第116話―グリドリの森の中を進む―
グリドリの森に入り四日ほど経った頃、どのあたりまで進んだか地図で見てみた。進んでも進んでも木ばかりが生えているからな。森というか……樹海だな、こりゃ。
これだったら流石に飛んだ方が良かったのか、とか思いつつも、足元はきちんと整備されたような道だったので、それでも俺達は地上を進んでいった。というか、森に入った時点で、空が見えないほどに被い尽くされた枝を見て、そもそも飛ぶことは無理だなと思っている。入り口に戻るわけにもいかないので、進むしかなかった。
「えっと……そろそろ森を出る頃か。森を出たらあっという間にクレナには入りそうだな」
「そうですね。今までの領地に比べると、街道沿いに街が無かったのが不思議ですけど」
「領土のほとんどが森だからな。森には魔物が居る。だから、少し離れたところ、つまり街道からも離れたところに街を作っているみたいだ。こんな風にな」
俺は地図でグリドリの街の部分を指差しツバキに説明した。確かに森からかなり離れたところにある。しかし、街道沿いに無い街とは一体……。
というか、何故こんな樹海を突っ切るように街道を作ったのか疑問に思った。するとツバキが思い出したように、
「そう言えば、以前は森の中に街があったと聞いたことがあります。ですが、壊蛇の所為で街は壊滅したとか……」
と語った。なるほど。それで森を修復したのは良いが、街を作ろうにもこんなに魔物が多いとさすがに困るよな。だから、離れたところに街を作るしかなかったというわけか。
「にしても、ここの植物って少しおかしいよな?」
「植物獣のことですね? 確かにここは他の地域と比べて多いような気がします」
俺が、向かって来る蔓に向けて剛掌波を放ちながら聞くと、ツバキは大きな口のようなものを開いて俺達に噛みつこうと向かって来る花の形をした植物を切りながらそう答えた。
……そう、この樹海の植物は意思を持っているみたいで、時折こうやって俺達に襲い掛かってくる。俺達は森に入った時からリンネには跨らずそうやって闘いながら、森を進んでいた。正直これも旅が遅れている要因の一つである。夜もおちおち眠れねえ……。
そいつらはツバキによると植物獣と呼ばれるものらしいが、やはりここは数が多いみたいだ。街をこの森に作らなかった理由は大体理解したが、なんでここに街道が通っているんだよと、本当に不審に思う。
まあ、街道が先に出来た後に森林を修復したのだろう、というところで俺達は納得したが……。
「ひょっとして、森林の修復にミサキ様が絡んでいたということは?」
ぽつりとツバキが呟く。俺は少し考え込み、ツバキの言葉に答えた。
「あり得るな……。アイツなら、これからはどんなものにも負けないくらい強くしよう!とか言って、こういうのをうみだした可能性があるな……」
そう言って、俺とツバキは同時に頭を抱え、同時にため息をついた。その間にも植物獣たちは俺達を襲ってくる。
ツバキの強さは、単騎で上級の魔物くらいなら倒せると語っていたが、恐らくそれ以上だ。特に気にしなくても、植物獣くらいなら何とかなっている。ただ、危なそうになると、リンネや俺で助け合ったりもしているので大丈夫だろう。
ただ、こうまで多いと、流石の俺も面倒になってくるというのは事実だ。どうにかしようと考え続けているが、こうやってちまちまと闘っていたのではキリがないということに気付いた。
「はあ……森林を傷めると思って気が引けていたが、流石に面倒になってきた。ツバキ、リンネ、少し伏せていろ。一気に片づける」
「また、無茶なさらないでくださいね」
「加減はする」
ひとまず俺達の周りに伸びている蔓や木を斬り払い、二人の安全を確保した俺は前に立ち、無間を構えた。
―すべてをきるもの発動―
俺の視界に映る全ての植物獣に切れ目が現れた。俺は気を無間に貯め、振り上げる。
「奥義・飛刃撃ッッッ!!!」
そのまま無間を振り下ろすと、無間から切れ目の数だけの斬撃が飛んでいく。刃は切れ目を斬っていき、森林の植物を伐採していく。そして、全てを斬り終えた刃は無間へと戻り、周りに纏わりついた。
「ウッラアアアッッッ!!!」
俺は無間を街道の先へと向けて振った。刃は激しい奔流となって街道とその周囲の植物を刈っていく。目の前にはただただ道がまっすぐ続いていた。うん、だいぶ片付いたな。
