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第5章 主人と従者と一回戦Ⅰ ご主人悶絶する之巻

「前回までのあらすじ!」

「またコーナー名が変わったな……」

「イリーズの姐御は王子さんにぞっこんでした! ご主人は副隊長のウィリアミナさんに姐御に優勝させて欲しいと頼まれました!」

「……」

「…………」

「真面目に終わった!?」

「にゃは!」

「やれば出来るではないか!」

「ついでに今回のあらすじ!」

「え……?」

「ご主人が金タ〇真っ二つにします!」

「ちょっと待て何の話だ!!?」


     Ⅴ 主人と従者と一回戦



 メガロニアの乾期を象徴するかのような、清々しい陽気の朝だった。

 《次期王妃決定武術大会》の二日目である。

 いよいよ本戦が始まるのだ。

 興奮がざわめきとなって闘技場の外に溢れ出していた。

 その入口に向けて、王宮の歩道をひた走る二つの人影があった。

 シアンとマオである。

 双方とも、顔に焦燥の色を浮かべている。

 主従は追われていた…………またしても時間に。

 遅刻していた。

 本戦は出場者八人が一対一で闘うトーナメント形式で行われるのだが、それに先だってクジによる配戦会が行われる。

 何をや言わん、そのための集合時刻がとっくに過ぎているのだ。

「今度ばかりは、お前が悪い!」

「いんや! 自分でお化粧しない、お姉様が悪い!」

「鏡を見ながらやれと言うか! 断じてご免だ! そんなもん作ってるお前が悪い!」

 例によって、疾走しながらの売り言葉に買い言葉である。

 シアンの言う「そんなもん」とは、マオの格好を指していた。

 予戦のネコ姿から一変していた。

 細長い頭部に、頭頂から首筋を走るたてがみ、そして額には鎗穂のような角。

 ユニコーンだった。

 これにはシアンも目覚めるや否や、ベッドから滑り落ちる勢いで驚いた。

 「今度はどこで買った!?」

 「買っても盗んでもいやせん。昨日のを、ちょっと改造したんでさ」

 「いつの間に、どこをどうやったら、そうなる!?」

 夜なべをして作り替えたらしいが、もはやネコの原形をとどめぬその出来映えにシアンは戦慄すら覚えた。

 袖と裾にも、しっかり(ひづめ)を模したカフスがあしらわれている。

 それでも角の作成に手間取り、そのせいで頭部の完成が朝食後にもつれ込んだのだった。

 ちなみに世話役であるはずのミラウラの手助けはなかった。

 その理由は、主従に朝食を運んできた本人の口から直接述べられた。

 「申し訳ありません。開催時間の前後は、どうしても王女様の身辺警護をしなければならないので、お手伝いが出来ないんです。本当に、ごめんなさい」

 親衛隊も人手不足らしい。シアンとしても無理強いをする気はなかった。

 疾走する二人の目の前に、闘技場の小さな入り口が見えた。

 『選手入場口』と書かれた札も掲げられている。

 しかし、問題がひとつ…………

 親衛隊が二人、警備員として入口の両脇に控えていた。

(う……ッ、こうなったら!)

 シアンは眼を閉じた。

 だが、その駿足は緩めない。

 記憶と感覚だけを頼りに、四角い暗がりの中に突入する。

 次の瞬間――――

「――――ぅぐっはぁッ!?」

 下腹部に炸裂した重い衝撃に、シアンは身体を「く」の字に折り曲げ、眼を白黒させた。

 それは狭い通路の左右に渡された鉄の棒――入場規制用の簡易ゲートであった。

(な……なんで、こんなものが下りている…………)

 完全な不意打ちだった。己の不幸と不注意を呪いながら、シアンはバーの上でグッタリと力尽きた。まるで干された布団である。

 辛うじて意識は保ったが、指一本動かせない。

「お姉様ー!」

 マオが追いつき、主人の身体を下からすくい上げるように担ぎあげた。

 そのまま隊員たちの訝しげな眼を背に受けつつ、通路をひた走る。

 出口が見えた。

 同時に、背に負ったシアンの重みがずっしりとのしかかってくる。

(もうちょっと……)

