地獄の業火
これまでのカントの経験によれば、下級鬼と上級鬼の力は段違いであった。
これがレベル1の差なのだとすると、Lv.3もLv.2とは桁違いの力があるということになる。
上級鬼相手でも、【アクセル】の二重詠唱のみでは速度でやや劣る。
その差がさらに開くことが予想されたため、カントは左手に収まっていたジェシカの魔剣雷の閃光の力で、【閃光加速】を慌てて発動した。
「さっきあの娘が同じことをやっていたが、そんなもので俺には追い付けんぞ」
気が付くとウルアが目の前にいた。
ウルアが軽くカントの手を振り払うと、カントの体は10メートル近く飛ばされた。
(たった一発で、ごっそりと魔力を持っていかれたな)
魔剣の加護により、カントにダメージはないものの、その代償としてかなりの量の魔力を消費した。
この世界の人間なら魔力枯渇で確実に死んでいると思われる量の消費である。
こんな攻撃を何回も受けていたら、流石のカントでも命が危ないものであった。
(あまりやりたくはないが、死ぬよりはましか)
「【アクセル】三重詠唱!」
魔法を用いて戦う魔闘術において、加速魔法【アクセル】は通常二重詠唱までが常識とされている。
それは、この世界の魔術師の魔力量では殆ど三重詠唱を発動することができず、できたとしても魔力消費と対比して魔法の効果が小さく、あまりにも効率が悪いからである。
だが、カントには無駄に垂れ流すほどの魔力がある。
無論、カント自身にとっても、これまでに経験のない魔法の使い方である。
なんとか発動はできたが、無理をする分、魔力暴走のリスクも高まった。
そこまでしなければならないほどの相手であることに間違いはない。
カントが、右手の炎の魔剣で幾度となく切りつける。
一方のウルアは、素手でカントの攻撃を受けとめつつ、攻撃を加えていた。
速さでは、ほぼ互角である。
ただ、剣と素手の戦闘では、とても互角に戦っているとは言えなかった。
炎の魔剣には、攻撃に追加攻撃があるが、Lv.2相手に火傷を負わせる程度の効果しかないので、Lv.3状態となったウルアにとっては大した効果ではなくなっている。
このため、剣術による物理的な攻撃だけではどうにもならない。
カントは後ろへと飛んで、ウルアから距離をとり、体制を立て直す。
「こちらは、尋常じゃない量の魔力を使って今の状態を維持しているというのに、お前はノーコストなんだろう?こういうのを反則って言うんだ」
カントはため息混じりにぼやいた。
「両手に魔剣とか、お前も十分反則だがな」
「それもそうかもな。これならどうだ」
カントは熱線を連射してみせたが、ウルアは呪印を出してそれらを全て反射した。
固有魔法【熱線】は、消費魔力の割に攻撃力が強く、使い勝手の良い固有魔法であった。
逆にそれを避ける立場になると厄介な魔法となった。
熱線をギリギリで避けるとダメージを負うのは、先の戦闘で実証済みである。
カントは、反射された熱線を、十分に距離を取って回避した。
(避けるのが大変だからレーザーは使えないな。反射されない攻撃が必要か)
「広範囲魔法ならどうだ。【爆燃】!」
爆炎が一帯を包んだ。
「御」
その言葉一つで、ウルアを中心に円形の衝撃波が走り、炎は瞬く間に拡散されてしまう。
「無駄だ。反射以外にも方法はあるからな」
これにより、ウルアは完全に攻撃を防いだかに見えた。
だが、その隙をついてレーザーが撃ち込まれる。
掠った程度でもLv.2に傷を負わせた熱線を直に浴びれば、Lv.3にも十分効果があった。
ウルアは、精神的にもショックを受けていた。
天と地ほどの差があるはずの相手に傷を負わされたのである。
シナリオの決まったゲームを楽しむ予定のはずが、想定外の出来事であった。
「ぐぬぬ。馬鹿な!まさかこの俺が傷を負うとは……。明らかにLv.3相当の能力があるな。お前は一体何者だ?」
「俺も異世界出身者だ。今ので勝ち方が見えたよ」
これまで余裕があったウルアの表情に焦りの色が見えた。
予定外の事態に、ウルアは無意識のうちに一歩後ずさりする。
「世界を渡り歩いて色々な知識があるなら、フレアを知ってるか?地獄に行くにも土産が必要だろうから、ここで見せてやるよ」
カントの両手にある魔剣が共鳴する。
火・木・火連結固有魔法【爆燃】 × 金属性固有魔法【雷電撃波】
電界の中でプラズマが激しく動くことで、炎の温度は極限まで上昇し、ウルアを襲った。
「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ウルアは、先ほどと同じように鬼道で拡散を試みるが、業火の起こす乱流は拡散させても再び襲ってくる。
結果、ウルアの体は、焼かれては再生するということを繰り返した。
鬼道の源となる鬼力が無くなりかけたところで、ようやく炎は収まった。
地面は未だ熱を失っておらず、赤々と光っている。
「はあ、はあ、……はははは。どうだ!俺は耐えたぞ。お前ももう魔力はあるまい」
なんとか戦う余力を残したウルアは、息を切らしながらも勝ち誇った顔をしてみせた。
ドスッ
ウルアの後方で、鈍い音がして、背中に激痛が走った。
振り向くとカントが、魔剣を背中に突き立てていた。
カントもかなり魔力を消費しているらしく、同様に息切れしていた。
「はあ、はあ、お前を、地獄に、送る程度の、魔力は、残って、いるさ」
「やめ……」
火属性固有魔法【熱線】
炎が、その鬼を内部から焼いた。




