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夢見人ーVisionariesー  作者: 黒城瑛莉香
第二章 加速する記録
28/35

銀の騎士

「ラルカ、お願いできますか?」


「お安い御用ですわ。

 お仲間のところへ繋げますわね」



 ラルカが腕を突き出し、指を鳴らすと、地中に別空間(エリア)へ通じる魔法陣が出現した。

 ノアレスがそのゲートを通り抜ければ、同じ様に警察から発砲され、逃れるシキブとツグサがいる空間エリアへたどり着く。

 二人の行方を探るノアレス。

 その頃シキブとツグサは空に続く時計塔が印象的であった迷路の脱出を試みていた。



「――ったく、なにがどうなってやがる。俺たちが何をしたっていうんだよ」


「きっとキブ兄のせいだね。僕は身に覚えないもん。

 今日も時計塔を一刀両断して壊しちゃったし」


「それで捕まるならお前だって同罪、いや俺以上に重罪だぞ。

 何度空間(エリア)の大半を更地に戻して住人レジデントを困らせた?」


「うーんとね、手と足の指で数えられるくらい、かな!」


「自慢気に言うことじゃないだろ!」


『――シキブ先輩、ツグサ、無事ですか?』



 ハクが逃走中の二人に通信機で呼びかける。



『数発弾丸に狙われたが、問題ない。

 というか、どうした? 刈安とか言う同級生の暴走は止められたのか?』


『暴走は止められましたけど、発砲は止められなかった、といいますか……』


『? 言ってる意味がよくわからないんだが』


『詳しくは後で話すよ。それよりも今の状況を打開して合流しないと。

 シキブ先輩もツグサも今どこにいる?』


『アイ姉ー!

