第101話 ムソウの過去―弔い合戦始まる―
しばらくして、タカナリから報せが届く。内容は「準備完了」とあった。俺達は支度を整え、集落を出る。ツバキもアキラもこの日のための準備は万端だった。アキラの動物たちも心なしかやる気に満ちた表情をしている。
だが、「夜」の部隊だった奴らは不安げな顔だ。メッキの恐ろしさを知っている分、いつもより元気が無いように感じる。
やりたくなかったらやらなくていい、と言ったが、皆、俺のために、とそれらを押し殺し、俺についてきてくれた。本当にありがたい。できれば、戦が終わった後もこいつらには何か便宜を図ろうか、と考えるようになってくる。
ツバキとアキラは決意に満ちたような表情だ。こいつらも、小さい癖によく闘ってくれたな、と感慨深く思う。安備を離れてから、俺の補助をしてくれて、正直助かっている。
トウガについても、出会いは最悪だったが、最近は一緒に風呂に入るまでの仲になった。相変わらず、体を洗われることは苦手らしく、嫌がっているがな。
時々、初めて会った時に噛んできた箇所を舐めてくる。俺はそれが嬉しくて、トウガを殴ったところを撫で返してやる。そうやって、信頼関係を築いてきたつもりだ。
……本当に……皆ここまで……ありがとう。
◇◇◇
さて、集落を出て三日後、俺達は玄李の王都に到着した。都ではすでに闘いは始まっていたみたいだ。
だが、守りが固くどこの部隊も未だに、侵入できていない。俺達の作戦では、タカナリ達、ゴウキ率いる反乱軍の本隊が東門、エイキ率いるハルマサ隊が西門を攻め、その隙に、正面から俺達が突入するという作戦だったが、人員の多くが東西の門に集中したまでは良かったのだが、正面の門は、残る十本指のうち、メッキとシドウを除く、最後の十本指の奴が死守しているようだ。
そいつは「狂神剤」を服用した多くの敵兵を従え、自らも薬を飲み、反乱軍の兵士を圧倒している。
俺はいったん兵を下がらせ、単身そいつらに向けて突っ込んで行く。
「……ザンキ!」
ツバキが心配になったのか、俺に声をかけてくるが、俺はツバキに逆に指示を出した。
「俺はいい! 敵の指揮官を倒したら、来てくれ! それまでは、皆の援護だ!」
俺がそう言うと、ツバキはコクっと頷き、皆の所に駆けていく。
俺は前に向き直り、肥大化した敵兵の元へ走っていく。
「ガアアアア!!!!」
「死ネエエエ!!!!」
敵は雄たけびを上げながら俺に武器を構えて向かってきた。指揮官含め、総勢三百ってところか……問題ない。
俺は無間を抜き、そいつらに突っ込んで行く。
「オラアッ!!!」
向かって来る敵に無間を振り回し、俺はどんどん倒していく。薬を使っている奴には蹴りや、拳はほとんど意味がない。ただただ斬ったり、顔を掴んで地面に叩きつけたりして敵を減らしていく。
「ゴアアアアッッッ!!!」
「邪魔だッ!」
一際大きな声を出して、向かって来る敵に死神の鬼迫をぶつけ、硬直させるとともに、腹から横なぎに斬る。胴体が斬れてドサッと倒れる敵の死体を眺めながら、俺はなおも敵を斬り続ける。
すると、奥の方から、大きな攻城の際に使われる大きな槍を一人で持ち上げ、俺に向かって突っ込んでくる奴がいた。そいつは、敵味方関係なく殺しながら俺に突っ込んでくる。
俺は槍の一撃を無間でいなし、跳んでそいつの攻撃を躱した。
「てめえ、何者だ!」
「フンッ! 我コソガコノ門ノ守リヲ、メッキ様ヨリ仰セツカッタ――」
「王の十本指か! ならもういい! 失せろッ!」
俺は堂々と名乗りを上げるそいつの懐に素早く近づき、腹を刺し、そのまま上段に斬り上げる。上半身だけ、真っ二つになったそいつの首を刎ねると、そのままドサッと倒れて斬ったところから血を噴き上げ、十本指の男は断末魔も上げることなくそのまま絶命した。
男が倒れるや、すぐさま、辺りに死神の鬼迫を出しながら、俺は絶叫する。
「ガアアアアアッッッ!!!!」
俺の雄たけびを聞き、殺意に当てられた敵は硬直し、そのまま動きを止める。それを確認した俺は後方に向けて、叫んだ。
