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41 蜥蜴人族(リザードマン)、来襲!

 ミリュリーネ第三王女がギュースト市にやってきてから1週間。

 彼女の今回の訪問は秘密裏に行われていることから、街の人々は彼女の存在を全く知らない。

 ただ、そのことを利用してかミリュリーネは王女でありながら護衛もつけずディートゲイルの屋敷から抜け出し、エイラやルルミア、あるいはエリザとバレリーを伴い街の中を探索するのを日課にしている始末である。


 この日もミリュリーネは俺達のいる中央宿までやってくると、彼らを連れ出し街の中へと繰り出していた。


 「ほらほらタイチ! 早く私をまだ言ったことのないところへ連れて行って!!」


 「い、いやそうは言ってもさ。ミリュリーネはもうこの街を全部見ただろう? 毎日エイラ達を連れて出かけてたじゃないか!」


 「私は王女だもん。わがまま言っても許される存在なのよ?」


 ……こいつ、いい性格してるよな。

 まぁ、ディートゲイルを脅してた辺りから分かっていたことだけど。


 俺は胸を張り得意げに語るミリュリーネの姿に、ただただ呆れて言葉が出てこなかった。

 そんな俺を見かねて、側にいたエイラとルルミアが口を開く。


 「そ、そうだミリュリーネ様! あちらに行きましょう!! まだお見せしていない絶品の料理があるんですよ!!」


 「いい考えねエイラさん! さぁ行きましょうミリュリーネ様!!」


 「フフフッ、それは楽しみね!! それじゃあ行きましょうか!!」


 (タイチ様! ここは私達に任せてください!!)


 (おぉ! 流石はエイラとルルミアだ! 後は頼んだ!!)


 エイラはミリュリーネの手を引きながら俺へと視線を向けウィンクをする。

 俺もエイラの心内を察し、ミリュリーネに見えないよう右手の親指を立て3人が見えなくなっていくのを見つめ続けた。


 だが3人が消えたその時、俺は側の店の窓から姿を隠しながらこちらを見つめる人影を発見。

 すぐにその店に入り人影の見えた席の元まで進むと、顔を隠しているその人物の頭部に拳を落とすのだった。


 「何やってんだエリザ!」


 「痛いじゃない!! 何するのよタイチ!!」


 「それはこっちの台詞だ! お前がミリュ……、あのわがまま娘をきちんと見てないから俺達が毎日相手させられてるんだろう!?」


 「わがまま娘って……、あなた首を飛ばされたいの??」


 エリザは俺に殴られた頭頂部を押えながら立ち上がり、今にも涙が溢れそうな瞳で俺を睨みつけた。

 その姿に、エリザと机を挟む形で椅子に腰かけていたバレリーが2人の口論を止めるように間に入る。


 「まぁまぁタイチ殿。少し落ち着くのだ」


 「バレリーか……。そうだな、確かに頭に血が上り過ぎた」


 「何よ! なんでバレリーの言うことは素直に聞くのよ!!」


 「団長!! 少し黙ってもらえますか??」


 「……す、すみません」


 さらに俺に食って掛かろうとするエリザ。

 だがバレリの凍り付くような視線を向けられたことで、エリザの表情からは一瞬で血の気が無くなりおとなしく元居た席へと腰を下ろした。

 バレリーはその姿を無言で見下ろした後、タイチにも開いている席に座るように促したかと思うと、店の入り口近くへと視線を移し声を上げる。


 「あなたもこっちに来たらどうですか、バーナー卿」


 「……ハハハハッ、気づかれていたか! 流石は黒姫、鋭いな」


 「ディートゲイル、あんたまでいたのか……」


 って、なんて恰好しているんだあんたは!!


