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古今無双の傭兵が異世界へと行っちゃった話  作者: やまだ和興
“死神斬鬼”を語る
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第105話―昔話を終える―

「……とまあ、こんな感じで俺はこっちの世界に来たわけだ」


 俺は、皆の前で昔話を終えた。皆は飯を食いながらもうんうんと、俺の話を最後まで聞いてくれていた。

 ふと、周りを見ると、いつの間にか、一般の奴らは帰っていた。それほど、話に熱中していたのかと少し反省する。

 だが、それでも、騎士団や、ギルドの奴らは残っている。そいつらも、途中から俺の話に聞き耳を立てるようになり、中には、涙を流している奴もちらほら居る。

 泣くほどの話かなあと、頭を掻きつつ、酒を呑んだ。

 そして、静かになった場で、最初にロウガンが口を開いた。


「……それで、お前は本当にもう前の世界に未練はないのか?」


 俺は少し、考えながら、ロウガンに返す。


「……正直なところ、完全にないとは言い切れないな。皆が幸せになっていく様をもう少し見て見たかった気がするし。

 だが、ここまで来たら、どうしようもないからな。あきらめはついている」


 ひょっとしたら、実はあっちの世界で俺は死んでいて、ここは、死後の世界なんじゃないかとも、何度か思ったりもした。むしろ、そっちの方が、合点がいくからな。

 ただ、今のアイツらなら俺が居なくても充分幸せだろうという確信もあるから、そう言う意味でも何となく未練とかは消えている。


 そんなことを思っていると、ふと、ミサキが俺に声をかけてきた。


「……ムソウさん」

「ん? 何だ?」


 ミサキも最後まで話を聞いてくれていた。俺がサヤたちを喪うまでのことは知っていたようだが、そこから先は知らなかった。

 ハルマサ達と出会ってからの話を進めていくうちに、ぐずっていたミサキも、段々と表情を明るくさせていった。


「……前の世界に未練を持っている迷い人は多いよ。私も思うところはあるし……サネマサさんも前の世界でやりたいこと、まだあったって言ってた。

 でも、私達は死んじゃったから、仕方ないって納得して、この世界を生きていこうって思ってる。……それって、やっぱり駄目なのかな?」


 ミサキは俺に寂しそうに、そう聞いてきた。まあ、ミサキも違う世界から来た人間だ。前の世界にも友人や家族は居たわけだしな。やはり思うところはあるのだろう。俺はミサキに、俺が思っている答えを示した。


「駄目かどうかはわからないが、じゃあ、ミサキは今、不幸なのか?」


 すると、ミサキは、そばに居たウィズ、ハクビ、レイカ、それから卓を囲む皆を見渡して、ニコリと笑った。


「い~やっ! 私は今、とっても幸せだよ!」

「じゃあ、良いじゃねえか。前にお前が俺に言ってくれただろう? 今ここに、俺が居る。それだけで充分だって。多分、そういうことなんだろうよ。 

 ……あと、俺は今も幸せだからな。こうやって昔の仲間たちと同じくらい信頼できる奴らに会えて、嬉しい」


 俺がそう言うと、ミサキは笑って頷き、皆も笑顔で頷いてくれた。


「あ、でもミサキはその中には……」


 と、首を傾げながら言うと、ミサキはバンッと机を叩いて立ち上がり、コラ~! と怒った。俺が、冗談だ、と笑って言うと、ミサキは腕を組んで座り、俺達はさらに盛り上がっていった。


「……さて、そろそろ良いか」


 宴会が盛り上がる中、俺はそう言って、ギリアンに視線をやる。ギリアンは頷き、俺の方へ来た。皆が不思議そうな顔をする中、立ち上がり、皆の方を見る。


「宴もたけなわってところで、此度の事件に関して、何人かに渡したいものがある……。

 まずは、リンスと、マリーさん。来てくれ」


 俺はそう言って、二人を見る。マリーの方は何のことかわかっているみたいだが、リンスはキョトンとして、俺の方に来た。


 すると、ギリアンは異界の袋から、俺が頼んでおいた二人の新しい服を取り出す。何も知らないリンスは目を見開いていた。


「え、ムソウさん……こちらは……」

「ああ。ミリアンの家で俺が汚してボロボロにした服の弁償だ。受け取ってくれ」


 不思議そうな顔をしているリンスにそう言って、俺は二人に新品の着物を渡した。着物を受け取ると、二人は嬉しそうにし、俺に一礼する。席に戻ると、リンスはロウガンにやったじゃねえか、と背中を叩かれ、むせていた。