「今だ! ツバキ!」
すると、ツバキはコクっと頷き、手を上げる。すると、味方の方から多くの矢が飛んでくる。俺は廻旋刀でそれを防いだが、敵は矢の雨をそのまま体に受け、負傷を負っていく。
「……突撃!」
ツバキの号令と共に、味方が武器を構えて突撃を始める。いくら薬を使っていても矢を受け、弱った後なら普通の奴らにも倒せる。そうやって、門付近の敵が減っていった頃、俺とツバキは鉤縄を使い、城壁へと登っていく。その際に邪魔をされそうになるが、上空からアキラの鷹に乗った猿が、炸裂弾や煙玉を落とし、それを妨害していく。芸達者になったな、あの猿。
そして、俺とツバキはそのまま正門を制圧し、門を開いた。街に味方がなだれ込んでいくことを確認したあとは取りあえず、その場で闘っていく。向かって来る敵をただただ斬っていくと、敵の増援が来た。
ちょっと辛いかな、と思い、皆には悪いが、死神の鬼迫を周りにぶつける。読み通り、味方は少し下がり、敵は震えるようになった。ガタガタと震えている敵を倒しているとまた、増援が来る。また死神の鬼迫を使う、を繰り返しているうちに、辺りに二つの銅鑼の音が響いた。
「……ザンキ! ……西門……東門……突破!」
ツバキが上の方から、俺にそう言ってきた。俺は分かった、と返事をして、その場を部下に任せ、領主が居る屋敷を目指して駆けていく。ツバキも一緒だ。俺は目の前の敵を倒していき、ツバキは物陰から俺を狙ってくる敵を遠くから倒していく。途中、ツバキに攻撃が行きそうになると、そいつを斬り捨て、ツバキを護りながら闘っていく。
そして、屋敷が見えてくると、誰かが闘っている音が聞こえてくる。見ると、それはハルマサと、刀を二本持った男で、多くの手勢と共に、辺りの敵を倒していた。ハルマサは良いとして、二刀流の男の方は明らかに他の奴よりも段違いで強かった。白衣を身に纏い、ボサボサの髪と髭を蓄えているが、その眼光は鋭く強い。
俺と同い年くらいか、少し上くらいか……。そして、二本の太刀を軽々と扱い、並みいる敵を倒していく。何者だろうと思ったが、すぐに分かった。そうか、あいつが……。
と、ここで、ハルマサの背後から大きな刀を振り上げて斬りかかる者が居た。俺は男とハルマサの間に立ち、その攻撃を受け止める。すると、遠くからツバキがそいつに、クナイを投げる。やはり、こいつらも狂神剤を使っているか。頭に当たったが、すぐに弾かれてしまった。俺はクナイに気をとられていたそいつの首を刎ねた。
「大丈夫か! ハルマサ!」
「おうっ! ザンキ、すまねえな!」
気にすんな! と謝ってくるハルマサに言って、俺は闘いを再開させる。……が、ここでツバキの方に多くの敵が向かうのが見えた。ハルマサの方に注意が集中して、背後のツバキに気が回らなかった。
「ツバキッ!」
「……ッ!」
俺とハルマサがツバキの方に行こうとするが多くの敵がそれを邪魔する。
「クソッ! 邪魔だ!」
すぐさま対処するが、続々と敵は俺達を阻んでいく。このままじゃ、と思った瞬間、
「ドォラアアアッッッ!」
「ハァッッッ!」
二つの勇ましい声が聞こえ、ツバキの周りにいた敵が吹っ飛んでいく。何ごとかと見てみると、先ほどの二刀流の男と、もう一人、無間よりも大きな刀を構えた男がツバキの前に立っていた。男は短髪で、袖が無い武道着のようなものを着ている。俺とほとんど変わらないような年齢で、同じような体格の割に、よくもまあ、あんなでけえ刀を持てるな、と思っていたが、見ると柄の方が長い。槍の穂先が無間になったような、奇妙な得物を持っている。そこで、そいつの正体にも気づいた。
……なんだろうな。こういうことが重なると、やはり面白いな。
「お嬢さん、大丈夫かい?」
「……うん……ありがと」
大きな得物を持った男はニッコリと笑ってツバキに手を差し出す。ツバキは素直にその手に捕まり、立ち上がっていた。
