事件の結末
カントの一撃で、ウルアは致命傷を受け、その命は燃え尽きようとしていた。
「ただの人間で世界を渡る者がいるとは誤算だった。再生能力がある分、まだしばらくは時間が残されていそうだが、地獄から来た俺は、また地獄に戻ることになるだろう」
「地獄とはあの罪人が行くというあの地獄か?」
「そうだ。俺は罪人を地獄に落とすためにこの世界に来た。この世界出身のゴルドたちとは偶然知り合って行動を共にしていたが、遊びすぎた結果がこの様だ。この身体の機能が停止すれば、自動的に地獄へ戻ることになる」
ウルアにとってこの世界での死は、それほど大きな意味を持たない。
だから最後まで遊びに付き合った。
そういうことらしい。
遊びに巻き込まれたカントにとってはいい迷惑であった。
「お前は、才能に恵まれている。使い方を間違えれば長い地獄生活が待っているから、十分に気をつけろよ。神は人に生きよと命じただけだが、それすらも守れず、地獄は罪人で溢れ返っている」
どの世界でも人が殺し合っている状況は変わらないようだ。
「……もしや、あの娘も異世界出身なのか?」
「二人のうち、どちらのことを言っているのか知らんが、両方とも違うぞ」
「そうか、お前の仲間ならと思ったんだが……。お前を見込んで、伝えておきたいことがある」
「何だ?」
※ ※ ※ ※
ウルアの絶命を見届けた後、残された事後処理が大変だった。
広大な敷地を持つ学園ではあるが、王都の中心部に近い場所で大きな炎が出現したことにより、街は大きく混乱していたようである。
この日、幾度にも渡り王都で天災ともいえるレベルの炎や爆発が観測された。
巷では、先日王都に天使が現れたらしいという噂がまだ消えておらず、これと関連付けて、この世の終わりだ、審判だ、と叫ぶ者も少なくなかった。
カントが状況説明に王城へ出頭すると、学園内での事件発生を受けて、城内の混乱は極まっていた。
王城への襲撃を受けて緊急会議が開かれていたこともあり、城内の重役が参集していたところだったが、揃いにも揃って混乱してしまい収拾がつかなくなっていた。
それでも、Lv.2以上の鬼が討伐されて事態が収束に向かっていることを何とか大臣に報告し、カントは夜になってようやく解放された。
「へえ、鬼の集落がこの国にもあったのね」
カントは、ウルアから聞いた話をアイリスに聞かせていた。
ウルアの話を要約すると次のようになる。
ウルアはこの世界に来て、地獄から来たという素性を隠した上で、この世界出身の鬼であるゴルドたちと行動を共にしていた。
鬼の集落は、王都から南方に位置するカルバキア山脈の近くにあるらしい。
その集落に、ある日不思議なモンスターが現れるようになった。
そのモンスターは、山脈にある洞窟からやってきているようだが、魔術による攻撃しか効果がなく、鬼も術の才能のある者ばかりではないため、ほとほと手を焼いていたらしい。
そこで、鬼たちが考えたのが通常よりも効率よく魔法が使える魔法武器を使うという方法であった。
魔法武器は、適正者であれば修練などしなくても、質の高い固有魔法を打ち出せるという特性があり、鬼たちはそれに目をつけたらしい。
だが、魔法武器はその辺りに転がっているような代物ではないため、保管されているところから強奪するという手段に及んだのであった。
「それで、関係ない人まで巻き込んだのね」
「その辺りの感覚は、普通の人間とはずれているのかもしれないとウルアも言っていたな」
「あと、その謎のモンスターというのも気になるわね」
「今は、鬼の集落にしか影響がないが、いずれ人間にも被害者が出るかもしれないらしい」
現段階では、伝聞のみで確固たる情報がない。
王国はこれから情報収集のための調査など、対応を検討すると大臣は言っていた。
「今回の件は、伝説級の鬼を討伐して、魔剣も奪還したとかで、子爵か男爵になれるほどの功績らしい」
「凄いじゃない!まだ騎士になって二ヶ月しか経ってないのに!」
「でも、未成年だから授与はまだ先になるそうだ」
この国では男爵以上の階級は、王城の謁見の間への常時が認められている。
政治の場に顔を出すだけの責任能力が必要となるため、称号の授与や譲渡は大人になってからということが定められていた。
このため、カントは暫く騎士のまま過ごすことになる。
「ところで、ジェシカはどうなった?」
「さっき様子を見に行ったけど、まだ目は覚まさないわ。魔力を限界近くまで使ってしまっていたから、明日まで目を覚まさないんじゃないかしら」
「そうか。多分あいつがLv.2を一体倒しているはずなんだが、誰も目撃していないし、死体も跡形もなく燃えてしまったようで証拠も現場に無くて功績として認められないようだ」
「それは可哀そうね。私でも良くわからないまま名士になったのに、命を懸けて何もないなんて」
いまだにあまり親近感がわかないジェシカであったが、流石に今回の件は、カントも同情した。
カントとジェシカの間に実力差があることは否めないが、それで今回の事が全てカントの手柄となるわけではない。
ジェシカの死闘が無かったように扱われるのは、不幸以外の何物でもなかった。
(明日会ったら優しい声でもかけてやるか)
この時はそう思ったカントであったが、翌日側近たちにいつものようにひどい扱いを受け、その気は失せてしまった。