「……いや、ロウガンも後で何か贈ってやれよ」

「お、お前に言われなくても買うって!」


 先ほど、謝罪はあったが、ロウガンも二人に何かするべきだ。俺の言葉に取り乱すロウガンだったが、ワイツ卿が頷き、正式にこの場で指示したことにより、ロウガンも後日、二人に何かを贈るという手はずになった。リンスとマリーは微妙な表情をするロウガンの前で、何を貰おうかと楽しそうに話し合っている。


 ふと、ツバキの方を見ると、あれ、私は……という目で俺を不満げに見ていた。俺はツバキに視線を送った。


「よし……じゃあ、次に、そこで不満そうにしているツバキ、前に出ろ」


 ぱあっとツバキは表情を明るくさせて、俺の前に立って、目を輝かせる。俺がツバキに着物を渡すと、ツバキは大事そうにそれを抱えて、嬉しそうに笑った。

 ちなみに素材はベヒモスの髭で、俺と同じように羽織もつき、更にギリアンが作ったと言うと、更に喜び、ギリアンにも頭を下げていた。


「ありがとうございます! ムソウ様!」

「ああ。……だが、お前にはこれだけじゃない」


 俺は更に、自分の異界の袋から、色々と取り出していく。そして、皆の方を向いた。


「ツバキは今回の一件で誰よりも血を流し、闘っていた。

 だが、そんな状態にも関わらず、俺をしっかりと看病してくれていた。おかげで俺はこの通り、元気になることが出来た。俺はこいつに感謝の品を贈りたいと思う」


 俺がそう言うと、皆は納得してくれたみたいで、頷いた。実際闘った、ハクビに関しては、何度も頷いている。……アイツ、まだ酔ってんな……。


 俺は目の前で嬉しそうな顔をしているツバキの首に一点目の褒美として首飾りをかける。


 最近この街の露店で見つけたもので、今日買ったものだ。魔物の爪とキラキラと輝く鱗がついていて、とてもきれいなものだった。ツバキはそれを手に取り、不思議そうに眺めている。


「ムソウ様、こちらは?」

「そいつは、俺がこの世界で初めて倒した魔物、ワイバーンの爪と鱗が使われた、首飾りだ。よくはわからねえが、剣術スキルが少し向上し、肉体の耐久性が上がるらしい」


 ツバキはその首飾りを眺め、ニコリと笑った。詳しい説明は後でギリアンにしてもらうとして、次に、取り出したのは木で作った彫像だ。クナイを構えて今にも駆け出しそうな、小さな女の子が彫られている。


「コイツは……前の世界で、俺が最も信頼していた仲間の一人、ツバキだ。何となくこれが良いんじゃないか、と思って作っといた」


 ツバキは彫像をじっくりと眺めながら、クスっと笑みを浮かべて、それを受け取った。


「ありがとうございます、ムソウ様!」


 ニコッと笑うツバキ。やはり、アイツと違って、表情豊かだな。まあ、どちらも可愛らしいということに変わりはないが。

 ミサキやエリー、それにレイカたちが、彫像を見せてーとか言っているが、ツバキは、駄目ですと言って、そそくさと懐に仕舞った。アイツの可愛さを独り占めしたいらしいのか……?

