37 エイラ救出成功!
シュゥゥゥゥ……。
ポスカの前に降り立ったエリザはゆっくりと彼へと近づいていく。
その後ろではエリザの乗ってきた竜の側で、俺が地面に膝と手を付き息を整えていた。
はぁ、はぁ、し、死ぬかと思った……!!
てか本当は死んだんじゃないか?? いや、俺元々アンデッドだった。はぁ…、俺ジェットコースターのあのフワッとする感じ大嫌いだったよな、そう言えば……。
「エ、エリザ、お前本当に覚えてろよな……」
「ウフフフッ、あれくらいで音を上げるなんてあなたも大したことないわね。それよりも見つけたわよ? さぁ、早くその少女をこちらに渡しなさい!」
エリザは俺の言葉に一度こちらに視線を向け答えた後、目の前のポスカへと視線を戻し彼へと右手を向ける。
「な、なんでこんなに早く見つかったんだ!! い、いやそれよりもあんた竜騎士ならこの手配書は知っているだろ?? これはこの娘に違いないんだ!! 王国の兵士なら手配書の重要性は分かるだろ??」
エリザを前にしたポスカは声を震わせながらも、懐から手配書を取り出しそれをエリザに見せた。
エリザは王国でもトップに近い地位にいる兵士、ポスカが見せる手配書は既に持っている。
そのためエリザも持っている手配書の中から同じ手配書を見つけ、そこに描かれている少女とポスカの側で倒れているエイラを交互に見つめるが、すぐに手配書を破り捨て大きく笑い声を上げた。
「アハハハハッ、私には同じ人物には見えないけど? 髪の長さも違うし、色も違う。それにもし同じ子でもこんな手配書、私には無意味だもの」
「ど、どういうことだ!?」
「あなたに説明する必要はないわ。それよりもその子をこちらに渡すの? それとも私と戦う??」
「……くっ!!」
戦うだって?? ふざけるな、竜騎士近衛団は王国でも最強と呼ばれる兵士達。
俺みたいな一介の冒険者が敵うはずがないだろ!!
だが、この娘は大金になるはず。しかももう少し行けば街も見えてくる。
こんな所で諦めてたまるか!!!
ポスカはエリザと対峙しつつ、服の袖から一つの玉を取り出し右手に握った。
その後しばらく沈黙が続いた後、意を決したポスカはその玉を一気に地面へと叩きつける。
すると辺りは一瞬で煙に包まれ、視界は0になるのだった。
「これは……、そう、あの人魔導士なのね」
「お、おい! 感心してる場合か!! またポスカに逃げられるぞ!!」
「待ちなさい! ここは私に任せるのね」
……なんだ?? エリザの口が徐々に……。
煙で辺りが包まれたことで急いでエリザの元まで走ってきた俺だが、その言葉で彼女に視線を移す。
エリザの口元は笑みを浮かべると、そこから猛烈な突風を吐き出し瞬時に煙を吹き飛ばしていった。
「これは……」
「私の竜は風竜。竜息吹が使えるのは当然でしょ??」
いやいやいや、当然でしょって言われてもそんな事知らないんですけど。
……それより今はポスカだ!! あの野郎、もうあんな所まで逃げてやがる。
いつの間にか随分と離れた場所まで逃げていたポスカは煙が無くなったことに驚いていたが、すぐに再び前を向き森の中を走り抜けていく。
「ク、クソッ!! 俺の特製魔具がいとも簡単に……! いや、でも少しは時間が稼げた、あとはもっと森の奥まで逃げ込めば……!」
「そこまでです」
「な、なんだ……、ぐあっ!!!」
ドンッ!! ポスカは小さくなっていく俺とエリザの姿に小さく笑みを浮かべたが、その瞬間、後頭部に衝撃を受け地面に倒れ込んだ。
「……お、お前は!!」
「エイラさんを今すぐ放しなさい。さもなければあなたの息の根を止めなければいけませんので」
「ハ、ハシュナさん!!!」
ポスカが倒れたことで彼の腕の中からから解放されたエイラは、自分達の背後に立っていたハシュナの姿に笑みをこぼした。
ハシュナもエイラのその顔に笑みを浮かべ返すと、地面に倒れるポスカへと短刀を向ける。
しばらくすると、そこへエリザと俺。空にはバレリーとホーゲンの操る竜が宙を舞っていた。
「ハシュナか……。よくここが分かったな」
「フフフッ、お忘れですかタイチ様? 私はこの森で育った闇妖精族、居所さえ分かればすぐに駆け付けれます! 先ほどタイチ様の叫び声が聞こえましたので、何かあったのかと……。」
「叫び声……?? あっ!!」
叫び声ってエリザが急降下したときの声の事か??
