第103話 ムソウの過去―“古今無双の傭兵”―
闘いが終わった後はエイキと共に、気絶していった敵に止めを刺すか、捕縛するかを考えていたが、味方からの話によると、奴らは気絶したまま死んでいったということが分かった。まあ、「狂神剤」には毒が使われているからな。当然と言えば当然か。
……あれ? てことはこれまで相手にしてきた奴らって放っとけば死んでいたのか、とエイキと顔を見合わせ、力が抜けてその場に座り込んだ。
「今更知ってもな……」
「うむ……何だか力が抜けてしまったな……」
俺とエイキが呆れながらも笑い合っていると、ゴウキがツバキを担いで近づいてきた。
「お? おっさん連中はお疲れか?」
「お前もそんなに年齢変わらねえだろ……」
冗談を言ってくるゴウキにそう返してやると、ゴウキは笑い、ツバキを指差す。
「嬢ちゃんが、ザンキが心配って言うもんだから、連れてきたぜ。血まみれだが、怪我してねえか?」
俺は、ゴウキから飛び降りて近づいてくるツバキの頭を撫でながら、笑って答えた。
「ああ、大丈夫だ」
「とは言いつつ……?」
いや、本当に大丈夫だ、と言いたいところだが、予想以上に横腹が痛いのと、やはり闘いのさなか、色々なところに軽い傷を負っているようだ。俺は着物を脱ぎ、体を拭いていく。見ると、横腹の傷はそこまで大きくはないが、当たり所は悪かったらしく、なおも血が流れていってる。その他にもいろんなところに細かな傷がついていた。
それを見たツバキは慌てて、軟膏を取り出し、塗っていく。エイキとゴウキは何やらニヤニヤしながらそれを見ていた。俺はそれが恥ずかしくて、ツバキを止めようとする。
「お、おい、ツバキ……自分でやるから……」
「駄目! 私に任せて!!!」
ツバキが強い口調でそう怒鳴るものだから、思わず、おう、と頷いてしまう。エイキとゴウキのニヤニヤ顔はだんだんと強くなっていく。
……おい、エイキ、顔を隠すんじゃねえ。そうでなくても肩がぷるぷると震えてんじゃねえか。ゴウキはニヤニヤしながら俺の方に近づいてくる。
「いやあ~、こりゃ当分は手合わせは無しだなあ~」
「チッ……傷が癒えたら覚えてろよ。……っと、お前の方は大丈夫なのか?」
「もちろんだ! 俺はどこにもけがを負っていないぜ!」
俺の問いにゴウキはニカっと笑って胸を張る。頑丈な奴だな。まあ、そのおかげで目の前にいるツバキも、崩れた屋敷の後始末を指揮しているハルマサも大きな怪我はしてないみたいだから、良いんだがな。
「エイキの方は? シドウって奴はどうだった?」
一応、ゴウキと同じく、どこも怪我をしていないように見えるエイキにも尋ねてみた。エイキの相手はメッキ配下で最強の腕を持つというシドウだったからな。
「うむ……問題ない。シドウも確かに強かったが、メッキがザンキ殿に押され始めたあたりからか、途端に慌てて決着を急ごうと力み始めてな。その隙を突くのは容易だった」
エイキは自分が闘っていた辺りを眺めながらそう言った。見ると、何やら大量の血の跡があり、そばには見覚えのある双刃の武器が転がっていた。
あれ、シドウか……。奴はメッキに対する忠誠心が強いって話だったからな。メッキが不利と見るや、加勢にでも来ようとしていたのかもな……。
あんな奴に、忠義を尽くす奴がいるなんてな、と肩をすくませ、俺は二人の闘いを労った。
「そうか……。何はともあれ、お疲れだ、エイキ。そして、ゴウキ、仲間を護ってくれてありがとう。やはり今回の戦の一番の大手柄はお前だな」
「ハハッ! そう言ってもらえるのが嬉しいが、あの怪物を倒したザンキこそが今回一番の功労者だろう」
「うむ! ザンキ殿こそ、“古今東西無双の英傑”と呼ばれるにふさわしい男だな!」
