36 闇の戦士
オヤジの葬儀が終わって数日後のこと、見知らぬ二人の男が我が家を訪れた。
線香をあげたあと。
「お父さんはとても勇敢だったよ。ぜひともあとを継いでほしいんだ」
ハゲ頭のじいさんがオレに言った。
「息子さんがやはり一番いいと。それで、こうしてお願いにあがったんです。あなたなら、お父さんのように活躍してくれると思いましてね」
もう一方の中年男も追って言う。
「なんですか? オヤジのようにって」
なんのことだかさっぱりわからず、オレは二人に首をかしげてみせた。
「ここでは、はっきり言えないんだよ。聞かれるとマズイんでね」
「くわしいことはアジトの方で。そこでゆっくりお話しします」
中年男が声をひそめる。
「アジトって?」
「それもゆっくりあとで。ではさっそく、これから我々のアジトに行きますかな。組織のほかの者にも紹介したいんでね」
ハゲ頭は話が決まったかのように、中年男を目で促してから腰を上げた。
オレの返事も聞かずに……。
そのアジトは、とある民家の地下にあった。
地下室にはすでに三人の男が待っていて、全員がこの町の住民だと紹介される。
オレは名前を告げ、仕事は営業をやっているサラリーマンとだけ教えた。
「これから組織のことを話そうと思うんだが、その前にこれを見てほしい」
ハゲ頭から、なにやら資料を渡された。
表紙に「闇の戦士」と勇ましいタイトルがある。
「闇の戦士って?」
「宇宙からの侵略者、エイリアンと戦う者たちだよ」
ハゲ頭がまじめくさった顔で答える。
「エイリアンねえ」
「信じられんかもしれんがな。この地球には、すでにヤツらがわんさといるんだよ」
「地球侵略ですか?」
「ああ、人類の滅亡と地球の支配をねらってな。ヤツらはその手始めに、世界各地で戦争や事故、それに災害などを誘発してるんだ」
ハゲ頭が資料を開いた。
「なるほどねえ」
オレも資料をめくってみた。
過去に起きた戦争、事故、災害の事例と、エイリアンのかかわりなどが表となってことこまかに記されている。
「これって、ホントにホントなの?」
「ほんとうのことです。あなたのお父さん、昆虫採集をされていたでしょう」
中年男が言う。
たしかにオヤジの趣味は昆虫採集だった。
なんだ、いい歳をして……と、そんなオヤジのことを、オレはいつもバカにしていたのだが。
「してたけど、でもそれがなにか?」
「エイリアンは虫とそっくりなんです。ですからお父さんは昆虫採集のふりをして、人知れずエイリアンを退治されていたんですよ」
「へえー、オヤジが採っていた虫がエイリアンだったとはねえ」
「はい。とても小さく、ヤツらは人間の体内にも侵入するんですよ」
「で、侵入された者はどうなるんです?」
「寄生され、やがて脳をコントロールされます。すでに多くの人間が寄生されています」
「そうなんだ」
「あんたのお父さんはね、闇の戦士を三十年も続けられたんだ。勇敢で立派だったよ」
ハゲ頭がオヤジをたたえた。
オヤジは長い間、人類を救う戦士として活動していたらしい。
「じゃあ、ここにいるみんなも、オヤジのような闇の戦士なの?」
「この町の戦士は、ここにいる五人とあんたのお父さんだった。ところがお父さんが抜け、今は一名、欠員状態となっている。だからあんたには、ぜひ組織に入ってほしいんだ」
みなが立ち上がり、お願いしますと言って、オレに向って頭を下げた。
「わ、わかりました」
この日。
オレはこうして闇の戦士の一歩を踏み出した。
闇の戦士となって、十年。
日夜、オレは人類を守るため、エイリアンと戦ってきた。かたや食っていくため、普通のサラリーマンとしても働いている。
いい歳こいて虫捕りを。
そんなかげ口をたたかれようとも、休みの日にはかならずあちこちの野山をかけまわった。
労をおしまず、しかも人知れず、人類のために働くのが闇の戦士だ。
日々オレは、そして今日も、虫捕りアミを片手にエイリアンと戦っている。




