やはり孤独なんだな……
やはり孤独なんだな……
地下へのボタンは存在する。それを押せばいい!
―――行くのか? 一人で?
「君も……、尾崎凌駕、君も来てくれるんだろう? 一緒に地下へ」
「いや」尾崎凌駕は首を横に振る。
「何故だ?」
「すまんな、これ以上のことはできない」
「どうしても、一緒に来てはくれないんだね?」
「一つだけ条件がある」
「何だ? その条件を私が呑めば、一緒に来てくれるんだね?」
「そうだな、しかし君はその条件を呑むかどうか……」
「言ってくれ! その条件を――」
「確かにこの現実は生成されたものかもしれない。しかし、確実な現実が一つはあるだろう?」
「何だ?」
「あの言葉さ!」
「あの言葉?」
「中井英夫のあの――」
―――ああ、しかし、それは……
「世界中の悪意を一身に背負ったような探偵小説を書くんだよ」
「いや、違う!」
「しかし、ネットで検索すれば中井英夫は確実にそう言っている! それを認めないのはどうかしている!」
「違うのだ」私は声を絞り出す。「世界の【悪意】のすべてを一身に引き受けたような、そんな探偵小説を書くんだよ―――そう言ったはずなのだ。それが現実……真実!」
「はず?」尾崎凌駕が笑う。いや、嗤う?
「いや、言った! 断言できる!」
「しかし、君が直接聞いたわけではないだろう?」
「確かにそうだが……しかし……」
「とにかく、君が認めれば―――中井英夫は、世界中の悪意を一身に背負ったような探偵小説を書くんだよ、そう言った、そう認めれば、それが現実、真実だと認めれば!」
「もし、認めれば?」私は震えながら訊く。
「一緒に地下に行くよ」
私は沈黙するしかなかった。
そうして、ただ、地下へのボタンを押した。
「尾崎凌駕、降りてくれ」
尾崎凌駕は少しだけ悲しそうな顔をした。
そして黙ってエレベーターのカゴから降りた。
扉が閉まり、エレベーターは動き出した。
地下へ、更に地下へ……
それが、尾崎凌駕との決別になった。
いや……
―――尾崎凌駕は私の本格ミステリーにおける、名探偵だった。
ということは……
本格ミステリーとの決別なのだろう……
カゴは地下へ降りる……
もう二度と浮上することはないだろう……




