表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/125

32 明日は雨

 窓越しに真っ青な空が広がっている。

 男は席を立ち、上司や同僚らの目を避けるようにして更衣室へと向かった。仕事にいきづまったり、悩んだりしたとき、ひとり更衣室にこもる習慣があったのだ。

 更衣室に入るとだれもいないことを確かめ、男は自分専用のロッカーから箱を取り出した。

 その箱の中には父が遺したゲタ。なぜだか右の片方だけではあったが……。

 男は手にしたゲタをしげしげとながめた。

 失いかけていた自信が徐々によみがえってくる。

――父さんは、これで……。

 父の偉大さにあらためて感じ入る。

 亡き父にあこがれ、同じ職に就いてから、たびたび先輩たちから聞かされてきた。

「オマエのオヤジさんほど、仕事が正確無比な者はいなかったな」

 父は仕事仲間のだれからも信頼され、そして尊敬されていたのだ。

 男はゲタをつっかけ、それから右足を大きく振り抜いた。前方に飛んだゲタが、カラカラと音をたて裏返しになって止まる。

 男はゲタを箱に収めてロッカーにしまうと、それから意気揚々と職場にもどったのだった。


 その日の夜。

 男が帰宅すると、息子がなにやらゴソゴソと作っていた。

「なんだ、それは?」

「テルテル坊主だよ」

 それはティッシユペーパーを丸め、輪ゴムで結んでこしらえただけのものである。

「明日、なにかあるのか?」

「遠足だよ。でもね、天気予報じゃ雨だって。だからボク、晴れにしてもらおうと思って」

「テルテル坊主、お願いきいてくれるかな?」

「ぜったいきいてくれるよ」

 息子が無邪気な笑顔を向けてくる。

「晴れるといいな」

 男は笑顔を返し、ひそかにおかしく思った。

――かわいいもんだな。そんなたわいのないものを信じるなんて。

 明日は雨。

 そう予想したのはほかならぬ彼であった。

 もちろんその予想は、気象予報官――父の形見のゲタによるものである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 同じ職?げた職人か、とか思ってしまいましたww 最近の天気予報は、科学技術を駆使して、的中率があがったとか。でも、ゲタのほのぼの感が好きです。
[一言] 小さいころよくやりました。 「あーした、天気になあれ」とサンダルを高く飛ばす遊び。 うらだったらがっかりし、そのままだったら晴れだと大喜び。気象予報士もその手をつかうんですか。これまたびっく…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