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夢見人ーVisionariesー  作者: 黒城瑛莉香
第二章 加速する記録
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依頼

客人インヴィティ住人レジデント別空間エリアへ移動した……?」



 紙に書かれた内容にハクは当惑する。他のメンバーも事件の真意を見いだせず言葉を詰まらせていた。


 ザスピルへ来訪した魂は最も強く抱く願望を叶えてくれる住人レジデントの元へ自動分別され、空間エリアへ召喚される。よってその場に集まった客人インヴィティは似通った夢を望んでいることになる。

 加えて客人インヴィティはほぼ無意識の状態にあるため、ヴィジョナリーのように確かな意志に基づいて思考、行動することはない。たとえ魔塊マナ・マスが原因で予想だにしない動きをしても、人目につかない場所にある扉までたどり着き、その先の街へ足を踏み入れることを単なる偶然とは言えなかった。


 極め付けは、住人レジデントが同行しているという事実。

 己の役割を果たさず、客人インヴィティを押し留めるどころか空間エリア外へ導いて人々を危険に晒している。これらはすべて規則に反した行いであり、住人レジデントにあるまじき失態でもあった。



「我々警察の使命は乱れた秩序を正し、あるべき世界を保つこと。一刻も早い事件解決に向け、是非協力してほしい」



 バックミラー越しに鋭い視線を向けるのは助手席で腕を組む南地区担当のホワイト警部。その名と同じ色の短髪と垂れた瞳と皺が熟練の警官であることを物語り、わずかに黒ずんだ隈が彼を一層老けてみせていた。客人インヴィティのように睡眠を必ずしも必要としない住人レジデントだが、体力にも限界はある。あの様子だと一週間は休みなく働いているだろう。

 落ち着きを取り戻したシキブが代表して口を開く。



客人インヴィティが関係している以上ヴィジョナリー(俺たち)の案件ともいえる。力を合わせて犯人逮捕に努めよう。

 ところで現場となった空間エリアは逃走中の住人レジデントのものか?」


「現在捜査中だが、おそらく違う。

 所有者ならばそこで魔法制限は課せられない。どんな企てがあるかは知らんが空間エリアを出る必要なないだろう。

 私はメッセージを送信した者が所有者であるとみている」


「ちなみに犯人の外見や特徴に関する情報はありますか? 僕らは住人レジデントのように魔力を感知することはできないので」


「そうだったな。ならばこれを渡しておこう」



 ホワイトが指を鳴らすと一枚の写真が現れた。

 そしてツグサが思わず一言。



「うわ、目つきわる―」



 その通り、写真には人込みの中でブラックスーツに身を包む悪人面の男性二人が映っていた。

 一人は光を放つほど滑らかな表面をしたスキンヘッド頭の体格の良い長身で、もう一人は対照的に運動を一切しないであろう丸く大柄な体型。後者の男性は煌々と輝きを放つ透き通った石を大切に抱きかかえ、先行く長身の男性の後を追って急いでいることから、スキンヘッドの男が住人レジデント、大柄な男が客人インヴィティだと断定できる。



「そろそろ犯人が逃げ込んだ空間エリア付近へ到着する。気を引き締めてくれ」


「……そういえばアカネは呼ばなくていいんですか?」


「呼ぶ必要は別段ないが、何も言わなかったら追々面倒なことになる、か……」


「では到着する前に通信機を拝借してよろしいですか? この場にいない仲間へ一応連絡しておきたいので」



 ため息まじりのシキブに代わってハナダがまずミスターへ伝言し、それをアカネに飛ばしてもらった。

 こうした時に携帯電話や無線の利便性と必要性を実感し、それに代わる魔法の連絡手段を欲するのは文明人として当然のことだろう。

 ミスターには相談済みで、八割方開発は進んでいるらしい。近々ハクたちにも支給される予定だった。






 しばらくして車が低速し路肩に寄せて停止する。どうやら犯人の潜伏先に到着したようだ。

 そこは最近一新された建物が並ぶ南区のとある通りで、緩やかな坂の上に色とりどりの景色が広がっていた。

 多くの住人レジデントで賑わう噴水広場近郊と違って、空間エリアが立ち並ぶ南区はいわば住人の生活の場。今の時間は皆来客をもてなしているため、周りにはこの黒車と警官だけで通りに地域民の姿はない。



 車を降りた一行はホワイトの後に続いて石畳の脇道を下っていく。

 真新しい建物に挟まれたその道は、再開発によって人々の記憶から忘れ去られてしまった陰気な雰囲気。

 突き当たりを曲がれば、太陽の日も差さない石造りの建築物が現れる。そこにはすでにアカネの姿があった。



「早かったな」


「たった今着いたところよ。丁度近くにいたの……それよりどういう風の吹きまわし?」


「?」



 予想していなかったアカネの尖った態度に、シキブは思わず眉をひそめる。



「今までなら私だけのけ者にしていたのに。

 道ずれにしようって魂胆なら遠慮させてもらうから」


「どんだけ俺たちのこと疑ってんだっての。

 文句なら言い出しっぺのハクに言ってくれ」


「えっあっ、ハク? そうなの? 

 ……ならいいけど」


「あれぇ? アーちゃんってば様子が」


「そうだね」



 ハナダがツグサの言葉を遮り、無理やりその話を終わらせた。

 ハクは笑ってごまかしたが、実のところ話についていけていない。


 シキブとアカネの口論が勃発する前に空間エリアへ入ろうとハナダが声をかけ、いざ扉の中へ入ろうと歩き出す。そんな一行をホワイトが慌てて引き止めた。



「待つんだ少年少女たち。もしやその装備で乗り込むのか?」


「そのつもりだが、なにか問題でも?」



 彼が危惧しているのはハクたちの服装。パーカーやジャケットを羽織って急所となる部分を防護しているとはいえ、これから危険地帯へ乗り込もうとする戦士の格好ではない。アカネに限ってはワンピースを身につけているのだ。

 仰天し、気を取り直したホワイトが咳払いをして続ける。



「今回は犯人がすでに魔塊マナ・マスを所持していて、なおかつ住人レジデントも魔法を自在に扱う可能性が高い。

 防具でなくとも、身代わりとなる武器の一つくらい装備していて損はないだろう。ぜひとも持って行ってくれ」



 黒車に常備していた武器を数種類勧めるホワイト。彼のご厚意に甘えハクは長杖、ハナダはライフル、シキブは長剣、アカネは短剣を借り受けた。ツグサは邪魔になると言って断り、代わりにポケットに買ったばかりの棒付き飴を突っ込む。


 これで準備は整った。

 警官が空間エリアへ続く古めかしい扉を開けば、先の見えない境界が光を放って一行を歓迎する。



「じゃあ、行くか」



 シキブの言葉を合図に一人ずつ光へ向かって進み出る。

 ツグサ、シキブ、アカネ、と続き、次はハクの番。

 回を重ねても未知なる領域へ一歩踏み出すこの瞬間は慣れず、緊張で心臓の鼓動は高鳴っていく。

 境界の前で足を止めて振り返り、見守るハナダとホワイトへ視線を送る。



「大丈夫だよ」


「そうだ、名も知らぬ少年よ。

 先のことは任せたぞ」



 想いを託されハクは決心を固める。

 前を向いて深呼吸し、恐怖を拭い去る。そして勇気という勢いにのって光へ突入した。




 目に映るものが正とは限らないザスピルの未知なる空間がハクの体を包み込んでいく――。




 浮遊感から解放され、足場に無事着地したことを確かめたハクは、力を抜いて開眼する。

 最初に飛び込んできたのは一面に広がる青空、そして色とりどりの花畑だった。


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