「よし! 綺麗になったな! この隙に、行くぞ! リンネ、ツバキ!」
俺はリンネに跨り、ポカンと道の先を見つめるツバキを乗せて、リンネに全速力で街道をかけてもらった。リンネの上でツバキが叫ぶ。
「やり過ぎですって! ですから無茶をなさらないで、と」
「これくらいで調度いいだろ! それにあの繁殖力ならあっという間に元通りだ! だから、リンネ、急いで走り抜けろよ!」
「クワン!」
俺達はそう話しながら森を駆け抜けていった。ふと後ろを見てみると、俺に斬られた植物獣は既に再生を始め、斬られたところには新しく根が生えだしている。やばいな……早くしねえと。そう思いリンネを更に急がせた。
そして、しばらく走っていくと、木々の間から青空が広がる光景が目に入った。森が途切れている。どうやら出口らしい。
「よし! リンネ、このまま一気に……と、何だ!?」
一気に森を抜けようとしたとき、出口付近の地面がボコボコと割れ始めた。そして、その隙間から、太く長い根を伴った大木が生えてくる。
よく見ると顔のようなものがあった。デカい植物獣であるそいつは俺達の前に立ちふさがるように生え、尖った蔓を俺達に伸ばしてきた。最後の最後で面倒なものが出てきたなと、俺は今までのイライラを爆発させる。
「邪魔だあああッッッ! リンネ! 狐火!」
「クワンッッッ!!!」
俺は、おにごろしを発動させ、神人化し、リンネから飛び立って巨木に向かって行く。リンネは下で狐火を植物獣に撃って、全体を燃やしていた。リンネもやはり、鬱憤というものは溜まっていたらしい。いつもより、狐火の量が多い気がする。
だが、燃やされながらも蔓はリンネ達を襲っていく。
「やれやれ……ハッ!」
すると、ツバキがリンネの上で刀を抜き、騎乗したまま斬波を放ち、対応している。俺はそれを確認し、無間を振るった。
「いい加減どけろッ! 奥義・浄炎破斬ッッッ!!!」
狐火を無間に纏わせ、俺はその巨木の切れ目を全て斬っていく。斬る度に巨木は消し炭になっていき、最終的にそこには何も残らなかった。
そして、俺達は森を抜け、ある程度離れたところまで行き、そこで止まった。俺はリンネ達の元に降り立ち神人化を解く。
「ふう~……最後の最後まで油断できない森だったな……」
「クウウゥゥゥ~……」
「ああ、リンネ、お疲れさん。よく頑張ったな。それにツバキもな」
俺は疲れてハアハアと息切れをしているリンネを撫でながらツバキを労った。ツバキはふう、とため息をつき、森を見ていた。
「……結局出口まで森の木々を斬っているじゃないですか。他に旅人が居たらどうする気だったんです?」
ツバキは呆れながら森を指差しそう言った。ああ、無茶するなってそういうことだったか。そう思い俺は頭を掻きながら、ツバキに近づいた。
「いや、旅人は居ねえって。人の気配が無かっただろう」
「気配って……そのように正確にわかるわけ……」
「何言ってんだ? 分かるだろう」
無間を収めながら、活力剤をリンネと呑んでいると、ツバキは目を見開いて、俺を見てきた。ん? 何だ? 変なこと言ったか?
「え……ムソウ様は人の気配とかそういうものが正確に分かるのですか?」
「ああ、分かるぞ。まあ、ああやって気を張り詰めているときくらいだがな。何人居て、どのあたりにいるかは大体分かるな。
ちなみに先ほどに関してだが、森の中には俺らくらいしか気配はなかったぞ」
ツバキはまじまじと俺を見てくる。幾度も闘いを続けていて、気が付けば出来ていたんだよな……。まあ、それでもわからないやつは本当にわからないが、そうやって気配を消しながらこの森を抜けるのはまず無理だろう。
ひっきりなしに植物獣が襲い掛かってくるからな。確実にあの森には俺らしかいないのは分かっていた。
他人が俺の殺意を感じれるように、俺も他人の気配は感じることが出来る。そうしないと死角からの攻撃にやられるからな。便利な能力だとは思うが。……というか、ツバキは出来ないのか。いや、ツバキの様子を見る限り、俺以外はあまりできないようだな。この世界には魔物という常に人を襲う生き物が居るからな。熟練の騎士や、冒険者などは出来るだろうと思っていたが、死神の鬼迫同様、またしても俺だけの変な能力に気付き、思わず苦笑する。
「どこまで“規格外”なのですか……。まあ、それにしても、森林の大規模な伐採というのは……」