 えっと今僕たちはね――』



 ――バンッ



 ツグサが目印になりそうなものを探して立ち止まったその一瞬の隙をついて、追随する警官が引き金を引いた。

 弾は大きく外れたものの、その一発で拳銃を打ち込めるほどの距離に警察が迫ってきていることを思い知らされる。

 シキブがツグサの腕をとり、移動する。

 常に動いていなければ銃の的にされかねない。



『悪いが迷路を進んでいるせいで目印になるものがない。

 一応中心地にあった塔から離れている』


『大丈夫よ。さっきの発砲音で大体の位置はわかったから。

 ノアレス、急いで』


『クオォォォン』



 速度を上げてノアレスは地中を進む。

 そして再び銃弾が放たれ、ツグサの髪をかすり触れた数本が灰と散る。

 互いの背を合わせ、立ち止まれば前後で警官隊が銃口を向けていた。



「あー、囲まれちゃった。

 ねえ、キブ兄、この人たち魔法で倒しちゃダメなの?」


「そんなことしたら罪を認めてしまうことになるだろ。そんなこと俺はごめんだね。

 ――なあ、あんたも俺たちが犯罪に手を染めるやつじゃないってわかってるはずだろ? ホワイト警部」



 シキブが声を張って呼びかければ、警官たちの一歩後ろで控えていたホワイトが前へ出てくる。



「私とて君たちを信じたい。

 だが、上からの命令に忠実に従う。これが私の務めであり使命なのだよ」


「使命、ね。そうだよ、仕事に個人的感情は必要ないもんな。

 あんたは己の役割を全うすればいい。

 けど……俺もそれに付き合うほどお人好しじゃないんでね」


「……キブ兄」


「……わかってる。

 だから俺もこの世界での役割を果たすまで。そして真実を突き止めてやる――すべての真実を、な」



 するとシキブとツグサの足元に円形の影が現れる。

 それは上からできたものではなく、地下より浮上する仲間からの救助船。


 それを認知したホワイトが部下に指示するより先にホルダーより銃を抜き取り、シキブのこめかみ目がけて発砲する。

 けれども、ことすでに遅く。

 ノアレスが口を開いて浮上し、二人を飲み込む。

 警察の銃弾を魔法で粉々に消滅させると、鯱は唸り声をあげて地の底へ姿を消した。






「――あー、今のは本当に危なかった。

 あと一秒、いやコンマ一秒遅れてたら確実に頭を貫かれてたな」



 危機を脱して、シキブが額を手で押さえながら息をこぼす。



「先輩、たまにそういうことありますよね。カッコつけたがるというか、他人に印象良く見せたがるというか」


「言ってくれるじゃないか、ハク。第一印象は重要なんだぞ。

 それに、無傷だったんだ。結果よければすべてよし、だよ」


「それもノアレスのおかげなんだからね。感謝しなさいよ」


「はいはい。

 ……ところで、さっきからなにしてるんだ、ツグサ」



 シキブがアカネに背を向け視線を下へ向けば、ツグサが四つん這いになって腰を下ろすラルカを注視している。



「? なんですの?」


「……アイ姉、じゃない?」


「はい。わたくしはラルカ。どうぞお見知りおきを」


「……なあ、ハク。そこの女性は一体何者だ?

 まさか住人レジデントじゃないだろうな」


「えっと……あの人はこの街を統治している女王様、らしいです」



 予想外の返事にシキブもハクとアカネ同様に仰天し、思考が一瞬停止する。

 ハクの言葉を片耳で聞いていたツグサも口を縦に開け、珍しく固まっていた。


 簡単な自己紹介を済ませた後、ラルカは隣で無言で考え込む銀髪少年姿のハナダへ顔を向ける。



「ところで、ハナダ。次はどこへ向かいますの?」


「……! そ、そうですね。

 住人レジデントに見つからない安全な情報を共有、整理したいのですが」


「安全な場所……。

 では、わたくしたちの秘密の花園へ参りましょう」



 ラルカが再度魔法陣を展開させる。

 太陽と銀河の波が押し寄せる次元通路を通ってたどり着いたのは、水と雲に囲まれた自然に満ちた花の孤島だった。






 ――――






 ノアレスの体内から陸へあがったハクたちは、腕を組むハナダとラルカを先頭に薔薇が咲き誇る庭園の中を歩いていた。

 とある国の様式を真似たその庭園は、植物が自然な形で根を伸ばし、邪魔にならない程度に通路へはみ出し滅多にない来訪者たちを歓迎している。

 すべての花が美しく葉の上で個性を放ってつぼみを開いているのは、補助程度にかけられた魔法のおかげだろう。


 花のアーチを抜ければ、こぢんまりとした煉瓦造りの家が静かに佇んでいた。

 その玄関の前に備え付けられた噴水の縁では金髪の男性が羽ペンで分厚い本に何か書いている。



「……うーん、ここでもない。

 て、ことはこっち? いや、近頃は西の方がお気に召してるし、それはないか。

 あー、どこへ行ったんだ……」


「あれは……」


「おやまあ、アルジャン。御機嫌よう。

 こんなところでもお勤めですか? でしたら屋敷の部屋を勝手に使ってもよかったのですよ」



 ハナダの呟きに続いてラルカがアルジャンと呼ばれた男性に笑顔で声をかければ、ビクッと肩を震わせて一行へ目線を上げる。

 そしてアルジャンはまつ毛の長い銀の眼を大きく開いて立ち上がるなり、大股で歩み寄ってくる。



「ラルカ!

 俺に言伝もなしに、今の今までどこまで散歩しに出かけてたんだ!?

 その間、議会で大臣たちは殺されるし、あいつは容疑がかかって逮捕されちまうし、おかげで宮中は大変なことに――って、おわ、ちょっ、何っ?」



 突然ハナダが男性の足を踏んで胸倉を掴んだ。

 普段冷静な青い目は焦りと怒りに満ちていて、ハクたちも驚きを隠せない。



「今、なんて……?」


「この魔力……そうか、アイちゃんか。ということは、後ろの彼らは――。

 はあ、見ない間に随分と暴力的になっちゃって。あいつの影響だな、絶対に」


「どういう意味?

