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夢見人ーVisionariesー  作者: 黒城瑛莉香
第二章 加速する記録
21/35

着ぐるみと人形

「はっ!」


「おりゃぁ!」


「ふっ!」


「ほいっ!」


「そらっ!!」


「しびれろー!!」



 流れるような剣舞と眩い雷が絶え間なく繰り出され、敵を圧倒する。

 迎撃の隙を一切与えることない絶妙の連携プレー。このコンビを目の当たりにすれば、誰もが彼らの強さに脱帽することだろう。



「――今キブ兄が斬ったやつ僕が狙ってたのにー。邪魔しないでよ」


「それを言うなら、さっき雷を落とした着ぐるみは俺の獲物だった」


「さっきって、どれのこと言ってるの? 一秒に一回は落としてるから全部把握してなくってさ」


「……念のため聞くが、雷は俺やハクには当たらないよな?」


「さあ、どーでしょー?」



 嘘偽りない表情を浮かべたツグサが規模の小さい電流をスイッチ一つで起こす警棒を振り下ろす。

 魔法を帯びて力が膨れ上がった落雷は背後からシキブに牙をむく着ぐるみに命中し、全身を黒焦げに燃やす。間一髪の危機を脱したシキブに、見ているハクが冷や汗をかく。



「当てる気満々じゃねえか、よ!」



 シキブもその電気を剣にまとわせ群がる敵へ一刀し、薙ぎ払う。



「斬っても突いても襲い掛かってくる。やっぱこいつらも魔物なのか……。

 早く出口を見つけないと。

 長期戦になればなるほど俺たちの部が悪くなる」



 豪快な蹴りを敵の腹部に入れ吹き飛ばし、ハクの隣に降り立つシキブ。

 ハクも支援魔法を展開しつつ手がかりがないか辺りを見渡すが、場所によっては錯視を起こし目を背けてしまうのだった。


 撹乱状態にいる彼らに着ぐるみは攻撃の手を緩めようとしない。

 何度体を裂かれ、燃やされ、綿が飛び出そうとも、執拗にハクたちへ牙をむく。

 まるで自分に足りない何かを求める亡霊のように。


 着ぐるみの動きは自らの意思に基づいた、理性的なものというより、本能が体を突き動かしている、と言う方が正しいようなもの。



「グアアアアアアッ!」


「うるさい、よ!」



 しかし、愚痴をこぼすシキブとツグサも容赦なく反撃し、敵をねじ伏せていく。

 非常なる技の数々により切断部から綿が飛び出し、耳や尾が切り落とされる。実に見るに耐えない光景。


 そのような環境下で透明の防御壁を展開するハクは現実から逃げることすら許されない。

 モノクロので血も生々しさもない非常に良心的な戦闘とはいえ、ホラーがあまり得意ではないハクにとってレーティング指定のある映画の撮影に参加するエキストラのようだ。



「でもさ、出口なんてどうやって見つけるの?」


「このサイケデリック世界のどこかに魔法を展開している住人レジデントがいるはずだ。そいつを見つけて本来の空間エリアに戻させればいい」



 ハクの魔法を利用して敵を一か所に集め、収束した雷光を一気に放つツグサ。

 回転しながらシキブは敵陣へ飛び込み、目にもとまらぬ速さで部位をバラバラに引き裂く。本体より落ちた手が彼の足を掴むも、剣を突き立て続けて振り払い、口を裂く敵に十文字を刻む。


