第106話―ミサキと秘密を見せ合う―
今回はムソウの過去、ダイジェスト版+私達の世界をムソウさんが見たらと言う感じで書いてます。
会話多めですので、読みづらいかも……。
ミサキは魔法を唱えると同時に目を瞑って黙り込んでいる。俺はどうすればいいのかわからず、茫然としていた。
「……で、俺はどうすればいいんだ?」
「とりあえず、色々思い出してみて。まずは……じゃあ、ツバキちゃんから!」
言われるがままに、俺はツバキのことを思い出した。いつも横で俺を護ってくれていたツバキ。ほとんど一緒に居たから、思い出すのはそんなに苦労しない。すると、ミサキが声を上げる。
「わっ! この子がツバキちゃん!? ちょ~かわいいじゃん!」
「お? 視えるのか?」
「うん。この魔法は他の人の頭の中の情景を私の頭の中に映すって魔法だからね~。それにしても、ツバキちゃん……本当に可愛い。
なんと言うか……こう……ぎゅっとしたくなるような……」
ミサキはツバキの感想をうっとりするように述べていく。ああ、本当に視えているみたいだな。先ほどまでとは打って変わって、言葉の中に怒気が無い。
俺はさらに思い出していく。俺が斬られて、必死な形相で俺を呼んでいるところ、目を覚ますと、俺にもたれかかって寝ているところ、桃大福を食べて喜ぶところ、そして、俺がかんざしを買ってやったところ。
「あ、これがこっちのツバキさんに渡したかんざしを買ってあげた記憶ね」
「ああ。かんざしを付けたツバキを見た瞬間に、本気で可愛らしいと思ってな……衝動的に財布を開けていた」
「似合うもん、可愛いもん! それは正解だよ~!」
「だろ?……で、そんなツバキが夜、俺が寝ようとしていたら、隣に来るんだ。お前なら、こういう時、どうする?」
俺はその時のことを思い出す。かんざしをぎゅっと握って、何か訴えるような目で見てくるツバキの記憶を。すると、ミサキは、
「一緒に寝るね」
と、即答した。俺は、フッと笑い、だろ? と返してやった。よしよし、誤解が解けて何よりだ。
「ムソウさんはどちらかというと、ツバキちゃんを娘みたいに思っていたの?」
「ああ……言われてみればそうかも知れないな。仲間という以前にそういう目で見ていたかもな……結局祝言では親代わりだったし……」
「そうかあ~。納得!」
「おお、ありがとう、ミサキ」
「は~い! ……で、ツバキちゃんと結婚したのが確か……」
「ああ、そうだ。ハルマサだ」
俺はハルマサを思い出す。俺と喧嘩したところから、仲直りをしたところ。その後、一緒に飯を食ったり、ちょっとのことで喧嘩したり、怯えさせたりした記憶。ミサキは何やらうんうん、と頷いている。
「あ……なんとなく私に似てる感じかな?」
「似てる? どこがだ?」
ミサキの言った言葉の意味が分からなかったので聞き返してみると、ミサキはボソッと、
「……ムソウさんに怒られてるところ」
と言った。確かに似ていなくもないが、ミサキはハルマサと違って、ちゃんと反省してくれるからな。そこは違うと思った。
「う~ん……そうかあ?」
「あとさ……ちょっと、馬鹿っぽいとこ」
俺が首を傾げていると、ミサキはそう言った。おお、自分で認めているとはやはりミサキはハルマサよりはだいぶ賢いな。
「ああ、そこは似てるな。普段は部隊長然としているのに、肝心なところであいつは馬鹿だ。そういや、お前に似てるな」
「くぅ……なんとなくムカつくけど、自分でもそれを認めているだけに何も言えない……」
「まあ、だが……アイツのおかげで、ただ死に場所を求めて闘っていただけの俺は、また前に進むことが出来たんだ。そこは今でも感謝している」
「確か、この人と……タカナリさんだっけ? ムソウさんを昔から知っていた……」
「ああ、そうだ」
俺は次にタカナリを思い出した。俺と再会したところ、しょっちゅう俺に頭をさげていたところ、時々、昔を懐かしむように酒を呑んでいたところ、大陸王になった時の記憶。
「……何というか、立派なおじいちゃんって感じだね」
「そうだな……ただ、俺の偽物に刀を抜いたときは驚いたぞ。普段は温厚なタカナリが、まさか俺よりも早く刀を抜き、目の前の飯を蹴り上げたんだからな」
