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31 恋占い

 朝食後。

 小林トオルは図書室兼パソコン室にいた。インターネットにある占い欄を見るのが、最近は毎朝の習慣となっていたのだ。

 占いを気にするなんて、まるで女の子ようで少しばかり気恥ずかしいが、今日の運勢を見るのはまことにもって楽しい。

 運勢には、健康、商売、学問、恋愛などがある。このうち恋愛だけはかならず目を通した。

 さて、本日の恋愛運だが……。

 告白すべし、恋が叶う――とある。

――ウヒヒ……。

 つい頬がだらしなくゆるむ。

 と、そのとき。

 ひとつの影が目の前を通り過ぎた。

 トオルが心に秘めている女性、あこがれのスズさんだった。耳が不自由なため、彼女はこの部屋でよく本を読んでいる。

――今日こそ声をかけよう。

 トオルはイスから腰を浮かせた。

 恋愛運は「告白すべし、恋が叶う」なのだ。

 それに今日はトオルの誕生日。愛を告白するには記念すべき最高の日である。

――なんと言ってさそおうかな? でも、すげなくされたらどうしよう。

 そんなことを考えているうち、トオルの浮いた尻はいつしかイスに着いていた。

――いや、きっとうまくいくはずだ。

 なんといっても今日は、告白するには絶好の運勢なのである。

――スズさん、いっしょにお茶でも……なんてのはどうだろう? そしたらスズさんも、はい、よろこんでなんて。あー、オレって色男だな。

 トオルは頭の中で勝手に舞い上がっていた。

 その間に……。

 スズさんはイスに腰をおろし、それからいつものように本をめくり始めた。

 まわりにはだれもいない。

――チャンスだ!

 トオルは勇気をふりしぼり、本に目を落としている彼女の前に進み出た。

 思い切って声をかける。

「あのー」

「……」

 スズさんがトオルを見上げ、小首をかしげた。

「あのー、いっしょにお茶でも」

「……」

 スズさんがとまどった表情をみせる。それからテーブルに、指でなにやら文字を書き始めた。

――そうだったんだ。

 自分の告白の声が、耳の不自由な彼女に届いてないことに気づく。

「いえ、いいんです、いいんです」

 トオルは照れ笑いを浮かべ、あわてて顔の前で手をふってみせた。


 部屋にもどる途中。

「小林さん!」

 トオルは施設の職員――介護士の女性に声をかけられた。

「誕生日会、十時までに集会室に来てね」

「ああ、わかってるよ」

「今日は特別に、小林さんだけに記念のプレゼントがあるの。楽しみにしていてくださいね」

「ほう、ワシにだけとは?」

 介護士はにっこりとして言った。

「だって小林さん、おめでたい米寿を迎えたんですもの」


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― 新着の感想 ―
[一言] 何歳になっても、前向きなトオル爺ちゃん。今はやりの終活は、見向きもしないでしょう。そういう生き方の方が好きです^^)
[一言] 拝読しました。 いいなあ、小林トオルさん。 米寿を迎えても、なお、この精神的な若さ! 少年みたいに初々しい恋心こそ、長生きと、ボケない秘訣でしょう。いや、もしかして、色ボケ? keikato…
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