 あいつが捕まったって……説明してよ!」


「ちょっと、ハナダ、どうしたんだよ!」


「冷静になれ、お前らしくないぞ」


「っ……」



 ハクとシキブが割込み、ようやくハナダは手を離した。

 彼女は深呼吸をして魔法を解くと、服装を正すアルジャンを真っ直ぐ見つめ釈明を求める。

 その前にラルカが礼儀をわきまえて改めて紹介する。



「ようこそお越しくださいました。

 ここはわたくし個人が所有する秘密の花園。わたくしの許可なしに何人たりとも足を踏み入れることはできませんの。

 彼はわたくしの護衛兼お目付役を任されているアルジャン。彼はわたくしたちの味方です。

 そしてアルジャン、こちらにいる方々は」


「ヴィジョナリー、だろう? 魔力でなんとなくわかる。

 本当に彼らと行動を共にしてたなんてね」


「まあ、聞き捨てならない言い方ですわね。先ほどの発言とあわせて詳しく教えて頂きたいですわ。

 ですが……立ち話もなんですし、中へ入りましょうか」



 手入れの行き届いた屋敷に足を踏み入れたハクたちは、高級感のある調度品に囲まれた客間へ通された。

 ラルカが椅子に座るとその隣にアルジャンが控える。ハクたちは二人と対面するように並んで立っている。



「では初めに貴方がここにいた理由でも伺いましょうか。

 わたくしを探していたようですが、何か厄介な事件でも起きまして?」


「厄介なんて生易しいものじゃない、最悪の展開で中央は今パニックになってるんだよ。

 そんな大事な時に、ラルカは一体どこへ行ってたんだ?」


「わたくしは……そう、使いの者から連絡を受けて彼の執務室へ向かっていて……。

 変ですわね、それから先のことはあまり覚えていなくて。

 気づいたらハナダとその友達がわたくしの目の前にいて、中央からいつの間にか出ていて……」



 言葉を詰まらせるラルカ。

 その言葉の先を遮るようにシキブが口を開いた。



「ちょっとその前に。

 あんた中央の人間なんだろ? だったら説明してくれないか。


 どうしていつものようにミスターの指示で任務を遂行してた俺たちが警察に追われることになっている?

 それに、女王陛下の誘拐、だって?


 言っておくが、ハナダ以外ザスピルが王族によって統治されていることも、その君主がそこにいる女性だってことも知らなかったんだ。

 そんな俺たちが何の目的で、いつ、どうやって彼女をさらったって言うんだ?」


「……なるほどね。

 あいつからの任務、魔塊マナ・マスの回収だっけ?

 実はそれが事の原因だったりするんだよなあ」



 シキブの言葉を聞いて、アルジャンはポケットに手を入れたまま片足に重心を乗せ思考を巡らせる。

 そして一つの答えを導き出すと、閉じていた目を開け、銀の瞳でハクたちを見回すと真剣な表情を浮かべた。



「……まずお互いの状況を整理しようか。


 君たちはあいつの指示で、魔塊マナ・マスを回収しに空間エリアへ赴いた。けれども、その任務中、警察が現れて君たちを捕らえようと襲ってきた。

 しかもアイちゃんたちはラルカを誘拐した容疑がかけられていて、話も楽に応じてくれくれない。そこで事態を把握するためにラルカの魔法で警官隊を巻いて空間エリアを脱出、現在に至る、と」