「……お前、あれ見てもまだそんなこと言うのか?」
未だ、俺の行動を納得していない様子のツバキに俺は森を指差してそう言った。俺の指差す方向では、すでに俺が刈った木々が再生し、果たして俺達がどこから出てきたのかさえ分からないほどに元通りになっていた。呆気にとられるツバキを尻目に、俺はリンネの前に出る。
「さて、先ほどの闘いで少し疲れたな。俺は歩いていくから、お前はそこでずっと呆けてろ。
さあ、リンネ、森を抜けた今、急ぐ必要はない。ゆっくり歩いていくぞ」
「クワンッ!」
俺はリンネを連れて街道を歩き、ひとまず休息が取れる場所を目指して歩いていった。リンネの上でため息をつきながら俯く、ツバキを見ながらいい気味だ、と思った。
◇◇◇
しばらく歩いていくと道が分かれている場所に出た。俺達が通ってきた道と合わせて三差路になっている。
そして、道の角の所に人の姿が見えた。それは何人かの集団で、杭を打ち、そこに馬を何頭か止めている。そばでは天幕を設営し、その前で男が一人座っていた。
「あれは、何だろうな」
「身なりからして行商人かと思います」
「ほう……ちょうどいいな、少し寄って食料など調達しておこう。何日も森の中だったからな。流石にいろいろ無くなっているから」
俺の言葉にツバキは頷いている。肉なども正直、森に入ってからは獲れなくなった。森に入る前にバースト・ボアを手に入れて本当に良かったと思っていたが、調味料や香辛料が既に無くなりそうだった。ちょうどいいや、と思い、男たちに近づいていく。
「なあ、アンタ……」
俺が座っている男に声をかけると、男は顔を上げ、ハッとした様子で俺達を見てきた。
「あ、アンタら! どこから来たんだ!?」
男は俺達を指差し、声を上げてそう言ってきた。見ると周りに居たこいつの連れっぽい奴らも目を見開いて俺とツバキを見ている。
「あ? この道をまっすぐからだが……」
俺は男たちに先ほど通ってきた道を指差しながらそう言った。すると、俺とツバキの目の前で何やらひそひそと話し出す男たち。
そして、恐る恐るという感じで口を開く。
「あの森を抜けたってことか?」
「あ? ああ。一本道だったからな。仕方ねえだろ」
「どこから来たんだ?」
「ソウブからだ」
俺が男たちの質問に答えていくと、何故だか男たちは頭を抱え出した。不思議に思い、聞いてみた。
「なあ、どうしたというんだ?」
「いや、この道は、今はほとんど使われていない道で、あの森を迂回する道はあるんだ。それがこっちの道なんだが……」
「……は?」
「まあ、その道の分岐はソウブにあるからな。グリドリ領に入ったらわからないが……」
「……はあ?」
「それもソウブの湖を右回りに行くか左回りに行くかによってもその道の分岐には気づかないことがある。ちなみに左回り、つまり南側を行く街道を行けばまず迷わないが、アンタ、冒険者か? マシロかパーシの……。
それだと気づきづらいんだよな……冒険者は大概右回りの途中にあるギルドを目指して行くからな。俺達商人も参っている。支部長と領主には分かりやすいように看板でも設置してくれとは頼んでいるんだがな……」
……
……
……
「……はああああッッッ!?」
男たちの話を聞いて、俺は声を上げる。そして、真っ先にツバキを見た。だがツバキもそんなこと知らない、という顔で首をブンブンと横に振っている。
何だよ、その話。それが本当なら、ここまで苦労することなかったぞ! 本当に飛んでくれば良かったと今になって思う。
しばらく頭を抱えていると、不憫に思ったのか一人の男が前に出て、俺の肩を叩く。
「だ、大丈夫か?」
「……ああ、すまない。段々と落ち着いてきた」
「そ、そうか。だ、だが、あの森を生きて出られたんだ! ここは喜ぶところだぞ!」
男はそう言って、落ち込む俺を励ます。……うん、ありがとう。少し元気が出た。
そう思いながら苦笑いしていると、ツバキが、あの森についてそいつらに聞いていた。すると、男たちはあの森について語り出す。
元々、あの森にグリドリの中心地となる街があったのは事実らしい。さらにそこに壊蛇が襲来し、街、及び森が壊滅したのも本当のことだった。違ったのはその後。
壊蛇によって汚染されたのかあるいは壊蛇の邪悪な気に当てられたのか、そこから生える植物はどれも植物獣であったらしい。そこで、グリドリ及びレインは森を迂回する街道の整備を決定したという。そして、街道沿いに街を改めて作り直したというわけだ。
