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夢見人ーVisionariesー  作者: 黒城瑛莉香
第二章 加速する記録
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敵の行方

 生い茂った森の奥、山より流れ集まった湖の畔に彼らの隠れ家はあった。

 トーンの異なるオレンジで統一されたその館は本来であれば顔も知らぬゲストを迎え、彼らの気持ちを満たす場所。

 時の流れを忘れて享楽に浸り、優雅で贅沢なもてなしを無条件にうける。毎日のように大勢の人が訪れ、そのたびに趣向を凝らした宴を催す、まさに夢の世界。だがそんな娯楽は時代を経て別の物質的で現実的な物へ移り変わっていき、遂にこの空間エリアも再建設で見放されたように人々の記憶からも抹消されていったのだった。



「……」



 湖を一望できる応接間のベランダを背に、スーツを身に包んだスキンヘッドの男が一人淡々と作業を行っている。

 彼はこの空間エリアの所有者ではないが、訳あってここに滞在する者。神に見放され、生きる意味を存在する理由を奪われた哀れな住人レジデント


 役割を十分に果たせない彼が光の届かない深淵にいながら顔を上げ、先を見ているのは、愚かな復讐のためなどではなく、偶然生まれた感情から導き出される理想の世界の実現という目標があったから。ただただ自己欲求を満たし、願いを叶えたいがため危険を顧みない賭けを何度も繰り返している。


 だが、数をこなしても一向に成果は上がらず、正直手詰まり状態だった。

 初めて触れたこの異物の使い方も制御する方法も知らない。そもそも自分の中になぜこんなものが芽吹いたのもわからない。


 唯一頼りにしているその人もあの日以来見かけず、頭の中から一方的な命令ばかりしてくる。


 そして今日、これ以上は待てない、と告げられた彼はついに強行手段に出た。

 このことが他の住人レジデント、まして警察の耳に入ればすべてが水の泡になることも承知で。


 あの人の助力もあってあらかじめ目を付けていたゲストを魔塊マナ・マスと共にここへ連れてくることができた。計画は最終段階に入り、上手くいけば彼とその人の願いは今日中に成就する。


 しかし、彼は警戒を怠らない。気を抜いたその瞬間を今かいまかと伺う猟犬がこの森に潜んでいるかもしれないのだから。

 彼の魔法は制限がかかっている。体内のマナがなくなれば、魔法が使えないどころかザスピルから存在を消去されてしまうのだ。


 今は館の倉庫に眠っていた魔法道具を起動させ巡回させている。ここへ逃げ込んで早一刻。そろそろ定時報告に頃だ。


 彼の予想通りバタンッと部屋のドアが勢いよく開かれ、一人の男が床に倒れ込んだ。

 服装の乱れから走ってきたのだろうが、元は道具にすぎない男。生身の人のように息切れをするはずもなく、すぐさま起き上がって彼に一礼すると彼が問いかける間もなく状況を告げる。



「マスターよ、緊急事態だ。すぐにこの館から退避しなければ」


「ついに警察が乗り込んできたのか。敵勢はどこにいる? ずっとここから眺めていたがそれらしき者は誰一人通らなかったぞ」


「追って説明する。直ちにここから離れるのだ。我々では手に負えない。ナイトが時間を稼いでいる隙に――」



 男が言い終える前に一瞬音が掻き消え、戻ってくるのと同時に窓の外から滝のような激流音が部屋に飛び込んできた。

 撤退を急かす男を無視して彼は外界へ目を向ける。閉め切っていた窓は雨でも降ったかのように水滴を付着させ、水の溜まったベランダには大柄の男がぐったりと倒れている。



「どうした、何が起こったんだ……!?」



 彼が飛び出し駆けよれば、倒れた男は全身水浸しで白目をむき意識もない。そして男は魔力を放出させて本来の木偶人形へ戻り、彼の手のひらに収まる。

 男は追ってきた何者かにやられたのだ。それも強力な水の魔法を浴びせられて。警察ですら制限のかかる空間エリアでこれほどまでの力を放出させるものがいるのだろうか。


 彼は立ち上がり目を凝らして湖や森にいるであろう敵の姿を捉えようとするが、虹のかかる湖の先の森には人はおろか、生物の影すら発見できない。



「どうなっている……!」



 まるで状況がつかめず、憤慨する。

 敵の姿も数も場所も分からない今、下手に行動すれば罠にはまるのは確実だった。けれども、夢のため自分が対処するほかない。

 最後に捕まってしまうのならせめて時間稼ぎでも、と彼は決心する。



「――!!」



 その刹那、開け放たれた部屋のドアのさらに先から微かな気配を感じた。

 彼はとっさに拳へ魔力を込めると顔の高さに突き出す。

 一歩遅れてそれに何かが触れる。と思えば彼の魔法を受け何かは消滅した。


 肌に残った感覚を頼りに、接触物を探る。攻撃力は高いが加算された魔力はない。ただの銃弾。不意打ちにしては生易しいものだが、これほど至近距離に敵がすでにいるのだと思い知らされ一気に緊張が走る。


