92 家族
玄関のドアを開けると、一人娘のマリが飛んできて出迎えてくれた。
「パパ、お帰りなさい」
「ただいま、今日はおりこうさんだったかな?」
「うん、おりこうだったよ」
マリと話しながらリビングに向かう。
「あなた、お帰りなさい」
妻がキッチンから笑顔をのぞかせた。
今日も美しい。
その美貌は何年たっても変わらない。
「ただいま」
オレも笑顔を返す。
オレは手にある袋をキッチンの食卓に置き、それから奥の部屋に行くと、いつものように背広から普段着に着替えた。
リビングでは、マリがソファーに座ってテレビを見ていた。マリの隣に腰をおろし、あどけない横顔を見て思う。
――やっぱり家族はいいな。
マリは仕事で疲れたオレを癒してくれる。オレは家族の大切さをあらためて思い知った。
「あなた、もう食べられるわよ」
キッチンから妻の声がした。
「マリ、ご飯を食べるぞ」
「うん」
オレはテレビを消し、マリを連れてキッチンへと向かった。
夕食はマリが大好きなハンバーグだった。
マリをはさんで、オレと妻がいつもの椅子に座る。
「マリ、いっぱい食べるんだぞ」
「うん」
マリが嬉しそうにうなずく。
おれは目の前の袋からカラアゲ弁当を取り出し、それを箸でつつく。
――こんな家族じゃ……。
オレは淋しくなった。
オレはリビングに行くと、壁に取りつけられたバーチャル家族システムをオフにした。
その瞬間。
光粒子の立体映像のすべてが消えた。
キッチンでは妻とマリも消えているはずだ。
オレはだれもいないキッチンにもどり、それからコンビニで買った弁当の残りを食べ始めた。
そして食べながら思う。
――やっぱり本物の家族を持たなきゃあ。