俺そんなに叫んでたのか?? 凄い恥ずかしい……。
俺の考えを隣のエリザも読み取ったのか、口に手を当て俺を見下すような視線で笑みを浮かべていた。
「ゴホンッ! そ、それよりもだ! ポスカ、観念するんだ。もう逃げることが出来ないのはお前も分かっているだろ、早くエイラとルナを渡せ」
「…………」
ポスカは自分の側で倒れているエイラとルナを交互に見つめるが、俺の言葉には答えない。
その場にいた全員がそんなポスカの態度に我慢の限界を超えそうになった時、俺達の後ろから現れたファンネルがポスカの襟首を掴み上げるとその右頬を殴りつけた。
「な、何するんだファンネル!!」
「それはこっちの台詞だ!! 命の恩人の旦那や嬢ちゃんに迷惑をかけやがって!! そこまでして金が欲しいのか!?」
「ああ、当たり前だろ!! 俺達みたいな冒険者はこうでもしなけりゃ一生負け組だ!! 俺はお前と違って自分の才能の限界を知ってるからな!! お前はそうやっていつまでも夢を見てりゃあいいさ」
「こいつ……! いい加減にしろよ」
その言葉でファンネルの怒りは頂点に達し、あの大剣を容易に扱うその腕力でポスカの体を軽々と持ち上げた。
ポスカもファンネルがここまで怒る姿は始めて見たのだろう。その表情には徐々に恐怖の感情が浮かんでくる。
だがそこでファンネルの動きを止めたのは、予想外の人物だった。
「じょ、嬢ちゃん?! 危ないから離れてろ!!」
「嫌です! それ以上するとポスカさんが死んでしまいます!!」
「こいつは君を金に換えようとしてた奴だぞ?? 何でそんな奴を庇うんだ!」
「そうですけど……。ファンネルさん、本当にポスカさんが死んでもいいんですか?? ここまで来たのは私が心配ってだけではないですよね!?」
「そ、それは……」
ファンネルはその言葉を受け、自分が持ち上げているポスカの姿に視線を移した。
苦痛に表情が歪むポスカ。その顔をみたファンネルはゆっくりと彼を地面へと下ろし、自分もその場に座り込んだ。
はぁ、確かに嬢ちゃんの言う通りだな……。
俺はポスカの命だけは助けたかった。だからこいつを早く見つけ出して説得したかったんだ……。
「ポスカ……。もうこんなことは止めろ。この嬢、いやエイラさんは今回の事と合わせて二度も命を救ってくれたんだぞ? そんな相手を本当に攫って金に換えるのか??」
「…………」
「もしそれでもまだこんなことを続けるなら、俺は本気でお前を……」
「……うるせぇ。俺はお前のそう言う所が嫌いなんだよ!!」
ボンッ!!!
ポスカはいつの間にか右手に握っていた魔具を地面に叩きつけ、再び辺りが煙に包まれた隙にファンネルの前から姿を消していく。
「ゴホッ、ゴホッ!! お、おいポスカ!!!」
「放っておきなさい。ああいう奴は何を言っても変わらないわ。」
「……ポスカ」
「まぁこれで目的の女の子は見つけ出せたことだし、私があなたを襲撃したのはチャラよね??」
エリザは落ち込んでいるファンネルの肩にそっと手を置いたかと思うと、次の瞬間には俺へと振り返り満面の笑顔で話しかけて来た。
「……さぁそれはどうだろうな。結局ポスカを最後に足止めしたのはハシュナだったし、縄を解いたのもハシュナ。お前はただ見つけただけだろ??」
「はぁ?? 何よ!! さっきの事まだ根に持ってるの?? 小さい男ね!!」
「はいはい、勝手に言ってろ……。それよりもエイラ、怪我はないか??」
「ちょっと、無視してんじゃないわよ!!!」
「まぁまぁ団長、ここは抑えて」
エリザは自分を無視する俺になおも声を上げるが、その身体を地上に降りてきていたバレリーに抑えられ後方へと連れて行かれた。
そんな彼女を見送った後、俺は目の前のエイラの元まで進み、彼女の体に怪我がないか確認した。
「タイチ様、私は大丈夫です。でもルナ様が……」
「そう言えば何でルナが一緒に捕まってたんだ? あいつならポスカよりかなり強いし普通は捕まらないだろ??」
こいつ、あの騒ぎでも目を覚まさないのか……。
俺はエイラの側で大イビキをかいているルナの体を抱え上げ、その姿に大きくため息を付く。
「それはですね……、皆さんがエリザ様達に注目していたあの時、ポスカさんに呼ばれて奥の森へと連れて行かれた私を不審に思い後を付いて来ていたらしくて……。最後に私が見たのはポスカさんにパンを貰っているルナ様の姿……」
なるほどな……。そのパンに睡眠薬でも仕込まれてたんだろ。
こんな拘束具まで作る奴だ、ルナが目を覚まさないのも納得できる。
それにしてもこいつ、どれだけ食い意地が張ってるんだ???
俺は地面に落ちているエイラを拘束していた魔具に視線を向ける。
「ムニャムニャ……。もう食べれません、タイチ様……」
「はぁ……。こいつどれだけ心配したと思っているんだか」
「まぁ、私を心配しての事です。あまり怒らないであげてくださいタイチ様」
俺はエイラの言葉を受け、自分の腕の中で眠るルナの姿を見つめ呆れながらも笑みを浮かべた。
しばらくすると、辺りを覆っていた煙も晴れ俺達の元にルルミアも駆け寄り、涙を浮かべエイラに抱き着いた。
「よかったよー、エイラさん!!! 心配したんだからー!!」
「ごめんなさいルルミアさん。心配をおかけしました」
「なんでエイラさんが謝るのー!!」
ルルミアのあまりの号泣にエイラもつられてその目に涙を浮かべる。
そんな二人を横目に、俺は放心状態で座り込むファンネルの元に進み彼の前に膝を下ろした。
「大丈夫か??」
「……旦那、すまないな。俺の仲間がこんな迷惑をかけてしまって」
「いや、あんたが謝ることでもないだろ。それにあいつは逃げた、もういない奴の事をあまり考えすぎるな」
「ハハハッ、そうならいいけどな。あいつはああ見えて一度決めたら最後までやり遂げる。まぁ、俺の思い過ごしなことを祈るばかりだ……」
確かにポスカからエイラの事が広まるのは少し面倒だな……。
また何かしらの対策をしないといけないか。
「……そうか。でもあまり思い詰めるなよ?」
「すまないな、旦那……」
ファンネルは俺の言葉に力なく答える。
こうして俺達は連れ去られたエイラを助け出すことに成功した。
ただこのことが後日、さらなる混乱を巻き起こすことになるとはこの時点では誰も気が付いていなかった。