……ちなみに植物獣があの森以外にも行かないようにした者がいる。
……“魔法帝”ミサキだ。あいつはこのままだと領土内が植物獣だらけになってしまうからどうにかして欲しいという領主や領民たちの願いを聞き、植物獣を囲うように、そいつらが嫌うものを放出する木々をスキルで生み出し、植物獣の拡大を防いだという。
だから、この森に入る前、リンネは安全に狩りが出来たというわけだ。あそこにはまだ植物獣の繁殖が及んでいないということだな。
そして、ミサキは街道整備においても魔法で大きく貢献したという。森の中であいつのことを疑ってしまった俺とツバキは静かに、心の中でミサキに謝っておいた。
まあ、それも長い年月で数が減ってきているという。このままだと、あと何年かすればグリドリは植物獣大国になってしまうと男たちは嘆いていた。一応、グリドリの冒険者ギルドや騎士団が対策をしているらしいが、いつまでもつかと、領民たちも心配だという。
「あの植物獣たちは、斬っても焼いても再生を繰り返していくからなあ。どうしたものか……」
「何か方法は無いのですか?」
「一つだけある。植物獣を完全に消し去る方法はたった一つ。聖なる水をやって浄化すれば良い。それか、聖なる炎で燃やすか、だな。
そうすりゃただの植物に戻り、再生も止まる。だが、それをしようと思ったら、大量の聖杯がいる。流石にそれは無理だ……また、ミサキ様に頼むかな……」
男たちとツバキは森をどうにかする方法を話しているみたいだ。だが、結局答えは出ないようで、皆、頭を抱えている。
俺は、横でその会話を黙って聞いていたが、あることを聞いて、考えを巡らせていた。
そして、この数日間、分かりづらい道順の街道を歩かされたことからくる怒りと、その先で行きついて苦労して抜け出した森に対し、報復が出来るという喜びに体を震わせていた
「……ハアッッッ!!!」
―おにごろし発動―
俺は皆の前で、神人化し、飛び立つ。衝撃で辺りの荷物が吹き飛んでいく。
「ム、ムソウ様!?」
「あ、アンタ、な、何なんだ!?」
ツバキたちはいきなり神人化し、急に飛び立った俺に驚き、声を上げた。見開いた目で俺を見ているツバキたちに、口を開く。
「ツバキ! 少しここで待ってろ!!!」
ツバキにそう言うと、ツバキはピシッと姿勢を正し、ハイ! と言った。横でリンネは笑って前足を振っている。俺はそのまま、今まで歩いてきた道を戻り、森の上空で止まった。ほう……上から見たら確かに広大だな。
だが、俺達が前に野宿した場所も見える。そこまでは広くない。……そこまでの日数をかけないと抜けられないほどではない。
「ふざけんなああああッッッ!!!」
俺は叫びと共に無間を抜き高く掲げた。無間に気を溜め、大きな刃を形成していく。さらに大きくして、無間を回転させた。そして、俺の手の上に巨大な竜巻を起こす。その間に光葬針を出し、光葬雨の状態にし、竜巻に纏わりつかせた。
「さっさと浄化しとけッ! 奥義・光葬嵐雨ッッッ!!!」
俺は竜巻を森へと下ろした。神人化した俺の気で作られた竜巻はいわば、聖なる天界の波動を帯びた風となっている。それはさらに強い波動を帯びた光葬雨を伴い森全体に広がっていった。
上からでもよくわかる。異常な動きを続けていた植物たちの動きが止まっていく様子がな。
そして、黒かった葉は風の当たったところから鮮やかな緑色となっていく。波動が上手く当たらなかったところには上から、光葬雨を降らせて、浄化していった。
……しばらくすると、森全体は上から見ると全体が鮮やかな緑になった。地上に降りてみると、若々しい木々の匂いが鼻をつく。
そして、さらさらと風が吹くたび葉は歌い、木々の間から覗きだした木漏れ日は揺れている。遠くの方で魔獣が鳴いていた。
そうだ……これだ……森の中ってのは。これまで、鬱蒼としていただけに、それが当たり前なんだろうと思っていたが、そうじゃなかった。
この森もこんなに綺麗なものだったとはな……そう思い、俺はそのまま、地面に転がってみた。ああ……草も柔らかいなあ……。
久しぶりに感じる、穏やかな森の中という感覚に先ほどの怒りも落ち着きを取り戻していく。
ふと、空を眺めていると、何か小さな光が周りをふわふわと飛んでいることに気付く。俺が立ち上がると、それは俺を取り囲むように飛び始めた。