「えーと……ムソウさんの偽物の奥さんが、サヤさんの着物を着ていた時だよね?」
「ああ。そいつらを睨むときのタカナリの眼光は今でも強く記憶に残っている」
「あ、この時だね……本当だ、すごく怒ってるのがよくわかる。……確か、ムソウさんの親代わりだった人の親友だったんだよね?」
「今考えれば、タカナリがエンヤの友だったというのは何となく納得できるな……」
タカナリは基本的には好々爺そのままだったからな。偶にだが、どこかへ散歩して帰ってくると、アキラやツバキに何かを買って渡しているのを眺めたことがある。
それを見ながら、何であいつ結婚しねえんだろうと思っていたが、案の定、エンヤが好きだったとはな。タカナリとエンヤがもし夫婦だったとして……ああ、でも何となく良さそうだな、と思うな。
「そうかあ~……ね、他の人たちも視せて!」
「おお、良いぞ。……じゃあ、まずは……」
俺は最初にトウヤを思い出した。俺の鎧や無間を修繕しているところ、祝言を挙げて村に返ってきた時の記憶。玄李を落としてからも、しょっちゅう一緒に居たからな。コイツを思い出すのも難しくない。
「へえ~、これがトウヤ君か~。何というか、真面目そうというか……」
「実際、真面目だったぞ。それに仕事も綺麗で、俺はよく世話になっていたな」
「でもこの子って、ムソウさんたちの中で、最初に結婚したんだよね?」
「ん? ああ。実は、トウヤの方が奥さんの方に惚れていたらしい」
「え、そうなの? てっきり、奥さんの人が、そんなトウヤ君の真面目なところとか、一生懸命作業をしているところとかに惚れたんじゃ……」
「いや、俺もそう思ったんだが、その奥さんもすごく、几帳面に仕事をする奴でな、トウヤは自分以上に仕事が出来るソイツを見て、憧れが、段々と恋に変っていき、二人は夫婦になったと聞いたな」
「真面目な性格の二人の夫婦か……なんか、大変そうだね……」
「そうだな……俺とサヤみたいにどちらか一方に無いものをお互いで支え合うような感じでは無いからな……」
俺がそう言うと、ミサキはうんうんと頷く。ミサキにもそういう経験あるのか? と聞くと、私って時々ダメダメだからそういうところを支えてくれる人がいいな、言った。
……ああ、だからこいつ、ウィズに惹かれてんのか。なんて、思っていると、ミサキが口を開く。
「でも、そんなトウヤ君たちにもやっぱり弱点とかあるかも知れないね。完璧同士だったら、どこかで反発するはずだから……」
「……お前って時々、なかなか鋭いことを言うときあるよな……まあ、確かにそうだな。あの二人もどこかで、何かを補い合っているのかも知れないな」
そういえば、確かにトウヤは珍しいものを見たりすると、財布が緩むという癖があったな。海向こうの国の品を買い付けるために興那に行く時などは、奥さんの方から、決して主人から目を離さないでと、釘を刺されたことがしょっちゅうあった。そういった点では、トウヤも完璧な男というわけではなかったのかも知れないな。
「そう言えば、他に結婚した子もいたよね?」
「ん? ああ。じゃあ、次は……アキラだ」
ミサキに促されるまま、次にアキラのことを思いだした。動物たちと触れ合うところ、ナツメの手伝いで傷ついた者達を介抱しているところ、トウガを自慢げに見せてきたところ、その後、俺に折檻されているところ、俺のことを気遣ってくれたところ、エイキと祝言を挙げて嬉しそうにしていた記憶。
ついでにトウガのことも思い出してみる。会ったばかりで噛みついてきたところ、だが、幾度も闘いを共にするたびに、俺に懐いてきたときの記憶。
「アキラちゃん? 君? ……本当にわからない……。ムソウさん、よくわかったね」
「ん? 何となく仕草でな。動物たちと戯れる時なんかは女の子のそれだったぞ」
「あ、ほんとだ。トウガちゃんたちと遊んでいるアキラちゃんも可愛いなあ~。フフッ、まるでレオさんみたい」
「レオさん? 誰だ?」
突然出てきた聞き慣れない名前に、何者かと尋ねると、ミサキは元気に答えてくれた。
「十二星天の一人、“獣皇”レオパルドさんのことだよ。多くの魔獣を従えていて、魔獣たちと遊んでいるときのレオさんもこうやって楽しそうにしているんだ」