「お、その異名……良いな! エイキ、それ、皆に広めといてくれ! もう“死神”とはおさらばだ!」
俺がそう言うと、エイキとゴウキは笑いながら頷き、俺達は握手した。ふと、隣でツバキが、ぼそっと呟く。
「……三国の三鬼……揃えば敵なし」
俺達はツバキの言葉に目を見開き、お互い顔を見合わせ、三人でツバキの頭を撫でてやった。ツバキは嬉しそうにするが、パッと俺の手を取って、
「……でも……これは……ザンキが一番」
と言って、ニコッと笑った。そして、また皆で笑い合っていた。
しばらくすると、崩れた王宮の中から、玄李の王と、宰相並びに、臣下共が見つかり、ハルマサ達によって運び出されてきた。一応、夜の部隊だった奴らに確認すると、本人で合っているとのことで、タカナリ達、反乱軍の本隊が来るまで、待つことにした。
正直、メッキを倒した時点で、この糞みたいな王についてはどうでも良かった。一応は、安備や興那、玲邦を落とし、俺の全てを奪った元凶のような男なのだが、メッキによって負傷し、気絶している姿を見て、どうにでもなれと思っている。
しかし、タカナリ達も遅いなあと思っていた時だった。
「ザンキさ~ん!!!」
ふと、聞き慣れた声で俺を呼ぶ声が聞こえる。俺と、何故だかさらに表情を明るくしたゴウキは声のする方を向く。
そこにはナツメがアキラとトウヤ、更には大勢の反乱軍の兵士たちを連れて駆けてくるのが見えた。兵士たちはナツメと同じような箱を持っている。
「ナツメさ~~~ん!!!」
ゴウキは飛び出し、ナツメの方に駆けていくが、ナツメはそれを無視し、一直線に俺の元に駆けてくる。茫然とするゴウキの肩にアキラとトウヤがポンと手を置くのが見える。仲良くなったんだな……。
そして、ナツメは俺の傍まで来て、手にしていた箱から色々と取り出しながら口を開く。
「お久しぶりです、ザンキさん……早速ですが、怪我……されてますね?」
「ああ、ナツメ……久しぶりだ。細かい傷はツバキが対処してくれたが……少しこの傷が痛むんでな……すまないが頼む」
「何を言ってるんですか? 私達は仲間でしょ!」
ナツメはそう言って、俺の横腹の傷の周りを拭き、消毒したうえで、傷を縫い始めていく。
「今回も、内臓などには届いていないみたいです。ですから何針か縫うだけで大丈夫とは思いますが……」
そう言いながら、ナツメは見事な手つきで俺の傷を縫っている。と、ここで横からゴウキが、ぼそぼそと話しかけ始める。
「あ、あの……ナツメさん? ……お、俺も体の打ち身が……」
ゴウキはしどろもどろになりながらナツメにそう言っている。……コイツ、さっきは、どこも怪我してないぜ! とか言っていたくせに、よくもまあ、そんな嘘を……と思っていると、ナツメは俺の傷に目をやったまま、片手で箱から何かを取り出し、適当にゴウキに渡す。
「はい、これ湿布です。痛いところに貼ってください。……あ、でもザンキさん? 見た感じ、前の傷よりはやはり浅いみたいですから、ザンキさんの回復力でしたら一週間足らずで……」
治療しながらも傷についての説明をしているナツメの横で、ゴウキは湿布を手にしたままガクッと項垂れた。
またしても、アキラとトウヤがそれを慰めているのが見える。それを尻目に、いい気味だと何となく思った。
「……はい、一応傷は塞がりましたよ。後は薬を塗って上から綿布をのせ、包帯を巻いておいてださい」
「ああ……いつも済まないな、ナツメ」
傷の処置を終えたナツメに礼を言って頭を撫でてやった。ナツメは目を見開き、フッと笑って、
「今日は……嬉しいですね……」
と言った。何やらゴウキが悔しそうな目で見ているが、気にしない。そして、俺は鎧を手に取り、トウヤの方を見た
「トウヤ、すまないな。鎧の修繕頼むよ」
