35 ポスカの計画。
「……ということなんです。」
エリザは俺を襲撃した、そこに至るそれまでの経緯を話し終えると自分を見つめたまま何も話さない俺の顔色を何度も窺っていた。
しばらくして、考え込んでいた俺は大きくため息を付き口を開く。
「はぁ…、なるほど。つまりギュースト市に行ったはいいが俺達と入れ違いになり、冒険者組合からの情報でこのルルムの森まで追ったはいいが、ようやく俺を見つけたことで興奮して我を忘れてしまった。つまりは何の確証もなく俺達を襲ったってことでいいんだな??」
「はい……。その通りです、申し訳ありませんでした……」
「全く、迷惑にも程があるだろ! あんた達もそう言うことならどうして止めてくれないんだ?!」
俺は頭を下げる目の前のエリザに呆れつつも立ち上がり、彼女の後ろにいるバレリーとホーゲンに声を上げた。
さっきの話が本当なら、この2人はこのエリザという少女が早とちりで襲撃してきたのを知っていたはず。
もし俺や他の皆に何かあったらどう責任を取るつもりだったんだ!!
「……誠にすまなかった、タイチ殿。もし貴公達の命が危うくなる場合は私とホーゲンで団長を止めるつもりだった。団長は一度そうだと思ってしまうと何を言っても考えを変えない癖があってな、我らではどうしようもなかったのだ」
「俺からも詫びさせてもらう。団長の今回の行動については必ず陛下に報告するから、それで許しては貰えないだろうか? もちろん金銭面でも謝礼はさせてもらう」
「ホ、ホーゲン!? そ、それだけはやめて!! 陛下にだけは言わないでぇぇ~!!」
彼らも今回のようなことには慣れているのか、バレリー、そしてホーゲンとため息交じりに俺に答えた。
ただ陛下に報告という言葉を聞いたエリザだけはホーゲンの足元まで移動し、再び涙を浮かべながら報告だけは止めるようにと懇願している。
彼らのそんな姿を見た俺は、先ほどまでの怒りも吹き飛んでしまい、頭を掻きながら彼らのやり取りが終わるのを待つことにした。
するとルルミアがエリザ達に気づかれないよう俺の側まで駆け寄り、耳元で話始める。
「あの、タイチ様。少しよろしいですか??」
「なんだルルミア?」
「えっと、気になっていたんですけど先程マスクを外された時の事で……」
「ああ、どうして右目が剥き出しじゃなかったのかってことだろ??」
コクッ。ルルミアは俺の言葉に小さく頷いた。
俺はそんなルルミアに笑み浮かべると、ルルミアだけに見える角度でマスクを少し外し、その中を覗かせる。
ルルミアはしばらくマスクの下を見つめていたが、そこにあったものが何か分かると驚きの表情を浮かべるのだった。
「……これは、もしかしてあの時の??」
「そうだ、ファンネルに貰ったスライムだよ」
シュゥゥゥゥ……。
マスクの下の顔は徐々に緑色に変色していくと、スライムへと戻り差し出された俺の右手へと収まった。
でもまさかこんなにも早くこいつが役に立つとは……。
ファンネルに貰った時はどうしようかと思ったけど、俺の思考を読み姿を変化してくれるというのはありがたい。
それに感触も人肌に近いから、触られても違和感を覚えることも無い。
マスクを外された時、咄嗟に取り出したのが功を奏したな。
「でもスライムをこんな風に使うなんて、流石はタイチ様ですね! フフフッ、この子もよく見ると可愛い」
「………」
笑みを浮かべるルルミアに身体をつつかれたスライムは、その身体の色を赤く変色させていく。
こいつ、照れてるのか??