「へえ、そんな奴も居るんだな。……まあ、アキラも動物たちと心を通わせることに関しては天才的だったからな。あいつらにもよく助けられた」
「すごいね。動物がそこまでのことをするなんて」
特に玄李侵攻戦の時の、猿の活躍には驚いた。いつも手紙を届けてくれる大きな鷹の上から、敵に爆弾を落としていくのだからな。その猿は、何故か俺に懐いていたのもよく覚えている。
「まあ、それだけ、あいつらの絆が深かったってことだろうな。それに、アキラは周囲の人間への気配りも上手かった。いつも元気なあいつの様子に、俺達は何度も助けられていたな」
「すごい子だったんだね」
「後に夫となったエイキは、こう言っていたよ。「アキラの姿を見ていると、俺だけでなく周りの者も元気になっていて本当に助かっている」とな。
いつもいつも頭を使って疲れていたエイキにとって、アキラは本当にいい妻だと思うよ」
まあ、そんなエイキの存在がアキラにとっての元気の源なんだがな。段々と動物たちよりも、エイキに構っていくアキラを、動物たちはさみしそうに眺めていた、と後でツバキに聞き、実際に家にお邪魔すると、待ってましたとばかりに寄って来たのは、いい思い出である。
「そうなんだあ~! そういうのって良いよね! そう言えば、エイキさんの他にもすごい人が居て、ムソウさんと並べてすごく有名な人も居たんだよね?」
「ああ、そうだ……」
ミサキに言われて、エイキとゴウキについて、思い出した。
「この二人と、俺で“三国の三鬼”と称され、大陸全土で恐れられていたそうだぞ」
「ムソウさんは知らなかったんだよね?」
「ああ、全く。だが、こいつらの話を聞いて、会いたいなという思いは強かったぞ」
「それってさ、ムソウさん自身と対等で渡り合う人が今まで居なかったから?」
またしても、ミサキが鋭いことを聞いてきた。俺はしばらく考え込んだ。確かに、当時は俺と張り合える人間などいなくて、そういう面では寂しいなと感じることはあったな。
「そうだな……確かにその通りだな」
「ひょっとして、お友達になれる! とか思った?」
「そんな子供っぽいことは思わなかったが……」
と言いつつ、俺があいつらのことを思い出す時は、まさしく子供の様に遊ぶ時のことが主だ。少しばかり仕事も一緒にしたが、特に楽しかった時は、エイキやゴウキと手合わせしていた時だった。
俺の記憶を覗き込んでいるミサキはここで、クスっと笑う。
「ねえ、実際会って、どうだった?」
「ああ、すぐに良い奴らだな、と思ったよ。エイキの方は参謀という割にはそこまで頭が固いわけではなく、気兼ねに話すことも出来たし、ゴウキも少し調子に乗っているようなところがあるが、自らの力に驕らず、やる時はやるという奴だったからな。
現にそれで、仲間も助けられて、本当に嬉しかった」
最後の闘いの折、エイキにはシドウ、ゴウキには敵の大群をそれぞれにすぐ任せることが出来たのは、今でも自分にとって珍しいことだったと思っている。それだけ、二人は信頼できる人間だったな。
「その後も、事あるごとに一緒に遊んだりしたんだよね?」
「ああ。戦の際に約束していた手合わせだったり、エイキとは碁、ゴウキは格闘で勝負したりな。結局、剣術は俺、碁はエイキ、格闘術はゴウキというようになっていったが……そうだな、あちらの世界への未練の一つに、それらの決着というのはあるなあ……」
「やっぱり、ムソウさんも意外と子供っぽいところ、あるんだね」
「まあな。あいつらとやっていたのはそういうことだったかもしれんが、それって結構大事なことなんじゃないかって思ってるよ」
確かに俺があいつらに抱いている思いは、子供っぽいかも知れんが、それはあいつらにも言えることだ。エイキの場合、碁を打つときは、薄ら笑みを浮かべて、かかってこいというような態度をとっていたし、ゴウキとも戦うときは、あいつも手加減などせず、俺に全力で向かって来るから、俺も楽しくなって、全力で遊んでいたな……。
「……そうだね。ね、もしムソウさんがこれから暇になったら、言って。私とサネマサさんで暇つぶしに付き合ってあげる~!」
