第111話―ロウガンの用事を済ませる―
レイカとの特訓は順調だ。ウィズの行う魔法による連撃についても、この数日間で効率よく魔力を使うことで、一気に消費し、すぐにばてるという短所を克服している。
そして、精霊人の長老がやっていたように、風や火の塊を辺りに展開し、一気に放つという技も、レイカは習得していた。
殲滅に向いては居るが、ただ、一つ一つの威力は小さい。自分に向かってくるだけの魔法を対処すれば、問題ないと指摘すると、今度は、それらの魔法にも、砲術スキルが適用するように練習していくと語っていた。そうなれば、今度は多方向から魔法をぶつけることが出来るとのこと。魔法だけで、ミサキがやっていたような追尾型の攻撃というのは、かなり難しいようであるが、レイカなら、すぐに出来るようになるだろう。
次に、迷彩トカゲの外套を使った時の注意点。先ほど教えて貰った、隠蔽スキルを上手く使えるようになるまでは、姿を消すことが出来ても、音や匂いなどは消せない。耳や鼻が敏感な魔物と戦う時は注意しろと、助言する。
ちなみに、何故、俺が、手合わせでレイカの位置に気付いたかという質問が来たので、地面の振動を感じたと、正直に話すと、それが出来るのは俺くらいと、呆れられた。
そんな相手に会うことは少ないだろうと高を括っているレイカに、恐らく闘いに長けた者ならば、出来る奴も多い。ロウガン辺りは出来るだろうと忠告すると、しばらく考え込み、自らの考えを改めるように頷いた。
年をくっているとはいえ、こういう素直さはそこらの子供並みだなと感じる。今回の呪いの一件のこともあるし、強くなりたいんだったら、これから先も油断するなと伝えると、レイカは力強く頷いた。
さて、しばらくレイカの特訓に付き合っていると、日が段々と傾いていることに気付いた。
「おっと……もうこんな時間か」
「え、あ……ほんとだ。確か、夕方に用事があるんだっけ?」
レイカの言葉を聞いて、あ、と思った。特訓に夢中になり、今日の夕方、ロウガンに呼ばれていたことをすっかり忘れていた。
「そうだったな。急いで帰らないと。悪い、レイカ。俺との特訓はここまでだ」
「良いよ、良いよ。おじちゃんのお陰で良い技が出来たし、これからは自分だけで出来るから」
レイカはそう言ってニコッと笑った。その後、レイカと別れて俺はリンネに跨った。リンネはすごい勢いでギルドの方へと走っていく。
そして、ギルドに着くと、リンネは小さくなって俺の肩に乗った。俺はそのままロウガンの待つ支部長室へと向かう。
ん? マリーが居ねえな。もう、業務は終わったのか? まあ、いいや。俺は気にせず、支部長室の戸を叩いた。
「冒険者ムソウだ」
「おお、来たか! 入れ」
俺は戸を開けて部屋に入る。中にはロウガン、リンス、マリーの三人とギリアンが居た。リンスはまだしも、普段は受付に居るマリーと、工房で仕事をしているギリアンが居ることが不思議に思い、首を傾げていると、ロウガンが、まあ座れと言うので、三人と向かい合わせになるように座った。
ふと見ると、机の上には、見たことが無いものが三つ並んでいる。一つは大きな立方体の金属。もう一つは真っ黒な球体。三つ目はこれも大きな立方体のものだが色は透明、水晶を四角にしたようなものだ。
「で、何だ、用事って?」
俺がそう尋ねると、マリーが口を開く。
「ムソウさん、先の呪いの一件。あれは元々私のお願いから始まったものでした。いつの間にかすごく大きな事件になってしまいましたが、貴方は見事、私の願いを叶えてくださいました。
そして、以前は私の故郷を救ってくださいました。遅くなりましたが、これらはそのお礼です」
マリーはニコッと笑って、俺を見た。ああ、何か礼がしたいとか言っていたな。別に良いのに、と言うと、それでは私の気が収まりません、と言われた。
精霊人の森の一件に関しては、ギルドの依頼ということで、報酬はすでに受け取っている。こればかりは、気にしなくて良いと思ったのだが、マリーとしては、個人的に、面倒な依頼を押し付けてしまったことへの罪悪感と、故郷と家族を救ってくれたことへの感謝として受け取って欲しいとのことだった。
