第113話―マシロの“闘将”を斬る―
「おっ! やってんなあ~」
しばらくリンネと闘っていたが、ふと、ロウガンの声が聞こえ、俺達は手を止めた。声のする方を見ると、いつもの格好とは違って、試験の時と同じように赤い鱗で出来たような鎧を身に纏い、愛刀「夏至と冬至」を携えたロウガンが俺達の方に歩いてきた。
俺は無間を背負い、リンネは小さくなって俺の肩に乗った。リンネに回復薬をやりながら、俺もロウガンに近づいていく。
「ずいぶん長かったなあ。用事というのは済んだのか?」
「ああ、すまないな。だが、もう大丈夫だ」
ロウガンはそう言って、ニカっと笑い、その場に座った。
「早速勝負を、といきたい頃だが、もう昼も近いし腹減ってるだろ? 先に飯にしようぜ」
そう言って、ロウガンは異界の袋から食べ物を取り出す。今作ったばかりといった感じに湯気が上るちゃんとした料理だ。異界の袋のこういう使い方も良いな、と思いながら、ロウガンの誘いに乗った。
俺もその場に座り、ロウガンが出してきた弁当を手に取る。
「ほら、リンネ、お前も食いな」
「キュウッ!」
弁当を指差し、リンネにそう言うと、リンネは肩から降りて、飯を食い始める。一口喰ってはうっとりとして、更に飯を食っていくリンネを見ながら、ロウガンはニカっと笑う。
「ほう……リンネも気に入ってくれたみたいだな。じゃあ、俺達も食うか」
「ああ」
俺達は手合わせの前にひとまず飯を食い始めた。腹が減ってはなんとやらだからな。それにさっきまで体を動かし続けて正直疲れた。俺も手を合わせ、弁当を食い始める。
「で、リンネの様子はどうだ?」
「まずまずだな。これなら次の旅も安心だ」
「お前のお陰で妖狐の詳細な情報も分かってきている。リンネにはこれからも大いに活躍してもらわないとな」
「お、ギルドの支部長らしい意見だな。まあ、今のところは超級の中位くらいの実力があると考えても良いだろう」
「まだまだ成長に伸びしろがあるってのに超級か。ひょっとしたらリンネは天災級の魔物にだってなるかもな」
「ただし、人間を襲わない、な。」
俺達はそんなことを話しながら飯を食っている。正直リンネの成長度については俺も驚いている。もはや、そこらの魔物なんて目じゃないくらい強い。妖狐ってこんなに強くなるのかと感心しながらも、何故、こいつの母親がゼブルに倒されたのかがいまいちわからない。まあ、いずれその謎も解けるのではないかと期待している。
「ところで、その鎧は何だ? 試験の時くらいにしか見たことないと思うが……」
「ああ、俺が本気で闘うときにつけるものだからな。素材にかつて師匠たちが倒した天災級の魔物、壊蛇の鱗が使われている。人界でも最高峰の防具だろうな」
お、噂の壊蛇の素材か。鑑定で視てみると、確かに俺の着けている鎧よりは力を感じる。並大抵の攻撃は通さないだろうな……。
「そいつはすごいな。というか、壊蛇ってどんな奴だったんだ?」
「バカでかい蛇さ。一口で街を食い、ただ這いずり回るだけで奴の通った後は何も残らないほどの大魔獣だ」
なるほど……それは確かに危険な存在だな。話を聞けば、壊蛇は突然この世界に現れたらしい。何の前触れも無く、現れ、何故か王都を目指して侵攻していったのだという。ロウガン曰く、恐らく人が居る場所を目指して進んでいったのではないかとのことだ。
その体躯を生かし、山を崩しながら進み、海を越えて人界各地に甚大な被害を及ぼしたらしい。
「そんな奴が居たのか……。だが、この世界の人間を見る限り、そこまでの被害は無いように感じるが」
「十二星天の方々が護り、倒し、世界を修復してくださったからだよ。サネマサ様を始め、それぞれの強力なEXスキルによって、人界は護られたのさ」
ロウガンはどこか昔を懐かしむようにそう言った。そういや、壊蛇によって荒れた大地をジェシカって奴と共に精霊人の長老が修復していった、と聞いたな。なるほど、皆のお陰でそこまで死者も出なかったというわけか。
「お前もいずれは十二星天の方々と同じように、そのEXスキルで偉業を成すのか?」
「コウカン殿にも言われたな、それ。俺は何かをしようとは思ってないぞ。性に合わねえ」
「勿体ないな……とは言いつつ、お前がこの世界に来て行ったことは結果的に言えば、精霊人の件も、デーモンの件も、呪いの件も、マシロを救っている。お前はマシロ領の救世主だ。そこを理解しとけよ」