 力を振り絞るマオだったが、通路を抜けた途端、バッタリと地面に倒れ込んでしまった。

 観客席からドッと哄笑(こうしょう)が湧いて、主従に降ってきた。「逆だろー」という声が、そこかしこから飛んでくる。

 二人の姿はどう見ても、ユニコーンに化けた妹に姉が跨り、颯爽(さっそう)と登場しようとして見事に失敗した間抜けな図であった。

 二人はすでにアリーナの中にいた。マオのくぐった扉が、選手入場門だったのだ。

「重い……ご主人、動いてぇ……」

「すまん……もう少し、かかる……」

 片や体力の限界、片や急所への直撃。動くに動けぬ二人であった。

 そこに、鉄靴をまとった足音が近づいてきた。

「一体なにをやっているんだ、貴様ら?」

「お、姐御」

 心底から呆れた声を上げるイリーズを見上げた瞬間、マオの背中がフッと軽くなった。

「た……たたたた隊長! あんた、なんて格好して……ッ!」

 シアンが猛烈な勢いで跳び退(すさ)っていた。

 肉体的苦痛に勝る生存本能の成せる業だった。

「なに? 本戦では防具に重要制限がかかると大会マニュアルにも書いてあっただろう。私の体重だとこのくらいが限界だ。貴様、ちゃんと読んだのか?」

 マオ同様、イリーズの戦着もまた予戦から変貌を遂げていた。

 軽装である。

 しかし胸や下腹部といった主要な急所以外は、ほとんど裸だった。

 即座に眼を閉じて顔まで背けたが、とき既に遅し。

 瞼の裏に浮かぶイリーズの残像に息が詰まり、意識が朦朧とし始める。

 褐色の肌に筋肉の段をつくる腹や、巨大なロースハムのような太腿は剥き出し。胸当てすら中央がV字に開いており、深々とした胸の谷間がくっきりと見えた。

 これでは昨日の覆面の女と大差ない。

 なによりシアンにとっての最大の目の毒は、その身体のいたる所に走る大小の勇ましい傷痕だった。

「そういう問題じゃない! インナーくらい着ろ、破廉恥な!」

 声が震えるのを抑え込み、自分を鼓舞するように怒鳴る。

 イリーズの言う本戦出場者用マニュアルなら、シアンも昨日のうちに読んだ。服も防具のうちに入るため、布地を捨てて鎧を固めてくる輩も出るだろうと予想はしていたが、まさかこんな近くにいたとは……

「恥を恐れて闘いに勝てるものか。集団戦ならいざしらず、決闘では身軽な方が有利だ。それに肌を出した方が危機感も高まる」

(この国の女というのは……!)

 ちなみに、予選で使用したマオ特製の女傑直視防止眼鏡は大会規定によって禁止されていた。顔──とくに目元──を隠すことによる選手の替え玉を防ぐためだ。

 結局、シアンはマオと手を繋ぐことでなんとか精神の均衡を保ちつつ、配戦の場であるアリーナ中央に向かった。

 そこにはトーナメント表の描かれた大きな掲示板が設けられていた。

 板の足下には長机が置かれ、金色に輝く掌大の球が二つ並んでいる。

 配戦クジの入った真鍮製のカプセルだ。

 二つしか残っていないということは、遅刻したシアンとマオのぶんだろう。

「きゃあ、でっかい金――――」

 その頭に拳を振り下ろして、シアンは従者を黙らせた。

 他の選手たちは各々、球を手にして姉妹を待っていた。

 シアンにとってのささやかな幸運は、件の覆面女──イグニス──がマントを羽織っていたことだ。

「あの覆面は大会規定に反しないのか……?」

 マオにだけ聞こえる声でシアンはぼやく。

「ご主人、本当にマニュアル読みやした?」

「どういうことだ?」

「本人の判別が出来るくらい肌を露出させるなら、顔の防具もある程度は容認されるって書いてありやしたぜ」

「……なんだそりゃ」

「ご主人もそうすりゃ、あの眼鏡も掛けられたんでねぇですかい?」

「無理だろ」

「まぁ無理でさね」

 昨夜、ミラウラが各選手の情報を持ってきてくれたが、彼女に関してだけは素性も経歴もまったくの不明だった。

 完全な公爵側の刺客。

 全選手のなかで、このイグニスこそが最大の曲者と見て間違いないだろう。

 本来なら王妃の座をかけたこの闘いに参加してよいはずがない。

 だが、それは王女に雇われた自分たちとて同じである。

(この大会の異分子同士だ。あの女は何としても私が相手したいところだが……はたして一回戦で当たれるかどうか)

