38 新たな日常!
俺達がギュースト市へと戻ってから1週間後。
俺、エイラ、ルルミアはいつものように賑わいを見せる中央宿1階の奥の席で食事をとっていた。
「それにしても本当によく食べるよなエイラって」
「そうですか?? うーん、育ち盛りだからですよ!」
「フフフッ、でもエイラさんはいつも美味しそうに食べるから見ているとこちらもお腹が空いてくるのよね」
「ハハハハッ、確かにルルミアの言う通りだな!」
「もう、2人とも! からかわないで下さい!!」
エイラは頬を膨らませ俺とルルミアに答えると、目の前の木皿の上にある魚料理を口いっぱいに頬張っていく。
しかしあまりにも大量に口に入れたため喉を詰まらし、それに気づいたルルミアが慌てて水をエイラへと手渡すのだった。
俺達がこの街に戻ってきてから1週間。
無事バジリスク討伐の報酬も受け取り、いつもの生活に戻ってきた。
だが今日は、ハシュナは朝早くから街の外へと出かけてしまい、ルナはと言うといつの間にか姿が見えなくなってしまっている。
まぁ、エイラの話では最近街中でルナが白い猫と一緒にいるところを目撃したらしい。
全く、あいつは日に日に本当の猫に近づいているんじゃないだろうか……?
そしてファンネルは再び冒険者業に精を出している。ポスカの居所を探るために依頼先で情報を集めているらしいが、未だその足取りは掴めていないと昨日の夜、愚痴を聞かされた。
エイラを狙ってくる奴が現れていないことから、ポスカから情報が流れているということはまだないだろうが油断はできない。
ファンネルには悪いが、このまま俺達の近くに現れないのならそちらの方がいいかもしれないな。
そしてもう一つ、この街に留まっている奴らが……。
「タイチ!! 遊びに来たわよ!!!」
「遊びに来なくていい!! お前が来るとろくなことにならないからな!!」
バンッ!!!
俺が宿の扉が勢いよく開く音で入り口へと視線を向けると、そこにはエリザが満面の笑顔で自分の方へと走ってくるのが見えた。
その後ろにはバレリーが続いてくるが、2人が入ってきたことで宿で食事を取っていた冒険者や旅人の視線は全て俺へと注がれる。
「おい、見ろよ。あれが噂の”紅鬼”エリザか……」
「1人で人食鬼10体を一瞬で倒したって言う竜騎士だろ?」
「それにしても後ろにいるのが”黒姫”バレリーか。俺はあっちの方が好みだな! 紅鬼は子供っぽくて……」
しかし宿にいた男達はそこで言葉を詰まらせる。
話し声を聞いたバレリーがその鋭い眼光を向けたためだが、その視線を受けた男達はすぐに視線をそらし再び世間話を始めるのだった。
「それで? 何でお前はまだこの街にいるんだよ。2日ぐらいで王都に戻るんじゃなかったのか??」
「細かいことは言わないのよタイチ! 私くらいになると帰るのはいつでもいいのよ!!」
「……いや、後ろのバレリーはそんな風に思っていない感じだけど」
「何言ってるのよ。バレリーはそんな小さなことを言うような人、じゃ、ない……」
エリザは笑いながら振り返るが、そこにいた冷たい視線を送るバレリーの表情にみるみる顔色を悪くし急いで俺の後ろへと隠れた。
その姿にバレリーは大きく息を吐き頭を抱えるのだった。
「はぁ……。団長、あなた自分の立場を分かっているんですか?? 竜騎士近衛団は陛下の剣と盾。本当は片時も離れるわけにはいかないんですよ? 今回だって、あなたがごねたから特別に陛下が王都を出ることを許可してくれたのですから……」
「いいじゃない! 陛下の側には”あいつ”がいるんだし問題ないでしょ?? ホーゲンだって王都に向かっていることだし……」
「あのね!! あいつって、副団長にばかり押し付けないで少しは働きなさいって言ってるんです! 今もタイチ殿に迷惑をかけて恥ずかしいとは思わないんですか?!?!」
「ご、ごめんなさい!! で、でもほら! タイチだって私にいて欲しいって言ってるし……。そうよね、タイチ?!」
エリザはバレリーの剣幕に、額に汗をにじませながら俺のマントを掴み今にも泣きそうな表情を浮かべている。
こいつ、俺を盾にするんじゃない!!
それにそんな顔をしてるけど、お前今年で89歳なんだろ?!
バレリーから聞かされた時は驚いたけど、外見が12~3歳のくせに詐欺にも程があるわ!!
そう、エリザ・キュートは今年で89歳という人間で言えば高齢者なのだ。
エリザは人間の父と、今は滅んだ紅鬼族の母との間に生まれた半紅鬼。
紅鬼族は数ある鬼の中でも最も魔力の高い種族でありその寿命も長く、外見も赤い髪と角以外は人間殆ど変わらない。
ただ、その凶暴性から人間との戦いが絶えずその数は年々減少。50年程前に完全に滅んでしまったとされ、今ではエリザがその血を継ぐ最後の生き残りなのである。
「俺はそんな事言ってない。てか早く帰れよ、みんな困ってるんだろ??」
「なっ!! この裏切者!! 私がいなくなってもいいの??」
「うーんそうだな、うるさい奴がいなくなるのはいいことだからなぁ」
「むきー!! あんたそれでも私の友達なの?? 薄情者! 裏切者!! 変態!!!」
「へ、変な言いがかりは止めろ! 最後の変態はいらないだろ!! それにお前と友達になった覚えはないぞこの野郎!!」
俺とエリザの言い争いは次第にヒートアップ。
あまりの騒々しさに、成り行きを見守っていた宿の親父はため息を付き厨房から出ると俺とエリザの襟首を掴み上げるのだった。
「ほら、兄ちゃんも嬢ちゃんも! 騒ぐなら外でやりな!!」
『……す、すみません』
「全く……、お前ら分かってるなら最初から仲良くするんだぞ!」
親父は2人を地面に下ろし、説教を始めるがそこで何かを思い出したのか俺へと視線を向けると、他の客の相手をしていた娘のミミに声をかける。
「あ、そうだ! おいミミ!! この兄ちゃんにあいつを連れてきてやってくれ!」
「あ、はーい!! ちょっと待っててね!!」
「おい、なんだ連れてくるって?? 俺まだ何かしたっけ??」
「……ハハハハハッ! なんだ兄ちゃん忘れたのか?? あれだよ、一ヶ月くらい前に頼まれたあいつの事だよ!!」
あいつ?? 一ヶ月前?? 俺何か頼んだっけ???