ホッとしたのも束の間、再び、ツバキたちに敵が迫っていく。ツバキたちは慌てて武器を構えるが、そこで敵はピタッと止まり、俺の方を向いてくる。俺は二人の男に視線を向けた。
「……礼だ」
俺は、死神の鬼迫にあてられた、周りにいた敵をあっという間に片づけ、二人の男たちの前に立った。
「先ほどは仲間を助けてくれたことに感謝する」
「気にするな。……ところで、アンタが安備のザンキ殿か?」
「ああ。そう言うテメエは、玲邦のエイキ、そっちは興那のゴウキか?」
「お! あの“死神”が俺のことを知ってくれているとは、嬉しいな」
俺の言葉にゴウキは嬉しそうに笑うが、ゴウキの言葉を聞いた俺は複雑な表情をする。
「そのあだ名……気に入ってないんだが……」
「え、そうだったのか……それはすまない」
「いや、気にすんなよ、ゴウキ。それよりも今までタカナリが世話になったな」
「おう! 総大将だからな! ま、当然だ! ナツメさんも美人だしな~……」
ゴウキはそう言って、ニヘ~と笑った。ナツメの本性を知らないのか? コイツ……。なんだか、急にゴウキが間抜けな奴に見えてきて、可笑しくなってしまう。
「エイキも、ハルマサが世話になった。あいつは馬鹿だからな……」
「まあな、こちらはかなり苦労したぞ、ザンキ殿」
エイキがそう言うと、横からハルマサが、そんなあ~とか言ってるが、俺とツバキは正直、だろうなあ、と思っている。そして、皆で笑い合った。
「……今まで、仲間が世話になった分、こっからは借りを返すため、共に闘おう」
「こちらこそだ。二人の働きのおかげで俺の策も上手いこと運んでいった。玄李を倒すまで、こちらこそ頼むぞ、ザンキ殿、ゴウキ殿!」
「任せろ! それから、ザンキにエイキ、ことが終わったら手合わせな。どちらかというと、俺はそっちの方が楽しみだ!」
俺とエイキはニカっと笑うゴウキに一瞬目を見開くが、フッと笑って、頷く。ああ……また一つ、闘いの楽しみが出来たな……。
そして、未だ多くいる敵を目の前にし、俺達は武器を構える。俺の横ではツバキとハルマサも武器を構えた。ハルマサは俺を見て、ニコッと笑う。俺も笑い返し、全員に号令をかける。
「では……行くぞ!!!」
俺の合図とともに、皆は敵の方に向かって駆け出していく。
そして、敵とぶつかると、示し合わせたわけではないが、上手いこと連携は取れている。まず、俺が死神の鬼迫をぶつけ、敵を固まらせる。その隙にエイキとハルマサ、俺で斬っていく。ハルマサはまだ「狂神剤」を使った敵を倒すことに苦労しているようで、そこは俺とエイキで補うことが出来た。
死神の鬼迫について、エイキが、不思議そうな顔をしているが、その度に、ハルマサに聞いてくれ、と言うと、ハルマサがビクッとして、
「……あれは俺の恐怖の記憶ってやつだ」
と、震えていた。エイキは、そうか、と納得した様子で闘いを再開させる。やけにあっさりとした反応だ。エイキはいつでも落ち着いた雰囲気で、なんと言うか、カッコいいな……。
さて、ゴウキの方はツバキの前に立ち、護衛をしながら闘っている。辺りは敵だらけで、先ほどのように、いつツバキに危険が及ぶかわからない。そこでゴウキがツバキを護ることで、ツバキも俺達の援護を離れたところからできているみたいだ。
偶に、俺が廻旋刀を使うと、ゴウキが、それ、どうやっているんだ? とか聞いてくるので、取りあえず、教えてやる。ゴウキはなるほどなるほどとうなずき、自分の武器で俺の技を真似することに成功した。ゴウキの手元で大刀が俺のものよりも広範囲に大きく回り、辺りの敵を一網打尽にしていく。
だが、時々、俺達の近くをゴウキの刀が通り過ぎることもあった。
「おわっ! おい、ゴウキ! もう少し味方が少ないところでやれよ!」
「え、すまない……だが、ツバキちゃんは喜んでいるぞ?」
「……この技……私……安全……ゴウキ……ありがと」
「お安い御用だぜ、ツバキちゃん! そら、もういっちょ~~~!」