よく見るとそれは何かの生き物だった。小さな人間の女の様で、背中には蝶のような翅、頭にはこれまた蝶のような小さな触覚が生えている。そいつらはニコニコと笑いながら俺の周りを飛んでいた。早速鑑定眼を使う。
……
ピクシー
清らかな森に住む精霊の一種。めったに人の前には姿を見せない。温厚な性格でごくまれに森に迷い込んだ人間を出口へと案内する。
……
……ほう、なかなか姿を見せないという割には結構な数がいるな。ピクシーたちは飛びながら踊るように俺の周りを飛んでいた。
ひょっとして、汚れていた森を浄化した俺に感謝でもしてんのか? そう思い、ピクシーたちに指を向けてみた。すると、一匹のピクシーが俺の指に振れ、頬を当ててきた。
「……可愛いな、お前ら」
すると、ピクシーたちはさらに嬉しそうにした。すると、何匹かがどこかへと飛んでいき、何かを運んできた。そして、それを俺に渡してくる。受け取るとそれは小さな緑色の宝石が付いた首飾りだった。
「くれるってか?」
ピクシーたちにそう聞くと皆は頷く。俺は貰ったものを鑑定してみた。
……
ピクシーの首飾り
ピクシーたちが何世代もかけて作り上げた秘宝。ピクシーたちが深く感謝した者のみ手にすることが出来る。持ち主の能力を向上させる。価値時価。
……
……何かすげえもの貰ってしまった。それだけ俺に感謝しているということか……。恐らく俺が今持っているものの中で一番高価なものじゃないかと思う。
すごく微妙な気持ちになったが、嬉しそうな顔をするピクシーたちを見て返すわけにもいかないと思い、それを着けてみた。すると、ピクシーたちはニッコリと笑った。
「似合ってるってか?」
ピクシーたちは手を叩きながら、頷いている。ならいいや、と思い、ありがたく受け取ることとした。
そして、俺はさらにそのお礼にと、ピクシーたちに天界の波動を浴びせた。波動を受けたピクシーたちはさらに元気に俺の周りを踊りながら飛び回っていた。
その後、ピクシーたちと別れ、俺は森を飛び立った。ん? 首飾りの効果早速出てるな。何か体が軽いような気がする。良いものを貰ったな。
そして、日が傾きだした頃、ツバキたちの元に降り立った。
「ただいま」
俺はツバキたちに一言そう言って、神人化を解いた。そして、俺に寄ってきたリンネの頭を撫でる。すると、ツバキたちは恐る恐るという感じで口を開く。
「ム、ムソウ様、一体何を……」
「ちょっとな……」
「いや、ちょっとって……俺達にも説明してくれって! さっきの姿は何なんだ?ありゃまるで――」
「面倒だ。だが、もう大丈夫だろうということは言っておこう」
「それが一番わかんねえんだって! 何をしてきたんだ? それにその首飾り! それって――」
「もう良いじゃねえか。それよりアンタらって行商人だろ? どんなの売ってるか見せてみろよ」
そう言うと、口を大きく開けていた皆はガクッと項垂れ、諦めたように頭を抱えた。
そして、静かに俺の前で、品物を並べていく。俺が買い物をしている最中、ツバキは後ろでずっとため息をしながら、リンネを撫でていた。
その後、未だに微妙な表情で俺を見ている商人たちと別れて、俺達はクレナへと続く街道を進んでいく。流石にツバキには何をしたのか話した。
すると、ツバキは呆れたように、
「ムソウ様は各領地の抱えている問題を解決しないといけない性分なのですね」
と、呟いていた。だが、その表情はいつも俺に呆れているときよりはだいぶ優しい表情だ。
俺が、悪いか? と聞くと、いいえ! と笑って答えた。俺はその答えに満足し、その日は、日が暮れるまで街道を進み、クレナに入る少し手前の街で宿に寄った。何気にグリドリ最初の町だ。ゆっくりと身を休ませよう……。
数日後、人界にある一報が響き渡る。
「グリドリ領のピクシーの楽園、長きにわたる汚染状態から完全改善。グリドリ領及び王都では森を修復した者の詳細を求めている。」
その一報を聞き、とあるギルドの支部長は、いきなりやりやがったと笑い、ある魔法使いは、さっすが~! と感激し、また、ある商人たちは、黙っておいた方が良いのか? と頭を抱えていた……。
各領地の名前の由来は「色」です。どれが何色かわかりますか?(笑)
ただ、グリドリとリヨクが被ってしまったと後で気づきました。