 まあ、良い。喜ぶツバキに、俺は最後の品を渡す。


「……最後はこれだ」


 俺の手の上にあるのは一本の簪だ。飾り部分には翡翠と紅玉が使われ、椿の花が付けられて、キラキラと輝いていた。


 ツバキは目を丸くして驚いている。


「……え……こちらは……」

「ああ、前の世界で俺がツバキに買ってやったものだ。

 ……実はな、ハルマサとツバキが祝言を挙げる際に、私はこれからはハルマサの妻と言って、返されたものだ。

 いいからつけとけよ、と返そうとしたのだが、浮気はダメと無理やり受け取らされてな。まあ、俺が持っていてもしょうがないから、お前にあげることにした」


 俺は笑いながら、ツバキの髪をまとめ、頭にかんざしを差した。ツバキの頭の上で、かんざしは綺麗に輝いている。


「へえ……似合ってんじゃねえか」


 俺はツバキに鏡を向けた。ツバキは鏡を見て、かんざしに手を触れながら、感触を確かめているようだ。

 そして、パッと俺を見て、


「このようなものを……本当に……ありがとうございます」


 と、目に涙を浮かべながら、俺に跳びついてきた。


「おいおい! ……まあ、いいや。今日だけは特別だ」


 俺はそのまま、ツバキを抱き締めながら、頭を撫でていた。皆はキョトンとしたり、口を大きく開けていたりと、様々な表情でそれを眺めていた。

 コウカンとリュウガンは何やら、仕方ないなという表情で、やれやれ、と笑っていた。


 ◇◇◇


 俺とツバキはその後、席についた。ツバキは嬉しそうに俺がやったものを眺めながらニコニコとしていた。横から、リュウガンが羨まし気にそれを眺めているのを見て、コウカンが、後で何か買ってやると言うと、リュウガンはツバキと手を叩き合って喜んでいた。

 仲が良いな、アイツ等。そして、欲しいものを次々と言っていくリュウガンに、コウカンは、出来れば安価なものをと言いながら、財布を眺めている。騎士団の師団長と、ギルドの支部長が、それぞれ財布を眺めながら、あたふたしている姿に、俺とワイツ卿は笑っていた。

 そして、なおも俺が渡したかんざしを揺らしながら、嬉しそうにリンネを撫でているツバキを眺めていると、ミサキがこちらを見ながらニヤニヤしていることに気付く。


「ムソウさ~ん、浮気はダメだよ~」


 などと、頬杖を突きながらそう言っていた。どこかで聞いた台詞だな。浮気じゃねえって、まったく……。

 すると、ここで、横に居たシロンが袖を引っ張ってきた。


「……おじちゃん」

「ん? 何だ、シロン」

「勝負の約束……おじちゃんはミサキ様に……何を頼むの?」


 シロンの一言に、皆、一斉に固まり、こちらを見てきた。ミサキに関しては、頬杖をついたまま、だらだらと汗を流し始めている。


 そう言えば、そんなこと言っていたな。確か、負けた方は勝った方の願いを三つまで必ず叶えることというのが条件だったか……。シロンは何か期待する目で俺をジッと見ていたが、特に思い浮かばないんだよな……。