そう言ってくるミサキの言葉は嬉しかった。この世界にも俺と張り合える人間は限られているからな。
「あ、そりゃいいな。その時は頼むよ、ミサキ」
「は~い!……で、エイキさんと結婚したのはさっきのアキラちゃんで、もう一人のゴウキさんと結婚したのは……」
「ナツメだな」
俺はナツメのことを思い出してみた。闘いの後、俺を手当てをしているところ、酔っぱらって俺に言い寄ってくるところ、ゴウキとの祝言で嬉しそうに笑っているときの記憶。
「あ、この人がナツメさんね。……うん。この人もすごくきれ~い。でもすごくえっちな格好だね……」
「えっちって?」
「何と言えばいいのかなあ……ふしだら、というか、なんと言うか……」
なるほど。ミサキもそう感じたか。俺だけがおかしいわけじゃないんだな。なんとなく安心した。
「……言いたいことは分かった。そうだな、あいつは何故かいつもこんな格好だったな。なんでそんな格好してんだ? って聞くと、楽ですから、と言ってはぐらかされていた」
「この格好で、介抱されたら……男の人だったら皆、惚れちゃいそうだね」
「実際そうだったぞ。で、その中でも熱烈だったのがゴウキだったみたいだな。玄李侵攻の際はあいつらずっと一緒だったからな……」
「そうかあ~。それで、確かあんまり興味なさそうだったナツメさんを3か月もかけて口説き落としたんだっけ?」
「おう、そうだ。最終的に観念したナツメが、わかりました、と求婚を受けたんだと」
さらに言えば、ナツメには他にも言い寄ってくる男たちも居たのだが、ゴウキが力で黙らせたという。聞いてくれよ、ザンキさ~んという、元反乱軍の各部隊長や、天永の重鎮たちから何度も言われて頭を掻いたものだ。
「大変そうね、ナツメさん」
「いや、それが微妙なところでな。祝言の時とかの様子を聞いたり、実際その後を見たりしていると、ナツメの方もまんざらではなさそうなんだよな」
「え、それって、新薬の実験って言ってたこと?」
「う~ん……それとも違うみたいだった。後でアキラたちに聞いたら、ナツメはどちらかというと、自分が他者に献身的な分、夫となる男には尽くしてほしいという女だったらしいぞ」
「あ、なるほど~。だから、ナツメさんに夢中のゴウキさんの求婚は受けたんだね~」
「ゴウキの方も、あいつは、根はやさしい男だからな。その辺りは苦じゃないようで、何となく、俺は安心していたな……」
「そっかあ~……フフッ!」
「ん? どうした?」
「いや、ムソウさんの昔の仲間の人たちって、どの人も個性的で面白い人ばかりだな~って思って……」
ミサキはそう言うと、笑いながら、俺から顔を離していった。
「ん? 何だ? もういいのか?」
「うん!もうお腹いっぱいだよ~」
満足そうに背伸びをするミサキ。確かに、あれだけ個性的な奴らを一度に目にしたら、少し疲れるかもしれないな。平和になった後は、それが更に助長されて、俺も疲れながらも、楽しかった……。
「ムソウさん」
ふと、ミサキが微笑みながら、俺の目をまっすぐ見てきた。
「何だ?」
「私達もこんなふうになれる? ムソウさんの仲間としてやっていける?」
ミサキは俺の顔を覗き込みながらそう言ってきた。俺はミサキの顔を見ていた。フッと笑い、頭を撫でる。
「もう……なってるだろ?」
俺がそう言うと、ミサキは嬉しそうな顔をして、うん! と頷いた。そもそもミサキが言ってきたんだからな。仲間でしょって。俺はそう思い、更にミサキの頭を撫でている。
前の世界にいた俺の大切な仲間たち。あいつらにはもう二度と会えないかもしれない。だが、こちらの世界に来ても、俺は同じようにまた、信頼できる仲間が出来ていた。それはとても嬉しいことだ。俺は、次はこいつらをまた、護っていこうと、そう思っていた。
◇◇◇
「さて……次なんだが……」
俺はいったん腰かけて、ミサキの方を見た。ミサキはキョトンとした顔になり、俺を見てきた。
「ん? なに?」
「俺の秘密……仲間たちとの思い出は見せたわけだが、次は俺の願いその二だ。お前の秘密を視せてくれ」
「秘密? ……え~と、会話の流れから、いやらしい意味じゃなくて……あ、私の記憶ってこと?」
