45 ちか道
およそ四十年ほど前のできごとです。
当時、私はまだ小学生でした。
その日。
私はS村の友人の家に向かっていた。彼と遊ぶ約束をしていたのだ。
途中、県道から山道の方へそれた。
その道は山の中を抜けS村に通じており、古い時代からあったものである。ふもとをう回する県道にくらべ、起伏こそ多いが距離的にはかなり短い。
歩いていくにはちか道だったのだ。
ちか道は雑木林をぬうようにして続き、その中間あたりに古い神社があるのだが、その日は神社の前に見知らぬ少年が立っていた。
「この道って、一本道だよね」
少年が聞いてきた。
「そうだよ」
この道は何度も通っていたので、私は分かれ道のないことを知っていた。
「ありがとう」
少年が笑顔になる。
私は山道を先へと進み、少し進んだ曲がりかどで振り返ってみた。すると少年はまだ神社の前にいて、どちらへ進もうか迷っているようだった。
私はS村に向かって歩いた。
しばらく進み、山道がのぼり坂となったとき、私はおかしなことに気がついた。
この坂道は神社の手前の道なのだ。
やはり神社が見えてくる。
私は神社の前で立ち止まった。
道をまちがえたとは考えられない。ずっと一本道だったのだ。
そのとき県道の方から、おじいさんが坂道をのぼってきた。
「この道って、一本道ですよね」
私はおじいさんにたずねてみた。
「そうだよ」
「ありがとうございます」
私がS村に行こうか、それとも引き返そうか迷っていると、おじいさんが少し先の曲がりかどで振り返った。が、すぐに木々のかげに隠れてしまう。
私はS村に行くことをやめて帰ることにした。
坂道を引き返していると、先ほどの少年が向こうからのぼってきた。
「この道、一本道じゃないみたいだよ」
少年はそう言い残し、神社の方へ向かって坂道をのぼっていった。
私は県道に向かって歩いた。
山道はなだらかになり、やがて見覚えのあるのぼり坂となった。それからふたたび神社の手前の坂道があらわれ、またしても神社に着いた。
今度はS村に向かって山道を進んだ。
するとしばらく歩いたところで、ふたたびあのおじいさんと出合った。
私は頭が混乱していたのだろう。そのときどんなやりとりをしたのか、まったく覚えていない。
そのあとも山道をいく度となくまわり、そのたびに少年とおじいさんに出合った。そして日が暮れるころになって、ようやく県道へと出ていたのだった。
今にして思えば……。
あの日の、あのできごとは、いったい何であったのであろうか。
たいそう不思議に思うのです。




