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48/134

48 気づいてよ

 夕食のあと。

 テレビドラマを観ている妻に話しかけた。

「この女優、印象が変わったな。最近になって髪を切ったのかな?」

「そうみたいね」

 妻がめずらしく話にのってきた。

 けれどもそれだけだった。

――なんで気づいてくれないのかよ。

 女優が髪を切ったことを話題に出し、オレが髪を切ったことに気づいてほしかったのだが……。

「でも、よく気がついたわね」

 妻が思い直したように口を開く。

「あれくらい髪を短くすれば、そりゃあ、だれだって気がつくよ」

 そう、ひと目でわかる。

 ショートカットにした女優が、もう別人といっていいぐらいに見えるのだ。

――オレ、もともと短かったんで、それで気がつかんのだな。

 そんなことを思う。

――でもなあ。

 それでも、それなりに短くはなっている。ちゃんと見さえすれば気がつくはずだ。

 つまり夫に関心のない証拠である。

 オレは気がついてほしくて、さらに髪型の話題を引っ張った。

「女って失恋すると、バッサリ髪を切るって聞いたことがあるんだけど。だったら、この女優も失恋したのかな?」

「バカね。失恋のたびに髪を切る、今どきそんな女なんていないわよ。ちょっとした気分転換なの」

「気まぐれってことか」

「そうじゃなくてね、それまでの自分を変えたいってことなの。ほら彼女だって、イメージチェンジして新鮮に見えるでしょ」

 妻がテレビに目をもどす。

――たしかになあ。

 髪を切るだけで、女はずいぶんとちがって見えるものである。

 と、そのとき。

 お隣の奥さんの顔が思い浮かんだ。

 彼女も髪を短くしたとき、なぜかすごく新鮮に見えたものである。

「隣の奥さんもショートカットにして、ずいぶん印象が変わったもんな」

「で、それが?」

 妻の目じりがグッと吊り上がる。

――なにか気にさわることでも?

 別にマズイようなことはしゃべっていない。隣の奥さんがきれいになったとか、ステキになったとかは話していないのである。

「それがって?」

「なんでもないわよ」

「でもオマエ、機嫌が悪くなったみたいで」

「なんでもないって言ってるでしょ」

 妻は声を荒げ、ふいに両手で髪をかき上げた。

 それからプイと横を向いた。

――あっ!

 オレは体が固まった。

 妻の髪がゆれない。

 妻の髪が短い。

 それもかなりだった。


 それから一週間。

 妻は口をきいてくれなかった。

 目も合わせてくれなかった。

 して……。

 オレが髪を切ったことには、当然のごとく気づいてくれなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 似たもの夫婦ですね・・・(*^-^*)
[一言] 似た者夫婦ー!(≧▽≦) なんだかんだいいつつも、良いカップルな予感がします(笑)
[一言] 拝読しました。 そりゃあ、妻は怒りますよね。 隣の奥さんの髪型の変化には気がつくのに、どうして自分には…と。 男の人の髪って、さっぱりするくらいの変化だから、女性にとっては、さして気が付かな…
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