先の呪いの一件では、ほとんど成り行きだったにも関わらず、いつの間にか大きな事態になってしまった事件に、巻き込んでしまったということで、受け取って欲しいとのこと。頭を下げるマリーを見ながら、ここで受け取らないのも野暮だなと思い、分かった、と頷く。
「俺達の分もあるからな。まあ、受け取ってくれ」
ロウガンはそう言って、目の前に出してある三つの物体を俺に渡してきた。
「わかった。では、貰うとするが……。これは一体何なんだ?」
不思議に思い、差し出されたものを指差しながら聞くと、リンスとギリアンが口を開く。
「そちらはミサキ様が産み出したものの中でも特に珍しいとされる三つの素材です。事情を聞いてくださったミサキ様が用意してくださいました」
「どれも貴重なものだからな。使うときはここぞって時にしろよ」
そう言って、それぞれの説明を始める。
金属の立方体のものは、永久金属。だが、ただの永久金属ではなく、不純物が一切含まれない、完全なものだという。これをもとに鍛えられた金属はオリハルコン、アダマンタイトと呼ばれ、強力な武具を作るための素材となるという。俺は元々、神刀である無間を持っているが、万が一というときはそれで鍛えろとギリアンは語った。
二つ目の真っ黒な球体は、亜空間コアと呼ばれるもので、異界の袋などの原料の一つという。袋や、箱、果ては洞窟内に組み込むと、任意の広さの空間が出来、自在に広さを変えられるという。使い道が特に思い浮かばないが、貴重なものということでありがたく受け取ろう。
最後の透明な立方体の物体は、賢者の石という素材だ。これは自由自在に任意の素材に変化するというものらしい。例えば、永久金属になるように念を送ると、この物体は永久金属になり、火炎鉱石になれと念じると、火炎鉱石になるという。ただし、一回限りだが。
「例えば、仮にその刀を強化したかったら恐らく永久金属ともう一つ何か別の強力な素材を求められるだろう。そういったときに使うと便利だぞ」
ギリアンは笑いながらそう言った。なるほど……。特にその予定はないが、万が一そのような状況になった場合は、いちいち素材集めをしなくても済むということか。確かに無間はこの世界のものではない。正直な話、前の世界でのもので材質も少しだけ他と比べて強いだけの鋼鉄という可能性もある。
この先、もっと強力な魔物に出会ったりして、無間が折れるということも視野に入れて、これらの素材は受け取った方が良いだろう。
俺は皆の言葉に頷き、三つの素材を異界の袋に入れた。
「ありがとう、マリーさん。慎重に使わせてもらうよ」
「いえいえ、こちらこそ本当にありがとうございました」
俺とマリーは互いに礼をして、互いに笑った。しかし、本当にいいものを貰ったな。お、そうだ。後でこれらを用意してくれたミサキにも礼を言っとかねえとな。
ちなみに、後で聞いたのだが、相応の金額をマリーはミサキに払ったという。正直な話、そこまでしなくても良いのになと思った。俺は、目の前の敵を斬っただけ。特に何もしていない。マリーがエリーやリリーと仲直りしたのは、マリー自身の優しさのおかげだからな。
まあ、金の方は返すというのも、マリーの優しさに水を差すということになるので、儲けたと思っているがな……。
そう思っていると、横で笑っていたロウガンが口を開く。
「さて、今度は俺の用事だ。昨晩話していた、伝令魔法の魔道具だ。これはこの辺りに頭を押し付けてだな……」
と、ロウガンは魔道具の説明を始める。魔道具は鳥の形をした置物にミサキがよく使っている魔法石というものに似たものがはめられている。
ロウガン曰く、そこに頭をつけて、送りたい情景を思い浮かべる。そうすることで魔法石にそれが記録され、設定した場所へと魔法が飛び立つということらしい。
「で、行き先はクレナのギルドに登録してある。この旅の最中に魔物を狩ったら、随時送ってみるといい。報酬が手に入るぞ。俺からは十ほど用意したが足りるか?」
「問題ないだろう。ありがとう、ロウガン」