……いや待てよ、そう言えば!!!
「キィィィィィィ!!」
バサッ、バサッ!!!
しかし俺が思い出すのと同時に、宿の奥から戻ってきたミミの腕の中から飛び上がった大型犬程の生き物が、俺に向かって勢いよく飛びかかってきた。
その衝撃で俺は床へと倒れるが、その生き物は構うことなく俺の顔を何度も舐めていく。
「やっぱりか……。そう言えばこいつの事すっかり忘れてた……」
「わぁぁぁ!! 登録が済んだんですね!! すっかり大きくなって、あの時の竜の赤ちゃんには見えないです!!」
「キィィィィィ!!!」
俺の顔を舐めまわす生き物、竜の子供にエイラは嬉しそうに声を上げた。
その言葉で竜はターゲットをエイラに変更したのか、俺の体の上から飛び上がりエイラの体へと飛びかかった。
こいつはエイラが蒼龍の団に攫われる直前に拾った竜だ。
蒼龍の団との戦いの後、ルルミアが保護していたこいつはエイラの頼みもあり俺が飼い主になることになった。
まぁ、エイラが泣きそうになりながら頼んできたからな、断り切れなかったのもあるが……。俺は本当にエイラのあの顔には弱いらしい……。
ただディートゲイルの話では竜を飼うには王国に登録を済ませる必要があるらしく、そこでディートゲイルの紹介でここの親父に登録の仲介を依頼したという訳だ。
一ヶ月前の事だからすっかり忘れてたけど……。
「それにしても一ヶ月で二回りくらいは大きくなったんじゃないか? いや、エリザ達の竜ってもっと大きかったよな……」
「そうだぜ兄ちゃん。これ位竜にとっちゃまだまだ子供。これからもっともっと大きくなるからな!! あ、それとこれが登録料と仲介料の請求書だ」
親父は立ち上がった俺に、右手に握っていた一枚の紙を手渡した。
「……へっ、銀貨300枚!? 嘘だろ???」
「ハハハッ! 嘘じゃないぞ? 兄ちゃんにはずっと贔屓にしてもらってるからな、それでもかなり安い位だ」
「い、いやでもさ、いくら何でも銀貨300枚は高すぎだろ……」
「なんだ?? 払えないって言うんじゃないだろうなぁ??」
親父は体の前で腕を組むと、隣にいる俺にゆっくりと視線を向ける。
俺の頭ほどの太さはありそうな目の前の二の腕はどこか脈打っているようにも見え、親父の視線も加わり俺は額から汗が噴き出すのを感じるのだった。
う、うわぁ……、相変わらず太い腕だこと……。
「そ、そんな事ないじゃないですか。も、もちろん払わせていただきます……」
「……うんうん! 兄ちゃんがそんな事する奴じゃないことは分かってたぞ! それじゃあ代金も貰ったことだ、宿の隣にある牛舎、竜舎は自由に使ってくれていいから」
チャリンッ……。親父は俺から受け取った銀貨の入った袋を受け取りその中身を確認した後、笑みを浮かべながら厨房の中へと戻っていった。
「タイチさん、大丈夫??」
「あ、ああ。ミミさんの親父さんだけは敵わないよ……」
バジリスク討伐の報酬、全部なくなってしまった……。
金はまだあるがディートゲイルが竜は金がかかるって言ってたもんなぁ……。
はぁ、これからは無駄遣いは止めておこう。
俺が軽くなったマントに小さくため息を付いていると、エリザが側に駆け寄り胸を張り話しかけてくる。
「ねぇタイチ!! あなた竜を持ってるならそう言いなさいよね! まぁ、仕方ないから竜の飼育法と乗り方は私が教えてあげるわ!! それじゃあエイラ、早速外に行くわよ!!」
「えっ、あ、ちょっと待ってください、エリザさん!!」
「キィィィィィィィ!!」
「だ、団長!! まだ話は終わって……」
バタンッ! だがエリザはバレリーの制止も聞かず、エイラの腕を取り竜と共に宿の外へと出ていってしまった。
残された俺は、隣に立っているバレリーへと恐る恐る視線を向ける。
「なんか、大変ですね……。あんな上司だとあんたも……」
「はぁ、全くだ。少しは自分の立場を考えて行動して欲しいものだ。」
「た、確かに……」
その後、2人の間にはしばらくの沈黙が流れる。
俺は隣から漏れる怒りの感情に、ただただ彼女が落ち着くまで隣に立っていることしかできなかった。
評価とブクマを頂けると、死ぬほど喜ぶと思われます笑




