44 死ぬ気になれば
幸子はボランティア相談員をしている。とある福祉団体の一室で、「命の電話」と銘打たれた匿名電話でもって、悩みごとの相談を受けるのである。
近ごろ。
自殺する者が多い。だから自ら死にゆく者に対しての相談がほとんどである。
――たくさんの命が助かってるんだわ。
自分のやっていることに、幸子は誇りとやりがいを感じていた。
幸子の人生は今でこそゆとりがあるが、それは長いこと苦難の連続であった。死にたいと思ったことも何度かあった。
そのたびに……。
幸子は死ぬ気になってがんばり、歯をくいしばって苦難を乗り越えてきた。こうしたつらい経験があるからこそ、どんな相談者にも親身になって悩みを聞いてやることができる。
そして今日も悩める者たちの命を救う。
昼前。
匿名の老人から電話が入った。
子供もなく、金もなく、これから生きてゆく気力もない。死にたいのだが死ぬこともできない。独り淋しく、これからどうしたものかと訴える。
「死ぬ気になれば、なんだってできるんですよ」
幸子はいつものように、自分の人生経験をいかして相談に応じた。
「ありがとう」
老人は最後、幸子に感謝を伝えて電話を切った。
翌日の朝。
幸子は日課にしている朝刊に目を通すことから始めた。仕事がらどうしても、自殺などの記事が気にかかるのだ。
そして。
昨日も自殺があった。
淋しい独居老人であった。
どうして自ら死を選ぶのだろう?
どうしてそんなに死に急ぐのだろう?
どうして?
――死ぬ気になれば、なんだってできるのに……。
幸子は深いため息をついた。
そう、死ぬ気になれば死ぬことだって……。




