けようとする。

 ガキンッと大きな音がして俺の無間は止められた。だが、竜巻による風圧で、ショウブの体が飛ばされそうになる。


「く……くうぅぅぅッッッ!」

「オオオッラアアアッッッ!!!」


 力を入れて無間を振り抜くとショウブは地面へと落ちていき、追撃の竜巻がショウブを襲う。


「くあああッッッ!!!」


 巨大な竜巻にボロボロになっていくショウブ。そして、風が止むと、そこには満身創痍で立っているショウブが居た。

 俺は素早く近づき、得物をショウブの手から弾くと共に、首先に無間の刃を向ける。


 すると、ショウブはフッと笑い、両手を上げた。


「まいった……降参じゃ……」


 ショウブが負けを認めると共に、アヤメの声が闘技場に響く。


「それまで! 勝者、冒険者ムソウ!」


 それを聞き、俺は無間を引っ込め、神人化を解いた。……ふむ、やはり神人化はどれだけ闘っても反動というのは無いみたいだな。これなら多用しても良さそうだ。

 天界の波動のお陰で着物の汚れも落ちるみたいだし……いや、これはどうでも良いか。


 などと思っているとショウブが近づき、口を開く。


「ムソウ殿……これまでの無礼、すまなかったな」


 ショウブはそう言って、頭を下げた。闘いの時からこいつの態度が変わってきたのは感じていたが、頭を下げるまでになるとはな。

 やはり、コイツも人の上に立つ存在か。俺はショウブの肩を持ち、頭を上げさせた。


「気にすんなって。俺のことを認めてくれたのなら、その件はもういい。それに、アンタとの闘いで俺も一つ、また強くなった。礼を言うぞ」

「ほう、ますます強くなるとはな。全く、恐ろしい奴じゃのう……っと、ナズナを起こさねばな……」


 ショウブはそう言って、地面で寝ているナズナを起こしに行く。俺も言われて、思い出した。ふとナズナを見ると、俺の竜巻なのかショウブの風刃の影響なのかは分からないが、闘技場の抉れた瓦礫に、少し埋まっている。

 あっちは闘いの前と後では人間的にそこまで変わらないな、とは思いつつ、ナズナとの闘いも良かったなとは思っている。

 最後にアイツがやってきた質量を持った幻影の様な技。魔法の様ではあったが、どこか違うような気もする。もしも、他のやり方で出来るのであれば、後でどんな技か聞いてみよう。


 そう思っていると、背後から声をかけられた。


「よう、これにて一件落着ってか?」

「お疲れ様です、ムソウ様」

「キュウッ!」


 振り返ると、アヤメと、リンネを抱いたツバキがそこに立っていた。ツバキは近づき、俺に手ぬぐいを渡してくる。俺はそれを受け取り、汗を拭いていく。


「ああ、アヤメ。ありがとな。あまり乗り気ではなかったが、闘ってみると案外楽しめたよ」

「おう、喜んでもらえて何よりだ。それに、俺の方もアンタを知ることが出来たし、能力の確認も終わった。あれなら、災害級相手でも大丈夫だな」

「え、あれでいいのか? なんだったらよお……」


 俺は無間を手に取り、アヤメの方をジッと見た。すると、アヤメは目を丸くし、笑い出す。


「ハハハッ! 俺と闘いたいってか。俺もそうしたいが、今は無理だな」


 残念。アヤメに勝負を挑んだが、断られてしまった。がっくりしていると、ツバキがアヤメに近づいていく。


「あの……今は無理、というのは?」

「ああ。今は武器を整備に出しているところでな。本気でやるなら、本式の武器じゃないと駄目だろう。だから、武器が戻ってきたら、また闘おう」


 アヤメは残念そうにそう言っている。俺と闘うということに関しては意欲的で良かったと思い、そこは安心するが、ふと腰に差している刀が目につく。


「それは何なんだ? それは本式とは違うのか?」

「ん? ああ、これか。なんとなく腰に刀が無いと落ち着かなくてな。間に合わせで差しているだけだ」


 そう言って、刀を抜き、俺に乱雑に渡してきた。俺は刀を抜いてみる。ふむ、綺麗な刀だとは思う。よく斬れそうだな。何が不満なのだろうか


「良い刀だとは思うんだが……」

「確かにな。綺麗で、力もそこそこある。だが……そうだな。騎士団のお嬢さん、アンタはどう見る?」


 アヤメはそう言ってツバキを促す。ツバキは俺が持っている刀をじっくりと見て口を開く。


「確かに、綺麗な刀です。ですが、刀自体は一般的に売っているものとそんな変わりませんね」

「そうなのか?」

「ええ。闘いに置いて重要なのはその武器の能力です。私でしたら、この刀よりも見た目が悪くても、もっと上の力を持つ刀を使います。

 ロウガンさんの夏至と冬至のように、何か属性付与のあるものとか……こちらは、もしかして祭儀用とかでは?」


 ツバキがアヤメに問いかけると、アヤメは満足そうにうなずいた。


「流石、じじいの創った武王會館出身なだけはあるな。目利きも完璧だ。

 その通り、そいつは主に祭儀や重要な会議などで持ち歩くものだ。領主ってのもやはりメンツが必要だからな」


 なるほど。刀匠の領の領主ともなればそう言うのは必要になってくるな。そんなところの代表者が刀を差さないなんておかしいからな。ある意味、こちらは正装用の飾りの刀って訳か。


