合流
カントとアイリスは、イライザから貰った指輪を眺めていた。
「イライザが何も説明しないで行ってしまったから詳細が分からないな」
「たぶんそれ、装置よね。いつか役に立つと言っていたし、普通の指輪じゃないと思うわ。ただの指輪でも魔金属製だから、売ればある意味役に立つかもしれないけど」
(騎士の年金にすると十何年分だろうな)
アイリスの指摘で金銭的価値を意識した途端、カントは手が震えてきた。
「帰ったら色々と試してみましょう。寄り道もするから少し先になりそうだけど」
カントが指輪の方に話題を逸らしたものの、アイリスは山地の方の話のことは忘れていなかったようだ。
「カント、ここにいたのですね!」
もうイライザはいないはずなのだが、自分の名前を呼ぶ者がまだ他にいるようだ。
心当たりがなかったので、声の主を確認すると、朗らかな笑顔を見せる第三王女エリザベスがそこに立っていた。
動きやすい服装で腰のベルトには短剣を携えており、戦闘ができる格好をしており、その一歩後ろには付き添いの女騎士を一人連れていた。
華美な姿ではないので、王家の仕事でこの地に来たわけではないようだ。
「エリザベス姫!何故ここにいらっしゃるのですか?」
「カントが任務でここに来ていると父上から聞いたの。護衛対象が近くにいないと困るでしょう?」
何かが可笑しい気がした。
護衛対象が遠出をしたと分かったら追いかけることがあるかもしれないが、その逆は考えにくい。
安全な城から出る時点で間違っていることは明らかだ。
カントは後ろの女騎士に目を向けた。
「確かアローラさんでしたっけ?姫をお止めしなかったのですか?」
「ええいや、まあ一応……」
気まずそうに目を逸らすアローラの様子を見ると、どうやら無理だったようだ。
「ところで、カントは先ほど女性と話をしていたようですが?」
「ああ、あれは……ここで知り合った人ですよ」
真実を語って良いか判断がつかなかったため、言葉を濁したのだが、エリザベスはその変化を読み取り、目を光らせた。
「ふうん」
「それでこの指輪を――」
「わたくしの目の届かないのをいいことに、旅先で女を作って、永遠の愛の証であるそのリングを受け取った。そいうことですね?」
「いいえ、全然違います」
「姫様、とりあえず落ち着いてください」
エリザベスは柔和な笑みを見せているが、何故かカントの背筋には悪寒が走った。
「エリザベス姫に折角来ていただいたところ恐縮ですが、もう用件は済んでしまったので王都へ帰ろうとしていたところなのですよ」
「カント、山の方へ行くって話は?」
「エリザベス姫を安全に送り届けてからじゃないとまずいだろ」
姫すらも口実に使おうというカントの悪知恵が働いた。
「山とは何のことですか?」
姫まで興味を持ってしまったので、カントは内心舌打ちした。
「カルバキア山脈に何やら興味深いものがあるという情報があって、カントと帰りに立ち寄ってみようという話をしていたところです」
アイリスの中では、いつの間にか行くことになっていたようである。
「ああ、調査隊が派遣された場所のことですね。何でも土や岩でできた人形が動くらしいですよ」
「それは奇怪ですね」
「なるほど、ゴーレムか」
「ごーれむ、ですか?」
どうやらこの世界にはそういう単語がないようだ。
「カントの世界にはそういうモンスターがいたの?」
「いや、空想上の魔物だな」
「そうなんですね。ではこれからは我々もゴーレムと呼ぶことにしましょう」
(なんだよ。謎のモンスターとかいうから、どんな凄いのがいるかと思ったら、期待して損しな。やっぱりゲームやアニメを基準にしては駄目なのか)
ウルアは、地獄から来たと言っていたが地獄には魔物がいなかったのだろうか。
地獄から渡ってきた鬼に不思議と言わしめるモンスターがどんなものか、カントは興味を抱いていたのだが、想像以上に平凡な内容にがっかりしてしまった。
次回、カルバキア山脈へ向かいます。




