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誰かの思惑に巻き込まれた話(異世界転移編)  作者: 近江守
第1章 異世界に飛ばされて
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瞬足

 一撃を繰り出せばなんとかなるかもしれないという状況の中、カントはエリザベス姫を盾にされ、手出しできずにいた。

 光が一筋しか見えないのに、その光も断たれた形となった。

 片や、向こうから攻撃されたら即致命傷である。

 こちらが攻撃できないことを悟られたら終わり。

 それが顔にでないようにしながら、カントは生き残る方法を模索する。


(どうすれば・・・攻撃はできない。いや、それは違うぞ!)


 カントは、それが一種の思い込みであったことに気が付いた。

 攻撃はできないと思っていたが、正確には攻撃魔法が使えないの間違いであった。

 魔法で攻撃しなければ、魔力の暴走が他人に危害を及ぼすおそれもないのである。


(この思いつきが、そのとおりになればいいんだがな。どちらにしても一か八かにかけるしかないということか)


「頼むうまくいってくれよ」


 カントはポツリと呟いた。

 それはカントの覚悟の現れであった。


「どうした?来ないのか?」


 鬼は、カントが様子を窺っているとみて、挑発するように話しかけてくる。

 もう一刻の猶予もない。


(使えるすらわかない魔法だが、今はこれしか思いつかない!)


「【アクセル】!」


 呪文の詠唱に呼応するように体内を何かが駆け回り、一瞬、意識が引き伸ばされるような感覚に襲われた。

 カントの思いついた作戦とは、自分自身が加速することである。

 加速するだけなら、魔力の制御ができなくても攻撃魔法のように他人を傷つけてしまうことはない。

 今日、道中でアイザックが使ったところを一度だけ見ただけの加速魔法【アクセル】。

 カントは、この魔法を使ったこともなければ、どのような効果が表れるのか詳しいことすらしらない。

 それは、賭けであった。 


 しかし、カントの体は、軽くなるどころが動きが不自由になるほど重くなった。


(くそ、失敗したのか)


 カントは一瞬そう思った。

 しかし、よくよく冷静になってみると、体自体が重くなったのではなく、正確には周りの空気が纏わりつくようにカントの動きを邪魔していたのである。

 物体は、その速度に比例した空気抵抗を受ける。

 動きにくくなったということは、カントが加速している証拠なのである。


(思っていたのと違うが、これが速くなったということか。それならば行くしかない!)


 カントに武術の心得などない。

 派手な喧嘩もしたことはない。

 それでも、今ここで何もできなければ、姫諸共あの世行きになってしまうかもしれない。

 どう動けばより確実に勝つことができるのか。

 カントは、絶望の淵から生還するため、昼間のアイザックの動きを思い出す。


(まずは、あの剣だ)


 カントは鬼の手前まで近づき、鬼が右手に持っている剣の柄の部分を蹴り上げた。

 目論見どおり鬼は、カントの動きについてきていないようで、蹴り上げられた剣はするりと鬼の手から離れた。

 カントは、その浮き上がった剣を即座に奪い取り、そのまま半月を描くように刃先を鬼の足元へと返す。

 剣は、鬼の右すね部分を抵抗なくすり抜けた。

 加速している今、鬼の悲鳴が聞こえるのはまだ先の話となるだろう。

 これで相手の戦力はほぼ削がれたとみて良い。


 (さて、次はどうするか)


 改めて鬼を見てると、左手は姫を囲っているが、姫に触れているわけではない。

 

 (それならこちら側から攻撃すれば・・・)


 カントは、鬼の右わき腹を蹴りこんだ。

 鬼はカントの蹴り込みを受け、水平に吹っ飛び、壁を突き破ってさらに奥まで飛んで行った。

 

 ダンッ!ダダンッ!ダンッ!ダンッ!

 

 向こう側から壁を何枚も突き破る音だけが鳴り響いた。

 穴の開いた壁の向こうからは、住民らの悲鳴だけが聞こえた。


 カントの体感時間としても、それほど長い間加速していたわけではないと思うが、どうやら魔力を限界近くまで使ってしまったようである。

 激しい疲労感に襲われ、【アクセル】をいつの間にか解除されてしまっていた。


 一瞬で何が起こったのかわからず、エリザベス姫はきょとんとしていた。

 そして、自分の安全が確保されたことに気づき、安堵を覚える。

 緊張感から急に開放されたせいか、どっと疲労感が押し寄せ、すこし眩暈がして、足元がふらついた。


 「大丈夫ですか。お姫様?」


 カントは、姫の腰に手を当て、体を支えた。


 「きゃっ」


 姫は急に体を触れられ、小さな悲鳴を上げた。


 「これは失礼しました。お怪我はありませんか?」


 格好をつけてそう言ってみるものの、カントの体力も実はもう限界であった。


 「え、ええ特に問題はありません」


 エリザベス姫は、カントの目を見つめて優しく微笑んだ。



  ※  ※  ※  ※  



 「姫!カント君!大丈夫かい?」


 壁を何枚も突き破った大きな音を聞きつけ、アイザックとアイリスが駆け付けた。


 「ええ、この者のおかげで、このとおりなんともありません」


 「それは何よりです。少しお顔が赤いようですな。お風邪を召されたのかもしれません」


 「い、いえ、なな、なんともありません!」


 「人質から解放されて疲れが出たのでしょう。私が部屋までお送りいたしましょう」


 アイザックは、姫の手を引き、その場を立ち去ろうとする。


 「あの、この者はカントというのですか?」


 エリザベスは、後ろ髪を引かれるように立ち止まり、カントの方をちらりと見た。


 「ええ、今は私の客人でございます。所用で王都に向かう旅の途中でして」


 「そうですか。カント、危ないところを助けてくれてありがとう。王都に寄ったら、王城にも寄ってください。何かお礼をいたしましょう」


 「滅相もない。当然のことをしたまでです」


 「カント君は、アイリスとゆっくり帰ってくるといい」


 「わかりました」


 「ハウンド、アイリスを頼む」


 「畏まりました」


 「衛兵たちは、実況見分を行い、今日中に私まで報告するように」


 「「「「はっ!」」」」


 こうして、エリザベスはホテルへと帰っていった。

  守るべきものが目の前から去り、気が緩んだカントは疲れから、意識を失い、その場に倒れ込んだのだった。


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