33 空からの使者?
次の日。
俺達は荷物をまとめ昨日入ってきた滝壺の前にいた。
これはシャナ達闇妖精族達の出発も迫っていたため、その邪魔にならないようにすぐにでもギュースト市へ戻った方がいいだろうという俺の判断の為である。
シャナはもうしばらく里にいればいいと俺を引き留めたが、里の人達のためにも早く出発した方がいいと言われればそれ以上俺達を引き留めることは出来なかったのだった。
「全く、こんなに早く去らずともいいではないか」
「ハハハッ、まぁ元々バジリスク討伐の依頼を受けてここに来てるからな。あまり遅くなると依頼失敗とされかねない。それに十分楽しませてもらったよ」
「ふむ、タイチ君がそう言うならもう引き留めはせんが……」
フッ……。俺とシャナはお互いの顔を見合うと小さく笑みを浮かべた。
その側では、ファンネルと闇妖精族の若者達が涙を流し別れを惜しんでいる。
昨夜の内にすっかり打ち解けたファンネルは、まだ残りたいと言ったがポスカが俺と共に街に戻ると言ったため泣く泣くそれに従っていたのだ。
あーぁ、いい大人が抱き合って涙を流してるよ。
フッ、まぁここ2日でファンネルの人となりはなんとなく分かった。言葉は悪いが悪い奴ではない。
それよりも気になるのは……。
俺は視線をポスカに向けると今朝出発することを告げた時に見せた彼の表情を思い出す。
ポスカは俺の言葉を聞くと一瞬笑みを浮かべたかと思うと、次の瞬間にはまだここに残るというファンネルに詰め寄り俺達に付いてくると言ったのだ。
こいつ、一体何を企らんでいるんだ?? いや、少し考えすぎか……。
「タイチ君」
「……なんだ??」
ポスカの行動に少しの違和感を覚えつつも、俺はシャナへと視線を戻す。
そしてエイラ達も闇妖精族達と別れの挨拶をしている中、シャナは俺に近づき耳元で小さく呟いた。
「昨夜の事、頭の片隅には置いておいてくれ。私はこれから皆を率いて北方の妖精族の国に行く。だが、必ずエイラ君を狙う者の手は君達に伸びてくるはずだ」
「ああ、分かっている。心配するな。あんたは心置きなく里の人達を避難させるんだ」
エイラにはこれまでも何度も危険な目にあわせてしまっている。
故郷に返すまではこれ以上のことは……。
俺はフーゼル村、そして蒼龍の団との戦いでエイラを命の危機に晒してしまったことを思い出し拳を強く握った。
シャナもその行為を見つめた後、安心した表情を浮かべるがすぐに口に左手を当て口笛を一度吹いた。
すると、どこからともなく黒ずくめのマントに身を包んだ闇妖精族が現れ、2人の前に膝を付き頭を下げていた。
この人は……、確かあの時シャナに報告をしていた闇妖精族。
俺は隠里に入ってすぐにシャナに報告をしていた口元を布で隠した闇妖精族を思い出す。
「彼は……、あんたに警戒の報告をしていた人だよな?」
「その通り、こやつは私の娘のハシュナ・ルクリルだ」
「お見知りおきを、タイチ殿」
……え?? 娘???
ハシュナは立ち上がると、口元を覆っていた布を取り素顔を俺に見せた。
その布は頭に巻かれていた布と同じもので、それを全て取ったハシュナの素顔は25~6歳ほどの美しい金の髪を持つ女性だった。
「す、すみません……、てっきり男性かと……」
「フフ、いえ気になさらないで下さい。あのような格好をしていればそう思うのも無理はありません」
ハシュナは口に手を当て笑みを浮かべる。
その美しさにしばらく目を奪われていた俺だったが、次のシャナの言葉で正気に戻った。
「それでだタイチ君。君にこのハシュナを預けたい」
「え、は、はぁ?? 何でそうなるんだよ!!」
「まぁそう声を荒げるな。ハシュナは闇妖精族の中でも一番の隠密、そして体術の使い手だ。娘には君との連絡の橋渡しを頼んでいる。君とはこれからも何かと関わり合いになりそうなのでな」
「不束者ではございますが、よろしくお願いしますね」
不束者って……結婚する訳でもあるまいし。
はぁ、まぁシャナの言う通りこれからの事を考えれば仲間は多いに越したことはことはないけどさ。
俺はしばらく考えた後、息を吐きながら2人へと首を縦に振る。
「あぁぁ、もう! 分かったよ!! 連れてけばいいんだろ??」
「ハハハハッ、タイチ君ならそう言ってくれると思っていたぞ!」
「ではよろしくお願いいたしますタイチ殿。私の事はハシュナとお呼びください」
……また変な奴が増えてしまった。へっ! 美人じゃなければ許可しないところだぞ、まったく!!
