46 良妻賢母
ママが急にやさしくなった。
ゲームをしていても、「終わったら、ちゃんと宿題もやるのよ」と、笑顔で声をかけてくるだけだ。ついこの前まで、ようしゃなくコンセントを引き抜かれていたのに……。
ボクにだけじゃなく、パパにもやさしい。
ゴルフに出かけるとき、最近は笑顔で送り出している。「やさしすぎて、なんだか気味が悪いな」と、パパも首をかしげている。
でも、ママがやさしいのはいいことだ。
ママがやさしくなったのは、カルチャーセンターの教室に通い始めてからだ。
講座は「良妻賢母になろう」っていうらしいんだけど、ボクにはむずかしくて、なんのことだかよくわからない。
「とても勉強になるの」
ママはそう言って、三カ月ほど前から週に二度、休むことなく通い続けている。
がんばっているママを見ていると、しぜんとママのお手伝いをしたくなる。パパもそうで、ボクたちはいつしか家事の手伝いを始めていた。
「ママが良妻賢母になったからだろうな」
パパはとてもうれしそうだ。
そんなある日。
「二人にお願いがあるの」
ママがあらたまった顔で言う。
「じつはね、教室で知り合った仲間と、研修をかねた旅行をすることになったの。わたし一人、断るわけにもいかなくて」
「いいことじゃないか」
「そうだよ」
パパは笑顔で答え、ボクも行くようにすすめた。
ここでダメなんて言ったら、ママがまたもとのきびしいママにもどるかもしれない。そんなことになったら、パパもボクもたまらない。
「ありがとう。しばらく二人きりになるけど、ちゃんとやっていける?」
ママは家のことが心配らしい。
「もちろんさ。近ごろずいぶん手伝って、なんでも覚えたからな」
「ボクもいろいろできるようになったんだ。ママがいなくても、だいじょうぶだよ」
ボクとパパは、自信たっぷりに顔を見合わせた。
「よかった、安心して家をあけられそう」
「ねえ、ママ。旅行って、どこに行くの?」
「ツアーなんだけどね、ヨーロッパ二週間の旅巡りっていうの。もちろん研修をかねてよ」
ママは目を輝かせて言った。
さすがママだ。
良妻賢母の意味がわかったような気がした。