「いえ、ザンキさん。ご無事で何よりです。これで、父も浮かばれます」
「ああ」
頭を下げるトウヤに手を振って、俺達は久しぶりに会った仲間たちを労っていた。すると、エイキがフッと笑い、口を開く。
「やはり、ザンキ殿の所は賑やかそうで羨ましいな……さて、反乱軍の後方支援の指揮官のナツメ殿だな? 俺は玲邦の参謀エイキだ。貴女がここに居るということはタカナリ様も近くに?」
エイキがナツメにそう尋ねると、ナツメは不思議そうな顔をして、俺を見てくる。ああ、エイキを実際に見たことが無いのか。俺が頷くと、ナツメは安心し、口を開く。
「えっと……はい。頭領でしたら他の部隊長と共に、こちらの方に向かってきております」
「そうか……ザンキ殿。では俺はタカナリ様を迎えに行くついでに現状の説明をしてくる」
「ああ、分かった」
「うむ……それで、ゴウキ殿にはこの場で屋敷の瓦礫作業の手伝いをして欲しいんだが……」
「え~……俺がかよ……」
エイキの指示にゴウキはがっくりとする。こいつ、この状況でまだ、ナツメの傍に居たいとでも言いたいのか? 俺は一つため息をついて、ナツメに話しかけた。
「働く男ってかっこいいよな、ナツメ」
「ええ、とても」
俺の問いにナツメはすました顔で即答した。やはり、タカナリの所でもこんな感じだったのかな。ナツメは積極的な男は嫌いという性分らしい。
そうとは知らず、ナツメの言葉を聞いたゴウキの表情は明るくなっていく。
「任せろ! エイキ!」
「う、うむ……。ナツメ殿たちは引き続きこの場で負傷した兵士や、屋敷の中に居た者達の手当てを頼む。そこの二名にもお願いしたい」
エイキはナツメ、それから後ろに居たアキラ、トウヤを指差して指示を出すと、皆は頷く。
「分かりました」
「おう、任せとけ! ちなみに俺はアキラだ!」
「僕はトウヤといいます」
「では、よろしく頼む」
エイキはそう言って、タカナリの所に向かう。残った奴らもそれぞれエイキの指示通りに動いた。アキラが、エイキを指さしながら俺に、
「鬼の割には落ち着いてんなあ~、お前と違って!」
とか、言ってくる。確かになあと思いながらも、何となくムカッとした俺はアキラを小突く。アキラは、へへっと笑って、ナツメの手伝いに向かった。
俺はツバキと共に、皆から少し離れたところに座り、ナツメから貰った綿布に薬を塗りながら、傷に貼っていくという作業を進めていく。
その後、ツバキが俺の体に包帯を巻いて処置を終える。ふと、包帯だらけの体を眺めながら、ツバキに話しかける。
「初めて会った時みてえになっちまったな」
俺がそう言うと、ツバキは俺の手を取り、俺の方を見た。
「……あの頃と同じ……ザンキの温かい手」
ツバキの言葉に、そうか、と頷いて、ツバキの頭を撫でる。俺は濡れた手拭いを取り出し、俺の血や埃で汚れていたツバキの顔や体を拭っていく。ツバキはジッと俺に体を拭かれている。
「よし、綺麗になったぞ」
俺はツバキの頬に手を当てて、そう言った。すると、ツバキは頭巾をとり、髪をまとめ、懐から俺が買ってやった簪を取り出して頭につけてニコッと笑った。
「相変わらず、似合ってんぞ、ツバキ」
俺がそう言うと、ツバキは俺の胸に飛び込んでくる。俺はそのまま受け止め、ツバキの頭を撫でながら空を見上げた。
空からは温かい日の光が降り注いでいる。そういや、もうそろそろ春かと思い、ツバキを抱いたまま、皆の作業を眺めていた……。
◇◇◇
しばらくして、タカナリ達が到着した。そばにはタツイエをはじめ反乱軍の各部隊の長たちがそれぞれ手勢を従えて長い列を成していた。タカナリは屋敷の前に到着するやきょろきょろと辺りを見渡している。ふと、俺と目が合うと、俺の所にゆっくりと歩いてきた。