 視線を移した俺が驚くのも無理はない。

 酒樽の影から姿を見せたディートゲイルの姿は、木の枝を持つという古典的な身の隠し方をしていたのだから。


 ディートゲイルは体に着いた葉を払うともう1つの開いている席に腰を下ろし、円卓にはエリザ、ディートゲイル、俺、バレリーの順で並ぶことになった。


 「それで? どうしてあんたがここにいるんだ??」


 「……いや、ただな、ミリュリーネ様がまた抜け出したと聞いて後を付けて来たのだ。秘密とはいえミリュリーネ様は王女。何かあれば私の首が飛びかねないのでな、ハハハッ……」


 「それなら王都に戻ってもらえばいいじゃないか」


 「私も再三そのように言っているのだが、その度にどこから漏れたのか私の隠したいことを使い脅して……」


 あぁ……、なるほど……。

 こいつも中々苦労が絶えないんだな。初めて同情するよ、ディートゲイル……。


 俺は頭を押え机に両肘を付きうな垂れるディートゲイルの姿に、その肩に手を置き慰めることしかできなかった。

 反対側に座るエリザにも思い当たることがあるのか、俺と同じようにもう片方の肩を何度も叩いていた。

 そんな3人の姿に、バレリーはため息を付きつつも呆れたように口を開く。


 「ゴ、ゴホンッ! 余り感傷に浸らないでもらますかバーナー卿。それよりも今後どうするかですね。団長もそろそろ王都に戻りませんと流石に副団長が切れるでしょうし、その時に陛下からミリュリーネ様に一緒の王都へ戻るように言ってもらいましょうか……」


 「えぇ……、まだ戻りたくない! だって王宮って息が詰まりそうなくらい退屈なんだもん!!」


 「はぁ……、あなたが好き勝手に出来るのは雑務を全て副団長が引き受けているからでしょう?! 少しは副団長を見習って真面目に働いてくださいよ」


 「ご、ごめんなさい……」


 こいつ、本当に団長なのか??

 バレリーの方がよっぽど団長に向いてそうだけど……。


 「……ディートゲイル様!!! ここにいらっしゃいましたか!!! た、大変です、すぐに館にお戻りに……」


 俺がバレリーの言葉に落ち込むエリザの姿を見つめていると、店の外からフレーゲルの言葉が聞こえて来たかと思うとこちらに気が付いたフレーゲルは息を切らしディートゲイルの側まで駆け寄ってきた。


 その慌てようは尋常ではなく、その場にいた4人の表情はみるみる険しい物へと変わっていく。


 「い、いかがしたフレーゲルお前らしくもない。一体何が起きたというのだ?!」


 「はぁ、はぁ……、じ、実は先ほど領内の辺境地を守備する警備隊から魔通信が入りまして、それによると、リ、リ、蜥蜴人族リザードマンの大軍がこのギュースト市を目指しているとのこと!!」


 「な、何だと!?」


 「さらにその報告から警備隊との連絡も取れません。恐らくは……」


 「拘束、あるいは既に……ってことね」


 話を聞いていたエリザの言葉に、フレーゲルは大きく頷いた。

 さらにバレリーも表情を変えずフレーゲルへと口を開く。


 「フレーゲル殿、それで蜥蜴人族リザードマンの軍勢の数は?」


 「はい、正確には分かりませんが報告によると3000はいるかと」


 「3000……。バーナー卿、この街の守備兵はどの程度おられますか??」


 「かき集めても1000もいないだろうな。……フレーゲル、こうなれば冒険者にも号令をかけるのだ。もしこの街を守り切れれば報酬に糸目はつけん!」


 「はっ! 直ちにそのように取り計らいます! では私はこれにて」


 フレーゲルは頭を下げると、急いで再び店を後にしていく。

 ディートゲイルはその姿を見送った後に、隣の俺へと視線を移し口を開いた。


 「タイチ殿、そういう訳だ。タイチ殿にも力を貸していただきたい!」


 「そ、それは構わないが何で蜥蜴人族リザードマンが??」


 「それは分からぬ。ただ人種と蜥蜴人族リザードマンは昔から争いが絶えない。さらに蜥蜴人族リザードマンは人間の5倍の筋力を持つという。早急に王都へ援軍を頼まなければ……」


 5倍の筋力……。それが本当ならいくらディートゲイルがいるといっても……。

 この街の冒険者をかき集めても、兵士と合わせて1000を少し超える程度だろう。

 