 それでも臆することなく、彼は敵のいる方へ殺気を送った。道具も付き従い、彼を庇える距離まで近づく。


 足音が近づき、追跡者と対峙する。相手を見て彼は驚きを隠せなかった。


 彼らは五人、と少人数で、服装と魔力から警察でも住人レジデントでもないのだが、敵が予想以上に若く幼い未成年者。しかも脳天を狙った弾丸の発砲者は大人しそうな若い娘。



「き、貴様らは……!?」



 疑問を言葉にするも彼らは答えず、少女がにやりと笑うだけ。

 彼らの魂からは手を出してはならない崇高なるゲストの気配と、そこにいるだけで気迫を放つ膨大な魔力を感じる。

 ――まさに客人インヴィティ住人レジデントを混ぜ合わせた、彼にとって理想の姿がそこにあった。





 ――――






 発見した犯人を追って森の奥へ進んだハクたちは、行く手を阻む魔物をツグサの魔法で薙ぎ払いながら湖の畔の佇む館へついに足を踏み入れた。

 追跡の途中で二人を見失っていたが、館へ侵入するや否や待ち構えていた大柄の男が襲い掛かり、場を外へ移して一戦交える。だが、調子に乗ったツグサが湖の水を操って津波を起こし、敵を飲み込んだことで決着となった。


 建物の中に戻ればすぐさま敵の居所を掴んだ。

 それからハナダが敵の実力を図るため試しに発砲するも失敗に終わり、ハクたちは潔く敵と対面する。




客人インヴィティ? だがこの魔力……そうか、お前たちが噂の夢見人ヴィジョナリーか。ならばクラブがやられたことも、あの膨大な魔力も納得がいく」



 戦闘態勢を崩さないまま敵が呟く。ブラックスーツを着込みむスキンヘッド頭の男は写真通りの悪い面構えをしていた。

 一方男の後ろに控える、さきほどハクたちが追いかけていた男は、外見は犯人と双子といえるほど酷似しているが、どことなしに覇気がなく人形のように目に生気を宿していない。



「そういうあんたは住人レジデントだな。一緒に逃げた客人インヴィティはどこだ?」


「さあ。下される命令を疑いもせず、ただ従う操り人形に教える義理はない」


「なんですって――」



 相手の挑発に言い返そうとするアカネをシキブが制し、話を続ける。



「つまり、潔く捕まる気はないということか。

 たった二人で俺たち全員を相手にできるとでも?」


「それはこちらの台詞だ」



 そうしてスキンヘッドの男が指を鳴らすと、床から、天井から、背後から無数の黒い物体が隙間より現れ、ハクたちを取り囲んだ。



「もー、キブ兄が余計なこと言うから!」


「俺が言わなくたって相手は魔物を使ったに決まってるだろ。不意打ちされるよりこっちの方が楽だ。

 ……ハク、作戦を練るからいつもの頼む」


「……わ、わかりました」



 シキブが小声でハクに伝える。

 愚痴をこぼしていると勘違いされたのか、敵は不敵に笑う。



「いつまで無駄口を叩いていられるか?


 ――やれっ!!」



 男の掛け声とともに一斉に襲い来る魔物。

 だが、一足先にハクが展開した魔法壁にことごとく行く手を阻まれ、ツグサの操る風に呆気なく吹き飛ばされる。

 その隙に住人レジデントとその仲間はベランダから屋根に上り、姿をくらませてしまった。



「よぉし、ならここは僕が」


「待った」



 やる気満々のツグサをアカネ引き留める。

 邪魔をされ頬を膨らませるツグサにアカネは強い口調で言い返した。



「ここにたどり着くまでにツグサは十分すぎるほど敵を倒したでしょ。いい加減先輩に譲りなさい」


「えぇー」


「そうだぞ、ツグサ。少しは自制しろ。

 あの住人レジデントは俺がやる」


「はぁ? 聞いてなかったの、シキブ。

 彼は私の獲物よ。あなたはもう一人いた下っ端をやりなさい」


「お前が先輩に譲る、って言ったんだろ。

 ならどっちがあいつを仕留められるか、勝負だ」


「いいわよ。ただしとばっちり受けても文句はなし」


「ちぇっ。なら僕はこいつらの相手かぁ。張り合いがないからつまらないんだよねー」


「えーっと……僕は何をすれば」


「ハクはツグサの支援だ。もちろんハナダも……って、おいハナダどこ行った?」



 そこでハクたちはついさっきまで共にいたハナダの姿がないことに気づいた。人より一歩後ろに下がる癖の彼女が何も言わずに単独行動することは珍しくないため、またか、と肩を下ろすが、ツグサの放った言葉が彼らを、とりわけシキブとアカネを急き立てる。



「もしかして、アイ姉ってば先に窓から追いかけたんじゃないの? それで、もう犯人捕まえちゃってたりして」


「なっ!?」

「はあっ!?」


「ツグサ、さすがにそれはないんじゃ……」



 冷静になれば嘘だとわかることを、シキブとアカネは真に受けてしまう。

 そしてすぐさま獲物を自らの手で取り押さえるべく、シキブは長剣を掲げ、アカネは瞳を閉じて唱える。



「我が綴りたるものは 正義の物語サーガ 緋蒼の鋭刃研ぎ澄まし 運命の糸を断ち切らん――!」


「我が綴りたるものは 永久とこしえリリック 宿りし双翼の封蝋ふうろう解き放ちて 安らぎを齎さん――!」



 紫と赤の光が部屋中を包み込んだ。

 それからシキブは紫の剣を携えて、アカネは召喚した二羽の使い魔を従えて窓から飛び上がる。



「あのさ、ツグサ、さっきのは本当?」


「そんなわけないじゃん。適当に言っただけって」


「やっぱり……そうだと思ったよ。

 後で二人に叱られても僕は知らないからね」


「後のことは後で考えればいいの! それよりも……」



 分裂した魔物が狭い館から外へ出て、建物ごとハクたちを食らおうと結集していた。



「まずはあれをなんとかする、と」


「そうそう!」


「作戦は……あるわけないよね」


「燃やして、切り裂いて、沈めるのみ!

 さぁ、行くよー!」



 ツグサが飴を手に外へ飛び出す。

 姿を消したハナダの行方を気にかけながら、ハクも再度魔法を展開した。




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