「……無事だったんじゃな」
「ああ……当たり前だろ? 俺を誰の子だと思ってる」
タカナリと俺はそう言葉を交わし、お互い顔を見合わせ笑った。
「にしても、酷いなりじゃな……」
「あんたこそ、似合わねえ刀、腰にぶら下げて……昔の血でもたぎったか?」
「フッ……お主ら親子と一緒にするな」
タカナリはそう言って、俺に拳を向ける。例のやつか? 結局俺達と同じじゃねえかと苦笑し、俺はタカナリの拳に自らの拳を合わせた。
「今までありがとう、タカナリ。……それから、お疲れさん」
「こちらこそじゃ、ザンキ殿。これで、あ奴も報われるか?」
俺はタカナリの言葉に笑って頷いた。
その後、タカナリ達は戦の後処理を始めていく。俺はタツイエたちに連れられ、本陣へと帰還し、ゆっくりと体を休ませた。
……数日後、都の修繕が終わり、タカナリの大陸王即位式が行われた。タカナリは大陸王の証となる王剣を天にかざし、玉座に就く。集まった民たちは歓声を上げて、喜んでいた。
即位式はそのまま初勅の儀へと移る。ここで、タカナリは王となって初めての指令を皆に伝える。それは元・反乱軍の奴らにそれぞれ役職を与え、大陸全土の改革を行うという内容だった。
まず、タカナリは元・玲邦、興那、安備領だった土地の統括者として、それぞれエイキ、ゴウキ、タツイエを指名。三人はそれぞれそれを承認した。さらに三人は自分の部下だった者を各地に領主として配置し、より精密な統治を行うことにした。これで、前のようなずさんな統治が各地で行われることを防ぐ目的である。
エイキとゴウキはまだしも、タツイエは、最初、この役はザンキ殿だろうと渋っていたのだが、俺はそれを断る。タカナリとの約束もあるが、正直、面倒くさいというのが本音だ。
タカナリは自らの右腕として軍事参謀長にハルマサを指名。ハルマサは喜んでそれを承認する。
ただ、これだと何となく不安だな、と思っていると、タカナリは王都にあらゆる機関を設置しハルマサの補助とする役割を他の者に与える。
その中の一つ、隠密部隊統括にツバキを指名。大陸各地の情報を収集したり、不穏な動きを見せる者達を粛正するという結構、危ない機関だ。そんなのいるか? と聞いたら、いずれ必要になると返されたので俺はもう何も言わなかった。
ツバキは統括の証である腕章を俺に嬉し気に見せてきたので俺はツバキを思いっきり撫でてやった。
そして、医療機関統括にナツメ、補佐にアキラを指名。ナツメは分かるがアキラはどうなんだ? と聞くと、アキラは毒虫や毒蛇の扱いを練習するうちにそれらの毒について学んできたという。
また、長くナツメの補助をしていたので、むしろナツメの方からタカナリに頼み込んで補佐にアキラを推挙したらしい。アキラは嬉しそうにナツメに跳びつき喜んでいた。俺は、とりあえず、頑張れよ、と二人に声をかけると、ナツメも笑顔で俺に一礼した。
さらに、他国との交易や自国の物品の生産及び供給を担う、経済生産機関統括にトウヤを指名。責任重大だと、震えるトウヤに、親父さんを越えてみろ、というと、トウヤはハッとした目で俺を見て、大きな声で、ハイッ! と頷いた。
その他の機関の統括はそれぞれ、反乱軍の部隊長が担っていく。どれも見たことはないが、タカナリの人を見る目は確かだ。安心して、任せることが出来るな……。
こうして、俺以外の元・ハルマサ隊の仲間たちは、当初の予定通り、タカナリの元でこれからも自らの任を全うすることが決まった。ハルマサ達が喜び合っているのを眺めていると、最後にタカナリは俺を呼ぶ。
「最後に……ザンキ殿」
「……ああ」
俺はタカナリに返事して、前に出ていく。タカナリの前に到着すると、タカナリは皆に聞こえないように小声でささやいた。