 ……にしても、この刀は戦闘にも使えるとは思うが。


「なあ、アヤメ。本当にこの刀はダメなものなのか?」


 俺が思ったことを呟くと、アヤメは闘技場にある大きな岩を指差した。


「じゃあ、あの岩に向けてそれで斬波を撃ってみろ。多分、違いが分かるぞ」


 俺は頷き、刀を構える。いつものように無間で斬波を撃ち、あの岩を粉々にする感覚で撃ってみた。


「オラッ! ……っと、……あれ?」


 刀から斬波が飛んでいく。だが、いつもより小さく感じる。斬波はそのまま岩に当たり、砕けこそしたが、いつもよりは威力が弱いなと感じた。


「ほう。その刀の斬波で岩を砕けるとは大したもんだ。だが、アンタが持っている刀よりは弱く感じるだろ」

「ああ。何か力が抜ける感覚がするな」

「斬波ってのは元々、使用者が集めた気に刀自体の力を上乗せして放つ技だ。つまり、得物が弱いと、同じ量の気を使っても威力は落ちる」


 ああ、だからいつもより威力が低いのか。ということは、この綺麗に見える刀は、俺のボロボロの見た目の無間よりも弱いってことになるのか。……なんか、複雑だ。


「ちなみに、俺がその刀を使って斬波をしようとしても上手くできない。その刀の力をうまく引き出せないってところだな」

「え、そうなのか? でも、俺の無間は前の世界のものだ。この世界にあるような効果は無く、その祭儀用の刀のようにただの鋼鉄の刀の一つでしかないぞ?」

「ああ、そこが謎なんだよな……俺もアンタの闘いを見ている最中、鑑定眼を使ったりしたが、材質は鋼くらいしかわからなかった。だが、一応は神刀扱いで、伝わってくる力も相当なものだ。俺が今まで目にしてきた数々の名刀をもしのぐ力を持っている。

 ……アンタ、その刀はどこで?」

「昔、ある人から受け継いだんだ。そいつの死の間際にな。だから、どこでどうやって手に入れたものかはわからない。

 だからこそ、ここに来れば何か分かるかもしれないって思ってな。トウショウの祠か、あるいはクレナの腕利きの職人か」


 アヤメはなるほどと言いながら頷いている。俺がここに来た一番の目的は無間のことを知るってことだからな。常にエンヤが持ち歩き、長年共に闘った刀だ。この世界に来たとき、この刀も俺と同じく、何かが変わっていた。それが何なのかを知ることが出来れば、俺自身がこの世界に来た理由も知ることが出来る。俺はそう考えていた。


「……だったらよ、まずはこの街一番、いや、世界一の工房、「天宝館」に行ってみると良いぜ」


 アヤメはニッコリと笑い、そう言った。すると、ツバキがハッとし、俺の腕を掴んで、何度も頷いている。

 子供みてえだな。初めて、こんなツバキを見た。何やら凄い工房のようだが、一応聞いてみる。


「それはどんな場所なんだ?」

「数多くあるクレナの工房の中でも頂点の腕を持つ場所だ。人界各地から腕利きの職人が集まり、そこで修行したりして腕を磨いている。あそこでは武具はもちろん、装飾品、服飾品、家具、建築物など、どれをとっても天下一品だ。

 何か、モノに関してはあそこで聞くのが一番良いだろうし、アンタがこれからここの討伐依頼をこなすんだったら、そこで装備を作ってもらった方が良いだろう。工房が多い、この街のギルドにはギルド専属の工房が無いからな」


 お、それは良いことを聞いたな。確かにそこでなら、無間のことが分かるかもしれない。そして、ツバキがはしゃいでいる気持ちも分かる。こいつはそういうのを見るのが好きだからな。旅の最中も武器屋や、着物屋に寄る度に、ぼーっと商品を見ていた。

 何個かは買ってやったけど、こいつの選ぶものって高いんだよな……。しかもあまり着ないし。ツバキによると、


「やはりこれらが一番落ち着きますね」


 ということらしい。手にしている薄刃刀も着ている着物も、全てベヒモスの素材だからな。そうそう、それらを上回るものは無いだろう。


 何となくそう思いながらも、これから向かうその、天宝館でも何かを買わされるのでは、と思いながらも、アヤメの言葉に頷いた。


 実は、当初はショウブの設定をアヤメにと考えていたのですが、性格に難がありすぎるということで、急遽、新たに、風評は悪いけど領民には好かれている人物という設定を持った女を登場させました。イメージとしては、女版ムソウというか、過去の話に出てきた、あの女に似た人間をムソウの友人として加えさせたかったという感じで描いています。

 異名については、アヤメ個人を指すものでもありますし、この街を収める三人の女、「暴れ」=ショウブ、「姫」=ナズナ、「武将」=アヤメというイメージで名付けました。

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