シャープスライフル
初カキコ…ども…
「ケガはないか?」
「ひゃ、ひゃい……」
金髪の少年は、荒くれ者に突き飛ばされてから床にへたり込んで呆然としている。
「あ、ああああ、ありがとうございますありがとうございますありがとうございます!!!!」
少年はサムターの手を掴み、頭を下げて上げてを繰り返している。
「あ、あぁ……こちらこそどういたしまして」
「ありがとうございますありがとうございますありがとうござい――」
「ストップストップ!もういいから!」
少年の両肩を掴んで話すのを強制的に止めた。
感謝されるのは良いんだが、それを連発されるとリアクションに困る。荒くれ者に謝っていた時もそうだったが、オーバーリアクション過ぎるだろ、コイツ……。
「えっと……どうかしましたか?」
少年は困惑しつつ、目の前にいる保安官補佐の男に尋ねた。男は肩から手を離し、疑問を投げかけてきた。
「ちょっと聞きたいんだが。お前、歳はいくつだ?」
「えっと……たしか15歳です。」
15歳にしては少し小柄だ。それに痩せすぎているように思える。
「そうか、じゃあ次の質問。なんでお前みたいな子供がこんな酒場にいるんだ?」
「それは、カドー通りそのものが僕みたいな孤児の家ですから……この酒場も家みたいなものなんですよ」
どうやら少年はカドー通りで暮らしているストリートチルドレンらしい。
少年は少し骨ばった顔を横に向けて視線をそらし、サムターとは目を合わせないようにしている。
「保安官補佐なんでしたっけ?」
「ああ、保安官補佐のロバート・サムターだ。今はジョセフ・リー軍曹……じゃなかった、ジョセフ・リー保安官のもとで働いている」
「そうですか、保安官補佐の方、カドー通りには何の目的で来たのですか?」
考えを読まれたくないのか右斜め下に顔を向けてこちらには視線を合わせようとしていないが、目の前にいるのはまだ大人になり切れていない少年。子供にとって感情を隠すというのは難しいらしい。その顔からにじみ出ている感情は恐れ、怒り、悔しさ、憎しみ、羨望。
「犯罪者の追跡だ」
その瞬間、少年の動きが一瞬止まった。
「ど、どんな犯罪者ですか?」
「強盗のリーダー格といったところだ。ダグラス市からは脱出している可能性が高いがな」
少年から読み取れる感情が変わった。恐怖。それ以外の感情は読み取れない。
「そ、それは怖いですね~。僕みたいなストリートチルドレンに盗まれる程の貴重品なんて無いですけど、気を付けるに越したことは無いですね~。それでは、助けていただきありがとうございました!店主!お代はテーブルに置いておきますので!それでは、サヨナラ!」
金髪の少年はポケットから金を出してカウンターのテーブルに置くと、そそくさと酒場から出て行った。
「あのガキ、銃を忘れやがったか」
店主がグラス拭きの作業をしながら、一言だけ面倒くさそうに呟いた。
少年が忘れていった銃が床に転がっている。それと、緑色のケピ帽も。
「シャープスライフル……カービンではないのか。珍しい。それにこの帽子……ヤンキーの狙撃兵が被ってた帽子じゃないか。あのガキがなぜ?」
シャープスライフルと緑のケピ帽を手に取る。どちらも『内戦』中に北軍の狙撃兵が使っていたものだ。シャープスライフルは120㎝くらいでそこそこ大きいライフルだ。15歳の少年が使うにしては大きすぎるし、あの少年はかなり痩せていた。持つだけでも疲れるぐらいのではないか?
もう一つ気になる点がある。ストリートチルドレンの持ち物にしては手入れが行き届いていて、綺麗すぎるのだ。あの少年が持っていた理由は分からないが、大事な物なのだろう。
「なぁ店主、このシャープスライフルと緑のケピ帽はガキが持ち物なんだよな?」
「そうだ。なぜ持っているのかは知らないし、興味もない。欲しけりゃ勝手に持っていけ」
店主は気にも留めずにグラス拭きを続けている。訳ありの客は見慣れているのだろう。
***
サムターはカドー通りから伸びている脇道に来ていた。そこは社会からのあぶれ者が掃きだめのように集まっている場所。浮浪者やらストリートチルドレンやらがいるが、どれも生きているのか、死んでいるのかも分からないといった様子だ。
「金髪の少年を見なかったか?年齢は15歳。普段は緑のケピ帽とシャープスライフルを持っている。身長はこのくらいだ」
掌を地面に対して水平に広げ、酒場で会った少年の背丈ぐらいまで上げて浮浪者に見せる。
「教えて欲しけりゃ金を寄越せ」
「……これでどうだ?」
ポケットから硬貨を出して浮浪者に渡した。
「まあ、いいだろう。金髪のガキだろ?知らん。俺は『知らない』ということを知っている」
「……そうかい、そうかい。分かったよ」
成果なし。金を持っていかれただけ。このクソボケ浮浪者を一発ぶん殴ってやりたいところだが、それはともかく。
(――あのガキ、どこに行ったんだ?)