「お前も、昔も今もマシロにロウガンありと謳われたほどの男らしいじゃねえか。そんな二人が、暇つぶしにと互いに手合わせをする……どこが立派なんだ?」
「ハハハッ! 違いねえ!」
俺とロウガンはそうやって笑いながら飯を食っている。俺にとってはロウガンこそ、真の救世主だ。俺の様な怪しい者を冒険者にしてくれたことは今でも感謝するべきことだからな。
こいつが認めてくれたからこそ、俺はホリーを救えたし、ウィズたちを救えたし、そして、この街を救えたんだ。ロウガンには本当に感謝している。
「……さて、飯も食い終わったし、やるか?」
「そうだな。せいぜい腹ごなし程度にならないよう、本気でやれよ」
ロウガンは、こいつめ! と言いながら笑って俺の胸を叩く。
そして、俺達は離れて向かい合った。
「……まだ、そんなに経っていないのに、この感じ……懐かしいな」
ロウガンはそう言いながら、刀を抜いた。俺も無間を抜きながら、返答する。
「ああ。血沸き肉躍るとはまさにこのことだ。思いっきり楽しむか!」
ロウガンの準備が整ったことを確認し、俺も無間を構えた。そして、ロウガンは大きく頷き、口を開く。
「では……冒険者ギルド、マシロ支部支部長“闘将”ロウガン、参る!」
「……天栄直轄傭兵部隊・闘鬼神二代目頭領“死神斬鬼”……改め、冒険者ムソウ、参る!」
「キュウッ!」
俺達の名乗りを聞き、リンネが合図を出すと同時に俺達は飛び出し、ぶつかった。
そして、その場で打ち合う。ロウガンは相変わらず二本の刀を同時に動かし、鉄壁の防御と強力な攻撃をしてくる。俺はそれらを躱し、受け、隙を突き、無間を振るっていく。
だが、それではなかなか、決着はつかない。すると、ロウガンは片方の刀、冬至を思いっきり俺に振ってきた。
「グッ! ……寒!」
刀を受け止めるも、冬至から出ているすさまじい冷気により、無間に霜が降り、俺の動きを鈍らせた。すると、ロウガンは俺に向けてもう一方の刀、夏至に炎を纏わせて上段から斬りかかってくる。俺は気合を入れてロウガンの腹を蹴った。
「ゴフっ!」
「剛掌波!」
吹っ飛んでいくロウガンに追撃の攻撃を仕掛ける。ロウガンは飛ばされながらも、地面に足をつき、手を出してきた。
「防御術・仁王! 獅子顎!!!」
ロウガンの手の周りに気が集まっていく。そして、それは獅子の顔を形どり、俺の技を受けとめ、噛み砕いた。
「へえ、気にそんな使い方があるのか」
「まあな、気功スキルを練習すればお前にもすぐ出来るだろうな」
ロウガンはそう言って、そのままその獅子の形をした気弾を撃ってきた。
「っと……大斬波!!!」
俺はそれに向けて特大の斬波を放つ。ロウガンの攻撃はかき消され、俺の斬撃はそのまままっすぐロウガンの方に迫っている。
「十字大斬波!!!」
ロウガンは二本の刀を交差させ思いっきり振り下ろした。サネマサがやっていたような×状の斬波が放たれる。俺達の攻撃はぶつかり、ギリギリと金属音をたてながら、相殺された。
……やるなあ。前は受け流すのもやっとだったのに……かき消すとはな……。いつ強くなってんだよと思いながら、俺は無間を手元で回転させ、大きな竜巻を作った。そして、その中に斬波を放っていく。
「む? ミサキ様との勝負でやっていた技だな? ならば、地固め・柱の陣!!!」
ロウガンは地面に手をつく。すると、土で出来た柱が幾本も地面から出てきた。身を守るつもりで出したのだろうが、あれじゃあ、簡単に突破できそうだな、と思い、俺は無間を前に向ける。
「喰らいな、螺旋斬波!!!」
竜巻は横向きになり、大きな風と斬波が渦を巻いてロウガンに向かっていく。ロウガンはその場から跳躍し、柱を蹴りながら、俺の技を避けている。ああ、ああやって使うのか。確かに上に逃げられたらこの技も不発に終わる。考えたな……。
そして、上をとられた。まずいなあ、と思い、俺は技を止め、無間を構える。
「良い技を見させてもらった。その刀を回転させる技、真似させてもらう!!!」
ロウガンはそう言って、柱の上で二本の刀をそれぞれ片手で回し始めた。おお、見ただけで真似るとはな。流石、サネマサの一番弟子だ。説明しないとできなかったゴウキと違い、呑み込みが早い……などと、感心しているとロウガンの両手に、炎を纏った竜巻と、冷気を纏った竜巻が現れた。
