36 竜騎士の本領発揮!
ポスカがエリザに発見された1時間前。
俺はエリザ達にエイラとルナが攫われたこと、その実行犯がポスカであることを説明していた。
「……って訳だ」
「なるほど、そう言うことだったのか」
俺の話を聞き終えたバレリーは、口に手を当てしばらく考えこんだ。
手配書の件は話さない方がいいだろう。
特にあのエリザは当たってはいるが、思い込みだけで俺を攻撃してくるくらいだからな。
エイラが手配書の妖精族と知れば、一体何をしてくるか……。
「…分かったわ! それじゃあそのポスカって言う男の行方、私達が見つけてあげる!」
そう声を上げると、バレリーの後ろで話を聞いていたエリザは俺の前まで進み、何故か胸を張り満面の笑みで話しかけてきた。
だが俺はその申し出には反応せず、すこし視線を向けた後、再びバレリーへと視線を戻す。
「ちょっと! 何で無視するのよ!? この私が手伝ってあげるって言ってるの!」
「はぁ……。 分かった、分かった。それでバレリーさんはどう思う? 俺達はすぐにでも森の中に捜索に行こうと思うんだけど」
「そうだな、確かに時間を置けばそれだけ見つかる確率は低くなる。だが闇雲に探して見つかるものでもないだろう?」
「ちょっと、ちょっと、ちょっと!!! 何でバレリーまで無視してるのよ!!」
俺、バレリーの言動にエリザは頬を膨らませ2人の体を何度も叩くが、それを見かねたホーゲンによって体を抱えられ後ろへと連れて行かれた。
俺とバレリーはその姿を見つめていたがすぐに再度考え込んだ。
確かにルルムの森は広いからな……。
森に詳しくない俺が捜索に入っても見つけられる可能性は低いよなぁ……。
「タイチ様、少しよろしいでしょうか?」
「……なんだハシュナ?」
俺が考え込んでいると、音もなくハシュナが側に現れた。
「私はこの森で生きて来た闇妖精族。ある程度ポスカさんが通りそうなルートは予想できます」
「そうなのか?! それで、ポスカが通りそうなルートは??」
ハシュナは俺の言葉に小さく頷くと、指で地面に絵を描き始める。
それはルルムの森を簡略化して描いているようで、その中に3本の道を書き込んでいった。
「恐らくこの3つのどれかに向かうはずです。多少は道を離れることはあるでしょうが、あまりに離れすぎるとモンスターに狙われる可能性もあります。ポスカさんは何度もこの森に来たことがあるようですし、そのような事はしないでしょう」
「なるほど……。つまりこの3つのルートの周辺を探せば見つかる可能性が高いってことか。ハシュナ、どのルートが一番可能性が高いと思う??」
ハシュナの描いた地図を見るため自分と同じようにしゃがみ込んでいる俺の言葉に、ハシュナはしばらく考えた後東へと伸びるルートを指差すのだった。
「このルートが一番可能性が高いです。これは最短で近くの街まで抜けることのできる道。ですが確証はありませんし、もしかしたら他のルートかも……。申し訳ありませんタイチ様、あまりお役に立てなくて……」
「いや、そんなことはないよ。これで絞り込むべきところは分かったからな」
ハシュナはその言葉を受け、小さく頭を下げた。
だがどうする?? いくらルートが絞り込めたとしても3つのルートは東北南と別れているし、1つずつ探すのでは時間がかかりすぎる!
ここは危険だが3手に分かれて追跡をするか……??
「……事情は分かった。少し待っていてくれ」
俺が頭を抱えていると、ハシュナの話を聞いていたバレリーはそう声を上げるとエリザを抱えているホーゲンの元へと進み何かを話し始めるが、あまり時間もかけず2人を伴いすぐに俺の元へと戻ってきた。
「話は聞いたぜ? こういう時こそ俺達の力が必要だろ?」
「そうだなホーゲン。我らであればすぐにでも貴公の仲間を見つけ出すことが出来るぞ?」
事情を聞いたホーゲンに続き、バレリーも笑みを浮かべ俺へと口を開いた。
だが、ホーゲンの腕に抱えれているエリザだけは未だ頬を膨らませ俺を見ようともしない。
その姿に見かねたバレリーは、ホーゲンにエリザを下ろすように伝える。
「全く、いつまで拗ねているんですか団長? ほら、襲撃したお詫びをしたいって言ったの団長じゃないですか?」
「ふんっ! 何よ都合のいい時だけ! 私がさっき助けようとしたときは無視したくせにぃぃ!!」
何だこいつ?? 最初のころとキャラ違い過ぎないか???
俺が目の前のエリザを見つめていると、ホーゲンが俺の側まで進み耳元で話始める。
「すまないな。団長は子供っぽいところがあって困るんだ」
「子供っぽいって、まんま子供だけどな」
「ハハハハッ、まぁああなった時の対処法はあるんだ。少し耳を貸してくれ……」
ホーゲンはそう言うと、エリザに聞こえないように口元に手を当て話始めた。
だがその内容に、俺はつい声を荒げてしまった。
「はぁ?? それ俺が言うのか?? あんたが言えばいいじゃないか!?」
「いや、今回の原因は君だからな。俺が言っても効果がないのさ。仲間を助けたいんだろ? だったら恥じなんて捨てるんだな」
くそっ、こいつ本当の事言ってるんだろうな??
でも確かにこいつらの竜なら広範囲を探すのに向いてるのは確かだしなぁ……。
仕方ない! その話乗ってやるよ!!!