俺は同じように笑い声を上げている2人にため息を付き頭を抱えた。
こうして俺達一行に、新たな仲間ハシュナが加わることになったのだった。
隠里を後にして数時間。
俺達は既に遺跡を抜け、さらにルルムの森も抜けようとしていた。
そしてしばらく更に森の中を進みようやく隠していた荷車を見つけるが、その近くにはいるはずの馬がどこにも見当たらない。
俺が荷車に近づきその周辺を見渡すと餌と水はまだまだ桶の中に入っていたが、地面に落ちている紐からどうやら手綱が抜けている。どうやら馬はどこかに逃げてしまっているようであった。
まさか手綱が抜けるとはなぁ……。はぁ、この荷車どうするかな。
中にある荷物は担ごうと思えばいけるが、ギュースト市までは40kmもある。
エイラにはしんどいかもしれないな。
「へぇ! じゃあハシュナさんは魔法も使えるんだ!」
「いいなぁ……。私、魔法は全く駄目だから羨ましい……」
「フフフッ、それじゃあルルミアさん。今度良ければお教えしますよ。」
俺が頭を抱えている中、後ろから続いて来たエイラとルルミアは既にハシュナと打ち解け話に花を咲かせているため、馬が逃げていることに気づいていないようだった。
しばらくして最後尾に続くファンネルとポスカもその場に到着、荷車に腰かける俺に声をかけてくる。
「旦那、どうしたんだ??」
「いや、荷車の馬が逃げたみたいで。これからどうしようかと考えてたところだ」
「なるほど……。なら諦めて歩くしかないな! なに、荷物は俺達がもってやるさ。なぁ、ポスカ!」
「……ああ」
ポスカはファンネルに目を向けることも無くに小さく答える。
確かにこいつらが荷物を持ってくれるなら、明日には街に着くか。
はぁ、仕方ない。荷車は置いて歩いて帰ることにしよう。
俺はファンネルに視線を向けると、笑みを浮かべている彼に答える
「そうか。それじゃあ、よろしく頼む……」
ブァァァァ!!!!
だがその瞬間、俺達の上空から風が吹き下ろしてきたかと思うとその場は3つの影に覆われた。
そのことに気が付いた俺が急ぎ上空を見上げると、そこには大きな翼を持つ生物3体が天に舞っており、それはゆっくりと目の前の開けた場所に降り立った。
その堂々たる姿に、俺は目の前の生物の正体にすぐに気が付くのだった。
あの体の倍以上はありそうな翼。そして体を覆う無数の鱗に鋭く伸びた爪、何より赤い瞳に細長く伸びた口から見えるいくつもの白い牙。ハハッ、まさか本物に会えるなんてな……。
「竜……!!」
「ガァァァァァァァ!!!」
「静まりなさい!!」
ザッ!! だが俺達を見つけ森を震わす咆哮を上げた竜は、その背から上がった声に怯えているのかすぐに咆哮を止めると、首をゆっくりと地面に下ろした。
そしてその首を伝い、竜の背中から鎧に身を包んだ一人の女性が姿を現す。
その後に続き、他の竜達からも鎧に身を包んだ2人の兵士が地面に下り立った。
「タイチ様、あれは……」
「エイラさん! 私達の後ろに隠れて!!」
突然現れた得体のしれない存在に、ルルミアとハシュナはエイラの目の前に進んだ。
だが、先頭の女性はルルミア達には興味がないのか俺のすぐ近くまで進むとその顔を見上げ口を開く。
「あなたが仮面の冒険者さんね??」
な、なんだ?? 年はエイラとあまり変わらなく見えるが、身を包み鎧は装飾は無いがどこか魔力を感じる。
恐らく魔具の類だろうが、この子は一体……。
俺は燃えるような赤い髪と目を持つその少女をしばらく見返した後、ゆっくりと答えた。
「仮面の冒険者、それが俺かは分からないが確かに俺はマスクを付けているな」
「そうね……。それじゃ、そのマスク外してくれるかしら?」
急に何を……、くっ!!
バッ!! 少女は俺の答えを聞く前に左手をマスクへと伸ばしてきた。
このマスクの下はアンデッドの目。そのため俺はマスクへと手が届く前にその手を振り払うが、次の瞬間には俺の左頬に彼女の剣が添えられていた。
い、いつの間に剣を抜いたんだ?? 全く見えなかった……。
この女、これまでのどの敵よりも強いんじゃ……!!
バンッ! 俺は身体強化魔法を使い瞬時にその場を離れる。
だが距離を置かれた彼女は、小さくため息を吐いた後剣を腰の鞘に収めた。
「はぁ、なんだこの程度なのね。この手配書のアンデッド、あなただと思ったのになぁ」
「手配書?! 何を言って……、ッ!!」
そう言った彼女の手には鎧の中から取り出したであろうあの手配書が握られている。
どういうことだ?? まさか俺の正体がバレたのか??
いや、あの口ぶりからまだ俺だという確証はないはず。それならあいつが何者で何が目的なのかを聞き出してやる!
俺は先ほど切られたのか、頬を伝う血を拭うと小さく笑みを浮かべた。
その様子に、彼女も再び笑みを浮かべこちらへと進んでくる。
「あら? やっぱりあなたがこのアンデッドなのかしら?? もし違っていても、その顔は何か知ってる顔ね」
「ハッ、どうかな? 聞きたいんなら力づくで喋らせてみればいいじゃないか」
「フフフッ、いい度胸ね。いいわ、なら望み通りにしてあげる!!」
バッ!!! 少女は再び剣を抜くと地面がめり込むほどの脚力で一気に俺の元に移動。
その剣を俺へと振りぬくが、先ほどのように不意打ちでないため俺もその攻撃を容易く避ける。
しかしその後も、2人の目にも止まらない攻防は続き、それを見ていたエイラ達はあまりに力の違いすぎる戦いにただ見守ることしかできなかった。
だが、俺達の向こう側で様子を窺っている2人の兵士は笑いながら戦いを眺めている。
「ハハハハッ、おいあの冒険者やるじゃないか! まさか団長と互角にやり合うなんてな!」
「うるさいわよホーゲン! 団長に敵う奴なんているはずないんだから! でも本当にやるわねあの男」
兜を外した残りの兵士は、どうやら男女2人だったようである。
そして彼らの正体に最初に気が付いたのは、その様子を見ていたルルミアだった。
あの後ろにいる人達のマントに刻印されている鷲の紋章! それに竜……。
もしかしてこの人達って!!
「タ、タイチ様! その方達は……」
だが、ルルミアの言葉が届く前にタイチと少女が衝突。その場は閃光と衝撃波に包まれてしまったのだった。




