64 第十回夏祭り息止め記念大会
とある町内。
夏祭りに合わせて、これまで九回の「夏祭り息止め大会」が行われてきたが、今年で十回目になったことから、特別な記念大会として開催されることが決まっていた。
優勝者への賞品のビールは三か月分から一年分にと特別に増やされ、町内会長からは事前に、回覧板でもって次のような周知がなされていた。
「本大会は十回目を迎えましたことから、今年は「第十回夏祭り息止め記念大会」とし、これまでの出場者の中から次の十名を招待して開催いたします。
第一回大会優勝者、息をしていない者。
第二回大会優勝者、口と鼻のない者。
第三回大会優勝者、エラ呼吸をする者。
第四回大会優勝者、洗面器の水を飲み干す者。
第五回大会優勝者、洗面器の水で溺れる者。
第六回大会優勝者、洗面器に顔を置き忘れる者。
第七回大会失格者、洗面器より顔が大きな者。
第八回大会失格者、途中で息継ぎをする者。
第九回大会優勝者、まともな者。
今回特別参加者、町内会長。
そのほかは昨年までとまったく同じ。
会場内のテーブルには水が満タンに入った洗面器が十個並べられ、過去の強者たちがそれぞれの洗面器の前に立ち、集まった観客たちは今年は誰が勝つのかと興味津々に見ている。
「それではこれより、第十回夏祭り息止め記念大会を始めます」
町内会長がピーッと開始の笛を吹き鳴らした。
参加者十人がいっせいに洗面器に顔を突っ込む。もちろんこの中には、たった今笛を吹いたばかりの町内会長も含まれていた。
十秒経過。
町内会長が一番に顔を上げた。
二分が経過。
第九回大会優勝者のまともな者が顔を上げた。
三分が経過。
ほかの八名は洗面器に顔を突っこんだままだ。
五分が経過。
誰も顔を上げない。
勝負がつく様子がない。
「ピッ!」
町内会長が笛を強く短く吹いた。
中止の合図だ。
残っていた八名がいっせいに顔を上げた。
「みなさま、ごらんのとおり勝負がつきそうにありません。よって今年は、洗面器から一番に顔を上げた私を優勝者といたします」
第十回夏祭り息止め記念大会は、こうして町内会長が優勝し、賞品の一年分のビールをゲットした。
誰も異議を唱える者はいなかった。町内会長は審判長、審判長の言うことがルールなのである。
九人の敗者たちは、顔に悔しさをにじませて帰っていった。
大会終了後。
町内会長から以下のような発表があった。
「夏祭り息止め大会は、今年の夏祭りをもちまして取りやめとさせていただきます」