 戦闘しつつ器用に会話する二人に感心を寄せるハク。階段のように連なるブロックへ移動し、魔法を展開しよう目線を下へ向けた。

 遠くでわずかに揺れ動く黒い点を発見した。



「シキブ先輩、向こうから何か近づいてきます」



 ハクが指させば、シキブは安全地帯へ避難してその正体を見定める。

 前方斜め下から螺旋状に伸びているブロックの塔。その壁をなんと重力を無視して走る姿があった。

 外見は着ぐるみゾンビと同じであるが、人が駆けるように両腕を振っている。

 ツグサもシキブの元へ寄り、遠くを見据えるように手を当てる。



「こっちへ向かってきてるみたいだね」


「動きも機敏で能動的。明らかにこいつらと違う……つまり、あいつが本体か」



 すると本体(?)も彼らの存在を発見したのか、片手を挙げて横に振り始めた。



「……? 何か言ってるみたいですね」


「強化魔法の類か、それとも俺たちを誘い込んでまた罠に陥れるつもりか……」


「どうするー?」


「先手必勝。脳天から真っ二つだ。俺が殺るから二人は大人しくしていろ」


「ちょ、殺る――って、先輩!?」



 静止の言葉をかける時間もなくシキブは一気に飛び出した。

 残されたハクとツグサは互いに見合い、やれやれと肩をすくめる。

 その隙をついて着ぐるみたちが爪を立て襲いかかる。



「なら僕も――白の庇護よ!」



 ハクが両手を合わせれば、それに連動して魔法壁が移動し、着ぐるみたちを魔法の箱に閉じ込め動きを封じ込めた。

 これは先日ミスターに教わった技の一つ。そのまま手に込めたマナを地に渡すことで術式と共にその場に保存することができ、手を離しても魔法は維持される。

 もちろん耐久性は落ちるが展開率が上がり、仲間のサポートにも一役買っている。


 邪魔されなければ相手をする必要もない。ハクとツグサも敵の元へ向かう。


 本体との距離は縮まりつつあった。その外見は着ぐるみよりも小さな人形のようなもので、頭はまだ二つに割れていない。



「――――ぉぉぉーい! ここだここだ!」



 手を振っていた敵が両手を挙げて飛び跳ね始めた。

 若い男性の声で誰かへ呼びかけている。

 さらに近づけば、敵は着ぐるみと同じくモノクロのブロック模様、縦長なボタン目と熊のような丸い耳を持っていることが確認できる。

 依然として言葉を発しているようだが、その口は×印で音の出所がよくわからない。



「――ちょい君! そう、君だよ!」


「…………えっ、僕?」


「そうだよ、君だよ! 君意外に誰がいる!?」


「そーそー、ハッくん以外誰もいないじゃん」


「ツグサまで何を言うんだよ……!?」



 ハクは頭を悩ませる。全くもって意味がわからない。


 あれだけ離れていた喋る人形との距離は十数メートルまで迫ってきていた。

 両手を頭で組むツグサは興味が湧いてきたのか、単にハクの困惑した表情を見て楽しんでいるのか、終始にやにやし左右に揺れている。

 たった一度だけ世界にモノクロでない色が瞬く。



「ああぁ、よかった! 本当によかった!」



 しかし、ハクにとってはよいはずもなく。



「仲間がいてくれて、助かった。心細かったんだな、これが!