「良いんじゃな? お主にはここに居てもらってもよいのじゃが……」
タカナリの言葉は嬉しいが俺は首を横に振る。
「性に合わねえ」
俺の言葉を聞き、タカナリはそうか、と頷き、手にした書簡を広げて読み始める。
「元・反乱軍特別攻撃隊ザンキ……お主にはこれより、我が国専属の傭兵として我が願いを聞き、戦場にて任を遂行していくことを命じる!」
タカナリはそう言って、書簡を俺に向ける。
「差し当って……未だお主は一人じゃが、部隊名を与える。今後人数が増えた時、何かと不便じゃからな……」
タカナリは俺を見てにこりと笑い、手を上げた。すると、タカナリの背後に居たハルマサが何か旗を持って掲げた。
その旗には、見慣れた、刀を咥える鬼神の紋章が描かれている。
「部隊名は“闘鬼神”そして、お主には“古今無双の傭兵”の称号を与える! これよりその名を以って、大陸全土の治安を護っていけ!!!」
タカナリがそう叫ぶと、周りから歓声が上がる。タカナリや他の奴らは何か満足げに俺の方を見ていた。
ふと、タカナリと初めて会った時のことを思い出した。あの時は、他国にまで轟かせた“斬鬼”の名を以って、国を護ってくれ、という約束だったが、結局果たせなかったんだよな。
だが、タカナリはそんな俺にまた、あの時と同じように頼んできた。俺はそれが嬉しくて、タカナリが差し出してきた書簡を受け取る。
そして、それをそのまま、宙に投げて、無間で叩ッ斬った。
……ピタッと歓声が止む。そりゃ、当然だ。王命が記されたものを斬ったわけだからな。それは天に向かって刃を向けるも同じ行動だ。唖然としているタカナリの前に立ち、俺は口を開く。
「何、仰々しくやってんだ? 俺とお前はそんな仲じゃねえだろ? お前が助けろつったり、手を貸せつってきたらすぐ来てやるからよ、せいぜい玉座の上で待ってろ!
……あ、闘鬼神と、“古今無双”の名はありがたく受け取らせてもらうよ……じゃあな!」
俺はぽかんとするタカナリに背を向けて、去っていく。しばらくポカンとする皆だったが、どこからか、拍手が聞こえてくる。見ると、ツバキやナツメたちの方からだった。
皆、涙目になって俺を見送るような目で見ている。すると、ハルマサの方から、エイキとゴウキの方から、タツイエや俺についてきてくれた「夜」だった奴らの方からと、次々に拍手が起こり始める。
俺が戸に手をかけ、その場から出ようとすると、タカナリが大声で俺を呼ぶ。
「ザンキ殿! 忘れものじゃ!!!」
俺が振り返ると、タカナリは俺めがけて何かを投げてくる。受け取ると、それは誕生日の時にもらった、仲間の証の腕輪だった。俺は腕輪を嵌めて手を掲げる。
「わかってんじゃねえか! “大陸王”!」
「無論じゃ! 気をつけてな、闘鬼神頭領、“無双の傭兵斬鬼”よ!」
俺はそのまま振り返り、建物の外に出る。そして、そのまま馬に跨り、街を出ていった……。
◇◇◇
「……ふう、やはり山越えは少し辛かったなあ」
即位式から数日が経ち、大陸のあちこちでいろんなことが変化している中、俺は安備領だった場所に戻ってきた。
……あ、ちなみに、タカナリはこの一つとなった大陸に新たな国の名前を付けた。「天の続く限り、どこまでも栄えあれ」という願いを込めて、「天栄の国」とタカナリは名付けた。良いんじゃねえか? とは思うが、俺は昔の人間なので、未だに安備領だの、玲邦領だのと使っている。
……と、話が逸れたな。俺は安備領のとある場所に来ていた。ちょうど時期だしな、と思い、酒と食い物をぶら下げている。戦が終わったら来ようと思っていたんだよなあ……。
街に入る際に、名前を名乗ったら、衛兵がははあ~と土下座してきたのには驚いた。目立つからやめてくれと言っても辞めなかったので、死神の鬼迫をぶつけつつ、笑顔でやめろと言ったら言うことを聞いてくれたので良かったな。分かれば良いんだ……。