 俺の考えとディートゲイルが考えていることも一緒なのだろう。

 ディートゲイルが真剣な面持ちで考え込んでいると、エリザが大きく息を吐きバレリーへと視線を向ける。

 その顔は、これまで俺が見たこともない程真剣な物だった。


 「……バレリー、これは私達も手を貸さないといけないわね」


 「そうですね、そう言うと思いました。では私はすぐに王都へ赴きホーゲンを援軍として連れて参ります」


 「そうね、あと陛下にも直ちに軍を送るように働きかけてきて? 貴族達が反対しても蜥蜴人族リザードマンが相手なら了承するでしょう」


 「了解いたしました」


 おぉ、何か団長っぽい……。 

 いやこれが本当の姿か。いつもの姿があれじゃあな……。


 俺がエリザが珍しく真剣に働いている姿に笑みを浮かべていると、それに気が付いたエリザが不思議そうに俺に尋ねる。


 「タイチ? なんで笑っているの??」


 「いや、お前がいつになく真剣だったからな。ついおかしくなって……」


 「なっ! それどういう意味よ!!」


 「団長の普段の行いが悪いということですよ」


 「ちょっと、バレリーまで!!!」


 ハハハハハッ!!!

 エリザが顔を赤らめ拗ねたように頬を膨らませている姿に、俺、ディートゲイルだけでなくバレリーまでもが緊張がほぐれたのか笑みを浮かべるのだった。


 だがいつまでも笑ってはいられない。

 俺達はすぐさまこの重大事に備えるために店を後にし、ディートゲイルの館へと急ぐ。

 その間も蜥蜴人族リザードマンの脅威はギュースト市のすぐ側まで迫り続けていた……。











 2日後。

 ギュースト市の北側に広がる平野部、いつもは旅人や商人、冒険者が行きかう街道には誰も見ることは出来ない。

 だがその代わりに、武具に身を包んだ明らかに人間とは違う外見をしている蜥蜴人族リザードマンの大軍が平野部を埋め尽くすかのように広がっていた。 

 

 彼らの雄叫びはギュースト市内にも伝わり、街の中には人一人おらず、兵士と冒険者たちは城壁の上や城門前に陣取り蜥蜴人族リザードマンの襲撃に備えているのだった。


 「タイチ様、凄い数ですね……」


 「ああ、そうだな。これだけの人数は俺も初めて見た」


 城門の上で平野部を見つめる俺の側に近寄ってきたエイラとルルミア、ハシュナ達は、雄たけびを上げ武具で巨大な音を立てている蜥蜴人族リザードマンの大軍に言葉を失っているようだった。


 まぁ普通はこうなるよな……。

 俺も人間だったころにこの光景を見ていたらすぐにでも逃げ出していただろうし。

 でもどうしてこのギュースト市を攻める必要があるんだろうか……。

 

 俺はこの2日でディートゲイルに聞かされた人間と蜥蜴人族リザードマンとの戦いの歴史を思い出す。


 蜥蜴人族リザードマンとの戦いは200年を超えるらしい。

 ただ彼らが追い出された土地はディートゲイルの領地ではない。

 なのにここまで攻めてくるというのは何かがおかしい気がする……。

 まさかこれもエイラを狙う奴らが引き起こしたのか??


 「……いや、流石に考えすぎだな」


 「なにか仰いましたか、タイチ様?」


 「い、いや何でも……」


 「蜥蜴人族リザードマン、進軍を開始しました!!」


 ドォォォォン!!!!

 だがその時、兵士の声が上がった瞬間に突如城門前で爆発が起こり数人の兵士が吹き飛ばされる。

 そのあまりに突然の出来事に他の兵士や冒険者達からはざわめきが起こるが、そのような事にはお構いなく蜥蜴人族リザードマン達は一斉に攻撃を開始。

 

 こうして人間と蜥蜴人族リザードマン、その戦いの火ぶたが切って落とされることになったのだった。

 

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嫌われ最強転移者、正体隠して頑張ります! ~刻まれた転移紋は、嫌われの証~ 新作を書いてみました! 良ければ読んでいただけると嬉しいです!! ブクマ&評価も頂けると更に喜びます笑
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