ミサキは、ポンっと手を叩いて、俺に近づいてくる。俺はミサキに頷いて、続けた。
「ああ。前にワイツ卿の家でツバキから聞いたんだが、お前ってこの世界でうみだしたり、自分の世界にあったものの製法をまとめた本を書いたらしいじゃねえか」
「え、うん。「魔法帝・ミサキ様のいろんな秘密教えちゃう」シリーズだね!」
「ああ、それだな。正直、そんなふざけた題の本を読みてえと思わねえから、お前の記憶で教えてくれ」
「ぶ~! 頑張って書いたのにぃ~……でも、何で知りたいの?」
駄々をこねながらも不思議そうな顔をしているミサキに俺は笑って、
「お前が俺に感じた思いと一緒だ。仲間として、お前のことをもっと知っておきたいし、お前の世界ってのも気になったからな」
と言った。ミサキはパッと目を開いて、ニコッと笑って、俺の額に自分の額を当てた。
「そういうことなら……良いよ! ムソウさん!」
「ああ。じゃあ、頼む」
「うん! ……感応譲渡」
ミサキがそう言うと、俺の頭の中に何かが浮かんでくる。俺は目を閉じて、それに集中した。
俺の頭の中に浮かんだものはどこかの風景のようだったが、俺の世界のものとは明らかに違う。まして、この世界のものとも違うことがすぐにわかった。見たことのないものであふれていたからな。
黒い道の上を何か、馬車のようなものが勝手に動き、中に人が乗っている。周りは山ほどもある、あれは……石か? まあ、それはどうでも良いのだが、四角い建物が天に向かって伸びていた。
空にも何か飛んでいる。鋼鉄の何か大きな船のようなものが大きな音をたてながら飛んでいた。
さらには地上でも長い箱のようなものに多くの人間が乗り、すごい速さで動いているのが見える。
そして、そんな町の中を行き交う多くの人たち。この世界のものに似ている気はするが、どこか若干違う感じの着物を纏い、街の中を歩いている。
何人かは四角い板のようなものを耳に当てながら独り言をしていた。顔立ちは、様々だ。この世界の人のようにも見えるし、俺の居た世界の者達にも見える。
……と、頭に浮かんでくるものは全て衝撃的過ぎて、若干、動揺する。
「これが、私の前の世界だよ~」
「あ、ああ。……あ~、ミサキ……」
「あ、うん、わかってるって。何から説明する?」
「話が早くて助かるな……」
「サネマサさんの時もそうだったから。俺の居た世界の未来の世界を見せてくれって言われて、その通りにしたら、サネマサさんも驚いていたから……」
「そうか……では、まず……あの空を飛んでいるのは何だ?」
「あれ? あれは飛行機っていって、たくさんの人間を乗せて遠くに行ける乗り物だよ~」
「乗り物なのか!? あれ。どうやって動いているんだ?」
「仕組みはわからないけど、この世界には無いものだよ~」
「あ、じゃあ、作るのは無理か。便利そうなんだがな……」
あれだけ大きなものなら、多くの人を乗せて色んな所に行けるだろう。あれば便利だと思うが、作れないのなら仕方ないかと思っていると、ミサキは口を開く。
「あ、えっとね~、一応セイン君がスキルで作ったんだけどね……」
「ほう。だが、見かけることはないな」
「うん。だって、この世界って龍とか空を飛ぶ魔物がいるでしょ? だから危険だって言って辞めたの」
ミサキの言葉にすぐに納得した。ワイバーンなんてものが居る世界だからな。あんな奴らが飛んでいる所に、ひこうき? だったか、これを飛ばすとなると、その為の護衛も必要だ。俺は飛べるから良いが、他の奴らには難しいかも知れないな。
「ああ、なるほど。……ちなみに、あの長いやつも人を乗せて動いているのか?」
「えっとね、今、見えているものはほとんど人を乗せて運ぶものかな。ムソウさんが今言ったのは新幹線って言って、レールっていう道の上をたくさんの人を運ぶ乗り物だよ」
「れーる? なんだ? あの乗り物専用の道ってところか?」
「うん! そんな感じ! それが国中を巡っていてね、行きたいところにすぐ行けるようになっているの!」
「へえ~、タカナリの街道整備みたいだな。あれにより安備の国内でも人も、物も国中を安全にかつ、楽に巡るようになったからな。……ちなみにこれもこの世界には無いが……」