 もっとも、本音を言えば断じて闘いたくないシアンである。

 その露出狂仮面のすぐ近くに、公爵令嬢がいた。

 ドレスは予戦よりも派手さを増しており、唯一の装甲である胸当てにも蝶を(かたど)った金の象嵌(ぞうがん)(ほどこ)されている。

 昨日のことを根に持っているのか、怒りを露わにした眼をシアンに向けながら、肩にかかる髪を払い上げた。

 大きなダイヤの指輪が、いかにも見せつけがましい。

 その二人から少し離れた位置に、予戦でシアンに得物を奪われた女がいた。

 名はジーネス。夜盗の一員で、このような大会に出場してくる手合いではない。

 公爵が雇った捨て石の一つに過ぎない。それが武器を奪われたばかりに本戦出場と相成ったのだ。

 恨めしそうな、それでいて怯えた眼がシアンの視線とかち合う。

 両者揃って身を震わせ、顔を背けた。

 二人ほど、シアンの初めて見る顔がいた。

 一人はクセの強い銀髪を無造作に束ねた、長身の女だった。

 名をクーという、近隣では屈指の武術家らしい。

 刀身一メートルの湾刀(サイフ)から繰り出す一太刀必殺のライマット剣術によって、幾多の武術大会で優勝を手にしてきたという。

 公爵との接触は確認されていない。経歴を聞くかぎり権力とは無縁そうだが、狙いは次期王の妻か、それとも最強の称号か。

 残る一人は掲示板のそばに立つ、小柄な神官服の女だった。

 選手には見えないが、球を手にしている以上、間違いない。

 彼女が北方蛮族バイゴル出身の傭兵、ガネス。今大会の優勝候補ナンバーワンだ。

 その武勇は大陸に数多いる女戦士のなかでも、最強と謳われている。

 男でさえ並の戦士は赤子同然。三〇人の夜盗の群れを、たった一人で壊滅させたこともあるらしい。

 その話をミラウラから聞いたとき、シアンはあやうく白眼を剥くところだった。

 「ガネスは〝バイゴルの巨大獣(ベヘモス)〟と渾名(あだな)されるほどの、強力な闘士です!」

 「それ本当に女の渾名!?」

 しかし、その少女のような面立ちから巨大獣と呼ばれる勇猛ぶりは想像出来ない。

 人は見かけによらない。

 言い方を変えれば、外見で相手を(あなど)るなということだ。

「――いッ!」

 足を強く踏まれ、シアンは顔をしかめた。

「ごめんあそばせー」

 踏んだ犯人の(さげす)むような眼が、ユニコーンの口のなかから見上げていた。

(なんなんだ……まったく……)