ああ、刀の特性に合わせた竜巻が出来たというわけか。しかし、相反する属性を自在に操るロウガン……。これは想像以上に厳しくなりそうか? そんなことを思っていると、ロウガンが笑い出すのが聞こえた。
「ハッハッハ! こいつはいいな! 双龍刃とでも名付けるか! そして、ムソウ、良い技をありがとう!」
ロウガンはそう言って、刀を振り下ろす。二つの竜巻は俺めがけて降り注いできた。俺は全身に気を纏い、飛び出す。
「ハッ! どういたしまして、だっ!!!」
―すべてをきるもの発動―
俺は飛び出しながら、スキルを発動させる。二つの竜巻に切れ目が見えた。俺はそれめがけて斬波を放つ。すると、竜巻は霧散し、消えていく。
「っと……やはり凄まじいな、お前のスキルは。
……だが、これならどうだ?」
ロウガンは、二本の刀を逆手に持ち、柄の先の部分を合わせて、そのまま頭上で回し始めた。すると、先ほどのものよりも大きな竜巻がロウガンの頭上に現れる。
そして、そこにロウガンはそれぞれの刀から斬波を射出した。凄まじい冷気と熱を浴びた斬波が竜巻の中で踊っている。
「これも斬ってみろ! ムソウッッッ! 奥義・双龍滅破!!!」
ロウガンはそのまま竜巻を俺に向けてくる。……うん、でかいな。そして、余波というか、なんと言うか、強い熱風と冷気が俺に襲い掛かってくる。流石、ロウガンだな。“闘将”と呼ばれることはある。
……だが、その技にも切れ目は見える。少し、寂しい気もするが、そろそろ終わらせよう。
「ロウガン、ここまで楽しかったよ。今から出す技は俺のとっておきってやつだ。死なねえように注意しろッッッ!」
そう言って、俺は無間を構えて竜巻に向かって跳び出した。ロウガンは笑い、更に刀の回転を上げる。強くなった竜巻が俺に迫ってくる。俺は無間に気を纏わせ、大きな刀の形にする。
「行くぜッッッ! 奥義・破界!!!」
俺は上段から力いっぱい無間を振るった。俺の作った巨大な刃はそのまま竜巻を打ち消し、ロウガンに迫っていく。ハッとしたロウガンはそれを受けようと刀を構えるが、意味はない。圧倒的な力を受けロウガンは吹っ飛んでいき、立っていた柱は砕け散っていく。吹っ飛んだロウガンは地面に激突した。
「ガハッ!!!」
ロウガンはそのまま動けないでいるみたいだ。俺はロウガンの元に下り立ち、首筋に無間を向ける。その際に、ありったけの殺意をロウガンにぶつけた。
―死神の鬼迫―
「終わりだ……」
俺がそう言うと、ロウガンはため息をつき、手を上げた。
「ああ……今度こそ本気で参ったぜ、ムソウ」
ロウガンはフッと笑ってそう言った。俺は無間をしまい、死神の鬼迫を解き、ロウガンに手を差し出す。そして、ロウガンを立たせて、回復薬を飲ませた。
「ったく……とっておきと言うから何かと思えば、気で作ったデカい刀をただ思いっきり振るっただけだったか」
「まあ、そう言うなって。俺の技の中でも一番単純かつ強力な部類に入るんだからよ。現にお前はそれで負けたんだからな」
「……返す言葉も浮かばないな。そして、死神の鬼迫で動きを止めるか……。その技にはやはり、これからも慣れそうにないな……」
呪の一件で、俺の殺意を浴び続け、気絶した経験を持つロウガンは、悔しそうにしながらも、すっきりとした表情で笑っていた。
すると、離れたところに居たリンネが走り寄ってきて、ロウガンの肩に上る。そして、リンネはロウガンの頬をペロペロと舐めだした。
「おっと! くすぐってえなあ、リンネ。ひょっとして慰めてんのか?」
「キュウッ!」
ロウガンの言葉にリンネは頷く。
「ハハハッ! 人に気遣いが出来るとは、すごいな、リンネ。
だが、心配無用だ。落ち込んでねえよ。強い奴と闘えて俺も満足だ」
「……キュウッ!」
そう言ってリンネはロウガンの肩から俺の肩に飛び移り、俺の頬を舐め始めた。今度は労いか? 俺はリンネにお返しと、頭を撫でてやった。ロウガンもリンネを撫でる。リンネは嬉しそうに笑っていた。
◇◇◇
その後しばらく、ロウガンと共に特訓をした。回復したロウガンと闘ったり、ロウガンとリンネを闘わせてみたり、と色々やってみた。ロウガンとリンネの闘いは、やはりまだロウガンの方に分がある。
