王城へ
「ここが王都エン・ナスタルよ」
カント達は王都へと到着した。
「今まで見た街とは格が違うな」
高くそびえ立つ城壁を越えると、そこには遥か先まで、建物の群れが広がっていた。
人口規模は正確にはわからないが、少なくとも百万人以上はいるのではないかということだ。
今、馬車が走っている道も、馬車が10台は並んで走ることができる石畳の広い道路であった。
「私が期待していたほど驚かないのね。カントが住んでいたところはもっと凄いところだったのかしら?」
「まあそうだな。一度見せてあげたいよ」
「そ、そう」
たとえ話として、道路の立体交差の話でもしようかと思ったが、アイザックが目を輝かせて話が長引きそうなので止めることにした。
カント達は、さらに城門をくぐる。
王城周り以外の城壁だけでも3重構造になっており、それぞれの区画に市民が住んでいるらしい。
「最初に姫様に御挨拶申し上げようかね。それから色々と手続きをすることにしよう。後回しにして時間が無くなると面倒なことになるからね」
「そうですね。でも、こんな格好で大丈夫なのですか?謁見するにしては、服が随分傷んでいるようですが」
「そこでだ。この巡礼用の衣とサンダルを履くといい。衣はよく漂白された高級品だよ」
「巡礼用の服は、その辺りで簡単に手に入るし、フリーサイズなの。平民のカントがそれを着ていれば、不敬にはならないわ」
手渡された衣を広げてみると、首と手を通す部分がそれぞれあって、縫い込んであるのはそこだけ、裾の長さも折り返して腰帯で調整するという単純な構造をしていた。
馬車は、王城の入口である門の前に着いた。
王城はカントが想像していたものよりも遥かに大きいものだった。
王が住んで執務をするというだけでなく、王族が住むそれぞれの宮殿、来訪者のための施設、使用人のための施設等、あらゆる機能が詰め込まれている。
城内だけでも、一つの町が形成されていると言ってもおかしくないものである。
予定では、城内まで馬車で行く予定だったが、城庭手前の門で門番の兵によって馬車は呼び止められた。
「トルンスタント将軍。失礼ですが、そちらの少年は?」
「ああ、平民だよ。そういえば忘れていたな」
「カント君、普段なら城内まで顔パスなんだがね。平民の入口は別にあって、そこで検査を受けて入城するんだ。今回はカント君がいるから、ここで一緒に降りて、私が衛兵に説明することにしよう」
アイザックは、カントと共に馬車を降りた。
「アイリスは、このまま馬車で中に入って、待合室で時間を潰していてくれ」
「わかったわ」
アイリスを乗せた馬車が門を通過したこと確認した上で、一般入場受付へと向かった。
この入口は主に商人が物品の搬入を行うために利用されている所である。
多くの商人は、入場用の鑑札を持っており、人物の審査は簡略化されているものの、物品も逐一確認しなければならない。
そこには、長蛇の列ができていた。
城に入るためには、かなり時間がかかりそうである。
「こここそ顔パスで行きたいところですね」
「君、我々もあの列に並ばないといけないのかね?」
アイザックは、近くにいる兵に声をかけた。
「申し訳ありませんが、貴族の紹介がありましてもこちらに並んでいただいております」
声を掛けられた兵は、若い兵だった。
身なりでアイザックが貴族であることは分かっているようだが、誰を相手に断っているのか自覚はないらしい。
おそらく将軍の顔を知らないのだろう。
(知らぬが仏と言っていいんだろうか。後が怖そうだけどな)
「カント君、私もこの入口から入るのは初めてでね。こんなに時間がかかるとは計算外だったよ。時間がある時なら、やぶさかではないんだが・・・、困ったな。今日中に手続きを済ませたかったんだが」
道中の騒動で、日程は予定よりも1日遅れていた。
譲り受けた称号の登記には日数がかかる。
その後の入学の申請も考えると、あまり時間は残されていない。
アイザックは思わず苦笑いをした。
丁度その時、先頭の荷馬車が入場することになり、門が大きく開かれた。
その先には、一人の上級兵が歩いているのが見えた。
「おお、あれは」
アイザックはその姿を見て、大きな声で叫んだ。
「おーい、ライオネル!ちょっとこちらに来てくれないか」
そのライオネルと呼ばれた上級兵は、声の主がアイザックであるとすぐに気が付き、全速力で駆け寄ってきた。
「はあ、はあ、これは将軍殿。こんなところで何をしておられるので?」
腹に肉をつけすぎているせいか、少し走っただけなのに息を切らしていた。
「丁度良かった。ライオネル、今回私はこの平民と共に城内に入りたい。エリザベス様に登城するように言われていてね。悪いが先に通してくれないか?」
「あ、あの、馬車で入城されなかったので?」
ライオネルの顔は、何故か血の気が引いていた。
「そうしようとしたんだが、彼が平民だということで止められてしまってね。すぐに紹介状を用意するわけにもいかないから、一緒にこちらに来たんだよ」
「手違いがあったようです。将軍の馬車に御者以外に平民の少年が1名乗っているから、そのまま通すように王から通達が出ていたのですが。申し訳ありません」
王命無視の失態である。
ライオネルも、若い兵も顔色は青を通り越して白くなっていた。
特に若い兵は、顔がプルプルと震えていた。
※ ※ ※ ※
「一時はどうなることかと思ったけど、なんとかなって良かったよ。さあ、先を急ごうか」
「はい」
ライオネルたちが深々と礼をして見送る中、カント達は入城門をくぐる。
「しかし、貴族馬車入口の兵士は少なくとも減給だろうな。可哀そうに」
そうアイザックは呟いた。
カントとアイザックが、門の先へと消えていった後、門の入口付近でライオネルの怒号が響いた。
「貴様は、将軍の顔も知らんのかっ!!」
この後、貴族専用の入口でも同じように怒号がとんだことは言うまでもない。