ツバキに礼を言われたゴウキはなおも廻旋刀を使って、敵を薙ぎ払っていく。ツバキが言うなら良いや、俺達が離れよう……そう思い、俺達は少し離れて敵を倒していく。
にしてもゴウキめ……。ナツメに惚れているような感じだったが、ツバキに礼を言われて調子に乗るとは。単に惚れっぽい奴じゃないのか……? 何となくそう感じながらも、ツバキを護ってくれていることに感謝し、俺は敵を斬っていく。
しばらく敵を倒していき、辺りが俺達だけとなったころ、街にいた味方の増援も続々と屋敷の前に到着してくる。そして、屋敷前を制圧し、俺達は屋敷の中に入ろうとしたが、エイキに止められた。
「このまま、中に入るのは辞めておこう。中にどれだけの兵士が居るかわからないし、罠もあったりするからな」
エイキは俺達にそう説明してくる。俺はその意見に賛成し、取りあえず屋敷に火を放ち、敵をあぶりだす作戦をとろうと、エイキと話していたが、そこにハルマサが待ったをかける。
「いや、これだけの軍勢が居るんだ。逃げられる前に今行った方が良いんじゃねえか?」
「気持ちは分かるがハルマサ殿、中の詳細がわからない以上は――」
ハルマサをいさめる言葉を遮り、俺の部下たちも声を上げた。
「ハルマサ殿の言うとおりだ。勢いに乗っている今こそ、一気に敵陣に行く時だ!」
「そうだ! 俺達ならいける!」
とか言い出した。どうしたものか、と思っていると、ハルマサはうんうんと頷き、刀を高く上げた。……嫌な予感がするな。そう思っていると、案の定な台詞をハルマサは口にする。
「よぉ~し! 皆の気持ちは受け取った! このまま俺と中に突撃する奴はついてこ~い!!!」
そう言って、ハルマサは屋敷の方に駆け出していく。それに続き、兵士たちも何人かハルマサに続き、屋敷の方に雄たけびを上げながらついていった。
「待て! 待つのだ! ハルマサ殿!!!」
エイキの言葉も虚しく、ハルマサ達はそれを無視し、なおも屋敷に向かって駆けていく。
はあ……仕方ない。何なら俺が援護するか、と思い、俺も無間を抜いて、ハルマサ達の所に行こうとした。
だが、ふと、屋敷の方に目を向けると、屋根の上に大きな人影が見えた。そいつは、でかい槍を片手で構え、ハルマサ達を狙っている。
「ッ!」
俺はやばい! と感じ、ハルマサ達の方へ駆けていく。すると、屋根の上に居た奴が、槍を後ろへ引き、思いっきりそれを投げた。
「チッ! ハルマサ! 伏せろ!!!」
ハルマサは俺の声に驚き、ピタッと止まった。そして、自分に迫る槍に気付き、慌て始める。俺はすばやく、槍とハルマサの間に立ち、無間を構える。だが、防ぎ切れなかった。槍は俺の腹を掠め、鎧を越えて俺に傷を負わせた。
「ぐぅっ!」
「ざ、ザンキ!」
俺は血が出てくる横腹を抑えながら、その場に跪く。すると、屋根の上に居た奴が、大きな刀を振り上げ、俺に斬りかかってきた。俺はそれを片手で受け止めると同時に、そいつにクナイを放り、隙を作ったうえでいったん、後退する。
「ザンキ! 大丈夫か!?」
俺の傷を見ながらうろたえるハルマサの襟を掴み、頭突きを食らわせた。
「テメエ……調子に乗るのも大概にしろ! 俺が居なけりゃ、死んでたぞ! テメエは作戦立てんなっつったろうがっ!」
俺を心配して近づいてきたツバキの簡単な治療を受けながらハルマサに怒鳴った。ハルマサは顔に手を当てながら俯き、悔やんでいるようだ。
「ザンキ……本当に……すまなかった」
ハルマサは涙目になりながら、俺にそう言ってきた。俺は一つため息をして、ハルマサの肩に手を置く。
「最後まで、気ィ抜くな。……お前が死ぬのは辛い」
ハルマサは俺の言葉に大きく頷き、涙を拭う。俺は治療をしてくれたツバキの頭を撫でて、屋敷の方に目を向ける。すると、先ほどの大男が、その体格に合う巨大な青龍刀を肩に置いて、こちらを睨みつけていた。
半裸で全身に刺青があり、髪の長い男だった。その眼光は恐ろしく鋭い。睨まれただけで、女子供は気絶しそうだ。
何よりも、先に言ったが体格はデカい。俺二人分よりもデカいように感じる。薬を飲んだ奴らよりも大きく、太い体格だ。