「大体あってるけど、つけ加えるならミスターとも連絡が取れないってことかしらね」


「そうか。

 じゃ、次は俺の持つ情報ね。

 まず--君たちの主ことミスターが連行された」


「!!?」


「容疑は二つ。

 一つはヴィジョナリーを中央へ送り込み宮廷大臣らを殺害後、女王を誘拐、拉致したこと。

 もう一つはそれによってザスピルに混乱を招き、住人レジデントとしての役割を果たせなくなったこと。


 誘拐疑惑はラルカの助言でなんとか撤回できたとしても、他の容疑は取り下げられないだろうな。

 本人も大人しく連行されたみたいだし。刑執行は多分免れない。

 あれから十七年。そろそろ限界だったんだろう」


「……何か方法はないの?」



 拳に力を込めながら俯くハナダが問いかける。



「現状打破は不可能に近い。

 大臣たちが消滅しちまった上に主犯があいつだと思われてるからな。

 ……アイちゃんだってわかってただろ。最近のあいつの状態を」


「……」


「俺はお目付役としてラルカの捜索、保護。それが完了次第帰ってくるように言われてるんだ。

 けど、その前に……」



 そう言いながらアルジャンはハナダへ近づき彼女の額に羽ペンの尾を振りかざした。

 すると口を開きかけたハナダの意識が魔法によって奪われ、力なく前へ倒れる。アルジャンが優しく肩で体を支えれば、子供をあやすように背中を叩く。



「ちょっ!?」


「アルジャン、ハナダに何をしているのですかっ?」



 ラルカも思わず立ちあがり、声を荒げる。



「ラルカ、落ち着いて。

 意識を一時遮断しただけだから。まだ魂はその中にあるよ。

 こうでもしないとこの子は素直に従ってくれそうにないし、それに、あいつからもしもの時は頼むって言われてるんだ」


「な、何をするつもりですか?」



 ハクが恐る恐る疑問を投げかければ、アルジャンは調子を変えることなく淡々と続ける。



「何って……君たちをまじないから解き放ってあげようとしてるんだ。

 魂に刻みこまれた、契約印をね」


「呪い? 魂に刻まれた契約印、だって?」


「えっ、まさか説明受けてないの?」


「何のことよっ」


 アカネも一歩踏み出して強く問いただす。



「君たちが魔法を使える理由だよ。

 --って、うわぁ、本当に何も知らないって顔してる。


 あいつの優しさ? 俺に面倒ごと押し付けてるだけじゃないの、これ。

 アイちゃんは了承済みだし、二人の考えかな。

 あー、もうこれだから一人で背負いこむなって言ってきたのに。勘弁してほしいよ」



 空いた手を額に当てアルジャンは嘆息する。

 遂にもったいぶる彼に押し黙っていたツグサが感情を爆発させ、飴玉をアルジャンに向けた。



「だからっ!

 お兄さん、アイ姉に何したの? 何をしようとしてるの?

  早く教えてよ、ねえ。契約印って何のことっ!?」


「あっ、ちょっ、みんな! 落ち着いてよ!」



 ツグサに続いてシキブとアカネも剣を抜き、ハクの静止も聞かず刃をアルジャンの首筋へ向ける。

 三人は理性を失い、苛立ちと腹立たしさで一杯だった。

 今同時に魔法を展開すれば、屋敷だけでなく美しい庭園も巻き込んで崩壊させてしまう。それほどの魔力が室内に立ち込めている。



「わ、わかった。包み隠さず教えるから、武器をしまって、魔法を抑えて!

 ……ったく、物騒な。これだから客人インヴィティに魔法を持たせるのは反対なんだ」


「アルジャン、彼らに対する暴言は私が許しませんわ。

 時間がもったいのうございます。早く話して差し上げなさい」


「はいはい、女王陛下の仰せのままに。


 といっても何から話せばいいのか……。

 ひとまず結論から述べるぞ。



 一つ、君たちが魔法が使えるのは、その魂にマナの結晶体である魔塊マナ・マスを封じ込めてあるから。


 二つ、それ可能としているのが、魔法――いや、あいつが力を奪った悪魔の魔法のおかげ。


 三つ、あいつが処刑されるのは、あいつがもう純粋な住人レジデントじゃないから」



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