百二十六話 反撃
「……神聖属性の無効化・或いは弱体化に特化したモンスター、か」
「なるほど、言われてみれば私たちの攻撃のみが通用していないようですね」
そんなやり取りを交わしながら、改めて周囲の状況を視線で確認するダークとフラン。
リーリス皇女もサヤの言葉を聞き、ハッとする。
彼女はサヤと違う読みをしていた。
彼女自身は弓矢、フランは剣、そしてダークは爪と剣尾を使い戦っていた。
反対に、サヤは風と炎属性による攻撃でバハムート・コピーに大ダメージを与えた。エリアとグランペイルも微小なものではあるが、他の個体にダメージを与えることに成功している。
それ即ち、バハムート・コピーには物理を絡めた攻撃の相性が悪いと思っていたのだ。
実際、リーリス皇女の矢は自身のマナで生成されるものだが、生成された後は神聖属性を帯びた物理攻撃扱いとなるのもそう思った理由の一つだった
戦況を見つめながら、改めて情報を整理し、リーリス皇女は考える。
(最初のダークちゃんによるブレス攻撃をバハムート・コピーたちは全力で回避した。そしてサヤさんの炎と風によるエネルギー攻撃によってダメージを負った。……しかし、それが神聖属性にのみ耐性を持つことを欺くための行動だったとしたら――!)
その可能性に思い至った瞬間、彼女は叫ぶ。
「来なさい! フェイルノート!」
叫びとともに、リーリス皇女の手の中からミストルティンが消える。
次の瞬間、真紅の弓が現れた。
そのまま「焼き尽くしなさい、冥界の炎よ!」と反対の手を掲げると、その手の中に真紅のオーラを帯びた矢が数本顕現する。
弦を引き、矢を一気に全て放つ。
ゴウ――ッッ!!
一斉に放たれた矢は一条の真紅の閃光となって戦場に迸る。
狙いは今まさにグウェンに魔剣を振り下ろそうとしていた個体だ。
矢を確認すると、敵は背中の翼を使いその場から一気に距離を取る。
それを見てリーリス皇女は(やはりサヤさんの読みは正しかったようですね!)と確信する。
先ほどまでであれば体に氷を纏って防御することで、ダメージを無効化していた。
しかしこうして炎属性の攻撃に切り替えた瞬間、防御から回避へと対応を変えたのだ。
「ダーク、私たちも戦い方を切り替えます!」
「了解だ、ご主人。元の姿に戻るのは心もとないが……やるしかあるまい!」
フランとそんなやり取りを交わすと、ダークは第三形態への進化を解除し元の姿に戻る。
そのまま「ご主人、これを使え!」と、自身の《収納》スキルで格納しておいたとある武器をフランの方へと飛ばす。
両手の聖剣を瞬時に異空間へと格納するフラン。そのままダークが放った二つの武器を空中でキャッチする。
「聖剣以外の武器……それも短剣の扱いはあまり得意ではありませんが、今はこれしかありません」
そう言って、己の手の中の得物を見つめるフラン。
左右の手の中の短剣にはそれぞれ切り裂くような風とともに、弾けるように紫電が迸っている。
「魔双短剣〝テンペストブリンガー〟――力を借りますよ」
そう言って、フランはグランペイルたちが応戦している個体へと向かって飛び出した。
それに気付いたグランペイルは《デモンズフレイムピラー》を六つ発動する。
狭い感覚で設置攻撃を発動することで包囲することで、フランの攻撃から逃れられないようにしたのだ。
「サポートありがとうございます」
すれ違いざまにグランペイルに礼を言いながら、その場で一気に跳躍するフラン。
燃え盛る悪魔の円柱の間をすり抜け空中で双剣を振りかぶる。
「迎撃体勢――」
回避することが難しいと判断した翠緑のバハムートは、上から降ってくるフランを切り裂こうと魔剣を構える。
そしてフランの体が射程圏内に入るその瞬間、風の力を帯びた魔剣を振り払った。
対しフランは――
「唸りなさい、テンペストブリンガー!!」
鋭い声で手の中の魔剣に命じる。
日本の魔剣はその刀身に帯びた風と紫電の威力を強め、バハムート・コピーの魔剣と激突する。
しかし相手は複製体とはいえSランクモンスターだ。単純なぶつかり合いで勝てるはずがない。
そのまま威力で負けて切り裂かれてしまう……かと思われたその瞬間だった――
「グ……ッ」
小さく、そして短く、翠緑のバハムート・コピーが呻くような声を漏らす。そしてその体にはバチバチと紫電が迸っている。
魔剣と魔剣によるぶつかり合いでフランが競り負けようしたその刹那、テンペストブリンガーから発せられる紫電が敵の纏う風と魔剣そのものを貫き届いたのだ。
一瞬の隙を突いて、フランは空中で身を捻る。
そのまま落下の勢いを活かし……斬――ッッ!!
テンペストブリンガーによる双撃を放ち、敵の肩から腹を切り裂いた。
「テンペストブリンガー、さすがはお師匠――〝聖刃〟様から受け継いだだけはありますね」
フランはそう言いながら、刀身についた血を、ビッ! と払う。