「うん。しようとは思っていたんだけど、魔物に襲われたら大変だからね……」
ああ、そうか。ベヒモスなんてものが居る世界だもんな。多くの人を運ぶ分、一回の襲撃での被害も甚大だろう。この、れーるってやつの工事も進まなそうだしな。この世界でこれらを作るのはやはり無理か……。
「なるほどな。……なあ、この黒い道はなんだ? で、その上を走っているのは?」
「あ、これはね、アスファルトって言って、なんて言えばいいのかな……地面って凸凹してるでしょ? それを平らにするためにしているものだよ」
「え、その工事も国中でやっているのか?」
「うん! で、その上を走っているのは自動車っていって、新幹線や飛行機よりは少ないけど、人が乗ることが出来るんだ」
「ああ、そのようだな。それに速いみたいだ。……これは作らなかったのか?」
「これは、作ろうと思えば作れるけど、こっちの世界って、自動車が行き交うほど道は広くないし、それこそ、アスファルトの工事をするだけでも大変だし……」
まあ、そういうことになるか。ちなみに、やろうとはしたらしいが、世界中の道で行うとなると、ミサキでも五十年以上はかかるとのことで、馬車もあるし、魔法もあるということで、計画を止めたらしい。
「ああ、なるほどな。だが、色々あって、面白いな、お前の世界は。……あの、人々が耳に当てているものは何だ?」
「あれはね、スマートフォンっていって、離れたところに居る人とお話しできたりするものなの」
「ほう、それは良いな。魔法が使えない俺にはぜひとも欲しいものだ」
「いる?」
唐突に飛び出たミサキの言葉に、驚いてしまった。
「え、あるのか?」
「ああ言う感じじゃないけど、似たような魔道具はあるよ~」
「げ、魔道具か……。魔法が使えない俺でも出来るかな……」
「あ……それは……どうだろう。伝令魔法の魔道具と違って、ある程度の魔力操作が必要だからね~……」
その魔道具も、ミサキやセインが作ったという。話したい相手の魔力の波……魔力波を思い描き、簡単な風魔法を使って、その魔道具を通し、声を届けるという仕組み……話を聞いただけでも、頭が痛くなってくる。
「じゃあ、良いや。……なあ、この世界には魔法とかスキルは無かったのか?」
「うん。そういう便利な能力は無かったよ。だから、私達人類は、さっき説明した飛行機や新幹線、自動車、あと、いろんなものを科学っていうものでうみだしていったの!
わたしもね、学校でそういうことを専門に習っていたんだ! まあ、私のは植物関係に強いものだったけど」
「がっこう?何だ、それ」
「学校っていうのはね、子供にいろんなことを教える場所でね、私はそこに通っていたの!」
「へえ、子供たちに教育を、か。なかなかいい考えを持っているみたいだな、お前の世界は」
一応、寺子屋のような感じで、俺達の世界にもあるにはあったが、教えるのは文字の読み書きと、歴史くらいだ。多方に渡って学問を教えるという機関は俺の居た世界では、準備段階だったはずだ。
子供に勉強させるのは良いことだなと頷いていると、ミサキが苦笑いしながら、話しだす。
「そうだね~。そう考えている子供たちは少ないけどね~……あ、これが前の世界で私が通っていた学校で、これが私だよ!」
「ほう、立派な建物だな……って、この女がお前か!? なんというか……」
見えてきた建物は、タカナリの王宮よりも大きく感じた。幾つも部屋が並び、その前には大きな広場があった。そして、同じ服を着たミサキくらいの年頃の若者が、遊んでいるのが見える。
そして、ミサキが思い描いたミサキというものを見て、驚く。今と見た目が微妙に違っていた。
「私はこの世界に新しく生まれてきた転生者だからね。もちろん、親も違うわけで、前の世界のものとは見た目が違うんだよ~」
「そうなのか……。いや、にしたって、感じも違う気がするぞ。何と言うか、物静かで、落ち着いた雰囲気で……」
俺の頭の中に居るミサキは、今のような快活な感じでは無く、どちらかと言えば、暗い感じで、部屋の中で多くの者達がそれぞれ楽しそうに話している中、一人、机に着いて、本を読んでいる。