だが、それにしては落ち着いている雰囲気。俺達を前にしても、余裕といった態度で、屋敷の前で仁王立ちしている。そいつの放つ威圧感は今まで相手してきた十本指の誰よりも禍々しく、強いものだ。周りの奴らに意識を向けると、ソイツに対して、恐れ、怯えたりしているのがすぐにわかる。調子に乗ったハルマサに着いて行くほどの気概は、もう、感じなくなっていた。
その男が誰か、俺は一目でわかった。俺は無間をそいつに向けて、口を開く。
「……てめえが、メッキか?」
俺がそう言うと、男の視線は俺の方に注がれる。すると、横にいたハルマサをはじめ俺の近くにいた奴らが、更に震え出した。ツバキまでもが、小さく震えている。
男はゆっくりと口を開く。
「いかにも……ここまでよく来たものだな……」
メッキは俺の言葉に頷き、手を上げた。すると、屋敷の大きな入り口が開かれる。
「……だが……ここで終わりだ」
メッキがそう言うと、屋敷から敵の大軍が現れた。敵はどんどんと屋敷から出てきて、メッキの前に立ち、俺達に威嚇の声を上げる。薬の影響が強いのか、もうほとんど人という外見ではないな。口には牙も生えているみたいで、もはや化け物といった感じだ。
それでも、メッキの言うことは聞こえているようだ。それほどの影響力と、強さを持っていると考えても良いだろう。今まで、メッキの強さが分からなかった俺は、この隙に、メッキの強さを分析していた。
ふと、敵の中から、薬の影響を受けていないような男が現れる。整った顔立ちで、パッと見れば女みたいな奴だった。そいつは柄の両端に柳葉刀をつけたような変わった武器を持っている。男はメッキの前で跪き、
「メッキ様、こちらの準備は完了しております」
と言った。それを聞いて、メッキは頷いている。
「ああ。見たら分かる……だが、シドウ……あの男……ザンキは俺がやるからな。テメエらは邪魔しないようにしろよ」
「かしこまりました……。では私は、あそこにいるエイキという男の相手をいたします。露払いはこの者達に……」
メッキと、優男……シドウはそう言葉を交わし、俺達の方に向き直る。すると、俺達の所に、エイキと、ゴウキが近づき、武器を構えた。
「ようやく、姿を現したか……メッキめ」
「ああ……すげえ迫力だ」
エイキとゴウキはそう言いながら敵を睨みつけている。俺はそんな二人を眺めながら、口を開いた。
「だが、メッキはどうも俺と一騎打ちしたいらしい。あの優男はエイキ、アンタとだってさ」
「む!? 俺は良いとして、ザンキ殿、傷は大丈夫なのか?」
「少し痛むが、ツバキのおかげで問題ねえよ」
俺は腹を抑えながら、エイキに笑ってみせた。若干傷むが、問題ない。正直、俺の偽物に斬られたときの方が痛かったからな。この程度は何でもない。俺が笑っていると、ツバキが横から話しかけてくる。
「ザンキ……最後まで……私が……護る」
メッキからの威圧感に耐えながら、俺の顔を見るツバキ。気持ちは嬉しいが、このまま俺達の戦いに加わるのは難しいだろうな……。
「ハハッ!嬉しいが、一騎打ちだ。お前はまた、皆の援護だ」
「むう……」
やはり、少し不満げな顔をする。まあ、メッキにはツバキの攻撃が通るかどうか怪しいものだし、それでメッキの注意がツバキに向かうことは嫌だからな。俺はツバキの頭を撫でながら、
「そんな顔すんなって。最後までドジ踏んで、俺に痛手を負わせたおっちょこちょいの部隊長を護ってやってくれ」
と、言ってやった。すると、横でハルマサがガクッと落ち込む。
「ぐ……何も言えねえ……」
「わかった……ハルマサ……護る……終わったら……お仕置き」
「え、ツバキ……それは勘弁だ」
ツバキは少し嬉しそうな顔をし、ハルマサはさらに落ち込んだ。ふと、その光景を何やら羨ましそうにエイキが見ていた。そして、笑って口を開く。
「フッ……ザンキ殿の所は賑やかそうで良いなあ。……分かった。ではメッキはザンキ殿に任せるとして、俺はあの男の相手に専念するか」