ハハハハ、スライムにもそんな感情があるんだな。エイラやルナ、ハシュナにも見せて………。
だが、そこで俺はようやくある異変に気が付いた。
それは辺りを見回しても、いるはずの人物が3人いないこと。
いつもならすぐに自分の元に駆け寄ってくるエイラとルナ。そしてもう1人ポスカの姿がどこにも見当たらないのである。
「……エイラ? それとルナもいないぞ!」
「えっ、さっきまで後ろにいたのに……。ハシュナさん! 2人を見ませんでしたか??」
俺に続き、そのことに気が付いたルルミアも辺りを見渡すが2人の姿は見当たらない。
言葉を受けたハシュナもすぐに後ろへと視線を移すが、そこにいたはずのエイラは姿を忽然と姿を消していた。
そのことに気が付いたハシュナは急ぎ木々を伝い、目にも止まらない速さで辺りを捜索するがエイラ達の姿は見つからず、俺の元へ戻ってくると膝を付き頭を下げた。
「すみませんタイチ様! エリザ様の話に聞き入っていたのでエイラさんを見失って……」
「い、いやハシュナのせいじゃない。俺も話に気を取られていたわけだし……」
でも、どういうことだ?? どうしてエイラとルナが……。
いや、それよりも気になるのはあのポスカの姿も見当たらないこと。
まさか彼がエイラ達を……??
しばらくすると、俺達の騒ぎに気が付きポスカの行方を捜していたファンネルが顔色を変えフラフラと俺の元に近づいて来たかと思うと、次の瞬間には地面に手を付き頭を下げるのだった。
「お、おい! 一体急にどうしたんだ!?」
「す、すまねぇ旦那……。多分あのお嬢ちゃんを攫ったのはポスカの奴だ。俺はあいつが何か企んでいるのに気がついていたのに、クソッ……」
「どういうことだ!? きちんと説明しろ!!」
ガシッ!! 俺はファンネルの両肩を掴み彼の頭を上げさせると、怒気のこもった声で詰め寄った。
そのあまりの剣幕にファンネルも一瞬怯むがすぐに気を取り直し、懐から一枚の紙を取り出し地面へと置く。
それは、エイラの後ろ姿が映るあの手配書だったのだ。
「ポスカの奴も同じものを持っている。多分この手配書の少女をあのお嬢ちゃんだと思って……」
「いやちょっと待て、手配書とエイラじゃ髪の色も長さも全く違うだろ? どうしてポスカがこれとエイラが同じ人物だと……」
まぁ魔法で姿を変えてはいるんだが……。
「わ、分からねぇ。でも状況から見てそうとしか……」
そこで俺はようやく滝壺での事を思い出す。
あの滝壺で水を浴びたエイラは、一瞬だが髪と瞳の色を変化させていた魔法が解けてしまった。
すぐに創造をかけ直したとはいえ、あの姿をポスカが見ていたとすれば……。
「くそっ!! あぁ、そういうことかよ!!! もっと早く気づいていればこんなことには」
「……タイチ様、どうしますか?? すぐにでもエイラさん達を捜索した方が……」
ああ、ルルミアの言う通りそうしたいのは山々だが、ここは広大なルルムの森の入り口。
もしポスカが再びルルムの森の中に逃げてたとしたら探すのは骨が折れるどころじゃないぞ。
でも時間を空ければ発見できる確率もどんどん下がっていく。クソッ、どうする??
「……何かお困りのようね??」
俺が考え込んでいると、しばらくして後ろから声が聞こえた。
その声で振り返った俺の視線の先にはエリザ、バレリー、ホーゲンがこちらを見つめていたのだった。
「確かに困っているな。でもあんた達には関係ない」
「なっ! あのね、私が心配してあげてるのよ? 少しはありがたく思いなさいよ!」
「ハハッ、心配してあげてる? 俺を襲撃したような奴に言われてもなぁ~」
「ムキィィ!! こいつ腹立つ!! バレリー、何とかしてよ!!」
「これは団長の言い方が悪いですよ? 全く、素直じゃないんだから……」
俺とエリザのやり取りを見ていたバレリーは、エリザを隣のホーゲンに任せ俺の元まで進んできた。
「団長は今回のお詫びに貴公の役に立ちたいと言っているのだ。まぁ、少し言い方に問題があるが、そう最初から目くじらを立てないで貰えるとありがたい」
「……いや、こっちこそ悪かった。少し感情的になり過ぎたかもしれない」
「フフフッ、ではこれで手打ちにいたそう。それで? 一体何が起きたのだ?? 理由を話しては貰えないか??」
あの少女はともかく、この人なら信用できるか……。
「……分かった」
俺は小さく頷くと、バレリーに今起きていることの詳細を話し始めた。
ルルムの森の中。
俺達がエイラ達がいなくなったことに気が付いてから1時間余り経過していた。
そんな中、獣道もないような深い森の中をポスカは右腕にエイラ、左腕にルナを抱え息を切らしながら走っていた。
「はぁ、はぁ! へへへ、上手くいったぜ!!」
まさかこうも上手く事が運ぶとはな。
竜騎士近衛団が現れた時は驚いたが、あれで全員の注目が奴らに移った。
奴らは俺にとって幸運を運ぶ神の使いだぜ!
