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夢見人ーVisionariesー  作者: 黒城瑛莉香
第一章 はじまりの記録
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向こう側の世界《ザスピル》

「ここ、は……」



 我に返ったハクは直ちに四方八方を見渡す。そこ彼の記憶にはない世界が広がっていた。


 まず飛び込んできたは左右に立ち並ぶ建築物だった。

 統一された三階建てのそれらは西の小さな島国を想起させるもので、石畳の道と洒落た看板がさらに異国の雰囲気を醸し出している。

 行き交う人も奇妙で、髪型や色が漫画やアニメ、ゲームのように特徴的でそれぞれ個性を持っていた。季節は春の最盛期なのか、至る所で植物が花を咲かせている。


 視線を上へ移せば雲一つない明るく壮大な青空が広がっていた。だが不思議なことにそこを数多の流れ星が滑り弧を描き、色鮮やかな閃光を放つと跡形もなく消えていく。


 何もかもが自分の知らない、見たことも想像したこともない世界。

 ここが夢の世界ザスピルなのだろうか。それにしては昨日とは随分雰囲気が異なっている。

 しかし、人々の活気に影響されているのか、ハクの心は不安で曇ることはなくむしろ魅力にあふれる街に忽ち引き込まれていく。



「?」



 そこでハクはふとある異変に気が付き首をかしげる。

 人通りの多い街路のど真ん中で空を見上げて立ち尽くしているにもかかわらず、誰一人としてハクを注意しようとしないのだ。

 前から歩いてくる人を観察すれば彼らに認知されていることは明白で、事実視線は感じている。

 だがそれは狂人や変人を見つめる人間の心を表したものとは違う。興味がないのか、関わろうとしないのか、はたまた話しかる必要性を感じないのか、通行人は文字通り彼の横を通って去って行く。



「――へっ、あ、ちょ?!」



 瞬間気の抜けた声を発してハクは慌てふためく。というのも、何者かが彼の腕を掴み強引に道脇へ引っ張っていくからだ。

 相手はハクの言葉など聞こえなかったかのように力ずくで従わせ、ぱっと手を離す。

 ハクが軽く見上げれば、予想通りの人物の顔がそこにあった。昨日同様に帽子を被ったシキブは腕を組むとため息交じりに言葉をこぼす。



「はあ……やっと見つけた。道のど真ん中で突っ立って何してるんだよ」


「し、シキブ先輩! それは僕が一番聞きたいことです」


「まあ、あいつのことだからろくな理由じゃないだろうが……早く合流できてよかった。

 のんびりしてられないし、出発するぞ」


「え、どこへ行く気ですか?」



 ハクの問いにシキブは答える様子はなく、淡々とした表情で人の流れに加わる。ハクも遅れまいと速足で追いつき、彼の歩幅に合わせて進んだ



「ところで、ここは本当に夢の中の異世界――ザスピルなんですよね?」


「そうだ。昨日俺とあった校舎も、散らかった部屋もザスピルの中だ。俺も初めは毎日疑心暗鬼だったが今はもう慣れたさ」



 急いでいるのか、シキブは必要以上のことを言わず黙り込む。機嫌を損ねると感情的になってしまうシキブの性格を知り尽くしているハクは、何か事情があるのだろうと察し言及せずに彼に付き従った。


 真っ直ぐ伸びていた街路は終わり、二人は中央で水しぶきを上げる大広場へ入る。


 一層空の広がりを感じるそこでは人の波は消えて、人との距離も少し余裕ができた。

 前方を歩いていた人の後を目で追うと、喫茶の看板を掲げ並ぶ店の一つに入って行く。

 建物の前には数え切らないほどのテーブルと椅子が用意され、暖かな日の光を浴びながら人々はカップを片手にお喋りを楽しんでいた。


 一瞬カフェに立ち寄るのでは、と期待と募らせるハクだが、シキブは軽くうつむいたまま器用に人を避けて広場を横切り、左へと折れてある建物の前で足を止める。



「ここだな」


「あの、看板も店名も書かれてないですけど……」


「大丈夫だ、場所はあってる。

 もう中は修羅場になってるだろうな……よし行くぞ、ハク」



 会話が噛みあっていないのは気のせいだろうか。

 しかし、ハクにシキブからの誘いを断る理由もなく。流れのまま頷きシキブの後に続いて建物の中へ入って行った。




 ――ハクはまだ何も知らない。

 魔法のこと、住人レジデント客人インヴィティのこと、仲間ヴィジョナリーたちのこと、そして扉の向こう側のこと。


 それでも彼は一歩踏み出した。

 今までの守られるだけのひ弱な自身と決別し、誇れる自分を手にするため。

 誰かの役に立てる立派な大人へ成長するため。


 たとえそれが傷つくばかりのいばらの道だとしても。

 引き返せない世界の果てだったとしても。


 彼は選んだ。

 自らの意志によって。責任をすべて受け止めて。自分自身のためだけに。


 進んだ果てに何が待ち受けていようと、きっと彼は後悔しない。


 だって、それが人生なのだから――。




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