「……そう。この時の私って、今みたいじゃなかったなあ。人見知りで、いつも一人で勉強しててって感じ。……どうかな? やっぱり変かな?」
「う~ん……中身はお前だからな……。だが、俺にとってはそういうのは前の世界のツバキに似た感じがするから、俺はむしろこっちが良いかもな」
「へえ~……ムソウさんて昔の私みたいのが好みなんだあ」
「いや、言ったろ? 中身がお前なら、分からんぞ」
「ぶう~! どういう意味よ~!」
「ハハッ! 悪い悪い、冗談だ」
とは言いつつも、このミサキは、ぶう~! とか言わなさそうだ。どうやら、生まれ変わって中身も変わっているようだ。
あまり、詮索しても悪いなと思い、それ以上のことは聞けず、ただただ笑っている。
「まったくう~。ま、私はこうやって、いろんなことをただ、ひたすらに勉強していたってわけ」
「大したもんだな」
「でしょ? ……まあ、そのせいで離れていった友達とかもいたけどね~」
「ん?どういうことだ?」
「……あ、何でもないよ~、気にしないで~……さて、じゃあ、ここからはその他のことについても見せていくよ」
「その他って?」
「歴史とか、あと、文化とかかな。ムソウさんもきっと興味あるものばかりだと思うよ」
「それは楽しみだな。じゃあ、よろしく頼む!」
ミサキは、は~い!と返事をして、俺にいろいろなものを見せてきた。俺はミサキの見せてくれたものに驚いたり、感心したりしている。
やはり、その中でもミサキの国の歴史は面白いな。ハルマサの時代を知ることが出来たし、何より、やはり、俺の世界に似ていて、少し親近感が沸いた。
そして、歴史を知るということは、そこからどれだけ人間たちが文明を築いていったのかわかる。
最初に教えてくれたひこうきや、しんかんせんも、くるまも、時代をたどって教えてくれるのは嬉しいし、分かりやすい。俺の世界にあったもの、無かったものと様々だったが、サネマサの時代からミサキの時代の間に、色んな事に関する技術の進歩を感じた。ひょっとしたら、俺の世界も、後数百年したら、ミサキの故郷のようになるのではと期待している。
そして、人間同士の争いの後、うまれた平和な世界、と感心できることも多々あった。俺は、そんな光景をただただ、驚きながらずっと見ていた。
◇◇◇
「……よし、もう良いぞ」
「え、もう良いの?」
「ああ。俺もお腹いっぱいだ」
「そっかあ~。わかった! じゃあ、終わり!」
ミサキはそう言って、俺から離れる。すると、フッと俺の頭の中から、ミサキの世界が消えていった。少し残念な気持ちもあるが、もういいな。……やはり、俺の知らないことというのはまだまだ、多いみたいだ。もうすぐ、俺も40だというのにな……。
「……なあ、ミサキ」
「なに? ムソウさん」
「今度は、お前の世界のこと、見せなくてもいい。お前の言葉で聞かせてくれないか?」
ミサキは目を見開き、ニコッと笑って頷く。
「うん! その代わりにムソウさんの世界のことも教えて! ……あ、ムソウさんっていうか、ザンキさんの!」
ミサキの言葉を聞いて、俺は可笑しくなった。なにせ、その名前で呼ばれるのは久しぶりだったからな……。
「良いだろう。では、まずな……」
俺達は更に、お互いの世界のことを語り合い始めた。互いに自分の世界のことを話しながら、驚いたり、笑ったりして、しばらく語り合っていた。
ミサキは、いわゆる私達の世界の2010年代出身です(サネマサは、私達の世界の戦国時代出身)。
ミサキの設定をざっくり説明すると、いわゆる大企業のお嬢様という感じで、幼い頃から、色々と詰め込まれた女の子で、転生前は、成績抜群で寡黙な女の子というイメージでした。
その為、友人なども居らず、街で遊ぶことも無かったので、普通の女子高生として生きたかったという思いを抱いています。
こちらの世界でそれが爆発して、こういう性格になりました。
サイドストーリーとして、「非リアの私が異世界転生してリア充魔法少女になっちゃった話(仮)」というものを書こうとは思っていたのですが、本編が完結してから考えることにしました。読むのは楽しいけど、書くのは辛そう……。
果たして、何年後になることやら……。