しかし、何本かに一本はリンネが勝ったりもした。このことからロウガン基準でリンネは災害級下位くらいの実力があると言っても良いとロウガンからお墨付きをもらった。
ちなみに、ギルドの支部長は、種類によって変わってくるが、災害級下位の魔物なら、単騎で何とか倒せるといった強さらしい。つまりは、ギルド支部長は、災害級下位の力を持つことが条件であるという。
ただ、ロウガンは他のギルド支部長よりも僅かに強く、災害級中位の魔物なら一対一で倒せるらしい。
俺は、そのロウガンに勝ったので、災害級上位くらいかと呟くと、
「お前はミサキ様に勝ったんだから、間違いなく天災級だ。今後の身の振り方には、くれぐれも気を付けろよ」
と、釘を刺された。そんなことを言われてもなあ、と思っていると、更にロウガンは魔物の区分について教えてくれた。一体で街を滅ぼすくらいの力を持つ魔物は超級、領を滅ぼす可能性がある魔物が災害級、そして、世界を滅ぼす可能性を秘めているのが、天災級とのこと。
そう言われると、若干複雑だが、自分の力がこの世界でどの程度なのかということがよく分かる。ちなみに、十二星天は、もちろん全員、天災級の力を持っている。
壊蛇によって荒らされた世界を元通りに出来たということは、その逆も出来るということ。ミサキやサネマサ達は、それだけ責任のある地位に立っていると、ロウガンは語った。
あのミサキ達が……と考えると、なかなかこの世界も思い切ったことをするなあと思ったが、アイツ等の性格なら大丈夫だろう。世界を滅ぼすなんてことはしない。
そして、アイツ等の思いに応えるためにも、ロウガンの忠告はしっかりと護っていこうと誓った。
無論、リンネにも、そういうことは起こさせないようにする……が、コイツも大丈夫だろうな。ここまで人間のことが好きなリンネが、ミサキ達や俺達に牙を剥くということは無いだろう。俺が居なくなっても、元気に過ごしていけるように、今はコイツを強くさせるだけと思い、特訓を再開させた。
俺はロウガンに自分の技を伝えたり、ロウガンの技を教えてもらったりしている。刃風や、気を纏う防御術は出来るようになったが、気を獅子のような形にするのはどれだけ練習しても出来なかったのが唯一の不満だ。ロウガン曰く、
「ムソウはこういう精密なことをする性分じゃねえだろ」
ということらしい。……むう、確かに細かい作業は苦手だが、一つでもできないものがあると、やはり悔しいな。まあ、いいや。後々練習しておこう。
俺からは廻旋刀の扱いについてもう少し伝えておいた。指先だけでなく、手首、腰にひねりを加えるともう少し強力なものが出来ると伝えたが、ロウガンは出来そうもなかった。どこか体の動きがぎくしゃくしている。
「う~む……やはり歳かなあ。どうもうまくいかねえ」
「あれだけ闘っておいてか? 多分出来るはずだ」
「簡単に言ってくれるな……。まあ、良い。俺も練習してみるか」
ロウガンはポリポリと頭を掻きながらそう呟いている。いっそミサキに若返らせてもらえば? と言うと、なんだかおっかないからやめとくわと言って笑っていた。
ああ、俺も正直後のことを考えると、あれはあまりしない方が良いな、と考えている。
だが、いつの日か若返った、二人で闘り合うのも面白いなと思った。
さて、そうこうしているうちに、時間は経っていき、段々と日が暮れてきた。
「お、もうこんな時間か。この後はどうする? 最後に皆で飯でも食うか?」
ロウガンが汗をぬぐいながら、俺に聞いてきた。俺はその言葉に頷く。
「そうだな。ぜひとも頼む」
「あいよ。じゃあ、食堂で待っていてくれ」
ロウガンはそう言って、闘技場を後にした。俺は辺りの掃除をして、荷物を異界の袋へとしまい、リンネと共にギルドの食堂へと向かった。
席に着き、しばらく待つと、ロウガンが、リンス、マリー、リリー、エリー、ギリアンを連れてきてくれた。皆は思い思いに俺に声をかけていく。
俺は一人一人に今までの礼を言った。その後、食堂の奴らが腕を振るったという豪華な飯が俺達の前に運ばれてきて、俺達はそれを食べた。そして、また、皆と思い思いに話していく。
そうやって、夜遅くまで、俺のマシロ最後の夕飯の時は過ぎていった……。




