33 赤の他人
アパートに風呂がない。
大の風呂好きのオレにとって、これはなによりも不満のタネだった。そこで、風呂付きの部屋を求めて引っ越したんだ。
引越し先は六畳ひと間にバストイレ付き。
学生の身分としては十分かな。でも、そのぶん家賃は高くなったけどね。
収入は親からの仕送りだけ。それも決まった額だから、家賃の差額分、新しい生活は苦しくなったといえるけど……。
不足分をバイトで稼ぐこともできた。
でもオレは、働く気がこれっぽっちもなかった。あくせく働くぐらいなら出費を抑えて、生活費を切りつめた方がよほど楽というもんじゃないか。
オレはさっそく辛抱を実行に移したよ。
まずは食事を二度にしたんだ。腹がへっても死ぬことはないしね。
さらに光熱費も節約した。
電気、ガス、水道と、節約できるものはいくらでもあるんだ。
風呂は水を減らし、沸かす時間も半分にした。それに食事を二度にしたことにより調理も減って、今のところガス代はかなり節約できているみたい。
トイレは暗くても用がたせるので、いっさい電灯はつけていない。部屋も食事と本を読むとき以外はほぼ消しているんだ。
近頃、特に節約しているのが水道だ。
トイレの水は寝る前に一度だけ流してるし、三カ月前からは風呂の湯も交換していない。
水は減ってゆく分だけ足しているので、たいして問題はないんだ。かなり汚れてはいるけど、がまんできないほどでもないからね。
風呂に入るのは一人、使うたびに流すなんてモッタイナイじゃないの。おまけに水の入れ替えに掃除といった、メンドウな手間がはぶける。
まさに一石二鳥というものだよ。
生活は苦しいながらも快適だったよ。なんといっても毎日のように風呂に入れるからね。
ところが最近。
この快適な生活に突如として邪魔者が現れたんだ。
で、ソイツは今、オレの部屋にずうずうしく居候しており、迷惑でしょうがないのよ。
ソイツが現れた日。
オレは朝から風呂にシャレこんでいたんだ。
浴槽の底には、それまでの汚れがかなり沈殿していた。ブヨブヨしており厚さは十センチほどだ。それでもいつも足を置く位置、足形の分だけは薄い。
右足を足形にそろりと踏み入れた。
足の裏に、いつものヌルッとした感触が伝わってくる。続いて左足をそうっと……。
足の位置は、いつもと一センチとたがわぬ場所にあるはずだ。わずかでもズレていたら、沈んだ汚れが巻き上がるはずだからね。
浴槽の中央に縮こまって座る。それとともにゼリーのようなブヨブヨが尻に触れた。
この感触がたまらなくいい感じである。
ウヒッ。
つい心の中でほくそえむ。
そのときなんだ、ヤツが現れ出たのはね。
どこからと思うかい?
風呂、風呂だぜ。
それも浴槽の足元からなんだぜ。
ヤツは突如、浴槽の底からハガレルように浮いてきたんだ。
ゲッ!
もちろんオレは悲鳴をあげ、すぐさま浴槽から飛び出したよ。
ところがヤツときたらな。
よう、兄弟!
なんて、オレに向かってほざいたのさ。それもいたって平然とした顔でだよ。
それからさ。
ヤツが同居人になったのはね。
ヤツははじめ、コンニャクみたいにプニョプニョしていた。それが日がたつにつれ乾燥を続け、今では適度な硬さとなりつつある。
色は黒っぽいけど。
まあ、それはいいとして。
問題は兄弟ヅラした横柄な態度なのさ。
図々しさが鼻もちならないんだよ。
ヤツはオレのアカから生まれたんで、兄弟って言われりゃ、たしかにそうかも知れない。
でもね。
がまんには限度ってもんがあるじゃないか。
だから今日こそ、ヤツにこう言ってやるんだよ。
オマエはアカの他人だ! ってね。




