第12部:なんか新キャラ出た
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澄んだ初夏の空で、日が照っている。
目を閉じ、だらりと寝そべるようにして私がくつろいでいるのは大学の中庭、そこに点在するベンチの一つだった。瞼を開くつもりはさらさらないが、周りを見ればきっと、実験に疲れた理学部の屍が、もしくは私のような暇人が日向ぼっこに勤しんでいるに違いない。
私は、この季節が好きだ。
肌寒さが消えながらも暑さを感じさせることはなく、私の肌にちょうどよい初夏という中間地点を、私は好んでいた。
この、大学生活というモノにしたってそうだ。
大人と呼べる年齢だが、社会人というほどには責任がのしかかっているわけでもない時期。モラトリアム、などと人は茶化すが、何にせよこの自由と不自由の境界を渡っているような感覚は嫌いではない。
ふとそんなことを考えていると、閉じていながらも日光を感知していた視界に影が差した。
「またこんなところで寝てるんですか、先輩?」
聞こえたのは、そんな、若干高い気のする男声であり、
「別に、私がどこで寝ていようと勝手だろう、後輩?」
言い返しながら目を開けると、そこには幼さの抜けきらない顔立ちをした青年がこちらを覗き込んでいるのが見えた。
「私は眠い。極めて眠い。それを邪魔するのは万死に値するぞ」
「先輩を心配するたびに殺されていたんじゃ、命がいくつあっても足りませんね」
クックッと含み笑いを漏らすこの男は名を芹菜光橋といい、私の所属するサークルの後輩である。縦やら横やらの関係はおろかそもそもヒトとの交流範囲というヤツを極めて狭く設定して生きてきた私であるが、なんだかんだで付き合いのある稀少な人材だ。
「今日は暖かい。日差しも気持ちいい。少しくらい昼寝した程度で、風邪など引かないだろう」
「そりゃそうでしょう、昔からナントカは風邪をひかないって言われるくらいですから」
「面と向かって先輩を莫迦と揶揄するとはいい度胸だ」
「なんだ、自覚してるじゃないですか」
「殴るぞお前」
「そんな細腕で殴られてもくすぐったいだけですって」
「なんだとこの野郎」
減らず口に我慢できず手を出したのは私だった。
しかし、殴打はたやすく芹菜の手で受け止められ、悲しくも彼の言う通り非力であった私の拳はペチンとしょぼくれた音を立てただけに終わる。
はぁ、と私はため息を吐いた。
「面倒な講義に顔を出して、二人分のノートをクソ真面目にとった後なんだ、少しばかり迷惑をかけたところでバチは当たらんだろう」
「迷惑、ですか?」
「カップルがいちゃつくベンチの一つを独占していることだ。私としてはそれを達せること自体が愉悦の要素たり得るが、迷惑なことに変わりはない」
大真面目に言い切る私に対し、しかし芹菜は苦笑いを浮かべたままで。
「話は変わりますが、今日も冴木先輩は来てないんですか?」
「ここ数日、あいつを構内で見かけたことは無いな。大方、その辺で遊び呆けているんだろう」
「ぞんざいな扱いですね」
「いつもこうさ。君が心配するようなことじゃない」
起き上がり、背もたれに身を沈める形で座ると、芹菜が隣に腰かけた。
「いい天気ですね」
「絶好の昼寝日和だよ。講義を聞き流している場合じゃないんだ、分かるだろう?」
「そんなことをしてると、また、単位落としますよ?」
「最低限の努力はしているつもりだがね。少なくとも、ヤツよりはマシだろう」
「はは、そうかもしれませんね」
冗談めかして言ってやっても、芹菜は作ったような笑みを崩す様子はない。堅物なのか、ただ適当に私の話に付き合っているだけで、まともに話を聞く気がないのか。
いずれにせよ、彼が私や冴木のようなロクデナシとつるむ理由にはならないのだが。
「先輩は、これからどうするんですか?」
「んー……?」
小さく唸ってから首を傾げ、はて、と考える。
はて、何をしたものか。
いつもなら冴木が何やかんやと引っ張りまわし、私がそれに付き合う形になるのだが、当のけん引役が不在なので、選択権は私にある。しかし、大して私にやりたいことというのが無いため、こうして迷う羽目になるのだ。
「……大して、何も考えてないな」
「そうですか」
「というか、そもそも昼寝していたところをお前に起こされたわけだからな。選択肢と言えば、それくらいか」
「じゃあ、俺が去れば、先輩は昼寝を続行する、と?」
「いいや、目が冴えてしまったからな。何かしら、やりたいことを考えるさ」
やりたいこと――本能的な欲求を意識的に探り出す、と言ってみると、若干の違和感を覚えるが、それはさておき。
「まぁ、あのロクでもない野郎も、いたらいたで日々の助けになっていたのだと、今なら分かるよ」
「へぇ……」
「ん? 私の顔に、何かついているのか?」
じっと神妙な顔になって私を見てくる芹菜に尋ねると、首を横に振り。
「いえ、別に何でもありませんよ」
「そうか?」
「そうですよ……っと、ほら」
そこで、芹菜は私とは別の方に目をやる。それは、私の肩をすり抜けた後方、口元には微かな笑みが浮かんでおり、
「噂をすれば影、ですね」
言って、小さく手を上げたので振り返ってみれば。
削げた頬。青白い肌。微かに隈を刻んだ目元。
「よぉ、嵯峨根」
「やあ、冴木」




