48 気づいてよ
夕食のあと。
テレビドラマを観ている妻に話しかけた。
「この女優、印象が変わったな。最近になって髪を切ったのかな?」
「そうみたいね」
妻がめずらしく話にのってきた。
けれどもそれだけだった。
――なんで気づいてくれないのかよ。
女優が髪を切ったことを話題に出し、オレが髪を切ったことに気づいてほしかったのだが……。
「でも、よく気がついたわね」
妻が思い直したように口を開く。
「あれくらい髪を短くすれば、そりゃあ、だれだって気がつくよ」
そう、ひと目でわかる。
ショートカットにした女優が、もう別人といっていいぐらいに見えるのだ。
――オレ、もともと短かったんで、それで気がつかんのだな。
そんなことを思う。
――でもなあ。
それでも、それなりに短くはなっている。ちゃんと見さえすれば気がつくはずだ。
つまり夫に関心のない証拠である。
オレは気がついてほしくて、さらに髪型の話題を引っ張った。
「女って失恋すると、バッサリ髪を切るって聞いたことがあるんだけど。だったら、この女優も失恋したのかな?」
「バカね。失恋のたびに髪を切る、今どきそんな女なんていないわよ。ちょっとした気分転換なの」
「気まぐれってことか」
「そうじゃなくてね、それまでの自分を変えたいってことなの。ほら彼女だって、イメージチェンジして新鮮に見えるでしょ」
妻がテレビに目をもどす。
――たしかになあ。
髪を切るだけで、女はずいぶんとちがって見えるものである。
と、そのとき。
お隣の奥さんの顔が思い浮かんだ。
彼女も髪を短くしたとき、なぜかすごく新鮮に見えたものである。
「隣の奥さんもショートカットにして、ずいぶん印象が変わったもんな」
「で、それが?」
妻の目じりがグッと吊り上がる。
――なにか気にさわることでも?
別にマズイようなことはしゃべっていない。隣の奥さんがきれいになったとか、ステキになったとかは話していないのである。
「それがって?」
「なんでもないわよ」
「でもオマエ、機嫌が悪くなったみたいで」
「なんでもないって言ってるでしょ」
妻は声を荒げ、ふいに両手で髪をかき上げた。
それからプイと横を向いた。
――あっ!
オレは体が固まった。
妻の髪がゆれない。
妻の髪が短い。
それもかなりだった。
それから一週間。
妻は口をきいてくれなかった。
目も合わせてくれなかった。
して……。
オレが髪を切ったことには、当然のごとく気づいてくれなかった。




