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90/132

90 事故物件

 夜の十時。

 とある賃貸マンションの一室。

 若い男がリビングでテレビを見ているところへ、奥の部屋から出てきた女が声をかけた。

「受験、もうすぐでしょ。テレビなんか見てないで勉強しないと」

「ああ、わかってるよ。ところで母さん。あの男、今夜も現れるんだろうね?」

「たぶんね。ここのところ毎晩だから」

「それで怖くないの?」

「そりゃあ怖いわよ。でもね、ここは幽霊が出るのがわかってて格安で借りたんだから、少しぐらい我慢しないとね」

「でもなあ」

「しかたないでしょ。あなたを大学に行かせるためにはお金がいるんだから。それに今のところ、別に悪さをする幽霊でもないみたいだし」

 女が笑ってみせる。

 と、そのとき。

 ピンポーン。

 玄関のチャイムが鳴った。

「ほら来た。オレ、自分の部屋で勉強するんで」

 若い男はあわてた様子でリビングから出ていった。


 中年の男がリビングに入ってきた。

「どうだ、アイツは今日も出たか?」

「ええ、さっきまでここにいたわ。チャイムの音を聞いて、あわてて自分の部屋に行ったけど」

「こまったもんだな。いくらここが格安の事故物件だからって……」

「まあ話さえ合わせておけば、別に悪いことをする幽霊でもないみたいだけど」

「早く成仏してくれることを願うだけだな」

「そうね」

「オレ、ちょっと着替えてくる」

「じゃあ、私はその間にお風呂の準備を」

 女は浴室に向かった。

 すると……。

 女が消えるのを待っていたかのように、先ほどの若い男がリビングに現れた。

「なあ、父さん。あの女、この頃いつもリビングに居座ってるんだ」

「がまんしろ。ここは女の幽霊が出るってわかっていて、破格の家賃で借りたんだからな」

「わかってる。大学、お金がかかるんで」

「もうすぐ受験だろ、それで勉強はしてるのか?」

「もちろんだよ」


 とある賃貸マンション。

 そこには夜になると、話し声だけが聞こえるという真っ暗な一室があった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] めっちゃ凄い!!! 最初でもうわぁ……ってなったのに、まさかの三連チャンで、更に……というラスト、びっくり?か感動してかで目に涙が。事故物件だから、もひょっとしたらあるのかもですが、作品の…
[良い点] 誰が? と思ったらまさかの全滅。格安より大家さん泣かせの事故物件ですね。
[一言] 複雑ですね〜。
2023/01/12 09:11 退会済み
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