酒場で会ったあの金髪の少年のことが気になったので、探しに来てしまった。本当はジェイムズ兄弟を探すべきだというのは分かっているが、何故かあの少年のことが気にかかる。
酒場で話していたとき、少年から読み取れた感情は「恐怖」のみ。
(……子供らしくない表情だった)
戦場で敵を殺す方法は撃つ以外にもある。石か何かで殴ること、ナイフで刺すこと、水に沈めること。だからかもしれないが、人の感情を読み取るのが上手くなった。保安官補佐として犯人を制圧する時にはかなり役立っている能力だ。
幾つもの感情を読み取っていると、あることに気付いた。
――人が「恐怖」の感情に支配されるのは絞首台の前だけ。
当たり前だが、あの酒場には絞首台など無い。それなのに少年は恐怖に支配されていた。
「……何かくれ」
考え事をしつつ歩いていると、不意に誰かが話しかけてきた。
「……少しくらい問題無いだろ。何かくれ」
8歳くらいの子供が道端に座りこんで、こちらを見つめている。やせ細った四肢に虚ろな表情、ボロ雑巾のような服。酒場にいた少年と同じストリートチルドレンらしい。
「聞きたいことがある。」
「答えたら何かくれるのか?」
「これでどうかな?」
25セント硬貨を1枚見せると、子供は驚きと喜びを隠そうとせずに「分かった」とだけ答えてこちらをじっと見てくる。
「人を探している。15歳の男の子。金髪で緑の帽子とライフルを持っている子だ。見覚えは無いか?」
「……ハイラムお兄ちゃんのこと?」
「ありがとう。その子に会うことはできないかな?」
25セント硬貨を渡し、ポケットからもう1枚、25セント硬貨を取り出す。それを子供に見せながら再び尋ねた。
「どこにいるか知ってる。ついてきて」
***
子供に案内されたのは袋小路の行き止まりにある、使われていない半地下の倉庫だった。倉庫の中や周りには10人ほどのストリートチルドレンがいるが、どの子供も異様に細い四肢と虚ろな目をしている。
「ハイラムお兄ちゃん、お兄ちゃんを探してるって人が来た。」
子供が話しかけた「ハイラムお兄ちゃん」は酒場で会ったのと同じ、金髪で小麦袋のようなボロボロの服をまとった少年。ストリートチルドレンの中では最年長のようで、地べたに座り込みながら他の子どもたちを見守っていた。
「よう、『ハイラムお兄ちゃん』。さっきぶりだな」
「保安官補佐……いったい何のために、こんな場所まで?」
丁寧な口調で話してはいるが、ハイラムはこちらを睨みつけている。酒場で会った時は肝の据わっていないガキといった感じだったが、今はそんな様子など微塵もない。
「忘れ物を届けに来ただけだ」
片方の手に緑のピケ帽を持ち、もう片方にはシャープスライフルを持って見せると、ハイラムの表情は一瞬だけパッと明るくなり、すぐに表情を曇らせ、元通りサムターを睨みつけた。
「せっかく忘れ物を届けに来てやったのに睨みつけるなんて、失礼なやつだな。感謝してほしいのだがな」
ハイラムは不服そうな顔でサムターから目線を逸らし、「……ありがとう」と吐き捨てるようにつぶやいた。その言葉を聞いてからハイラムに近づこうとしたが、「足元に置いてください」と途中で止められてしまった。
「無愛想過ぎじゃないか?せっかく持ってきてやったんだぞ」
「持ってきてくれたことは感謝します。ですが、ここにはあまり来てほしくないんですよ」
こちらへの警戒が緩む気配は微塵もない。
「何故?」
「あなたが大人で、保安官補佐だからです。力の無いこの子たちのために僕が戦わなきゃならないんです。でも、僕は大人には勝てない。弱いから。それに、僕たちみたいな孤児は生きるために罪を犯します。殺しも、盗みも、何だってします。あなたのような保安官補佐にとっては敵なんです!絞首台に送るべき相手なんです!」
泣きそうな表情で言葉を投げてきた。それから一息おいてから地面に置かれたシャープスライフルを拾い上げ、こちらに銃口を向ける。
「――ここから出て行け!!!」
この文章の下に星マークがありませんか?
色がついた星の数だけ、幸運が訪れると思います。知らんけど。




