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誰かの思惑に巻き込まれた話(異世界転移編)  作者: 近江守
第2章 第2編ⅲ 古代遺跡
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救出

「ここは……、どこだ?」


 アローラが目を覚ますと、キョロキョロと目を動かした。

 どうやら気絶させられ、ここに運ばれてきたようだが、自分が薄暗い場所にいるということしかわからない。

 普段は装置デバイスであるペンダントを身に付けているが奪われてしまったようで、魔法が発動できない。

 地べたで芋虫のように必死にもがいてみせるものの、手足が縛られているので、身動きが取れなかった。


「気が付いたか」


 見上げると、声の主が上からアローラを覗き込んでいた。

 それは頭から膝まである蓑を着て、顔には奇抜なカラーリングの仮面を着けている。

 得体の知れないものを間近で見て、アローラの表情は強張った。


「この山に何しに来た」


 言葉が流暢でない印象を受けたが、その声は甲高い。

 改めて目の前の者の大きさを確認すると、自分よりも小さいようだったので、目の前の者が子供ではないかとアローラは思った。

 それが事実だとしても、気が抜ける状況になったというわけでもない。

 この子の戦力は定かではないし、周りには大人も含めた仲間がいるかもしれない。

 第一、今の自分は無力化されているのだ。

 事態を独力で改善する望みは限りなく薄い。


「答えろ」


 仮面の子は、アローラの喉元にナイフを当てた。

 仮面の奥の表情は読めないほどに、その声は無機質だ。

 アローラは、声を出す代わりに生唾をごくりと飲み込んだ。

 相手は質問に答えるよう促しているが、それに答えるわけにはいかない。

 自分は、エリザベス姫の警護を任務とする王国の騎士である。

 素直に話して姫を危険な目に遭わせるわけにはいかないからだ。

 ここは口を割らずに耐えなければならないとアローラは思った。


 しかし、アローラはその考えすらも甘かったことにすぐさま気付いた。

 姫のことだから、きっとカントたちと共に自分を救い出そうとするだろう。

 それで姫が危険に曝されるようなことがあれば、それこそ騎士の名折れである。

 今朝、侮辱するなとカントに憤った時の光景が頭を過る。

 気取って言い放ったものの、お荷物はあの子供騎士ではなく、自分の方だった。

 なんとも恥ずかしい話だ。

 騎士の名門が聞いて呆れるとアローラは自嘲して薄ら笑いを浮かべた。

 残された選択肢は一つだけである。


「……殺せ」


「何?」


 呟くように言ったせいか、突然言い出したのが悪かったのか、想像だにしない言葉を聞き取って、その子は耳を疑ったようだった。

 黙って互いに見つめ合ったまま、数秒の時間が流れた。


「きゅうぅぅぅ」


 その沈黙を破ったのは、相手の子供の方であった。

 仮面の子は、奇怪な声を上げたかと思うと、その場に倒れ込んだ。

 カントが背後から鞘に入ったままの剣で殴ったので気を失ったのである。



  ※  ※  ※  ※  



「アローラさん、ケガは無いですか?」


「ああ、問題ない」


 カントは、アローラの手足を拘束していた縄を切断した。


「無事で何よりです。あと、簡単に殺せとか言っちゃ駄目ですよ。相手が子供じゃ誰かが喜びそうな展開にもなりませんし」


「確かに私が死んでも喜ぶ者はいないだろうな。今後はこんなことにならないように肝に命じよう。救助してくれて感謝する」


「さて、犯人の顔を拝むとするか。軽く殴っただけなのに凄い音がしたからな」


「それは【アクセル】で加速していたからではないのか?」


(そういうことか。しまった)

 

 動きが速くなれば衝撃も増す。

 カントはそんな単純なことを失念していた。

 軽く殴ったつもりでも、鈍器で全力殴打するよりも強い衝撃になっていた可能性がある。

 意図せず撲殺してしまったのではないかと手を震わせながら、恐る恐る仮面を取り外した。


 心配は余計だったようで、その子はただ眠っているだけのように静かに息をたてていた。

 額の中央のより少し上には一本の角が見える。

 カントが予想したとおり、その子は鬼だった。


「鬼ならあの程度の殴打では何の問題もないだろう」


「それは良かった。ん?この子、女の子みたいだな」


 カントがこれまでに出会った鬼は全員男だったので、女の鬼を見るのは初めてだ。


「女の鬼とは珍しいな。私も聞いたことがない」


 この世界においても、普通の人間ならば鬼と接触するようなこと自体が珍しい。

 このため鬼に関する記録は少なく、しかもその殆どは男のもので、女の鬼は幻に近い存在である。


「ここが鬼の集落ということで間違いないようだな」


「如何にも。ここは鬼の隠れ里じゃ」


 カントの発言に応えるように、背後から声がした。


「何奴だ!」


 二人が振り向くと、そこには一人の鬼が立っており、その姿は近くで横たわっている子にそっくりだった。


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