「う、ん……。あれ、ここは?? えっ、ポスカさん?? 何で私、いや、離して!!」
「チッ、もう気が付きやがったか。ほらおとなしくしやがれ!!」
「うっ……! い、痛い!!」
なにこれ? 体に上手く力が入らない……。
ポスカはエイラが目を覚ましたことに気が付くと、彼女を抱える右腕に力を込め彼女の体を締め上げる。
それでもレベルで言えばエイラの方がポスカよりも上であり、子供とはいえ普段であれば腕の中から逃げ出すことも出来ただろう。
だが、どういう訳かエイラは体に力が上手く入らずこ拘束を解くことが出来なかったのだった。
「へへへ、暴れんなよ? お前は大事な金ずるなんだからな!」
「ポスカさん…、どうして? それに、私に何をしたんですか?」
「今更しらばっくれても遅いんだよ。お前、この手配書の妖精族だろ? 髪と目の色が元に戻ったおかげで確信が持てたぜ! おっと、逃げようとしても無駄だぜ? あんたとこの猫には俺特製の麻痺魔法をかけてるからな。逃げ出せても上手く体が動かずあっという間にモンスターの餌食よ。」
ポスカは左手に持っている手配書をエイラに見せながら、その腕に抱えているルナの姿も彼女に見せつけた。
そんな、どうして正体が……、そうか! あの時魔法洗いで魔法が解けたときに見られて……!!
それにルナ様まで捕まっているなんて。一体どうすれば……。
「ふぅ、この辺りまで来ればひとまず安心だな。この森は広い。むやみに俺達を探せばあのタイチとかいう冒険者も森に迷い2度と森から出れなくなるだろうしな」
ドサッ! ポスカは少し開けた場所に出た所で両腕のエイラとルナを地面に下ろした。
その瞬間、エイラは地面を這い逃げ出そうとしたが、そこで自分の体が何かで縛られていることに気が付くと同時に全身に電流が走り動きを止める。
「これは……、きゃぁぁ!!」
「ハハハッ、あまり動かない方がいいぞ? それは魔具の一種でな、拘束対象が勝手に逃げ出そうとすると雷撃魔法が作動するんだ。痛いのは好きじゃないだろ?」
「はぁ、はぁ……」
そ、そんな!! これじゃあ逃げ出せない。
ルナ様もまだ目を覚まさないし、このままじゃ私……。
タイチ様、助けて!!
「それにしてもこんな小娘に金貨700枚なんて、一体どういうことなんだ? まぁ、楽に大金が手に入るんだし、こちらからしたらありがたいことこの上ないが……。ん? あれは一体……」
ドォォォォォン!!!!
地面に腰を下ろそうとしたポスカが、空から聞こえる奇妙な音に上を見上げた瞬間、前方の森の中に凄まじい衝撃と共に何かが空から舞い降りて来た。
だが立ち上がった砂煙でその正体が何なのかはポスカには分からない。
「な、なんだ?? まさかもうあのタイチとか言う冒険者が?!」
いや、いくら奴でもこんなに早く見つけられるはずがない!
俺は魔法で魔力は消していたから魔力探知では探せないはずだし、この森の広さだぞ?
でもそれなら目の前に現れたのは一体……。
「フフフフッ、見~つけた」
「ま、まさかお前は……!!!!」
砂煙が晴れ、視界を遮るものが無くなったことでポスカはようやく目の前に現れた者の正体を理解するr。
それは竜の背から地面に降り立ち、笑みを浮かべながら自分へと進んでくるエリザ・キュートの姿だった。
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