国王への謁見
「謁見の間にて、王がお会いになるそうです。トルンスタント侯爵およびカント殿は、謁見の間へどうぞ。謁見の間まで御案内いたします」
カントたちが城内に入ってからの流れはスムーズだった。
各所に話が事前に通っているようで、それぞれ担当の者が案内して、次の者に引き継いでいった。
姫に会いに来たはずなのに、何故王と会うことになっているのか。
説明を聞く間もなく二人は謁見の間へと向かう。
城内にてすれ違う兵士や貴族たちは、カントの姿をじろじろと眺めていた。
中にはすれ違いざまに振り返る者もいた。
(やはり平民が王城にいると目立つな。黒髪も珍しいらしいし)
「アイザックさん。一体どうなっているのでしょう。俺たちはエリザベス姫に会いに来たのではないのですか?」
「私も何も聞いていないが、この前の件に王が興味を持たれたのだろうね」
「俺、この国の作法を全く知らないんですが、大丈夫でしょうか」
「大丈夫とは言い切れないね。しかし、今となってはどうしようもない。私の右後ろに、私に倣って跪いていることだ。あと、指示があるまで顔は上げないこと」
「はい」
「あと、平民の場合、王とは直接会話できない。おそらく国務大臣が仲介することになるだろう。許可された時だけ発言するんだ。わかったね」
「はい」
カントは、既に緊張感が高まり、鼓動が激しくなっていることを自覚していた。
雰囲気に飲み込まれてしまいそうである。
(頭が真っ白にならなければいいんがだがな)
カントの不安を煽るように、カントの心臓はさらに激しく高鳴っていた。
※ ※ ※ ※
カントたちが謁見の間に入ると、そこには、白髪の男が一人立っていた。
国務大臣のスーリラ侯爵である。
「これは、トルンスタント殿。よくぞ参られた。するとその少年がカント殿か?」
「いかにも。もう話は聞いていると思うが、彼は平民で作法など知らない。そのことには配慮してもらいたいね」
「その点は問題ない。王も了解しておる。大人しく跪いて、余計な発言をしなければ不敬となることはなかろうて」
「それにしても、立ち合いの者が一人もいないね」
この国の謁見とは、公開された場所で行われるという位置づけになっている。
基本的に、謁見が行われる際には、貴族などがその場に立ち会うことになっており、その場の出来事を語る証人となるのである。
特に誰がという決まりないが、男爵以上であれば、この部屋に出入りすることが許されているのである。
このため、国政の中心の場ともなる謁見の間は、上級貴族の良い交流の場ともなっていた。
普段から誰かがこの場にいるということが当たり前となっていたのである。
しかし、今は大臣以外の人がおらず、閑散としていた。
「察しはついていると思うが、人払いをした。本日の謁見はこの3名のみで行う」
「そうか。わかったよ」
「間もなく王がいらっしゃいます」
衛兵が声をかけた。
アイザックとカントは、王座の前に跪いて待機した。
少し間をおいて、すたすたと足音が聞こえた。
大臣の声が聞こえる。
「王がお越しになられました。それでは・・・」
「よい。今回は人払いをしておる。余が直接話そう。大臣の仲介は不要じゃ」
大臣の言葉を遮るように王が言葉を発した。
(何ぃ!それはないだろう・・・)
最初から予定外の事態である。
「少年、そちがカントか?」
「・・・はい。私は、カント・ヒーラギと申します。お目通りいただきまして有り難き幸せにございます。王様におかれましては、御機嫌麗しく、恐悦至極にございます」
王は沈黙を保っていた。
(やばい、何か言葉を間違えたか?確か、こんな感じで使っていたはずだ)
カントは、とっさのことで、どう返したらいいかわからなかった。
そこで、テレビで偶然見た、隠居の老公が目上の人物に使っていた挨拶をしてみたのだった。
「二人とも面を上げよ」
王は、沈黙を破り二人に声を掛けた。
顔を上げたカントの姿を何度も舐めまわすように眺めた後、王は口を開いた。
「ふむ。平民と聞いていたが、言葉の使い方は知っているようじゃな。余が国王のアルザレス・ロワ・ド・ナスタリアじゃ。今回の騒動は娘からも聞いておる。この度の働き、誠に大儀であった。また、娘を命の危険から救ってくれたこと、父親としては感謝してもしきれないくらいじゃ。改めて礼を言うぞ」
「勿体ないお言葉です」
「さて、そなたには褒美をと考えているのじゃが、その前にアイザックと話がしたい。カントには申し訳ないが、別室にて待機しておいてくれぬか」
「分かりました。それでは、一度退席致します」
カントの足は少し震えていたが、足早に謁見の間を退席したのであった。
※ ※ ※ ※
カントが退席し、謁見の間の扉が閉まったことを確認した上で、アルザレス王は再び口を開いた。
「アイザックよ、率直に聞こう。あの者は一体何者なのじゃ。姫の説明によると、基本魔法の呪文を唱えたにも関わらず、発動したのはそのレベルではなかったとの話じゃが」
「自称異世界人でございます。私の娘が、領内の波打ち際で倒れているところを発見し、我が屋敷に連れてきました。一度、計測玉で魔力量を測定しようとしたのですが、あろうことか上級玉が焼けてしまいました。魔力は完全には測定できていませんが、推定で上級者の10倍以上はあるかと」
「「馬鹿な」」
アルザレス王と大臣は、声を合わせ、驚愕の表情を浮かべた。
「姫を襲った鬼は上級鬼であるようですし、その鬼に速度で勝ったという話ですから、嘘ではないのでしょうな」
「それが真実ならば、確実に本国に取り込まなければならんじゃろう。もし、他国へ流れでもしたらどうなることか」
「それほどの者を放置しておくには・・・。いっそのこと―――」
殺してしまってはどうかと続けようとした大臣をアイザックが窘めた。
「なりませんぞ。聖女リベラの話があるではありませんか」
「聖典の話か」
聖典には次のような話がある。
リベラという名の少女がいたのだが魔力が非常に高いことが判明した。
その国の王は、リベラの力が1人で国を亡ぼしうるものであることを恐れ、リベラの暗殺を企てたのだが、神の怒りを買って国が滅んだという話である。
「確かにあの少年の姿を見ておると、どうしても聖典の天使とイメージが重なりますな」
大臣は顎髭を触りながら、遠い目をした。
「私も以前、彼を見て、グハンテンドの話を思い出したのです。彼が天使であると言うつもりではないですが、リベラの話も無視できないものと思われます。結論を急ぐ必要は全くないかと」
「確かにそなたの言うとおりじゃ。短絡的な思考で聖典に載ってしまうような悪しき逸話の登場人物になってしまっては末代までの恥じゃからな。いや、自分が末代になってしまう可能性もあるな。そこでアイザックよ。一つ提案があるのじゃが・・・」
三人の作戦会議は続いた。
次回は閑話です。
【神話】神の娘リベラ