 これで一安し、ん……?」



 見知らぬ土地で旧友に偶然出会ったかのような喜びを見せる人形が神へ感謝を述べるように手を合わせる時。

 弓ように放たれた細身の剣が人形の足を貫通させてブロックに食い込み、その動きを制限する。


 我に返って天を見上げる。すると何かを発見したのか動きを止めた。

 真上から落ちてくるのは神でも天使でもない、ただの人間。情熱と冷徹を備えた紫の瞳が狙いを定め、着ぐるみの眉間をめがけて振りかぶる。



「あ、キブ兄」


「ちょっ!!? ま、待ってっっっ!! ストップ!!!」



 しかしシキブは有無も言わず力の限り叩き付ける。

 怯え振るえる小さな人形から力のすべてを奪い取るため。己を保つ魔力も、モノクロの世界も、命の灯さえもその手で消滅させようとして。



「やめてくれぇぇぇ!!」



 涙を流すその叫びは無慈悲にも彼の心を止めることはなく。



「――っ!!」


「ひぃぃぃぃっっっ!?」



 瞬間、ハクが着ぐるみの間に立ち両手を割って入った。

 シュッ、と空気を裂き、風が髪を揺らす。刃はあと一歩のところで停止していた。



「ハク……何故止めた?」



 首には冷たい刃が、色を失った瞳には鋭い視線が向けられる。

 額から汗が流れ落ちた。ハクは腹式呼吸で気持ちを落ち着かせ、声を絞り出す。



「ストップって、聞こえたから……」


「ストップ、だと…………マジメかっ!」


「いぃ、っ~」



 シキブが柄の角でハクの頭を殴る。



「素直に敵の言葉に応じるお人好しがどこにいる!」


「す、すみません」



 ハクを叱責するも剣を収め、シキブは仏頂面で人形を見下ろす。

 様子を伺っていた敵は腰を抜かして安堵していた。



「……あっいやあー、助かったあ! 君ってば見た目よりも根性あってやるねぇ」


「は、はぁ」


「えー、口調全然可愛くない」



 改めて身を挺した守った相手を見やり、自分の行動が正しかったか思考を巡らせる。

 今のところハクたちに危害を加える様子は見られなかった。

 着ぐるみと外見は統一されているが、彼らの仲間とは思えず、同じくこの空間エリアに閉じ込められてしまった人物とみて間違いない、との結論に至る。



「ところで、君たちは誰なんだい? 見たところ客人インヴィティのようだけど」


「えっと、僕たちはこの空間エリアの所有者であるパール氏を探している者です。急用なんですが、どこにいるか知りませんか?」


「えぇ? パールだって? そりゃおれっちのことさ」


「!!?」


「何を驚いてんだい?」


「いや、その……」



 なんとか笑って誤魔化し振り返る。

 案の定シキブは悪い表情で、ツグサはこの状況を楽しんで笑みを浮かべていた。


 てっきり指名手配中のパール氏が僕らの正体を突き止め、個々で排除するためにこの異常な空間を創造したと思っていたハクは、本人自ら現れ危険を顧みず名乗るというこの状況に度肝を抜かれていた。


 罠の可能性が高いが、それにしては行動も言動も不自然。ただでさえ回らない頭をフル回転させ理解に努めようとするも結論など出るわけもなく。



「それで、急用ってのは?」


「あの、それは……」


「あ! 心から溢れるほどの悲しみを忘れんがためにここにたどり着いたお客様方か!


 けれど、おれっちを待ちかねて部屋の外へ出れば、防犯装置が作動しちまって、守護人形ガーディアンも動き出し、怒りも爆発寸前。

 そんな時……颯爽と駆けつけたおれっち。そして、君たちはこの可愛らしい外見にすっかり心奪われちまったんだな!

 あぁ、なんとおれっちは優秀な住人レジデントなんだ……。

 他者を殺しにかかるほどに苦痛で気が狂っていた客人インヴィティを、魔法も使わずに回心させてしまうなんて……まさしくおれっちは数千年に一度の秀さ――」


「本当にパール氏だな?」



 反応に困っているハクに助け舟を寄こす様に乱入し、一歩近づくシキブ。

 非常に穏やかな表情をして本心を隠しているつもりだが、よからぬ企みに笑う気配が身体から漏れ出ている。



「そう名乗っただろう。話を聞いていなかったのかね?」


「いや念のために確認しただけだ。間違いでもしたら面倒なことになるからな」


「……確かに。個人のプライバシーに関するものや重要度の高い情報であればあるほど、身分の確認は必要になってくる」


「それを聞いて安心したよ」



 どこかずれた会話に聞こえるが、あえて口出しせずに見守るハク。



「その潔さに免じて八つ裂きにする当初の予定を変更しよう。ハク」


「は、はいっ?」


「お前なら言わずともわかるだろう。

 今すぐやってくれ。でなければ即座に頭を――」


「わ、わかりましたっ」


「物騒なことを言うのだなぁ青年よ。

 人生の先輩として助言させてもらうと君にはいささか目上の人に対する配慮に欠けている。ここは一つ、君の友人たる白き者の紳士振りを見習ってだなぁ――――って、君!!


 突然何をする!?」



 パール氏が驚くのも無理はない。というのも、ハクが魔法を展開した光の鎖が彼の身柄を拘束したからだ。

 これもミスターに習った魔術の一つで、頭の中でイメージを膨らませてトンッと足で地面を叩くだけで発動できる。



「どういうことだね、君! せっかく高く評価してやっているのに、恩を仇で返すつもりか!」


「すみません」


「謝罪するくらいならこの魔法を解きたまえ!」


「それなら僕らをここから出してよ、おじさん」


「お、おじっ?!」


「これ全部おじさんがやったんでしょ? もう遊び飽きちゃったし早く出たいんだよね」


「そ、それは……――――」



 ツグサからの追及から逃れるようにパール氏が横を向く。

 その時だった。妙な違和感と解放感がハクの身体へ入り込んでくる。


 その場の誰も動じず立ち尽くしたまま。実際に何か起こったのではない。だとすれば、ハクの魔法壁が破られた反動だと察する。


 視覚できないマナが振動している。

 一行は螺旋状の塔に背を向け、じっと待つ。


 統一感なく複雑に絡み合っていた世界が吸い込まれ、一つになろうとしていた。

 モノクロのブロックだけでなく着ぐるみたちもその根源たるものの一部となっている。



「………………!!」



 音もなく迫る大いなる脅威に唖然とし、ハクたちは息を呑んだ。




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