 ……あ、良いこと思いついた。


 俺は、ミサキに視線を送る。ミサキはビクッとして、俺から視線を外そうとしたが、シロンがミサキをジーっと見続けると、観念したようにこちらを見てくる。


「……はあ~……分かったよ……何でも言うこと聞きますう~」


 ミサキは渋々と言った感じでそう言ってきたので俺は笑顔でミサキに、


「じゃあ、一つ目の頼みだ。今晩、ギルドに泊まるから、夜、俺の部屋に来い」


 と言った。するとミサキは顔を赤くしだして、ガタっと立ち上がる。皆はパッとこちらを見てきた。


「ム、ムソウ殿、な、何をする気なのだ?」


 何故だか、コウカンが慌て出した。


「ん? いや、ミサキに俺の秘密を見せようと思ってな……」


 俺はコウカンにそう言った。まあ、願いというほどのものは無いが、前から決めていたことだし、いい機会だなと思っていたからな。

 それにミサキともあと少ししか会えねえから今のうちに、と付け加えると、コウカンは天を仰ぎ、何やらぶつぶつ言っていた。なおも騒いでいる皆を不思議に思う。

 唯一、真顔なのはシロンとウィズくらいだ。ウィズも俺と同じような顔をして、首を傾げながら、皆を眺めていた。何か変なことを言ったかと思い、ワイツ卿に視線をやる。


「ん? 何かまずいことを言ったか? 負けたミサキは勝った俺の願いを何でも叶えるってことで良いんだよな?」


 俺は「何でも」を少し強調させてワイツ卿に聞いてみた。ワイツ卿は、困ったような表情をして、


「う、うむ……まあ、そうなのだが……。ちなみに、ムソウ殿。他の願いは何だ?」


 と、言ってきた。

 他……あと二つか。何しようかな……と、そうだ。


「ああ。ついでにミサキの秘密ってやつも見ておきたいな! 少し、興味がある」


 ワイツ卿にそう言うと、皆は更に慌てだし、レイカに関しては、おじちゃんのえっち~~~~!!!と、指さしながら言ってくる。

 ……えっちって何だ? 意味は分からないが、皆は何か勘違いしているんだろうなあと何となく思った。

 すると、こちらも慌てた様子でツバキが俺の肩を叩いた。振り向くと、ツバキは小声で、俺に話しかけてくる。


「ムソウ様、何故そのようなお願いを!?」

「何故って……お前が教えてくれたじゃねえか。ほら、例の……」


 俺は少し、怒ったような表情のツバキにボソッと言うと、ツバキは何か考え込み、ハッとして、なるほど、と言うように手を叩いた。


「なんだ……私はてっきり……」

「ん? 何だ?」

「あ、いえ、何でもありません」


 ツバキは俺にそう言って、ニコリと笑った。それを見たロウガンはツバキを指差す。


「お、おい! ツバキ! 何納得したような顔してんだ!? お前は良いのか!?」


 ロウガンは、ほとんど怒っているような、慌てているような感じだ。ツバキはすました表情でロウガンに振り向き、ニコッと笑って頷く。


「ええ、私は構いませんよ。確かに、これはミサキ様しか出来ませんからね!私にはとても……」


 ツバキの言葉に、ロウガン達は、口をあんぐりと開けて、ガクッと俯いた。ミサキは顔を赤くしたまま、目に涙を浮かべ始め、騒ぎ出す。


「ちょ、ちょっと! 皆諦めないでよ~! わた、私の味方はもう居ないの~!!!」


 などと言いながら、ミサキは騒いでいる。すると、今まで不思議そうに皆を眺めていたウィズがパッと立ち上がり、ミサキの肩を持つ。


「まあまあ、ミサキ様。言い出したのはミサキ様なのですからちゃんと言うことを聞きましょう」


 ウィズは優しくミサキにそう言った。すると、ミサキはパッとウィズを見て、信じられない、という表情をした。


「ま、待ってよ! ウィズ君は良いの!?」

「え、俺ですか? 別に構わないと思いますよ。よくわからないですが、ミサキ様ならなんとかなるでしょう!」


 満面の笑みのウィズに対して、ミサキは目を見開き、ガクッと項垂れ、椅子に座った。


「……俺、何か変なこと言いました?」

「いえ、何も変なことはありませんよ」

「至極、まともなことだと思うが……」


 不思議そうな顔をしてそう言ってくるウィズに、俺とツバキはそう返してやった。なら良いです、とウィズは椅子に座り、食事を続けた。それを見た、皆は何か諦めたように俯き、食事を続ける。

 ちなみにシロンもずっとリンネを撫でながら、その光景を見ていた。俺も不思議そうな顔でこちらを見上げてくる、リンネの頭を撫でながら皆を見ている。

 すると、俯きながら、ぼそっとミサキが、


「うぅ……わかったよ~……やればいいんでしょ~……」


 と、諦めたようにに呟くのが聞こえた。何か、難しいことでも頼んでしまったか? 

 まあ、良いや。約束は守ってもらうからな……。


 ◇◇◇


 その後、宴会が終わり、皆と別れた。ただ、シロンがリンネと離れたくなさそうな顔をしていたので、ひとまず今晩はリンネをワイツ卿の家に預けてもらうことにした。

 未だ、微妙そうな顔をしているワイツ卿に頼むと、快く引き受けてくれた。その後、リンネは大きくなり、シロンとシーロを背中に乗せてワイツ卿の家に向かった。


 さて、俺は今日も、ギルドの一室を借りた。そして、戸に鍵をかけて、誰も周りに居ないことを確認した。


「……よし。ちょっとやってみるか」


 俺はそう呟き、無間を構えた。


 ―おにごろし発動―


 無間は輝きだし、光が俺を包んでいく。その後、俺の神人化が完了した。

 そして、俺は自らに光葬雨を放つ。すると、俺の体はきれいに……もとい浄化されていく。ミサキとの闘いで埃まみれの汗まみれだったからな。それに今日はもう疲れた。いちいち体を拭くのは面倒くさいと考えてのこれだ。

 俺は、神人化を解き、寝間着に着替えた。よし、完璧だな……とは思ったが、やはりこれは一人でやった方が良いな。恥ずかしい……。

 その後、窓辺に座り、そこから外を見た。今日は満月だな、と思い、異界の袋から、先ほどの宴会でくすねた酒を取り出し、呑んだ。

 やっぱり、こっちの酒も美味いな、と感じていた。だが、やはり……。

 俺は少し、可笑しな気持ちになって、笑った。前の世界に未練があるとしたら、あの酒を飲めなくなったことくらいかな、と思っていた。

 すると、ここで、部屋の戸を叩く音が聞こえた。


「ん? 誰だ?」


 俺は部屋の外に声をかける。すると、蚊の鳴くような小さな声で、


「……ミサキです」


 と、返ってきた。先ほどの宴会から思っていたが元気ねえ声だな。いつもとは大違いだ。俺は、おう、と返事をして、戸を開けた。


「あ? 何だ、その恰好」

「……この方が良いと思って」


 ミサキを見て驚く俺に、ミサキはボソッとそう言った。ミサキは旅の時に見ていた可愛らしい寝間着ではなく、何故か白い長着を着て俺の前に立っていた。何だ? 俺に合わせてくれたのか? にしたって白装束って……まあ、良い。


