早速攫われる
カントたち四人は馬車で、ゴーレムが出るというカルバキア山脈へと向かっていた。
「成行き上、一緒に行くことになってしまいましたが、エリザベス様、危険なことはお止めください」
「ええ、承知しています。カントに迷惑はかけません」
もう既に迷惑なんですが、とはとても言えない。
きりりとした表情で答えるエリザベスを見て、カントは残念な気分になった。
「鬼がてこずったという魔物ですから、かなり強いんじゃないかと思います。アローラさんも気を付けてくださいね」
「カント殿、私はこう見えても我が家系は騎士の名門なのだ。侮辱的な発言は控えてもらおうか」
気を配ったつもりが、アローラに剣を突き付けられた。
刀身は鞘に納めたままであったが、意思の表示には十分な態度である。
「……それならいいんですけどね」
(これはこれで、深く関わると面倒くさそうな人だな。ここは大人しく引いておこう。それにしても、本当にこんな女騎士が実在するんだな)
気遣いを一方的に拒絶されたカントであったが、強気の女騎士を目の当たりにして、異世界に来た甲斐があったと少し嬉しくなった。
空想上の生き物を発見したようなものである。
「なんでニヤついてるのよ。意味わかってる?」
アイリスは怪訝な顔つきでカントの顔を眺めていた。
「ん?馬車が止まったな」
「あら、山の入口の村に到着したようよ」
カントたちを乗せた馬車は、カルバキア山脈の麓の小さな村に到着した。
「ここから先は山道が険しくなるので馬車では進めません。歩いて移動することになります」
「姫は本当に一緒に来られるのですか?この町でお待ちいただいた方が安全かもしれませんよ」
ここまで来てまさか待っているとは言わないだろうが、一応配慮はしたという予防線を張っておく。
「心配は無用です。私は【ライテア】も使えますから」
軽量化魔法【ライテア】は登山でも役に立つ魔法だ。
体重や装備の重さを減らすことで、険しい山道も駆け上がるように登って行くことができるのである。
「みんな【ライテア】は使えるわね?」
「二重詠唱もいけるけど今は魔力を温存しておきましょうか」
「「「了解」」」
それぞれが【ライテア】を唱え、登山が始まった。
※ ※ ※ ※
「俺の知ってる登山と違う。【ライテア】ってこんなに便利だったんだな」
「そうね。魔法が使えない人だとこんな簡単にはいかないもの。二重詠唱なら崖も簡単に登れるわよ」.
四人は跳ねるように、斜面を軽快に駆け上がっていく。
軽量化によって、重さが8割以上カットされているため、急な坂でも全く苦痛にならない。
このため、カントが知る登山とは全く別のものになっていた。
「この魔法は、危険視する学者もいるそうですよ。使いすぎると筋力が弱って立てなくなるとか」
「姫様、冗談はやめてください。そんなこと言われたら、怖くて使えなくなります。それに、むぐっ……」
「どうしたの、アローラ。あれ?アローラがいないわ!」
途中でアローラの声が途切れたので、エリザベスが後ろに振り返るとアローラの姿が忽然と消えていた。
カントとアイリスも振り返って彼女の姿を探すが、やはり見つからない。
「滑落してないといいのだけど……」
「この周辺に崖みたいなところなんて無かったような気がしますが」
その時、後ろからガサガサと物音がした。
音の発生源の方に目を向けると、小さな人影がアローラを担いで、森の中を素早く走り去っていく姿が見えた。
「子供か?顔は見えなかったが」
「小さい体であんなに軽々と大人の体を運ぶなんて。そしてあの特有の機動性、多分、あの子は鬼ですね」
「そういえばこの辺りには鬼の集落があるんだったな。鬼が居てもおかしくはないか」
「このままではアローラが危ないわね」
(やれやれ、さっきは馬鹿にするなと言っていたが、騎士の名門が聞いて呆れるな)
カントと比較すれば、アローラの実力がそれほどのものではないことは確かだ。
それは初めから分かっていたが、まさかこんなに早くから足手纏いになるとはカントも想像していなかった。
「【アクセル】の三重詠唱ができる俺なら追いつけるかもしれない。先に行って救出してくるから、アイリスは姫と後から追いかけてきてくれ」
「わかったわ」
走り去った者の姿はもう見えない。
カントは【アクセル】を唱え、森の中を進んでいった。