そして、俺は目的の場所に到着する。
「へえ……綺麗に咲いてんな……」
俺は目の前に立つ大きな桜の木を見ながら呟く。……ここは祝言を挙げた、前のタカナリの屋敷の敷地内にある桜の木の前。俺達の始まりの地であり、皆が眠っている場所でもある。
闘いが終わり、ようやく来れたな、と思い、慰霊碑の前に腰かける。
周りで、花見をしている奴は居たが、流石に慰霊碑の前にはいなかった。花見の席で、大刀を剥き身で背負い、腰かける俺に、皆は訝し気な視線を俺に向けてくるが、闘鬼神の旗を差すと、俺が誰か分かったのか、納得して、視線を逸らしていく。
「なんだか、不本意だな……まあ、いいや……ほれ、皆」
俺は慰霊碑の前に花を置き、闘鬼神の奴ら、エイシン、そして、カンナ、サヤの分だけの盃を置いた。それぞれに酒を注いでいく。
「あ……カンナは……いや、良いか。生きてたら酒飲める歳だもんな……」
と、思い酒を注ごうとするが後ろから誰かに止められた。
振り返ると、見覚えの全くない奴らだ。爺さん婆さんに混じって多くの若い女たちが俺のすぐ後ろまで来ていた。
「駄目です! カンナ君にはお茶です!」
「ついでにサヤちゃんにも茶じゃ! あの子に酒を飲ますと大変なことになっていたじゃろう!」
「な、なんだ!? あんたらは……」
「あ、私達、サヤちゃんのお友達だった者で~す!」
「そうそう! 昔よく遊んでくれたりしたの~!」
「カンナ君ともよく遊んでのお……いやはや、懐かしい……」
俺が戸惑っていると、そいつらは口々にそう言ってきた。サヤ……ツバキの時にも思ったが、友達くらい紹介してくれ、とあきれながら、俺はサヤのお友達という奴らに頭を下げ、サヤと、カンナの盃に茶を入れた後、そいつらと乾杯した。
「いやいや、しかし、サヤにこれだけの友人がいるとはな……俺の妻と仲良くしてくれて、本当にありがたいと思っているよ」
「何を言っているんですか! ザンキ様のおかげで大陸全体に平和が訪れてこうやってお花見も出来ているんです! こちらこそ感謝しています!」
「そうか。そう言ってもらえると嬉しいよ」
「それに以前、私達と一緒にサヤちゃんと遊んでいた子の仇をとってくださったそうじゃないですか。私達、その話を聞いて、ザンキ様が生きているってことを知って、頑張ろうと思ったんですよ!」
ん? 何の話だ、と聞くと、皆は口を開く。
なんでも昔、皆と一緒にサヤと仲良く遊んでいた女の子がいたそうだ。その子はサヤに特に懐き、いつも楽しそうにサヤやカンナと遊んでいたという。その子はタカナリの屋敷が襲撃に遭い、俺達の生死が不明ということが知れ渡っても、俺達家族が生きていることを信じ、いろんなことに耐えていき、行商人の男と結婚し、各地を旅しながら、俺達のことを探していったらしい。
そんな折、ある村で玄李の兵士たちに逆らってしまい、命を落としてしまったという。
そこまで聞いて、思い出した。あれは、カンナを探し、各地を旅していた時だ。カンナを殺したという玄李の兵士を見つけ出し、俺は怒りのままそいつらを殺した。その際に、確かに、そばにはサヤの友人と名乗る女が居た。
「……そうか……あの時の女がな」
「あの子、ずっとザンキ様たちのことを信じて生きていました。私達が落ち込んでいても、きっとザンキ様たちが助けてくれるって励ましてくれていたんです」
皆は目に涙を浮かべながら、俺にそう言ってきた。俺は酒をクッと飲み、慰霊碑を見た。俺以外にもあいつらのことを深く思う奴が居たことが何だか、とても嬉しかった。
そして、サヤが作り、つないできた思いが今も、昔も、俺に力をくれていたことに感謝した。