 シアンは台の上から球を取った。

 どうやら、二つに割れるようだ。

「では、これより対戦カードを決定いたします」

 マオも球を手にしたところで、神官服の女が言った。

「ガネス選手は現在、故あって席を外しておられますので、彼女のクジは私が代行として開かせていただきます」

「な……ッ、彼女がガネスじゃないのか……!?」

 シアンは眼を丸くした。

 どうりで選手に見えなかったわけである。

「馬鹿でありんすか? どう見たって、大会運営委員かなんかでしょが」

 マオが図星を指す。

 反論出来ずにしょげ返るシアンを尻目に、他の選手が続々とカプセルを開けてゆく。

 ハッとして我に返り、シアンも慌てて周りに(なら)った。

 中から、『1』と書かれた札が現れた。

 次の瞬間、選手全員の番号札が光に包まれた。

 それは海蛇のように尾を引いて掲示板へと飛び、表面に選手の名を描いた。

 自動筆記の魔術がかけられていたのだ。

 客席の興奮が高まった。

 鼓笛隊のファンファーレが鳴り響き、巨大なトーナメント表が宙に浮かび上がったのだ。

 そして、地上五メートルほどの高さで、ゆっくりと回転を始めた。

 すべての観客と選手に対戦カードが示される。

「これは……」

「へえ……」

 表を見上げた主従は眼を見張った。


『 Aブロック 第一試合  シャロン 対 ガネス

        第二試合  イグニス 対 アンジェラ

  Bブロック 第一試合    クー 対 スワル

        第二試合  ジーネス 対 イリーズ    』


「みんな、見事に別れんしたね。クジに細工されてたんでしょうかえ?」

「それはわからん。だが、お前は棄権すべきだ」

「それでは、今より《次期王妃決定武術大会》、本戦を開催いたします。ガネス選手が戻り次第、Aブロックの第一試合を始めますので、シャロン選手以外は所定の控え室へ」

 神官の指示に、選手たちは続々と中央から離れてゆく。

「貴様とは決勝だな。手加減などしたら、殺す」

 イリーズの去り際の脅迫がシアンの心を凍てつかせた。

「お姉様、わっちがいなくても負けんでくんなまし」

 マオも主人の手を握ってそう言い残し、イリーズのあとを追った。

 シアンにとっては本当の試練の始まりだった。

 予戦と違い、どんな女傑が相手でもたった独りで戦い抜かなくてはならないのだ。

(最初に隊長と当たってサクッと負けた方が、何倍もマシだったな)

 そのイリーズと相まみえるのも、もはや決勝でのこととなってしまった。

(あ、わざと負けたら殺されるのか。面倒な女だな……)

 選手入場門の向こうに、マオたちの姿が消えた。

 ほどなくして、門の両脇に設けられた四角い窓のひとつに、その姿が現れる。

 そこが選手用の控え室兼、観戦室らしい。

 門を挟んだ反対側の窓には、公爵令嬢とクーが見える。

 ふと、イリーズの横にウィリアミナが並び、シアンに手を振った。

 選手でないにもかかわらず選手専用の部屋に平然と入り込んでいる。

 職権乱用だ、とシアンは思った。

 そのとき、「おー」という喚声が客席から上がった。

 入場門から、それが現れたのだ。

 最初、シアンにはそれが乱入してきた岩石巨人(ゴーレム)に見えた。

 しかし、岩石巨人が胸当を着けて、金砕棒(かなさいぼう)を背負っているだろうか。

「おー! 悪いね待たせちまって! 昨日の酒が腹に来ちまってさぁ!」

 残念ながら、人だった。

 シアンの全身を致死量の電撃が走り抜けた。

「あ、終わった」

 控え室では、マオが諦めきった表情で呟いていた。

「なにを言うか貴様。試合はまだ始まってもいない」

「いやぁ、ごめん姐御。ありゃ、相手が悪い」

 〝バイゴルの巨大獣(ベヘモス)〟と呼ばれるガネス。

 地鳴りのような足音を立てて走って来る、二メートルの巨体。

 丸太のような腕と脚を剥き出しにして、防具は心臓を守る胸当のみ。

 その軽装ぶりはまるで「筋肉は最大の防御!」と言っているかのようだ。

 その正体は他でもない。前夜祭でシアンとぶつかり、その容姿だけで昏倒させた、あの大女であった。

「『ご主人は女傑恐怖症』裏話コーナー第十回-!」

「投げつけるような言い方だな」

「だってー、前のが尺の都合で本題入る前にお開きだったんだもんー」

「ちゃんと説明しない貴様らが悪いのだろうが」

「んにゃ! よく分からん方向に悪ノリする作者が悪い!」

(気付いてたのか……)

「ってなわけで、今回こそは姐御の名前の由来、聞かせてもらうぜ!」

「私のイリーズという名前はな……[一途]から来ている」

「つまんね!」

「なんだと!」

「てやんでい! 気を持たせたわりに普通すぎてオチにもなりゃしねぇぜ! おととい来やがれ!」

「きっさまぁ! 私のニギエラ様への想いを馬鹿にするとはニギエラ様自身を侮辱するも同じ! ぶった斬ってやる!」

「べらんめぇやってみろだギャー!」

「ギャー!」

   ギャー! ギャー!

         ギャー! ギャー!

                 ギャー! ギャー!

                     ……! ……!

(名前の由来シリーズは今回で終わっておくか……)



次回予告!

 運命の再会脳天揺るがし、

 哀れシアンは立ち往生!

 ここでお前が負けたなら、

 今後の展開ままならぬ!

 死したる心を復活させる、

 奇跡の鐘は鳴り響くか!?

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