「気にするな。それで、一応お前のことを書いた書状を今日のうちにアヤメに送っておいた。これで一応は大丈夫なはずだ」
ロウガンはそう言って、笑っていた。ああ、そういや、そんなことも言っていたな。だが、これで一応の準備は終わったか。
再度ロウガンに頭を下げた。まあ、俺としても自ら厄介事を起こすという気にはなれない。“あばれ姫武将”と云われるアヤメってのがどんなのかは知らないが、まあ、何とかなるだろう。そう思っていると、次にギリアンが俺に寄ってきた。
「でよ、ムソウ。クレナに行くってことでお前さんにこれを渡しておく」
ギリアンは懐から一枚の紙を出してきた。
「なんだ? これ」
「そいつは紹介状だ。職人の街クレナの中でも最高峰の腕を持つ職人の工房へのな。もしもさっきの素材を使ったり、何かまた珍しい素材を手に入れたら、そいつの所に行って、それを見せてみろ。悪いようにはしないはずだ」
「ふむ……。それは良いが、何で、アンタがそんなところの紹介状を?」
「その職人ってのが、まあ、なんと言うか、俺のダチでな。俺の作ったその装備もそいつ以外にはいじらせたくないからな」
「ああ、なるほど……。むしろ、クレナに行ったら他の工房には行かず、そこへ行けと言うことか」
「早い話がそうだ。あいつの腕は信用できるからな!」
ギリアンはそう言って、ガハハッ! と笑った。ギリアンほどの腕を持つ職人が信頼している職人か。確かに興味はある。この紹介状もありがたく受け取っておこう。
「ありがとう、ギリアン。ワイバーンの鎧に始まり、アンタには何から何まで世話になったな」
「気にすんなって。こっちこそ珍しい素材でいい仕事が出来た。また、よろしく頼むな」
俺はギリアンの言葉に頷き、固く握手をした。
そして、改めて皆の方を向く。
「皆、ありがとう。これで心置きなく旅立てる」
「おうよ。確か、明後日には出発だったか?」
「ああ、そうだが……」
「じゃあ、明日はどうするんだ?」
「明日は、ミサキ達を見送った後、どこかでリンネと特訓でもして過ごすつもりだ。旅の前にお互いの能力ってもんを知っとかねえとな」
リンネを撫でながらそう言うと、ロウガンはそうか、と頷き、何かを考え始めた。そして、横でリンスとマリーと何かを話している。
不思議そうに眺めていると、パッとこちらを見て、口を開いた。
「なら、ミサキ様を見送った後はその訓練に俺も付き合ってやる。場所はここの試験会場だ」
ロウガンの言葉に驚く。つまりは俺と闘ってくれと言っているようなものだからな。嬉しいが少し、心配事がある。
「それは、ありがたい申し出だが、仕事の方は良いのか?」
そう言うと、リンスが笑って頷いた。
「ええ、明日は冒険者登録の申請もありませんし、それに支部長としての業務もほとんど片付いております。
……呪いの一件の遅れがたった一日で済んでしまうとは、私も改めて支部長のすごさに驚いています」
「褒めるなって、リンス。だが、まあ、そういうことだ。明日はお前に付き合ってやるぞ」
ロウガンは笑ってそう言った。俺も笑い、ロウガンと握手をする。
「では、最後にアンタの胸を借りるとしようか」
「おう! 楽しみにしてろ。試験の様にはいかないからな!」
これでも“武神”サネマサの一番弟子だった男、つまりツバキたち武王會館の門下生よりもサネマサの教えを継いだ男だ。闘うのが楽しみだな。最後の最後にこうして手合わせをしたかった奴と闘えるってのも、やはり幸せなことだな、と感じ、俺は部屋を後にする。
さて、明日も割と忙しいみたいだ。今日の所は早く寝よう。そう思い、飯を食った後、すぐに布団をかぶった。リンネも眠そうにし、俺の横で布団をかぶって、目を閉じた。
「おやすみ、リンネ」
「キュウ……zzz」
リンネはすぐに寝息を立て始めた。それを見て、俺も目を閉じ、ゆっくりと眠っていった……。
基本的に絵文字は面白いんで使っています。特に使うのはリンネに対してですね。今回もzzzというものを使用しました。一番気に入っているのは「キュウ~♨」です。これからも事あるごとに使っていきます。