「すまないな、エイキ。で、ゴウキ……あんたは今まで通り、ツバキの補助をしながら、敵兵を蹴散らしていってくれ」
「何だよ~。ザンキもエイキも指揮官相手で、俺だけ露払いみたいな役目か……」
落ち込むゴウキに俺とエイキはポンと肩に手を置いて、
「そう落ち込むな、ゴウキ殿。俺達は一人ずつだが、このままいくと一番の手柄はゴウキ殿ということになるぞ」
「それに終わったら俺達と手合わせできるんだ。今のうちは我慢しとけ」
と、言ってやった。すると、徐々にゴウキの表情が明るくなっていく。フッ……単純な奴め……。
「……そうだな!一番活躍したうえでアンタらを負かせたら、最高だぜ!」
笑顔でそう言ってくるゴウキに、俺とエイキは顔を見合わせ、同時にゴウキに言ってやった。
「「上等だ!」」
俺達の言葉に、ゴウキは嬉しそうな顔をする。エイキも、ゴウキも、根っこの所は俺と同じ様な人間で安心した。
そして、俺達のやり取りを見ながら、メッキに怯えていた様子の皆の様子も、段々と落ち着いてくる。狙ったわけではないが、これでいつものように闘えるようにはなったと思う。
……だが、最後の念押しと言うことで、俺は前に出て、敵軍に向き直った。
「……さて……こっちも準備は出来た。ようやく、テメエらの首を取れる……
覚悟しろ! 三国の三鬼が、テメエらを食い散らかしてやるからなッ!」
―死神の鬼迫―
俺の殺意に当てられたメッキを除く敵軍は俺達への威嚇を止めて、硬直する。
すると、巻き込まれた~、と言いながら、ゴウキがスッと前に出てきて、得物を担ぎ、俺とエイキにニカっと笑った。
「じゃあ、まずは俺が敵の正面に風穴開けてやるからよ、ついて来い!!!」
そう言って、ゴウキは大刀を振り回しながら敵勢の中に入っていく。ゴウキと相対した敵は次々に倒れていき、ゴウキを先頭に、敵軍が割れていく。すると、ゴウキは刀の腹を地面に水平に向けて構えた。
「よし! 今だ! ザンキ! エイキ!」
ゴウキは俺達の方を振り返りそう叫んだ。なんとなく何をするのか察した俺とエイキは、ゴウキの方まで近づいていく。後ろからツバキやハルマサ達、そして味方の軍勢もついてくる。俺とエイキはそのまま、ゴウキの武器の上に乗った。
「思いっきり頼む!」
「外すなよ! “争神”!」
「お! その異名は俺割と気に入ってんだ! ありがとよ! “死神”ィィィッッッ!!!」
ゴウキはそう言いながら武器を思いっきり振り上げる。俺達はそれに合わせ大きく跳躍し、吹っ飛んでいく。俺はその異名嫌いなんだよ、と思いながら、ゴウキに向かって笑っていた。
ハルマサも、ツバキも、そして、俺の部下たちも、俺に激励の言葉を贈ってくれる。皆の言葉を胸に、俺はメッキ達の居る場所へ突っ込んで行った。
そして、俺達が飛んでくるのを見たメッキとシドウはそれぞれ武器を構える。
すると、ここでシドウが「狂神剤」を飲み、強化した姿でこちらに向かってきた。それを見たエイキは刀を、シドウ目掛けて振り下ろす。同時に、俺はメッキの前に着地する。
「じゃあ、そっちは頼むぞ“智神”殿」
「うむ、早めに終わらせてくれ“死神”殿」
エイキは俺の言葉に頷き、シドウと共に俺達から離れていった。いや、だからその呼び名は……まあ、いい。もう気にするまい……。
「さて……と。待たせたな、メッキ」
俺は目の前のメッキに無間を向け、構える。メッキは俺を見降ろしながら不気味な笑みを浮かべた。
「ククッ……いよいよだ、ザンキ……ようやく、てめえを殺せる」
メッキは、デカい刀を俺に向けて吠える。
「さあ……始めようか! この大陸で一番の殺し合いをなッッッ!!!」
メッキは俺に突っ込んでくる。俺は無間を持つ手に力を込め、駆け出す。
「望むところだ!!!」
そうやって、俺とメッキの闘いは何とも呆気なく始まった。俺にとってはこれくらいで良い。無駄な御託並べるよりは、さっさと始めた方が幾分かマシだ……。
全てを……終わらせてやる……。