「墓参り……しねえとな。それから、ちゃんと礼をしないと」
「ああ、頼む。ザンキ様」
「平和になったことを報告してください……あの子も……報われます」
俺は皆のことばに頷き、酒を呑んだ。
◇◇◇
その後、皆と別れ、街を出た。日が傾き始めている。暗くなる前に帰らないとな、と思い、馬を走らせた。
そして、俺はハルマサ達と過ごした、トウヤの故郷である村に到着する。ここで過ごした屋敷を拠点にこれからは活動していくつもりだ。俺の家はもうないからな……。
俺が村に入ると、村長の後姿を見つけた。俺は大きな声で叫ぶ。
「ようっ! 村長! 久しぶりだな!」
村長はビクッとして、振り返った。
「な、なんじゃ!? 驚かせおってからに……ってザンキ殿!?」
「おうっ! 今帰ったぜ!」
胸を抑えて俯きながらも顔を上げ、目を見開く村長にそう言ってやると、声に気付いたそこらの村人たちが、寄ってくる。
「あ、ザンキ様だ! おかえりなさ~い!」
「ザンキ様! 戻ってきたんですね!」
「おう! 約束だからな!」
「お疲れ様です、ザンキ様! ……ってあれ? ツバキちゃんは?」
「おお、よろづ屋んとこの。悪ぃな、ツバキはタカナリのとこだ」
「え~そんなあ~!」
「悪い悪い、また連れてくるからよ」
「絶対ですよ!」
俺は群がる村人たちにそれぞれ返事していく。そこにようやく落ち着きを取り戻した村長が俺に、何故、この村に? と聞いてきたので、取りあえず今までの経緯を説明する。村長はなるほど、と俺の話を聞いて、口を開いた。
「ならば、もう少し小さな家を用意しよう。あそこは一人で使うには大きすぎるじゃろう」
「ああ……言われてみればそうだな。頼むよ、村長」
「うむ。ではこちらへ……と、なんじゃ?」
村長はそう言って上を見上げる。俺も思わず上を見上げた。何か聞き覚えのある鳴き声が聞こえたからだ。見ると、大きな鷹が俺めがけて急降下してくる。
「おわっ!!! っと。……あれ? お前、アキラのとこのか!?」
俺が腕を開くと、鷹はそこに止まり、俺の問いに応えるようにピィー! と鳴いた。この鷹も賢い奴だなあ……。
しかし、何でここにいるんだ? と思っていると、足に何かが括り付けていることに気付いた。
「ん? なんだ、これ」
俺はそれを手に取り、広げてみる。そこには、
「玄李の残党、元・安備、興那の国境付近に出没。至急対処せよ
大陸王タカナリ・隠密機関統括ツバキ」
と、書いてあった。
俺は、帰ったばかりなのに、と頭を抱える。というか、何でこの鷹、俺の場所知ってたんだよ。どこかで誰か見てんじゃねえのか? ……隠密機関ってそう言うことか? 俺のことをよく知っているツバキに俺の行く先を探らせているとか……。あり得そうだな。
俺が深くため息をついてくると、村長をはじめ、村人たちは俺の顔を見てくる。
「やれやれ、帰ったばかりというのにせわしないの、ザンキ殿」
「今日はうちでご馳走食っていくかい?」
「ああ……頼むよ……ついでに風呂も」
「ハハハッ! やはりザンキ様は面白いお方だな!」
「ああ、長生きして、ザンキ様を眺めていくのも悪くない!」
皆はそう言って笑った。俺はその笑顔を眺めながら、何となく力が抜け、俺も笑った。
……そうだな。こうやって皆が笑って暮らしていけるように俺はこの道を選んだんだ。だから、もう何も言うまいな。
「おっし! また、明日から気合入れていくからよ! 今日の飯は豪勢に頼むぞ!!!」
俺はそう言って、大きく頷く村人たちに手を引かれ、村の中へと入っていった。
こうして、俺は戦争を終えた後、無事、皆の元に帰ることが出来、その翌日からタカナリ直轄の“古今無双の傭兵”として大陸全土を駆け回り、闘うようになっていった。