俺は大きく息を吸うと、バレリーに宥められ続けるエリアの元まで進んだ。
そして、俺に気が付いた彼女の目を見つめ意を決し口を開く。
「……頼む、エリザ、、さん! あなただけが頼りなんです!」
「タ、タイチ様!? 何をしてるんですか??」
俺のいつもとは違う口調に、ルルミア、そしてハシュナまでも驚きで目を見開いている。
だが、ここはエイラを救うため。俺は更にエリザに続けた。
「本当にエリザさんは綺麗で強くて、頼りになる! これまでの事は俺が悪かった。だからあなたのそのお力をどうか貸してくれませんか?? お願いしますよ、エリザさん!!」
こんな見え見えのお世辞で本当に上手くいくのか??
…………あれ???
俺が話し終え頭を上げると、さっきまでふてくされていたエリザはうつむいていたかと思うと次の瞬間には満面の笑顔で頭を上げ、俺の右肩に手を置いた。
「そうかそうか! あなたもようやく私の凄さが分かったのね! いいわ、今回は私にも非はあったし助けてあげる。でも今回だけなんだからね?!」
「あ、ありがとう……」
あぁ、こいつあれだな。いわゆるチョロいってやつだ。
うわぁ……、皆笑い堪えるのに必死だし……。
エリザの後ろではホーゲンとバレリーが口に手を当て、肩を震わしていた。
恐らくエリザの変わりように笑いを堪えるのに必死なのだろう。
しばらくしてようやくバレリー達は息を整えると、エリザの元へと近寄った。
すると、先ほどまでの表情が嘘のようにエリザは真剣な顔でハシュナが描いた地図へと視線を落とす。
「それで団長、いかがしますか??」
「そうね、まずルートは3つ。丁度こちらも3人いるしそれぞれが分かれて捜索しましょう。私はこの東のルートを行くわ」
「分かりました。では私は北に向かいましょう。ホーゲン、あなたは南をお願い」
「承知した」
「それじゃあ急ぎましょう。それとあなた? タイチと言ったわね? あなたは私と来てくれる??」
作戦会議を終えたエリザは、先ほどまでとは別人のような彼女に呆気に取られていた俺を指差すと笑み浮かべる。
こいつ、一体どっちが本当の姿なんだか……。
「分かった。それじゃあ、他の3人もそれぞれ乗せてくれるか??」
「ええ、いいわよ。そこの大きな剣を持っている人はホーゲンの竜に乗ってくれる? 後の2人はバレリーの竜に」
コクッ。エリザの言葉にファンネル、ルルミア、ハシュナの3人は同時に首を縦に振る。
そしてそれぞれが竜にまたがると、竜達は雄叫びを上げその翼を大きく広げた。
「それじゃあ行くわよ!」
ピィィィィィ!!!!
エリザは全員の出発準備が整ったことを確認し、首にかけていた小さな細長い笛を口にくわえる。
そしてその笛の合図が森中に響き渡ると同時に竜達は一斉に大空へと飛び立ち、とてつもない速さで三方に散らばっていった。
ぬぉぉぉぉぉ!! なんて速さだ!!!
これが竜か、早すぎて目を上手く開けられない……!
俺はエリザの後ろで竜を掴む手に更に力を込めた。
その姿にエリザは振り返ることも無く笑い声を上げる。
「アハハハッ、あなたやるわね! 竜のトップスピードでも振り落とされないなんて」
「はぁ? じゃあ、これだと他の皆は振り落とされるってことか??」
「それは無いわね。バレリーとホーゲンはちゃんと加減して飛んでくれるわよ」
ってことは、こいつ俺に嫌がらせしてるってことか??
くそっ、やっぱりまださっきの事根に持ってるんじゃないか!!
シュゥゥゥ……。
しばらくすると、エリザは満足したのか竜のスピードを緩める。
そのお陰で俺もようやく体を起こすことが出来たのだった。
だがここで、俺の頭にある疑問がよぎった。
「……なぁ、こう言っちゃなんだがもう少し低く飛ばなくてもいいのか? いくらなんでもこの高さじゃ見えるものも見えないだろ??」
今の高度は500mってところか。
ルルムの森は木が覆っていて地面が見えないところも多い。
これだと竜に気づかれて身を隠されたら分からないんじゃ……。
「それなら大丈夫よ。ほらこれを見て??」
しかし俺の疑問に答えるかのようにエリザはゆっくりと俺の方へと顔を向ける。
その目は青く輝き、まるで今乗っている竜の目そのものになっていたのだ。
「それは、一体……」
「これは竜眼よ。竜は熱や魔力などを視覚で見ることが出来るの。竜騎士は竜と心を通わす者、つまり竜の力の一部を使えるの」
「そんなことが出来るのか……、ってことは既にそれで地表を見てたのか??」
「ええ。まぁ、森には他の冒険者やモンスターがいるからすぐには見つからないけどね」
エリザはそう言うと、再び前方へと視線を戻すのだった。
エリザの使用している竜眼、それは数千m先も見通し、生き物は赤く浮き上がって見えるため、森の中のすべての生き物を視覚で見ることが出来る。
あれは、違うわね……。あっちは姿形から獣人ってところかしら。
これだけ広いと流石に骨が折れるわね……、ん? あの人影はもしかして……。
「……見ぃつけた」
「ん?? 今何か言ったか……、うわぁぁぁぁ!!」
エリザはしばらく地表を観察した後、何かを発見。
小さく呟き笑みを浮かべると、俺の言葉を聞くことも無く一気にその方向へと急降下を開始するのだった。




