85 発毛薬
佐々木は名の知れた某医大の学生である。
将来は医師という輝かしい未来が待っているはずなのだが、今の彼にはひとつだけ悩みがあった。
この若さでハゲ、それも見事なまでのつるっぱげなのである。
――女がオレに寄ってこないはずだ。
佐々木は頭をなでるたびにため息が出た。
そんなとき。
佐々木は耳よりな話を入手した。
なんと自分の通う大学に、発毛薬の研究をしている教授がいて、それも完成が間近らしいというのだ。
そこですぐさま、その教授の研究室を訪ねた。
「教授は発毛薬を研究している、それも完成間近だとおうかがいしました。その薬、ボクに使わせていただけませんか」
佐々木はワラにもすがる思いでハゲ頭を下げた。
「ちょうどいい。これから人で治験することになっていたんだ。君がそのモニターでよければね」
「かまいません、喜んでやらせていただきます」
「では、さっそくだが……」
教授が発毛薬の入った小ビンを見せる。
「これが開発中の薬なんだがね。ネコでは一週間ほどで手の肉球に毛が生えてきた。君もそのくらいで生え始め、一カ月もすれば完全に生えそろうはずだ」
「そんなに早くですか」
「ああ、それで治験の期間もわずか一カ月だ。ただその間、君には朝と夜の二度、忘れず発毛薬を頭に塗ってもらうことになる」
「たやすいことです」
「薬が頭皮に染み込むよう、両手の指先でていねいに塗るんだよ」
「はい、必ずそうします」
「では、ひと月後に結果を見せてくれ」
「わかりました」
佐々木は発毛薬の小ビンを手に、嬉々として教授の研究室をあとにした。
毎日、朝晩の二度。
佐々木は発毛薬をハゲ頭に塗りこんだ。
発毛薬の液体を頭のてっぺんに垂らし、指十本を使ってまんべんなく頭皮にすりこんだ。
けれど……。
それは一週間だけだった。
佐々木は教授の研究室を再訪し、開口一番、涙ながらに訴えた。
「教授、脱毛薬をいただけませんか」
「脱毛薬とは、いったいどうしたんだね?」
教授は佐々木の頭を見た。
髪の毛が一本も生えていない。まだつるっぱげのままである。
「ほら、これ」
佐々木が両手の平を見せる。
その指先には、ポツポツと毛がはえていたのだった。




