鬼の里長
その娘は、カントが気絶させた鬼とあまりにも似ていた。
このため、その子が目を覚まして背後に回ったのではないかと確認してみたが、まだ足元で意識を失ったままだ。
(姉妹を助けに来たといったところか)
カントとアローラは、身構えて戦闘体制に入った。
「おっと儂に戦意はないぞ。儂もそれなりに強いとは思うが、そっちの男子には勝てそうもないしのう」
娘は、両手の掌を見せて手に武器を持っていないことをアピールした。
「なるほど双子だったのか」
「双子とは嬉しいことを言ってくれるのう。確かに似ているかもしれんが、そこに転がっているのは儂の娘じゃ」
「親子、だと?」
カントたちは、交互に二人を見比べるがどちらも十歳にも満たない幼女にしか見えない。
顔立ちや背の高さが同じなので双子に思えるのだが、これで母娘の関係だというのだから驚きである。
(これが伝説の合法何某というやつか!)
「この度は娘が失礼したようで申し訳なかった。儂はこの里の長もしておっての、里の代表として無理を承知で言うのじゃが、子供のしたことだと思って許して欲しい」
(里長って、この人、一体いくつなんだろう)
それが気になって、本題の方があまり頭に入ってこない。
鬼は、成人した後は老けることがないと話に聞いている。
成人とは何なのか。
カントの中で、その定義が揺らぎつつあった。
さらに、里長が子供でないというのであれば、足元で気絶している子は本当に子供なのか。
疑問は増えるばかりであるが里長は話を続ける。
「最近はこの辺りに魔物が出るようになって困っておったのじゃが、近ごろは中央からきた兵士や魔術師が大人数で押し寄せたりと里の中も色々とピリピリしておってのう」
里長の言うことは何かと心当たりがある話が多い。
この辺りにモンスターが出るという話はウルアからも聞いていたが、中央からの調査隊の派遣や今回カントたちが足を踏み込んだことでさらに鬼たちを刺激してしまったようである。
今回の件を水に流すかどうかの判断はエリザベス姫に委ねることになるのでカントの一存では決められないが、姫の性格なら穏便に事が収まることが期待できそうだ。
実のところ、そんなことよりも遺恨が深そうな問題を抱えているのは自分のの方だということをカントは自覚していた。
「時に話は変わるが、お主ウルアという鬼は知っておるかの?一緒に行動していた里の者によると、黒髪の少年と戦ったらしいのじゃが……」
(この里に訪れれば遅かれ早かれこの話題になるとは思っていたが、やっぱりあまり聞かれたくはないな)
カントは少なくともこの里の鬼を二人討っている。
このことが里の鬼たちに知れれば、和やかに話が終わるとは到底思えなかったのである。
「その様子だと、やはり知っておるようじゃな」
カントの顔色を見て里長は、そのことを察したようだった。
「なに、それを聞いて仇討ちなぞしようというわけではないぞ。この里はもともと穏健派の方が多くての。過激派をなだめておったのじゃが、特に血の気の多い奴らが先走ってしまったのじゃ」
鬼たちは長い間、この隠れ里で静かに暮らしてきた。
いざ敵として戦うと厄介な相手ではあるが、元来争いを好む種族ではないということなのかもしれない。
「しかも、どこぞの小僧と小娘の返り討ちあったというではないか。里始まって以来の恥になってしまって誰も擁護しておらぬ。おまけに王国軍を招き入れることにもなってしまったからのう……」
里長はそう言って、遠い目をした。
「ああ、軍はモンスターの調査が目的ですよ。この里を打ち滅ぼすために派遣されたわけではないので安心してください」
「そうなのか。魔物の襲撃に、軍まで相手にすることになってはと移住も検討していたのじゃが安心したぞ」
里長は、心配事が一つ減ったと胸を撫でおろした。
それは、カントにとっても気がかりなことが無くなり、ようやく本来の目的に戻れることを意味していた。
「実は俺たちもその魔物について調べに来たんです。知っていることを教えてもらえますか」