 取りあえずミサキを部屋に入れて、俺の前に座らせる。ミサキの目は虚ろで、焦点が合っていないように見えた。


「何だ? お前、大丈夫か?」

「……大丈夫です……早く始めましょう」


 まだ酔っているのかなと、心配になって声をかける俺にミサキはそう言って、俺の方を見てきた。喋り方もいつもと違うが、気にせず、俺はミサキを見つめる。


「じゃあ、始めるか」


 そう言って、俺はミサキに顔を近づけた。ミサキは顔を赤くして、目を閉じた。ドクンドクンと鼓動のようなものがミサキから聞こえる。何、緊張してんだ? と思い、俺はミサキの額に自分の額を当てた。








「……へ?」


 すると、ミサキが間抜けた声を上げた。俺は急に変な声を上げるミサキに驚き、パッと顔を離す。


「何だよ、やり方違うのか?」

「へっ? な、なに? やり方? わ、私が知るわけないでしょ! 初めてなんだもん!」


 ミサキは何か怒ったように俺にそう言ってきた。


「は? 何言ってんだ? お前、前に俺が寝てる間にやったって言っただろう?」

「何言ってんの!? そんなことするわけないじゃん!」


 ミサキはパッと立ち上がり、顔を真っ赤にして、俺に怒鳴ってくる。


「わ、私は! そんなふしだらなことしないもん!」

「だから、さっきから何言ってんだ! 前に俺の記憶を魔法で視たって言ったろうが!」


 てっきり、リンネがサヤに化けた時と同じく、額と額を合わせれば、頭の中を覗き込むという魔法が出来ると思ったのだが、違うのか? それに、さっきから話もかみ合っていない。一体何を考えていたのだろうかと思っていると、ミサキは真顔になって、何か宙を見ていた。そして、しばらく経った後……


「あ……ああ!!! ……ああ~~~!!!」


 と、叫んで顔を抑えた。何、急に慌ててんだ? こいつ。そんなことを思ってミサキを眺めていると、ミサキはビシッと俺に指をさす


「まぎらわしい!!!」


 ミサキはなおも顔を赤くして、ほとんど泣いていた。俺はミサキの手を払いながら立ち上がった。


「紛らわしいって何のことだ!」

「ムソウさん、まぎらわしいよ! 私、すごい、頑張って覚悟を決めたんだからね!」

「だから、何のことだって聞いてんだろ!? ……そう言えば、宴会の時から様子がおかしかったが、俺がお前に何をすると思っていたんだ!」

「夜に男の人が女の人に部屋に来てくれって言ったら、一つしかないじゃん! 本当に焦ったんだからね!」


 どういうことだ? と、俺は宙を見上げ、考え込む。……そして、ある一つの考えに思い至った。俺は頭を抱え、ミサキを睨む。


「あのなあ……お前って奴は……」

「なによ! 変な言い方するムソウさんも悪いんだからね!」

「はあ~……前から言ってるように、俺の愛している女は昔も、今も、これからも、サヤだけだ。他の女とはそういうことする気にはならないって」

「でも、お互いに合意の上ならするんでしょ!?」

「そうは言ったが……俺が合意するとはあり得ないと思うが?」

「前の世界ではツバキちゃんとも寝てたって言ったじゃない!」

「い、いや……それは……あ~!!! もうめんどくせえ!」


 俺はそう言って、ミサキを自分に近寄せ、頭部を両手でつかみ、額を当てた。


「もういい! 視てみろ! 俺がどういう気持ちだったかを!」


 ミサキに怒鳴ると、ミサキもムッとした様子で、俺のこめかみあたりを押さえた。


「じょーとーよ! 感応可視!」


 ミサキが呪文を唱えると、以前は感じなかったが、俺の意識の中に、ミサキの意識が入ってくるような不思議な感覚がした。


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